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第108話 女冒険者セレーナの夢
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ミチノエキ村のギルドがいくら暇だとは言っても、まったく冒険者が来ないわけではない。それにここでは宿屋と食堂も経営しているので、今だってフロアには客や冒険者がいる。
いきなり声を掛けて来たスレンダーな女性は、俺たちのちょうど後ろで食事を取っていたようだ。テーブルの上には、まだ食べかけの料理が置かれている。
「突然話しかけてごめんなさい! 貴方たちの会話が聞こえたものだから。私はセレーナ・ドラゴ。傷心の乙女よ。王都で夢破れて故郷に戻ろうと旅をしているところなの」
「は、はぁ……」
俺はスレンダーな女性の強い目力に毛押されつつ挨拶を返す。セレーナと名乗る女性は、燃えるような赤毛と、南国の海の様に透明な青い瞳を持った美人だった。その高い身長とモデルのようなスタイルは、銀髪エルフのフィーネさんを彷彿とさせる。
気の強そうな性格が表情に現れていて、正直、ちょっと怖い。性格のキツイ美人というのは、俺のもっとも苦手とする種族だ。
かなり警戒しながら、俺はゆっくりと挨拶を返す。
「俺はタヌァカっていいます。こっちは連れのタクス」
「そう。よろしく。あなたたちは私と同じ冒険者なのかしら? 受付さんと話していたんだから、冒険者よね?」
グイグイ押してくる勢いに押された俺は、摺り足でギルドの入り口に向って移動する。
「えっ? ま、まぁ……そうっすね」
いつでも建物の外に全力ダッシュで逃れるポジションを取ろうとしたところを、セラーナがさっと回り込んできた。逃がさない気マンマンである。
「あなた今、人を巨乳にするって言ったわよね?」
「えっ? そ、それはも、ものの例えと言うか……」
セラーナの美しい顔が目の前に迫ってくる。ハーブの良い香りが鼻腔をくすぐる。この性格のキツさがなければ、ドキドキしていたかもしれん。
いや、今だってドキドキはしているが、それは恐怖からくるものだ。
「言ったわよね?」
ヤバイ……逃げたい。
うん。
逃げよう!
と俺が決断したところで、タクスがとんでもないことをやらかしやがった。自分の胸の前で大きな甕を抱えるような仕草を取りながら……
「いや、そりゃもうドッカン!ってくらい大きくするって聞いてるよ」
おいぃぃぃぃぃ!
「やっぱりホントなのね!? なんて私は幸運なの! こんな偶然ってあるのかしら!? やっぱり女神ラーナリアは私のことを見守ってくださっていたんだわ!」
セレーナが俺の両手をガシッと握りしめて、顔を寄せてくる。
近い近い近い近い!
これは照れているのではなく、怖い怖い怖い怖い! という意味である。
こいつ何してくれてんの!? という俺の表情に気付くことなく、タクスは俺の【巨乳化】スキルについて、さも自慢気にセレーナに説明していた。
昔、俺が狂暴な雌コボルトに殺されそうになったところを、巨乳化で切り抜けたこと。
ネフューを【女体化】&【巨乳化】したら、まるで女神のように美しい姿になったこと。
タクスはまた聞きしただけの話を、さも自分が見て来たかのように、臨場感たっぷりにセレーナに語っている。そのエンターテインメント性を超特盛にぶっこんだ表現は、さすがは出会って以降ずっと同人作家活動を続けているだけはあった。
これがタヌァカ三村の酒の席なら、俺はタクスを褒め称えていただろう。彼の語る俺の姿は、まるでイケメンスーパーヒーローのようだったから。
だが、今はそういう場ではない。セレーナの手は今や俺の手を万力のような力でガッシリと握り締めていた。
セレーナを【幼女化】してしまえば、この場を切り抜けることはできる。だが、人目のあるところではなるべく使いたくない。それにこの女の狂気を含んだ目を見て俺は確信している。適当に誤魔化しても、この女は絶対に俺に付きまとってくる!
「ねぇ、私の話を聞いてくれる? 聞いてくれるよね? もちろん御礼はするわ! 何でも好きな飲み物を注文してちょうだい。さぁ、ここに座って!」
セレーナは俺の手を掴んだまま席に座る。
俺は、タクスに助けを求めるように目を向けると、この男の目には好奇心が一杯に広がっていた。
こいつ……楽しんでやがる!
