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第52話 義手と義眼
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二週間振りに俺たちはバーグの街を訪れた。
そろそろ手元の金貨が減ってきたので、今回は塩や胡椒等の調味料を袋に入れ替えて荷馬車に積んでいる。
ステファンが貴族時代――正確には今でも貴族だけど――に会ったことがあるというバーグの商人を通じて積荷を金貨に換える予定だ。
またコボルト村周辺のクエストかバーク付近で、簡単に達成できそうなクエストがあれば受注することにしている。
そんなわけでメンバーは、ステファンとライラの他にマーカスとヴィルも同行していた。
街に到着すると俺たちは真っ先にタンドルフの鍛冶屋に向かった。
「旦那! 両方できてるよ!」
タンドルフは俺たちの姿を認めるとすぐに完成品を持ってみせてくれた。
「これが義手。ほら片腕の兄さん、ちょっとここに立ってみて」
ステファンがタンドルフの前に立つと義手を取り付けた。義手は前腕の形をした黒光りする金属製だ。ほぼ想像した通りの出来上がりだった。
だが義手を身体に固定する部分は想像とは違っていた。まぁ、スケッチブックにもその部分は描いていなかったけど。
固定部は左上半身を覆う黒い革製で頭から被って着るもので、左上腕から義手の付け根までを覆っていた。装着時の外観はガントレットと皮鎧を付けた人のように見えた。
「ここを引っ張ってこうやって留めると……」
「おお、義手が強く引っ張られますね。安定します! 凄い!」
ステファンが義手を動かす。手首から先が固定されていることを除けば、まるで前腕があるかのようにステファンは腕を自由に動かしていた。
「凄い! これは凄い!」
ステファンが感動しているのを見て、俺とタンドルフは目を合わせてニヤリと笑った。
「ステファン、ちょっとその義手をタンドルフに触らせてやってくれ」
「は、はい。どうぞ」
タンドルフがステファンの義手の手元部分にある留め金をカチッとスライドさせる。そして義手を掴んでクルクルと回転させた。
ポンッ! という音と共に義手が根元近くから抜けていく。
「えっ!」
左腕に残された義手の土台から細身のレイピアがキラリと刀身を光らせて現れる。
「お、お、おおおおおおおおおお!」
ステファンが驚きのあまり咆哮を上げた。
「シンイチ殿! これは! これは! これは! シンイチ殿の世界の英雄、百鬼ま…」
「よし! そこでストップだ! ステファン、重さは大丈夫か?」
ステファンは俺とタンドルフから数歩下がって、左腕のレイピアを振り回して見せる。さすがは元剣士、サマになっていた。
「良い感じです! いえ完璧です! これなら十分に敵と戦えます。状況次第では以前よりも戦えるかもしれない」
俺はタンドルフに親指を立てた。
「まずひとつは合格だな」
「そりゃ嬉しいね。では次は……お嬢ちゃんか。ちょっと目を見せてくれるかい」
タンドルフが作業台の上にある小箱を開くとそこには義眼があった。タンドルフはその横にもうひとつ化粧箱を取り出して開く。そこには様々な色の顔料が並んでいた。
まずタンドルフはライラの左目を確認してパレット上で顔料を混ぜて色を調合する。何度かライラの左目とパレット上の色を見比べて、最後に義眼に着色していった。それから間もなくライラの左目とそっくりの虹彩の義眼が完成する。
次にタンドルフは右の眼窩を確認しようとライラの右目を覆う前髪に手を伸ばそうとした。
パシッ!
ライラがその手を叩く。
「あっ、すまねぇ嬢ちゃん。気が廻らなかったな」
タンドルフは俺とステファンに外で待っているように告げて、俺たちを作業場から追い出した。
「好きな人の前で目の傷なんて見せたくはないでしょう。わたしたちも気が廻りませんでしたね」
俺はステファンの言葉を聞いて黙って頷いた。そんなことに気づけなかった自己嫌悪に凹みながら。
5分ほど待っていると、タンドルフが俺たちを呼ぶ声が聞こえたので作業場に戻る。ライラが上気した顔で手鏡を見ていた。
「シンイチ様、わたし……どうですか」
ライラが俺たちの方に向き直って前髪を上げる。
「ライラ……よかった……よかった」
ステファンは右腕で涙を拭う。俺も嬉しかった。ライラの眼が戻ってよかった、いや、それだけじゃない。ライラは……
「凄く……綺麗だ……」
初めてライラと出会ったとき、ハーレムパーティの女拳闘士は確かに美人だった。でも今のライラはそのときの女拳闘士とは比較にならない程、美しかった。一体何が違っているんだろうと俺は考えを巡らす。
「なっ!」
驚いたライラが目を開き両手で口元を覆う。俺を見つめる顔が真っ赤に染まって、それを隠すようにライラはその場にしゃがみ込んでしまった。
「うっ、うっ……うぅぅぅう」
ライラの嗚咽が今は静かな作業場内に響く。
俺はライラにどんな声を掛ければ良いのかわからなかったので、彼女が落ち着くまでその頭をゆっくり撫で続けた。
幼女を宥めるのにはSS級の俺のなでなでが、泣いているライラに通用するかわからなかったけど、俺にはそうすることしかできなかったから。
「タンドルフ、素晴らしい一流品をありがとう」
俺はライラの頭から手を放し、持ってきていたスケッチブックと鉛筆をタンドルフに手渡した。
