キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局

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第120話 迫る追手とキーラのふともも

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 セリアとフィオナと別れたキモヲタ一行。

 この二人がボルギナンドたちに正当な法の裁きがくだるよう努力を続け、最終的にそれが無理であることを悟り、領主の館とギルドを爆破して逃亡したことをキモヲタが知るのは、これより何年も後のことなのでした。

 セリアが魔法弓で放った鋼龍が、ギルドを灰燼かいじんに帰していた頃。

 キモヲタたちは街道を進み、王都まであと数日というところまで来ていました。

 ロバのキンタが曳く馬車の御者台には手綱をとるユリアス。その隣にはキモヲタが座っています。

「セリア殿とフィオナ殿は、大丈夫でござろうか。街からの追手に見つかったりしないでござろうか」

 キモヲタに笑顔を向けたユリアスが明るい声で答えます。

「キモヲタ様、そのような心配をする必要はありませんよ。セリアなら誰にも見つからずに、あの街に着くことができるでしょう。どちらかというと私は、セリアが短気を起こして、領主の館でも爆破するんじゃないかと心配しています」
 
 それなりに長い付き合いだったユリアスは、セリアの性格をよく知っていました。ユリアスは、セリアが物事の筋道を通そうとする律義さと忍耐を持ってはいるものの、それが理不尽によって通らないとなると暴走することを知っていたのです。

 ユリアスがキモヲタにそんな話をしていた頃、セリアといえば領主の館に向って鋼龍を放っていたのでした。

「ま、まぁ……確かにセリア殿なら、それくらいのことをやりかねないでござる。岩トロルでも返り討ちにしそうでござるな」

 キモヲタは、セリアが黒く美しい髪を風になびかせながら、瞳に青い焔を燃やして、魔法弓を岩トロルに放っている姿を思い出しました。

「アハハ、その通りです。キモヲタ様。もしセリアたちが追手と遭遇したところで、返り討ちにするだけですよ」

 ユリアスが楽しそうに笑っているところに、馬車の荷台で後方の空を見つめていたエルミアナが声をかけてきました。

「少なくともセリアが、一度は追手を撒いたことは確かのようですね。私たちを追ってきている者が迫っているようです」

 風の精霊に後方を見張らせていたエルミアナが、追手の存在を知らせてきました。
 
「なんですと! やはりボルギノールから追って来た連中でござるか!?」

「おそらくそうでしょう」

 エルミアナは水をすくうようにして両腕を高く掲げると、虚空に向って話しかけました。

 金色の髪がふわっと舞い上がり、エルミアナの周りに小さな光の粒子が集まりはじめます。

「風の精霊王の眷属にして、我が祖たるエレンディアと盟約を交わしたるウィンディアル。偉大なる風の聖霊よ、我らを追う者たちの声をどうか我らに聞かせ給え」

 鈴の音のような詠唱に応えるように、白いイルカの姿をした精霊がエルミアナの頭上に姿を現します。

「我がいとし子エルミアナよ。相変わらずお前の口上はいつも仰々しいのぉ。若きエルフよ。お主との付き合いも長いのじゃから、もっとくだけた感じでいいのじゃぞ。エルフのギャル語でも構わん。どちらかというとそちらの方がいい」

「ごめんなさいウィンディアル。エルフノギャルゴーというのを、私は存じません」

 申し訳なさそうな顔になるエルミアナに、ウィンディアルはため息をつきました。

「ハァーッ。まぁギャル語のことはまたで良い。いまは後ろの奴らの会話を聞かせてやろう」

 ウィンディアルがそう言った瞬間、男たちの言葉がその場に響き渡りました。

『あいつらを絶対に逃がすな!』
『首ひとつで金貨30枚!』
『7人全員殺せ!』
『ギルドからも報酬が出るぞ!』
『俺、この暗殺が終わったら結婚するんだ……』

「……なんか自らフラグを立てておるものがおりますな!」

 キモヲタの袖をキーラが引っ張りました。

「あいつら、ボクたちを7人って言ってた! ここに7人いるって思ってる! あいつら、セリアたちに会ってないんだよ!」  

 尻尾をブンブン振り回して嬉しそうに叫ぶキーラに、キモヲタはニチャリとした笑顔を向けました。

「デュフフ。キーラたんは、セリアたんのことをとっても心配していたでござるな」

「あたりまえじゃん! ねぇキモヲタ! あいつらをやっつけちゃって!」 

 キーラにグイグイと袖を引っ張られてお願いされたキモヲタは、俄然やる気になったのでした。

「ふぉおお! キーラたんのお願い承りましたぞぉお! ユリアス殿、馬車を止めてくだされ!」

 ユリアスが馬車を止めると、キモヲタは荷台に移って、そこでうつぶせになりました。本人的には、スナイパーのようなポーズをとっているつもりです。

 キモヲタは右手をピストルの形にすると、後方に狙いを定めました。

「キーラタソ、我輩の背中に跨ってくだされ! 敵が来たら知らせて欲しいのでござる」

「へっ!? えっ!? なんでキモヲタの背中に跨るの!?」

「早う!」

 キモヲタの切迫した声にキーラは慌てて、うつぶせになっているキモヲタの背中に跨ります。

 キーラにはそんなことをしなければならない理由がわかりませんでしたが、とりあえず言われるままに、キモヲタに跨って追手が来る方向へと目を凝らします。

 もちろん実際にはそのようなことをする意味はなく、ただ単にキモヲタがキーラのお尻とふとももを背中で堪能したかっただけなのでした。

「あっ! 来た! あいつらが来るよ!」 

「了解でござる! キーラたん! ふとももでしっかりと我輩を挟んでくだされ!」

「わ、わかった!」

 キーラの太ももがギュッと絞られるのを感じながら、キモヲタは人差し指を追手に向け、彼らを十分に引き付けてから【お尻かゆくなーる】を放ちます。

「ヨッ! ホッ! ハッ! オッ! パッ! ピッ!」

 あっという間に、追手の全員が馬から飛び降りて、そのお尻を地面に擦り付けさせることになりました。

 ドゴンッ!

「はへぇえええ!」

 この暗殺が終わったら結婚するはずだった男が、乗っていた馬の足にお尻を擦り付けようとしたために、馬に思い切り蹴飛ばされて飛んでいきました。
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