「はぁ……わかりました。お話を聞きましょう」
俺の心は折れた。
~ セレーナの話 ~
彼女は王国の北にあるドラン公国からやって来た冒険者だった。長期に渡る内乱の続く祖国を出て、アシハブア王国で一旗上げようとやってきた。
だが他国からきた女冒険者が、たった一人で活動するのは中々に大変なことだ。彼女は弓手として、そこそこの実力があったので、なんとか冒険者として生活を送ることはできていたようだ。
「でもね。吟遊詩人に謳われるほどの弓の名人でもなければ、伝説の怪物を倒したわけでもないの。ええ、自分の実力の程度くらいわかってるわよ。それに後世に歌い継がれるような冒険者になりたいわけじゃないの」
セレーナの夢は、いずれは祖国に戻って、そこで自分のギルドを作ることだった。
「いずれ内乱が落ち着いたら、ドランに戻るつもりよ。その時までにそこそこ名を上げておきたいのよ」
「それで巨乳になりたいと?」
「そうよ! さすが貴方とは運命で結ばれているだけあるわね! これからそのことについて話そうと思ってたのに、もう理解してるなんて!」
いやいやいや、俺は何も理解してないぞ。
「す、すんません。一応、お話していただけますでしょうか? できれば三行で」
「一介の女冒険者が名を上げるのに方法はいくつかあるわ。でもその中で一番にインパクトがあって、私の美貌を活かすことができるのは? それは王都に拠点があるクラン、シャトラン・ヴァルキリーに入ることなのよ!」
「とりあえずヴァルキリーだけ聞き取れました」
「シャトラン・ヴァルキリーは、ハーネス伯爵の嫡男シャトランが運営している女性冒険者だけのクランよ! 美女ばかりの高レベル冒険者の集団として、大陸中にその名を轟かせているわ。私にふさわしいクランだと思わない? 思うわよね! その通りよ!」
うわぁ……。
女性だけのクランとそれを運営する男……。
すごく……ゲス臭がする。
関わりたくない。
だが「絶対に俺を巻き込んでやる」という固い決心が、セレーネの瞳に浮かんでいるのが見える。
もうやだ……帰りたい。
いきなり声を掛けて来たスレンダーな女性は、俺たちのちょうど後ろで食事を取っていたようだ。テーブルの上には、まだ食べかけの料理が置かれている。
「突然話しかけてごめんなさい! 貴方たちの会話が聞こえたものだから。私はセレーナ・ドラゴ。傷心の乙女よ。王都で夢破れて故郷に戻ろうと旅をしているところなの」
「は、はぁ……」
俺はスレンダーな女性の強い目力に毛押されつつ挨拶を返す。セレーナと名乗る女性は、燃えるような赤毛と、南国の海の様に透明な青い瞳を持った美人だった。その高い身長とモデルのようなスタイルは、銀髪エルフのフィーネさんを彷彿とさせる。
気の強そうな性格が表情に現れていて、正直、ちょっと怖い。性格のキツイ美人というのは、俺のもっとも苦手とする種族だ。
かなり警戒しながら、俺はゆっくりと挨拶を返す。
「俺はタヌァカっていいます。こっちは連れのタクス」
「そう。よろしく。あなたたちは私と同じ冒険者なのかしら? 受付さんと話していたんだから、冒険者よね?」
グイグイ押してくる勢いに押された俺は、摺り足でギルドの入り口に向って移動する。
「えっ? ま、まぁ……そうっすね」
いつでも建物の外に全力ダッシュで逃れるポジションを取ろうとしたところを、セラーナがさっと回り込んできた。逃がさない気マンマンである。
「あなた今、人を巨乳にするって言ったわよね?」
「えっ? そ、それはも、ものの例えと言うか……」
セラーナの美しい顔が目の前に迫ってくる。ハーブの良い香りが鼻腔をくすぐる。この性格のキツさがなければ、ドキドキしていたかもしれん。
いや、今だってドキドキはしているが、それは恐怖からくるものだ。
「言ったわよね?」
ヤバイ……逃げたい。
うん。
逃げよう!
と俺が決断したところで、タクスがとんでもないことをやらかしやがった。自分の胸の前で大きな甕を抱えるような仕草を取りながら……
「いや、そりゃもうドッカン!ってくらい大きくするって聞いてるよ」
おいぃぃぃぃぃ!
「やっぱりホントなのね!? なんて私は幸運なの! こんな偶然ってあるのかしら!? やっぱり女神ラーナリアは私のことを見守ってくださっていたんだわ!」
セレーナが俺の両手をガシッと握りしめて、顔を寄せてくる。
近い近い近い近い!
これは照れているのではなく、怖い怖い怖い怖い! という意味である。
こいつ何してくれてんの!? という俺の表情に気付くことなく、タクスは俺の【巨乳化】スキルについて、さも自慢気にセレーナに説明していた。
昔、俺が狂暴な雌コボルトに殺されそうになったところを、巨乳化で切り抜けたこと。
ネフューを【女体化】&【巨乳化】したら、まるで女神のように美しい姿になったこと。
タクスはまた聞きしただけの話を、さも自分が見て来たかのように、臨場感たっぷりにセレーナに語っている。そのエンターテインメント性を超特盛にぶっこんだ表現は、さすがは出会って以降ずっと同人作家活動を続けているだけはあった。
これがタヌァカ三村の酒の席なら、俺はタクスを褒め称えていただろう。彼の語る俺の姿は、まるでイケメンスーパーヒーローのようだったから。
だが、今はそういう場ではない。セレーナの手は今や俺の手を万力のような力でガッシリと握り締めていた。
セレーナを【幼女化】してしまえば、この場を切り抜けることはできる。だが、人目のあるところではなるべく使いたくない。それにこの女の狂気を含んだ目を見て俺は確信している。適当に誤魔化しても、この女は絶対に俺に付きまとってくる!
「ねぇ、私の話を聞いてくれる? 聞いてくれるよね? もちろん御礼はするわ! 何でも好きな飲み物を注文してちょうだい。さぁ、ここに座って!」
セレーナは俺の手を掴んだまま席に座る。
俺は、タクスに助けを求めるように目を向けると、この男の目には好奇心が一杯に広がっていた。
こいつ……楽しんでやがる!
「はぁ……わかりました。お話を聞きましょう」
俺の心は折れた。
~ セレーナの話 ~
彼女は王国の北にあるドラン公国からやって来た冒険者だった。長期に渡る内乱の続く祖国を出て、アシハブア王国で一旗上げようとやってきた。
だが他国からきた女冒険者が、たった一人で活動するのは中々に大変なことだ。彼女は弓手として、そこそこの実力があったので、なんとか冒険者として生活を送ることはできていたようだ。
「でもね。吟遊詩人に謳われるほどの弓の名人でもなければ、伝説の怪物を倒したわけでもないの。ええ、自分の実力の程度くらいわかってるわよ。それに後世に歌い継がれるような冒険者になりたいわけじゃないの」
セレーナの夢は、いずれは祖国に戻って、そこで自分のギルドを作ることだった。
「いずれ内乱が落ち着いたら、ドランに戻るつもりよ。その時までにそこそこ名を上げておきたいのよ」
「それで巨乳になりたいと?」
「そうよ! さすが貴方とは運命で結ばれているだけあるわね! これからそのことについて話そうと思ってたのに、もう理解してるなんて!」
いやいやいや、俺は何も理解してないぞ。
「す、すんません。一応、お話していただけますでしょうか? できれば三行で」
「一介の女冒険者が名を上げるのに方法はいくつかあるわ。でもその中で一番にインパクトがあって、私の美貌を活かすことができるのは? それは王都に拠点があるクラン、シャトラン・ヴァルキリーに入ることなのよ!」
「とりあえずヴァルキリーだけ聞き取れました」
「シャトラン・ヴァルキリーは、ハーネス伯爵の嫡男シャトランが運営している女性冒険者だけのクランよ! 美女ばかりの高レベル冒険者の集団として、大陸中にその名を轟かせているわ。私にふさわしいクランだと思わない? 思うわよね! その通りよ!」
うわぁ……。
女性だけのクランとそれを運営する男……。
すごく……ゲス臭がする。
関わりたくない。
だが「絶対に俺を巻き込んでやる」という固い決心が、セレーネの瞳に浮かんでいるのが見える。
もうやだ……帰りたい。
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