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第211話 カガリビ
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~ 王都の裏通り ~
誰かが争う音を感じたカガリビは、状況をより詳しく感じるために、口先から身体の一部を出すことにしました。
美しく儚げな造形をした少女の口から、赤黒い触手が静かに伸び出していきます。
カガリビは自身の身体で空気に触れることで、音や匂いを感じ取ったのでした。
「またあの嫌な臭いがします。それに血の匂いも……誰かが襲われているのでしょうか」
カガリビは臭いのする方へ、裏道のより暗い方へと足を進めていきました。
カツン。カツン。カツン。
暗闇の中にあっても、口から伸びる触手が空気の流れや反響を視ているのでカガリビには何の支障もありません。
通りの角を曲がると、仮面の男たちが地面に倒れている魔族を捕食しようとしているところに出くわしました。
カガリビの長い舌にブルブルと震えが走ります。
「あなた……とても嫌な臭いがするわ……」
カガリビの存在に気づいた仮面の男たちが、仮面ラミアーBlackを襲うのを止めて、一斉にカガリビへ顔を向けます。
「あなたにぜひ知っておいて欲しいのですが、私は妖異が大嫌いです」
カガリビの言葉に、仮面ラミアーBlackに跨っていた巨大な頭の仮面男が、何事かと問いた気に首を傾けました。
カガリビの美しい紅玉の瞳に憎悪の炎が揺れめき立ちます。
「特にあなたのような粘液のまがい物が……大嫌いです!」
仮面の男に向って駈け出したカガリビは、その勢いに乗せた貫手を巨大な頭に突き入れました。
ズシャッ!
カガリビは肩まで突き入れた手を開いて、仮面の男の中身を握れるだけ握ると、そのまま思い切り手を引き戻しました。
巨大な頭の仮面男は、
ブルンッ!
と身体を震わせると、その身体は空気の抜けたゴム風船のように収縮して、ペタンと地面に倒れてしまいます。
そして次の瞬間には、その身体はリールが巻かれた釣り糸のように暗闇の中へと引き込まれていくのでした。
残った仮面の男たち全員が、カガリビに襲い掛かってきます。
カガリビはそれらを相手にすることなく、彼らの攻撃をすべて躱しました。
返す貫手で撃退した仮面男の身体が、暗闇の中へと引きずり込まれていきます。
他の仮面男たちからも伸びている尻尾のような触手。それが収束して一本になっている根元部分へ駆けつけたカガリビ。
仮面男たちの正体が、ひとつの妖異であることを感知していたのです。
なので一人ひとりの仮面男を相手にするより、手早く対処する方法を選びました。
シュルシュルシュル。
長く伸ばされたカガリビの舌が、太い根元の触手に巻き付きます。
それから舌を一気に搾り上げ――
ブチンッ!
黒い触手を断ち切ったのでした。
その瞬間、彼女に襲い掛かろうとしていた仮面の男たちが、急に勢いを失って地面に倒れてそのまま動かなくなりました。
断ち切られた触手の根元側が退散するのを追うかどうか、カガリビは一瞬悩みました。
しかし、倒れているラミアのことを思い出すと、触手を追うのを断念したのでした。
「なんて酷い傷……」
仮面ラミアーBlackが負っている傷が、命にかかわるものであることを感じ取ったカガリビ。
人を呼ぶにしても、すぐには来てくれないかもしれないし、自分が人形であることがバレれば、なおさら難しいことになるだろうと考えていました。
「これは仮面?」
どうしたものかとカガリビが思案しているとき、ふとラミアが仮面を被っている気づいたので外してみました。
仮面の下にあったのは、黒髪の美しい女性の顔。
思わず見惚れていると、女性が意識を取り戻してカガリビに気づきました。
「貴女……まだ居たの……早く……逃げて……」
「逃げる? あの黒い化け物なら、もういないですよ」
「……そう……よかった……」
カガリビの返事に安心したのか、ラミアは再び意識を手放そうとしていました。
「少し待ってください。貴方を助けたいのですが、私では人を呼べません。どこに連れていけばいいのでしょう?」
「み……なみ……ばし……」
それだけ答えて、ラミアは意識を失ってしまいました。
「南橋。ここからそう遠くはありませんね」
カガリビはラミアを背後から抱きかかえると、後ろ向きのままゆっくりと引きずり始めました。
少女の身長と細い手足であるにも関わらず、巨大なラミアの身体を難なく引きずる姿は、傍目から見るとかなり異様な光景でした。
なので南橋が見え始める少し前から、その異様な光景に気づいた人々によって大きな騒ぎになっていたのでした。
「お、おい! 小さい子が何かどでかいものを引き摺ってるぞ」
「子どもがラミアを引き摺ってる!?」
「あのラミア、見たことがあるわ!」
「ひどい怪我してるけど大丈夫なのかしら……」
騒ぐ人々の間をかき分けて、二人の美女を連れた金髪の男が、カガリビの前にやってきました。
男はマジマジとラミアの姿を見つめ、
「こりゃ、キモヲタの旦那んとこで働いているラミアさんじゃねーか!? だよな?」
連れの女性に確認しました。二人の女性がコクコクと頷きます。
「と、とにかくキモヲタの旦那とシスターに連絡だ。すぐに二人を呼んでくれ」
金髪の優男は、連れの女性たちが急いで走っていくのを見送ると、カガリビから話を聞こうと振り返りました。
