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第三章 勇者支援学校編 ー 基礎課程 ー
第46話 クラウスくんとの読書会
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「魔力はドラヴィルダ世界を構成する要素のひとつで、マナ・エーテル・神聖力・気・現実改変力と地域によって呼称も様々です。この世界に存在するものであれば、多かれ少なかれ魔力を持っています。
ほとんどの存在がこの魔力を自身を定義するためだけに費やされているのに対し、それを超える量の魔力を持つものも少なからず存在します。
一般的に、わたしたちが『魔力』と呼んでいるものは、自身の存在に必要な魔力量から溢れ出た部分を指しています。
魔力を多く持つものとしては、魔物や魔石、そして人類種が該当します。魔力を行使するためには『非常に強い意志』が必要です。
それは個人の強い意志だけでなく、共同体や集団の意志、何世代もの長い時間を掛けた意志も含まれます。
そのため地域や種族・文化によって魔力の扱い方は異なってきます。大陸で広く知られている魔術や神聖術も、アンゴールにおける零術もその根本は同じものです」
-「びっくり世界のミステリー どんとこいドラヴィルダ編(シュモネー・メトシェラ著)」より
――――――
―――
―
「なるほど。意志の積み上げ方の違いから魔術と神聖術に分かれているだけで、その根っこは同じものだったのか」
ぼくはシュモネー先生にサインしてもらった本を夢中になって読んでいた。ふざけたタイトルではあるものの、その中身はかなり興味深い情報に溢れている。
「どんとこいシリーズか……なんか聞いたことがあるような」
「シリーズが多いから、そう思っちゃうよね。それにしても……」
ぼくの部屋で一緒に読書をしていたクラウスくんが困ったような顔を向けてくる。どうしたんだろう? 悩み事でもあるのだろうか。ぼくに相談してくる美少女の手助けはいつだって全力でやってみせる!
「僕は男なんだからね!」
「思考が読まれた!?」
「顔に出てるよ!」
顔に出てるといっても、そこまで的確にわかるなんてさすがクラウスくん。やっぱり可愛い。ぼくは、頭を軽く動かしてシーアのおっぱい枕の感触を楽しんでから、再び読書に戻る。
「はぁ……」
ため息をついたクラウスくんも首を振ってから再び本に目を向けた。
シュモネー先生の本に書かれている知識は、ぼくがこれまで教わってきたものとあまり違いはないけれど、その視点が面白い。
神秘の国アルゴール出身で大陸中を渡り歩いてきたシュモネー先生はドラヴィルダを俯瞰する視点を持っているからだ。
王国に子爵家の長男として生まれ、暮らし、学び続けるうちに、ついついぼくの思考までこの文化の枠で固められてしまっていた。
シュモネー先生の本は、この世界がぼくにとっては異世界でもあることや女神ラヴェンナが魔王からこの世界を守ろうとしていることを改めて思い起こさせてくれる。
「いや、本当ならシーアとのんびりスローライフを送っていればいいだけのはずなんだよ」
「なに?」
「ごめん、なんでもない」
思わず口について出てしまったが、もともと勇者転生に失敗してしまったお詫びとして、この世界での人生をエンジョイしてくださいというものだったはずだ。
もちろんシーアの【見る】さえ取り戻すことができたら、そうするつもりだ。魔王の討伐については、ぼくの変わりに勇者転生したやつに任せておけばいい。
……いいはずなんだけど。
ぼくの脳裏にあのルーキー女神の土下座姿が浮かんできた。
……信用できん。
脳裏の女神が顔をあげて心外だという顔をするが、ぼくがキッとにらみつけると再び土下座に戻った。
いくらスローライフを楽しむといっても、魔王の脅威が世界が覆うような事態は避けたい。自分とシーアの二人だけで幸せになれるのなら、世界の片隅に隠れて暮らしてもいいかもしれない。
でも、いまのぼくには両親や妹弟がいて、ロイド家のひとたちがいて、先生や師匠、ノーラやリンダーネルがいて、ギルドのひとたちがいて、子爵領のひとたちがいて、クラウスくんがいる。
その誰かが魔王に苦しめられるのをぼくはみたくない。
さらに言えば、ウルス王として過ごした二年によって生まれた王国の民に対する愛情がぼくの中にはあった。
いまは王様ではないし、彼らを幸せにしたいなんて大それたことは思わないけれど、魔王に苦しめられるのをみたくない。
これは「みんなに幸せになって欲しい!」という高邁な理想から出てきている思いではなく、もっとリアルな恐怖から来る感情的な思いだ。
歴史に残されている魔王が支配する世界は、それほどまでに恐ろしいものだった。
例えば、魔将軍コ・ソーの石臼の話は王国中の子どもたちにトラウマを与えている。魔将軍は、たくさんの魔兵の食糧を確保するために征服した国の人間を、一日千人の生きた人間を石臼の中に投げ入れた。
実際に使われた石臼の一部が残されている。父上は実際にこれを見たことがあるらしく、石の表面には血糊の後が残されていて、とても不気味だったらしい。
石臼に宿った怨念が幽鬼となって夜な夜な顕現し、子どもをさらっては臼に投げ入れるという噂話が人々の間では信じられている。
魔将軍の他にも、魔王によってもたらされた恐怖は他にいくらでもある。そんな脅威が存在する以上、勇者には何としても魔王を倒してもらいたい。
