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第145話 気づいちゃった二人の少女
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その日は、あと数人の大人をウホらせたところで、キモヲタたちは早々に復興局を引きあげることにしました。
キモヲタの親指手品を見たがる子どもたちや、子どもの相手してもらって助かっているシスターが引き留めようとするのを断るキモヲタ。
「このあと色々と急ぎの所用がござってな。また三日後に来るでござるから、今日はご容赦くだされ」
それを聞いて、さすがに大人であるシスターは引き下がったものの、子どもたちのまとわりつきは止まりません。
「キモヲタの邪魔すると、次に来るときお菓子が貰えなくなっちゃうよ~♪ すっごく甘いお菓子なんだけど、食べられなくなっちゃうかもね~♪」
キーラの言葉を聞いた子どもたちは、蜘蛛の子を散らすようにキモヲタから離れていきました。
ただノエラとカミラだけは、それでもキモヲタにしがみ付いたままでした。
「お菓子もらえなくなるよ~♪」
「もうもらったから……」
キモヲタの治癒で再び歩けるようになったノエラがつぶやきました。
「たくさんもらったから、お菓子はもういいの……」
そう言って、再び見えるようになったカミラがキモヲタを見上げました。
二人の言葉を聞いてキーラがキモヲタに詰め寄ります。
「ちょっとキモヲタ!? 二人に話したの!?」
キーラは、キモヲタが二人の治癒を行なったことを話してしまったのではないかと思ったのでした。
キモヲタは激しく首を左右に振ります。
(ちょ、我輩が言うはずないでござろう。デュフコポー!)
(じゃあ、『たくさんもらったって』、二人に何かあげたりした?)
目だけをつかって会話を成立させるキモヲタとキーラ。
(何もあげたりしてはござらんよ……って、ハッ!?)
(何!? 二人に何をあげたのさ!?)
(我輩が二人にあげたのは『思い出』……とかでござろうか)
(……わかった。その腹の肉を思いっきり噛み千切ればいいんだね!)
(ちょっ、キーラたん!?)
そんな無言のやりとりをみていたノエラとカミラは、そっとキモヲタから手を放すと、
「ありがとう。キモヲタのお兄ちゃん」
「また来てね! 絶対、絶対だよ!」
と言って、他の子どもたちのところへ戻って行きました。
二人の背中を見送りながらキーラがボソリとつぶやきます。
「あの二人……キモヲタが治癒したってことに気づいてそうだね」
「ハハハ。まさかまさかでござるよ……」
もちろんノエラとカミラは、自分たちの怪我や目を治したのがキモヲタであることに気がついていました。
ノエラが気がついたのは、ただの直感でした。
ノエラの周りにいる大人たちは、彼女の足の怪我について気に掛けたりしませんでした。
誰もが何かしらの悲劇を抱え、その日を生きるのに必死な状況では、ノエラに同情や配慮はしてくれても、彼女の足のために胸を痛めるものはいなかったのです。
ノエラが足を引きずって歩くと、キモヲタがずっとその足を視線で追っているのをノエラは感じていました。そしてそのとき、キモヲタの顔に陰るのを見ていたのです。
キモヲタのことをずっと観察していたノエラ。
地下の箱部屋で足裏を掴まれたとき。足裏に押し込まれる指の太さを感じたときに、ノエラの脳裡にキモヲタの姿が浮かんだのでした。
カミラの方は、もう何年もずっと盲目で過ごしてきたこともあって、他人の存在を視覚以外で感じ取る能力が磨かれていました。
そのため、箱部屋に入った瞬間から、カミラは壁の向こうにキモヲタの存在を感じ取っていたのです。
そして、足裏を掴まれたその一瞬にそれがキモヲタなのだと確信していたのでした。
~ 南橋 ~
早々と復興局を引き上げたキモヲタたち。エレナが御者台に乗り、荷台にはキモヲタとキーラ、そしてエルミアナが乗り込んでいました。
馬車は南橋の近くまで来ると進路を変えて、そのまま河沿いを進みます。