「おい嬢ちゃん、こりゃいったいどういうこった?」
しかし金髪の優男が振り返ったときには、すでにカガリビの姿はありませんでした。
誰かが争う音を感じたカガリビは、状況をより詳しく感じるために、口先から身体の一部を出すことにしました。
美しく儚げな造形をした少女の口から、赤黒い触手が静かに伸び出していきます。
カガリビは自身の身体で空気に触れることで、音や匂いを感じ取ったのでした。
「またあの嫌な臭いがします。それに血の匂いも……誰かが襲われているのでしょうか」
カガリビは臭いのする方へ、裏道のより暗い方へと足を進めていきました。
カツン。カツン。カツン。
暗闇の中にあっても、口から伸びる触手が空気の流れや反響を視ているのでカガリビには何の支障もありません。
通りの角を曲がると、仮面の男たちが地面に倒れている魔族を捕食しようとしているところに出くわしました。
カガリビの長い舌にブルブルと震えが走ります。
「あなた……とても嫌な臭いがするわ……」
カガリビの存在に気づいた仮面の男たちが、仮面ラミアーBlackを襲うのを止めて、一斉にカガリビへ顔を向けます。
「あなたにぜひ知っておいて欲しいのですが、私は妖異が大嫌いです」
カガリビの言葉に、仮面ラミアーBlackに跨っていた巨大な頭の仮面男が、何事かと問いた気に首を傾けました。
カガリビの美しい紅玉の瞳に憎悪の炎が揺れめき立ちます。
「特にあなたのような粘液のまがい物が……大嫌いです!」
仮面の男に向って駈け出したカガリビは、その勢いに乗せた貫手を巨大な頭に突き入れました。
ズシャッ!
カガリビは肩まで突き入れた手を開いて、仮面の男の中身を握れるだけ握ると、そのまま思い切り手を引き戻しました。
巨大な頭の仮面男は、
ブルンッ!
と身体を震わせると、その身体は空気の抜けたゴム風船のように収縮して、ペタンと地面に倒れてしまいます。
そして次の瞬間には、その身体はリールが巻かれた釣り糸のように暗闇の中へと引き込まれていくのでした。
残った仮面の男たち全員が、カガリビに襲い掛かってきます。
カガリビはそれらを相手にすることなく、彼らの攻撃をすべて躱しました。
返す貫手で撃退した仮面男の身体が、暗闇の中へと引きずり込まれていきます。
他の仮面男たちからも伸びている尻尾のような触手。それが収束して一本になっている根元部分へ駆けつけたカガリビ。
仮面男たちの正体が、ひとつの妖異であることを感知していたのです。
なので一人ひとりの仮面男を相手にするより、手早く対処する方法を選びました。
シュルシュルシュル。
長く伸ばされたカガリビの舌が、太い根元の触手に巻き付きます。
それから舌を一気に搾り上げ――
ブチンッ!
黒い触手を断ち切ったのでした。
その瞬間、彼女に襲い掛かろうとしていた仮面の男たちが、急に勢いを失って地面に倒れてそのまま動かなくなりました。
断ち切られた触手の根元側が退散するのを追うかどうか、カガリビは一瞬悩みました。
しかし、倒れているラミアのことを思い出すと、触手を追うのを断念したのでした。
「なんて酷い傷……」
仮面ラミアーBlackが負っている傷が、命にかかわるものであることを感じ取ったカガリビ。
人を呼ぶにしても、すぐには来てくれないかもしれないし、自分が人形であることがバレれば、なおさら難しいことになるだろうと考えていました。
「これは仮面?」
どうしたものかとカガリビが思案しているとき、ふとラミアが仮面を被っている気づいたので外してみました。
仮面の下にあったのは、黒髪の美しい女性の顔。
思わず見惚れていると、女性が意識を取り戻してカガリビに気づきました。
「貴女……まだ居たの……早く……逃げて……」
「逃げる? あの黒い化け物なら、もういないですよ」
「……そう……よかった……」
カガリビの返事に安心したのか、ラミアは再び意識を手放そうとしていました。
「少し待ってください。貴方を助けたいのですが、私では人を呼べません。どこに連れていけばいいのでしょう?」
「み……なみ……ばし……」
それだけ答えて、ラミアは意識を失ってしまいました。
「南橋。ここからそう遠くはありませんね」
カガリビはラミアを背後から抱きかかえると、後ろ向きのままゆっくりと引きずり始めました。
少女の身長と細い手足であるにも関わらず、巨大なラミアの身体を難なく引きずる姿は、傍目から見るとかなり異様な光景でした。
なので南橋が見え始める少し前から、その異様な光景に気づいた人々によって大きな騒ぎになっていたのでした。
「お、おい! 小さい子が何かどでかいものを引き摺ってるぞ」
「子どもがラミアを引き摺ってる!?」
「あのラミア、見たことがあるわ!」
「ひどい怪我してるけど大丈夫なのかしら……」
騒ぐ人々の間をかき分けて、二人の美女を連れた金髪の男が、カガリビの前にやってきました。
男はマジマジとラミアの姿を見つめ、
「こりゃ、キモヲタの旦那んとこで働いているラミアさんじゃねーか!? だよな?」
連れの女性に確認しました。二人の女性がコクコクと頷きます。
「と、とにかくキモヲタの旦那とシスターに連絡だ。すぐに二人を呼んでくれ」
金髪の優男は、連れの女性たちが急いで走っていくのを見送ると、カガリビから話を聞こうと振り返りました。
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