同じ転生者でもあることだし、ぼくに手伝えることがあるならそうするつもりだ。
そういえば、転生した勇者ってどこにいるんだろう。
ほとんどの存在がこの魔力を自身を定義するためだけに費やされているのに対し、それを超える量の魔力を持つものも少なからず存在します。
一般的に、わたしたちが『魔力』と呼んでいるものは、自身の存在に必要な魔力量から溢れ出た部分を指しています。
魔力を多く持つものとしては、魔物や魔石、そして人類種が該当します。魔力を行使するためには『非常に強い意志』が必要です。
それは個人の強い意志だけでなく、共同体や集団の意志、何世代もの長い時間を掛けた意志も含まれます。
そのため地域や種族・文化によって魔力の扱い方は異なってきます。大陸で広く知られている魔術や神聖術も、アンゴールにおける零術もその根本は同じものです」
-「びっくり世界のミステリー どんとこいドラヴィルダ編(シュモネー・メトシェラ著)」より
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「なるほど。意志の積み上げ方の違いから魔術と神聖術に分かれているだけで、その根っこは同じものだったのか」
ぼくはシュモネー先生にサインしてもらった本を夢中になって読んでいた。ふざけたタイトルではあるものの、その中身はかなり興味深い情報に溢れている。
「どんとこいシリーズか……なんか聞いたことがあるような」
「シリーズが多いから、そう思っちゃうよね。それにしても……」
ぼくの部屋で一緒に読書をしていたクラウスくんが困ったような顔を向けてくる。どうしたんだろう? 悩み事でもあるのだろうか。ぼくに相談してくる美少女の手助けはいつだって全力でやってみせる!
「僕は男なんだからね!」
「思考が読まれた!?」
「顔に出てるよ!」
顔に出てるといっても、そこまで的確にわかるなんてさすがクラウスくん。やっぱり可愛い。ぼくは、頭を軽く動かしてシーアのおっぱい枕の感触を楽しんでから、再び読書に戻る。
「はぁ……」
ため息をついたクラウスくんも首を振ってから再び本に目を向けた。
シュモネー先生の本に書かれている知識は、ぼくがこれまで教わってきたものとあまり違いはないけれど、その視点が面白い。
神秘の国アルゴール出身で大陸中を渡り歩いてきたシュモネー先生はドラヴィルダを俯瞰する視点を持っているからだ。
王国に子爵家の長男として生まれ、暮らし、学び続けるうちに、ついついぼくの思考までこの文化の枠で固められてしまっていた。
シュモネー先生の本は、この世界がぼくにとっては異世界でもあることや女神ラヴェンナが魔王からこの世界を守ろうとしていることを改めて思い起こさせてくれる。
「いや、本当ならシーアとのんびりスローライフを送っていればいいだけのはずなんだよ」
「なに?」
「ごめん、なんでもない」
思わず口について出てしまったが、もともと勇者転生に失敗してしまったお詫びとして、この世界での人生をエンジョイしてくださいというものだったはずだ。
もちろんシーアの【見る】さえ取り戻すことができたら、そうするつもりだ。魔王の討伐については、ぼくの変わりに勇者転生したやつに任せておけばいい。
……いいはずなんだけど。
ぼくの脳裏にあのルーキー女神の土下座姿が浮かんできた。
……信用できん。
脳裏の女神が顔をあげて心外だという顔をするが、ぼくがキッとにらみつけると再び土下座に戻った。
いくらスローライフを楽しむといっても、魔王の脅威が世界が覆うような事態は避けたい。自分とシーアの二人だけで幸せになれるのなら、世界の片隅に隠れて暮らしてもいいかもしれない。
でも、いまのぼくには両親や妹弟がいて、ロイド家のひとたちがいて、先生や師匠、ノーラやリンダーネルがいて、ギルドのひとたちがいて、子爵領のひとたちがいて、クラウスくんがいる。
その誰かが魔王に苦しめられるのをぼくはみたくない。
さらに言えば、ウルス王として過ごした二年によって生まれた王国の民に対する愛情がぼくの中にはあった。
いまは王様ではないし、彼らを幸せにしたいなんて大それたことは思わないけれど、魔王に苦しめられるのをみたくない。
これは「みんなに幸せになって欲しい!」という高邁な理想から出てきている思いではなく、もっとリアルな恐怖から来る感情的な思いだ。
歴史に残されている魔王が支配する世界は、それほどまでに恐ろしいものだった。
例えば、魔将軍コ・ソーの石臼の話は王国中の子どもたちにトラウマを与えている。魔将軍は、たくさんの魔兵の食糧を確保するために征服した国の人間を、一日千人の生きた人間を石臼の中に投げ入れた。
実際に使われた石臼の一部が残されている。父上は実際にこれを見たことがあるらしく、石の表面には血糊の後が残されていて、とても不気味だったらしい。
石臼に宿った怨念が幽鬼となって夜な夜な顕現し、子どもをさらっては臼に投げ入れるという噂話が人々の間では信じられている。
魔将軍の他にも、魔王によってもたらされた恐怖は他にいくらでもある。そんな脅威が存在する以上、勇者には何としても魔王を倒してもらいたい。
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そういえば、転生した勇者ってどこにいるんだろう。
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