「完璧だ!」
俺がタンドルフに親指を立ててそう言うと、彼の顔がいかにもドワーフらしい満面の笑顔を見せた。
そろそろ手元の金貨が減ってきたので、今回は塩や胡椒等の調味料を袋に入れ替えて荷馬車に積んでいる。
ステファンが貴族時代――正確には今でも貴族だけど――に会ったことがあるというバーグの商人を通じて積荷を金貨に換える予定だ。
またコボルト村周辺のクエストかバーク付近で、簡単に達成できそうなクエストがあれば受注することにしている。
そんなわけでメンバーは、ステファンとライラの他にマーカスとヴィルも同行していた。
街に到着すると俺たちは真っ先にタンドルフの鍛冶屋に向かった。
「旦那! 両方できてるよ!」
タンドルフは俺たちの姿を認めるとすぐに完成品を持ってみせてくれた。
「これが義手。ほら片腕の兄さん、ちょっとここに立ってみて」
ステファンがタンドルフの前に立つと義手を取り付けた。義手は前腕の形をした黒光りする金属製だ。ほぼ想像した通りの出来上がりだった。
だが義手を身体に固定する部分は想像とは違っていた。まぁ、スケッチブックにもその部分は描いていなかったけど。
固定部は左上半身を覆う黒い革製で頭から被って着るもので、左上腕から義手の付け根までを覆っていた。装着時の外観はガントレットと皮鎧を付けた人のように見えた。
「ここを引っ張ってこうやって留めると……」
「おお、義手が強く引っ張られますね。安定します! 凄い!」
ステファンが義手を動かす。手首から先が固定されていることを除けば、まるで前腕があるかのようにステファンは腕を自由に動かしていた。
「凄い! これは凄い!」
ステファンが感動しているのを見て、俺とタンドルフは目を合わせてニヤリと笑った。
「ステファン、ちょっとその義手をタンドルフに触らせてやってくれ」
「は、はい。どうぞ」
タンドルフがステファンの義手の手元部分にある留め金をカチッとスライドさせる。そして義手を掴んでクルクルと回転させた。
ポンッ! という音と共に義手が根元近くから抜けていく。
「えっ!」
左腕に残された義手の土台から細身のレイピアがキラリと刀身を光らせて現れる。
「お、お、おおおおおおおおおお!」
ステファンが驚きのあまり咆哮を上げた。
「シンイチ殿! これは! これは! これは! シンイチ殿の世界の英雄、百鬼ま…」
「よし! そこでストップだ! ステファン、重さは大丈夫か?」
ステファンは俺とタンドルフから数歩下がって、左腕のレイピアを振り回して見せる。さすがは元剣士、サマになっていた。
「良い感じです! いえ完璧です! これなら十分に敵と戦えます。状況次第では以前よりも戦えるかもしれない」
俺はタンドルフに親指を立てた。
「まずひとつは合格だな」
「そりゃ嬉しいね。では次は……お嬢ちゃんか。ちょっと目を見せてくれるかい」
タンドルフが作業台の上にある小箱を開くとそこには義眼があった。タンドルフはその横にもうひとつ化粧箱を取り出して開く。そこには様々な色の顔料が並んでいた。
まずタンドルフはライラの左目を確認してパレット上で顔料を混ぜて色を調合する。何度かライラの左目とパレット上の色を見比べて、最後に義眼に着色していった。それから間もなくライラの左目とそっくりの虹彩の義眼が完成する。
次にタンドルフは右の眼窩を確認しようとライラの右目を覆う前髪に手を伸ばそうとした。
パシッ!
ライラがその手を叩く。
「あっ、すまねぇ嬢ちゃん。気が廻らなかったな」
タンドルフは俺とステファンに外で待っているように告げて、俺たちを作業場から追い出した。
「好きな人の前で目の傷なんて見せたくはないでしょう。わたしたちも気が廻りませんでしたね」
俺はステファンの言葉を聞いて黙って頷いた。そんなことに気づけなかった自己嫌悪に凹みながら。
5分ほど待っていると、タンドルフが俺たちを呼ぶ声が聞こえたので作業場に戻る。ライラが上気した顔で手鏡を見ていた。
「シンイチ様、わたし……どうですか」
ライラが俺たちの方に向き直って前髪を上げる。
「ライラ……よかった……よかった」
ステファンは右腕で涙を拭う。俺も嬉しかった。ライラの眼が戻ってよかった、いや、それだけじゃない。ライラは……
「凄く……綺麗だ……」
初めてライラと出会ったとき、ハーレムパーティの女拳闘士は確かに美人だった。でも今のライラはそのときの女拳闘士とは比較にならない程、美しかった。一体何が違っているんだろうと俺は考えを巡らす。
「なっ!」
驚いたライラが目を開き両手で口元を覆う。俺を見つめる顔が真っ赤に染まって、それを隠すようにライラはその場にしゃがみ込んでしまった。
「うっ、うっ……うぅぅぅう」
ライラの嗚咽が今は静かな作業場内に響く。
俺はライラにどんな声を掛ければ良いのかわからなかったので、彼女が落ち着くまでその頭をゆっくり撫で続けた。
幼女を宥めるのにはSS級の俺のなでなでが、泣いているライラに通用するかわからなかったけど、俺にはそうすることしかできなかったから。
「タンドルフ、素晴らしい一流品をありがとう」
俺はライラの頭から手を放し、持ってきていたスケッチブックと鉛筆をタンドルフに手渡した。
「完璧だ!」
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