「あの建物じゃないかしら」
そう言ってエレナが指差す先には、木製で二階建ての大きな建物がありました。
それは簡素な造りではありましたが、焼け跡の残る周囲の建物と比較すると良い状態が保たれていました。
ただ建物の周りには多くの瓦礫や石ころが散らばっており、この辺りも復興が遅れていることがハッキリと感じられます。
建物の入り口には大きな看板が取り付けられていました。
「北西区紅蝶会」
建物の前でエレナが馬車を止めると、入り口に立っていた大男が近づいてきました。
「ここに何の用だ?」
大男の顔の傷に怯むこともなく、エレナは紅蝶会の「身請け証文」を男の目の前で広げてみせました。
「用はこれよ」
証文を確認した男は、しばらく待つように言い残して建物の中へ消えていきました。
大男を待っている間に、エルミアナが風の精霊ウィンディアルの召喚を始めます。
いつものようにウィンディアルが、エルミアナの堅苦しい召喚呪文に文句を言いながら姿を見せた頃――
「おい、お前ら! 入れ!」
戻ってきた大男が、キモヲタたちに中へ入るようアゴで促しました。
「行くわよ」
入り口に向かうエレナにキモヲタとキーラが続きます。後ろからエルミアナが付いてくるのを見たキモヲタは、彼女に声をかけます。
「こんなところに馬車だけ残しては盗まれてしまうのではござらんか? エルミアナ殿は残っておられた方がいいのでは?」
キモヲタの言葉を聞いて、エルミアナはニッコリと笑って答えます。
「大丈夫ですよ。馬車はウィンディアルが守ってくれますから」
そう言うと、エルミアナは地面に捨てられている焦げた木の板を取り上げて、馬車に向って放り投げました。
木の板が放物線を描いて馬車に向うのを、キモヲタだけではなく、大男や近くたむろしていた者たちが視線で追います。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッザシュッ!
焦げた木の板は、馬車に到達する前にスライスされて地面にバラバラと落ちていきました。
「ねっ? 大丈夫でしょ?」
笑顔のエルミアナを見て、震えるキモヲタなのでした。
馬車に目を付けて、近くでたむろしていた男たちも、同じように震えているのでした。
キモヲタの親指手品を見たがる子どもたちや、子どもの相手してもらって助かっているシスターが引き留めようとするのを断るキモヲタ。
「このあと色々と急ぎの所用がござってな。また三日後に来るでござるから、今日はご容赦くだされ」
それを聞いて、さすがに大人であるシスターは引き下がったものの、子どもたちのまとわりつきは止まりません。
「キモヲタの邪魔すると、次に来るときお菓子が貰えなくなっちゃうよ~♪ すっごく甘いお菓子なんだけど、食べられなくなっちゃうかもね~♪」
キーラの言葉を聞いた子どもたちは、蜘蛛の子を散らすようにキモヲタから離れていきました。
ただノエラとカミラだけは、それでもキモヲタにしがみ付いたままでした。
「お菓子もらえなくなるよ~♪」
「もうもらったから……」
キモヲタの治癒で再び歩けるようになったノエラがつぶやきました。
「たくさんもらったから、お菓子はもういいの……」
そう言って、再び見えるようになったカミラがキモヲタを見上げました。
二人の言葉を聞いてキーラがキモヲタに詰め寄ります。
「ちょっとキモヲタ!? 二人に話したの!?」
キーラは、キモヲタが二人の治癒を行なったことを話してしまったのではないかと思ったのでした。
キモヲタは激しく首を左右に振ります。
(ちょ、我輩が言うはずないでござろう。デュフコポー!)
(じゃあ、『たくさんもらったって』、二人に何かあげたりした?)
目だけをつかって会話を成立させるキモヲタとキーラ。
(何もあげたりしてはござらんよ……って、ハッ!?)
(何!? 二人に何をあげたのさ!?)
(我輩が二人にあげたのは『思い出』……とかでござろうか)
(……わかった。その腹の肉を思いっきり噛み千切ればいいんだね!)
(ちょっ、キーラたん!?)
