120 / 239
第120話 迫る追手とキーラのふともも
しおりを挟む
セリアとフィオナと別れたキモヲタ一行。
この二人がボルギナンドたちに正当な法の裁きがくだるよう努力を続け、最終的にそれが無理であることを悟り、領主の館とギルドを爆破して逃亡したことをキモヲタが知るのは、これより何年も後のことなのでした。
セリアが魔法弓で放った鋼龍が、ギルドを灰燼に帰していた頃。
キモヲタたちは街道を進み、王都まであと数日というところまで来ていました。
ロバのキンタが曳く馬車の御者台には手綱をとるユリアス。その隣にはキモヲタが座っています。
「セリア殿とフィオナ殿は、大丈夫でござろうか。街からの追手に見つかったりしないでござろうか」
キモヲタに笑顔を向けたユリアスが明るい声で答えます。
「キモヲタ様、そのような心配をする必要はありませんよ。セリアなら誰にも見つからずに、あの街に着くことができるでしょう。どちらかというと私は、セリアが短気を起こして、領主の館でも爆破するんじゃないかと心配しています」
それなりに長い付き合いだったユリアスは、セリアの性格をよく知っていました。ユリアスは、セリアが物事の筋道を通そうとする律義さと忍耐を持ってはいるものの、それが理不尽によって通らないとなると暴走することを知っていたのです。
ユリアスがキモヲタにそんな話をしていた頃、セリアといえば領主の館に向って鋼龍を放っていたのでした。
「ま、まぁ……確かにセリア殿なら、それくらいのことをやりかねないでござる。岩トロルでも返り討ちにしそうでござるな」
キモヲタは、セリアが黒く美しい髪を風になびかせながら、瞳に青い焔を燃やして、魔法弓を岩トロルに放っている姿を思い出しました。
「アハハ、その通りです。キモヲタ様。もしセリアたちが追手と遭遇したところで、返り討ちにするだけですよ」
ユリアスが楽しそうに笑っているところに、馬車の荷台で後方の空を見つめていたエルミアナが声をかけてきました。
「少なくともセリアが、一度は追手を撒いたことは確かのようですね。私たちを追ってきている者が迫っているようです」
風の精霊に後方を見張らせていたエルミアナが、追手の存在を知らせてきました。
「なんですと! やはりボルギノールから追って来た連中でござるか!?」
「おそらくそうでしょう」
エルミアナは水をすくうようにして両腕を高く掲げると、虚空に向って話しかけました。
金色の髪がふわっと舞い上がり、エルミアナの周りに小さな光の粒子が集まりはじめます。
「風の精霊王の眷属にして、我が祖たるエレンディアと盟約を交わしたるウィンディアル。偉大なる風の聖霊よ、我らを追う者たちの声をどうか我らに聞かせ給え」
鈴の音のような詠唱に応えるように、白いイルカの姿をした精霊がエルミアナの頭上に姿を現します。
「我がいとし子エルミアナよ。相変わらずお前の口上はいつも仰々しいのぉ。若きエルフよ。お主との付き合いも長いのじゃから、もっとくだけた感じでいいのじゃぞ。エルフのギャル語でも構わん。どちらかというとそちらの方がいい」
「ごめんなさいウィンディアル。エルフノギャルゴーというのを、私は存じません」
申し訳なさそうな顔になるエルミアナに、ウィンディアルはため息をつきました。
「ハァーッ。まぁギャル語のことはまたで良い。いまは後ろの奴らの会話を聞かせてやろう」
ウィンディアルがそう言った瞬間、男たちの言葉がその場に響き渡りました。
『あいつらを絶対に逃がすな!』
『首ひとつで金貨30枚!』
『7人全員殺せ!』
『ギルドからも報酬が出るぞ!』
『俺、この暗殺が終わったら結婚するんだ……』
「……なんか自らフラグを立てておるものがおりますな!」
キモヲタの袖をキーラが引っ張りました。
「あいつら、ボクたちを7人って言ってた! ここに7人いるって思ってる! あいつら、セリアたちに会ってないんだよ!」
尻尾をブンブン振り回して嬉しそうに叫ぶキーラに、キモヲタはニチャリとした笑顔を向けました。
「デュフフ。キーラたんは、セリアたんのことをとっても心配していたでござるな」
「あたりまえじゃん! ねぇキモヲタ! あいつらをやっつけちゃって!」
キーラにグイグイと袖を引っ張られてお願いされたキモヲタは、俄然やる気になったのでした。
「ふぉおお! キーラたんのお願い承りましたぞぉお! ユリアス殿、馬車を止めてくだされ!」
ユリアスが馬車を止めると、キモヲタは荷台に移って、そこでうつぶせになりました。本人的には、スナイパーのようなポーズをとっているつもりです。
キモヲタは右手をピストルの形にすると、後方に狙いを定めました。
「キーラタソ、我輩の背中に跨ってくだされ! 敵が来たら知らせて欲しいのでござる」
「へっ!? えっ!? なんでキモヲタの背中に跨るの!?」
「早う!」
キモヲタの切迫した声にキーラは慌てて、うつぶせになっているキモヲタの背中に跨ります。
キーラにはそんなことをしなければならない理由がわかりませんでしたが、とりあえず言われるままに、キモヲタに跨って追手が来る方向へと目を凝らします。
もちろん実際にはそのようなことをする意味はなく、ただ単にキモヲタがキーラのお尻とふとももを背中で堪能したかっただけなのでした。
「あっ! 来た! あいつらが来るよ!」
「了解でござる! キーラたん! ふとももでしっかりと我輩を挟んでくだされ!」
「わ、わかった!」
キーラの太ももがギュッと絞られるのを感じながら、キモヲタは人差し指を追手に向け、彼らを十分に引き付けてから【お尻かゆくなーる】を放ちます。
「ヨッ! ホッ! ハッ! オッ! パッ! ピッ!」
あっという間に、追手の全員が馬から飛び降りて、そのお尻を地面に擦り付けさせることになりました。
ドゴンッ!
「はへぇえええ!」
この暗殺が終わったら結婚するはずだった男が、乗っていた馬の足にお尻を擦り付けようとしたために、馬に思い切り蹴飛ばされて飛んでいきました。
この二人がボルギナンドたちに正当な法の裁きがくだるよう努力を続け、最終的にそれが無理であることを悟り、領主の館とギルドを爆破して逃亡したことをキモヲタが知るのは、これより何年も後のことなのでした。
セリアが魔法弓で放った鋼龍が、ギルドを灰燼に帰していた頃。
キモヲタたちは街道を進み、王都まであと数日というところまで来ていました。
ロバのキンタが曳く馬車の御者台には手綱をとるユリアス。その隣にはキモヲタが座っています。
「セリア殿とフィオナ殿は、大丈夫でござろうか。街からの追手に見つかったりしないでござろうか」
キモヲタに笑顔を向けたユリアスが明るい声で答えます。
「キモヲタ様、そのような心配をする必要はありませんよ。セリアなら誰にも見つからずに、あの街に着くことができるでしょう。どちらかというと私は、セリアが短気を起こして、領主の館でも爆破するんじゃないかと心配しています」
それなりに長い付き合いだったユリアスは、セリアの性格をよく知っていました。ユリアスは、セリアが物事の筋道を通そうとする律義さと忍耐を持ってはいるものの、それが理不尽によって通らないとなると暴走することを知っていたのです。
ユリアスがキモヲタにそんな話をしていた頃、セリアといえば領主の館に向って鋼龍を放っていたのでした。
「ま、まぁ……確かにセリア殿なら、それくらいのことをやりかねないでござる。岩トロルでも返り討ちにしそうでござるな」
キモヲタは、セリアが黒く美しい髪を風になびかせながら、瞳に青い焔を燃やして、魔法弓を岩トロルに放っている姿を思い出しました。
「アハハ、その通りです。キモヲタ様。もしセリアたちが追手と遭遇したところで、返り討ちにするだけですよ」
ユリアスが楽しそうに笑っているところに、馬車の荷台で後方の空を見つめていたエルミアナが声をかけてきました。
「少なくともセリアが、一度は追手を撒いたことは確かのようですね。私たちを追ってきている者が迫っているようです」