そんな無言のやりとりをみていたノエラとカミラは、そっとキモヲタから手を放すと、
「ありがとう。キモヲタのお兄ちゃん」
「また来てね! 絶対、絶対だよ!」
と言って、他の子どもたちのところへ戻って行きました。
二人の背中を見送りながらキーラがボソリとつぶやきます。
「あの二人……キモヲタが治癒したってことに気づいてそうだね」
「ハハハ。まさかまさかでござるよ……」
もちろんノエラとカミラは、自分たちの怪我や目を治したのがキモヲタであることに気がついていました。
ノエラが気がついたのは、ただの直感でした。
ノエラの周りにいる大人たちは、彼女の足の怪我について気に掛けたりしませんでした。
誰もが何かしらの悲劇を抱え、その日を生きるのに必死な状況では、ノエラに同情や配慮はしてくれても、彼女の足のために胸を痛めるものはいなかったのです。
ノエラが足を引きずって歩くと、キモヲタがずっとその足を視線で追っているのをノエラは感じていました。そしてそのとき、キモヲタの顔に陰るのを見ていたのです。
キモヲタのことをずっと観察していたノエラ。
地下の箱部屋で足裏を掴まれたとき。足裏に押し込まれる指の太さを感じたときに、ノエラの脳裡にキモヲタの姿が浮かんだのでした。
カミラの方は、もう何年もずっと盲目で過ごしてきたこともあって、他人の存在を視覚以外で感じ取る能力が磨かれていました。
そのため、箱部屋に入った瞬間から、カミラは壁の向こうにキモヲタの存在を感じ取っていたのです。
そして、足裏を掴まれたその一瞬にそれがキモヲタなのだと確信していたのでした。
~ 南橋 ~
早々と復興局を引き上げたキモヲタたち。エレナが御者台に乗り、荷台にはキモヲタとキーラ、そしてエルミアナが乗り込んでいました。
馬車は南橋の近くまで来ると進路を変えて、そのまま河沿いを進みます。
「あの建物じゃないかしら」
そう言ってエレナが指差す先には、木製で二階建ての大きな建物がありました。
それは簡素な造りではありましたが、焼け跡の残る周囲の建物と比較すると良い状態が保たれていました。
ただ建物の周りには多くの瓦礫や石ころが散らばっており、この辺りも復興が遅れていることがハッキリと感じられます。
建物の入り口には大きな看板が取り付けられていました。
「北西区紅蝶会」
建物の前でエレナが馬車を止めると、入り口に立っていた大男が近づいてきました。
「ここに何の用だ?」
大男の顔の傷に怯むこともなく、エレナは紅蝶会の「身請け証文」を男の目の前で広げてみせました。
「用はこれよ」
証文を確認した男は、しばらく待つように言い残して建物の中へ消えていきました。
大男を待っている間に、エルミアナが風の精霊ウィンディアルの召喚を始めます。
いつものようにウィンディアルが、エルミアナの堅苦しい召喚呪文に文句を言いながら姿を見せた頃――
「おい、お前ら! 入れ!」
戻ってきた大男が、キモヲタたちに中へ入るようアゴで促しました。
「行くわよ」
入り口に向かうエレナにキモヲタとキーラが続きます。後ろからエルミアナが付いてくるのを見たキモヲタは、彼女に声をかけます。
「こんなところに馬車だけ残しては盗まれてしまうのではござらんか? エルミアナ殿は残っておられた方がいいのでは?」
キモヲタの言葉を聞いて、エルミアナはニッコリと笑って答えます。
「大丈夫ですよ。馬車はウィンディアルが守ってくれますから」
そう言うと、エルミアナは地面に捨てられている焦げた木の板を取り上げて、馬車に向って放り投げました。
木の板が放物線を描いて馬車に向うのを、キモヲタだけではなく、大男や近くたむろしていた者たちが視線で追います。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッザシュッ!
焦げた木の板は、馬車に到達する前にスライスされて地面にバラバラと落ちていきました。
「ねっ? 大丈夫でしょ?」
笑顔のエルミアナを見て、震えるキモヲタなのでした。
馬車に目を付けて、近くでたむろしていた男たちも、同じように震えているのでした。
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