風の精霊に後方を見張らせていたエルミアナが、追手の存在を知らせてきました。
「なんですと! やはりボルギノールから追って来た連中でござるか!?」
「おそらくそうでしょう」
エルミアナは水をすくうようにして両腕を高く掲げると、虚空に向って話しかけました。
金色の髪がふわっと舞い上がり、エルミアナの周りに小さな光の粒子が集まりはじめます。
「風の精霊王の眷属にして、我が祖たるエレンディアと盟約を交わしたるウィンディアル。偉大なる風の聖霊よ、我らを追う者たちの声をどうか我らに聞かせ給え」
鈴の音のような詠唱に応えるように、白いイルカの姿をした精霊がエルミアナの頭上に姿を現します。
「我がいとし子エルミアナよ。相変わらずお前の口上はいつも仰々しいのぉ。若きエルフよ。お主との付き合いも長いのじゃから、もっとくだけた感じでいいのじゃぞ。エルフのギャル語でも構わん。どちらかというとそちらの方がいい」
「ごめんなさいウィンディアル。エルフノギャルゴーというのを、私は存じません」
申し訳なさそうな顔になるエルミアナに、ウィンディアルはため息をつきました。
「ハァーッ。まぁギャル語のことはまたで良い。いまは後ろの奴らの会話を聞かせてやろう」
ウィンディアルがそう言った瞬間、男たちの言葉がその場に響き渡りました。
『あいつらを絶対に逃がすな!』
『首ひとつで金貨30枚!』
『7人全員殺せ!』
『ギルドからも報酬が出るぞ!』
『俺、この暗殺が終わったら結婚するんだ……』
「……なんか自らフラグを立てておるものがおりますな!」
キモヲタの袖をキーラが引っ張りました。
「あいつら、ボクたちを7人って言ってた! ここに7人いるって思ってる! あいつら、セリアたちに会ってないんだよ!」
尻尾をブンブン振り回して嬉しそうに叫ぶキーラに、キモヲタはニチャリとした笑顔を向けました。
「デュフフ。キーラたんは、セリアたんのことをとっても心配していたでござるな」
「あたりまえじゃん! ねぇキモヲタ! あいつらをやっつけちゃって!」
キーラにグイグイと袖を引っ張られてお願いされたキモヲタは、俄然やる気になったのでした。
「ふぉおお! キーラたんのお願い承りましたぞぉお! ユリアス殿、馬車を止めてくだされ!」
ユリアスが馬車を止めると、キモヲタは荷台に移って、そこでうつぶせになりました。本人的には、スナイパーのようなポーズをとっているつもりです。
キモヲタは右手をピストルの形にすると、後方に狙いを定めました。
「キーラタソ、我輩の背中に跨ってくだされ! 敵が来たら知らせて欲しいのでござる」
「へっ!? えっ!? なんでキモヲタの背中に跨るの!?」
「早う!」
キモヲタの切迫した声にキーラは慌てて、うつぶせになっているキモヲタの背中に跨ります。
キーラにはそんなことをしなければならない理由がわかりませんでしたが、とりあえず言われるままに、キモヲタに跨って追手が来る方向へと目を凝らします。
もちろん実際にはそのようなことをする意味はなく、ただ単にキモヲタがキーラのお尻とふとももを背中で堪能したかっただけなのでした。
「あっ! 来た! あいつらが来るよ!」
「了解でござる! キーラたん! ふとももでしっかりと我輩を挟んでくだされ!」
「わ、わかった!」
キーラの太ももがギュッと絞られるのを感じながら、キモヲタは人差し指を追手に向け、彼らを十分に引き付けてから【お尻かゆくなーる】を放ちます。
「ヨッ! ホッ! ハッ! オッ! パッ! ピッ!」
あっという間に、追手の全員が馬から飛び降りて、そのお尻を地面に擦り付けさせることになりました。
ドゴンッ!
「はへぇえええ!」
この暗殺が終わったら結婚するはずだった男が、乗っていた馬の足にお尻を擦り付けようとしたために、馬に思い切り蹴飛ばされて飛んでいきました。
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる