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第122話 地下帝国の引きこもり生活
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ルカに地下ダンジョンを案内してもらってから一カ月が過ぎた。
あの日以降、俺は一度も地上に戻っていない。
何故なら、地下帝国の空間があまりにも快適だったからだ。
地下帝国は地下一階~四階層は、多くの地下帝国民が暮らす生活空間となっている。元々から広かった空間はさらに拡張された上、超近代化されている。超が付くのだ。
それ以降の階層は、種族や職業別に分かれていたり、工場や倉庫といった目的によって使い分けられている。
地下ダンジョンの中央にある大穴と地下三階の広大な空間については、調査の結果、おそらく大雨が降った際に水が流れ込む巨大な調整水槽だろうということだった。ダンジョン各階層にある側溝を調べると、すべてこの大穴に水が流れ込むようになっているらしい。
現在、この地下帝国の住人は300名程度。これは地上で暮らすグレイベア村の住人と、ダンジョンオーナーの権限で召喚される魔物を除いた数だ。
そのうち約半数がが地下一階と二階層で暮らしている。
繰り返すが、この階層は超近代化されている。
俺が堂々と超近代化など言ってのけてしまうその秘密は、ダンジョンに召喚される魔物にある。
「アレクサーヌ! 食堂の朝食のメニューを教えてくれないか?」
地下二階に作ってもらった『シンイチ&ライラの部屋』のベッドで目覚めた俺は、召喚魔アレクサーヌに声を掛ける。フワフワと空中を漂うソフトボール大の黒い毛玉で、マリモのようにも見える召喚魔だ。
ダンジョン攻略前は、この毛玉に振れると麻痺効果を受けてしまうという、非常に厄介な魔物だったが、今は振れてもまったく問題ない。むしろフワフワで気持ち良い。
「本日の一階層の食堂の朝食メニューは……パストラミサンド……と……コーンポタージュ……スープになります」
黒毛玉のアレクサーヌは、全身の毛を振動させて声を発し、俺に朝食のメニューを教えてくれた。
俺はアレクサーヌに礼を言いつつ、感謝の撫で撫でをする。
俺から話しかけない限り、アレクサーヌは何の反応もしないが、こうして撫でるとなんとなく喜んでくれているような気がする。
ダンジョンの総管理人である青銅のゴーレムは、
「ダンジョンの召喚魔は魂を持ってはおりませんので、彼らに気を使っても意味はありませんよ」
と言っていたが、俺はその言葉に素直に頷くことができなかった。
「そうはいうけどさ、青さん。俺にはどうも彼らに感情がある気がするんだよ」
そんな俺の意見に、もう一人の管理人であるグリフィンは、
「シンイチ様、確かに召喚魔が感情らしきものを見せることはありますが、それはダンジョン挑戦者たちを動揺させるために、それらしく振る舞っているに過ぎません。あくまで感情があるように見えるだけなのです」
「まぁ、グリッチの言うことも分かる。分かるんだけどさ……まぁ……とにかく大切したいんだよ」
そのとき青さんもグリッチも、やれやれという視線を俺に向けて来たものだ。
それでもまぁ、俺たちのために働いてくれた召喚魔には、やっぱり感謝の気持ちを伝えておきたい。俺の独りよがりかもしれないけど、こうして撫でたり、褒めたりすると、やっぱ喜んでいるような気がするんだよ。
食堂への道すがら、この話をライラにすると、
「そんなシンイチさまも、わたしは大好きです!」
と、腕を絡めてくっついてくれる。
もしかすると、俺が召喚魔に優しくする理由なんて、こうしてライラに褒めてもらいたいだけなのかもしれない。
食堂に到着すると、そこには俺と同じ地下帝国に絶賛引きこもり中のタクス先生が、先に朝食をとっていた。
「おはよう、タクス先生! 新作の方は進んでる?」
「お二人とも、おはよっす。今日で貫徹三日目。ずっと描き続けてるますが、まだまだ終わりは見えないです」
タクス先生は、地下帝国にタクス工房を作って以降、ずっとそこでイラストや漫画を描き続けていた。彼は、今や6名のアシスタントを抱える、売れっ子作家である。
俺も彼のことはタクス先生と呼ぶようになった。
タクス先生のメインのお仕事は、タヌァカ式人外脳育成カリキュラムのテキスト作りだ。だが、多様な種族が集うグレイベア村と地下帝国にあっては、イラストの果たす役割は意外に大きかった。
種族によって言葉が違ったりすることがある状況では、決まり事や物事の扱い方などを説明する際にイラストは非常に便利だからだ。
現在、グレイベア村の関係者で絵を描けるのは、タクス先生とステファンだけ。タヌァカ三村の開発を統括する超多忙なステファンに、イラストを依頼することはできないので、仕事はすべてタクス先生に集中していた。
「大丈夫? ちょっと眠った方がいいんじゃない? 目の下のクマが超ヤバイよ」
「あっ、大丈夫っす。後、三日頑張れば、二日前に睡眠取る予定っすらか」
「いや、なんかまともに会話できてないよ!」
「ははは、大丈夫れすよ、ふひひひ」
「いやもうそれ大丈夫じゃないから! 【幼女化】!」
俺は幼女になったタクス先生を頭を三撫でして寝かしつけ、そのままゴーレムの召喚魔に引き渡す。
「この子をタクスの部屋にあるベッドに寝かしておいて。あと工房は今日から三日間休み! これはオーナー命令だって皆に伝えておいてね」
オーナー命令は、ダンジョンオーナーとしての権限で発せられる命令だ。地下帝国全体に周知される。
やろうと思えばダンジョン中の召喚魔を動かすこともできる重いものだが、今まで発した命令は、すべて今タクス先生に出した強制休暇のようなものばかりだ。
タクス先生だけではない。明日の命も不確かな環境からこの地下帝国に辿り着いた住人達の多くは、とにかく頑張り過ぎてしまう傾向があるのだ。
今のタヌァカ三村と地下帝国は、まさに日々刻々と開発が進んでいる。頑張ったら頑張った分以上の成果が得られる超高度成長期の真っ只中にある。
いくら頑張っても、魔族や亜人として忌み嫌われ、報われてこなかった地下帝国住人たちにとっては、この状況は夢のようなものだろう。
なので、ついつい自分の限界を越えても、なお頑張ろうとしてしまうのだろう。
そんな住人たちに強制休暇を命じるのが、俺の最近のお仕事になっていた。
「これでタクス先生の新作を拝めるのは先になっちゃうけど」
俺はパストラミサンドを頬張りつつ、ライラに語り掛ける。
「タクス先生が病気で倒れでもしたら、元も子もないからね」
仕方ない。
新作『魔神百合学園2おっぱいラミアとケモミミ娘』の完成は、のんびり待つことにしよう。
あの日以降、俺は一度も地上に戻っていない。
何故なら、地下帝国の空間があまりにも快適だったからだ。
地下帝国は地下一階~四階層は、多くの地下帝国民が暮らす生活空間となっている。元々から広かった空間はさらに拡張された上、超近代化されている。超が付くのだ。
それ以降の階層は、種族や職業別に分かれていたり、工場や倉庫といった目的によって使い分けられている。
地下ダンジョンの中央にある大穴と地下三階の広大な空間については、調査の結果、おそらく大雨が降った際に水が流れ込む巨大な調整水槽だろうということだった。ダンジョン各階層にある側溝を調べると、すべてこの大穴に水が流れ込むようになっているらしい。
現在、この地下帝国の住人は300名程度。これは地上で暮らすグレイベア村の住人と、ダンジョンオーナーの権限で召喚される魔物を除いた数だ。
そのうち約半数がが地下一階と二階層で暮らしている。
繰り返すが、この階層は超近代化されている。
俺が堂々と超近代化など言ってのけてしまうその秘密は、ダンジョンに召喚される魔物にある。
「アレクサーヌ! 食堂の朝食のメニューを教えてくれないか?」
地下二階に作ってもらった『シンイチ&ライラの部屋』のベッドで目覚めた俺は、召喚魔アレクサーヌに声を掛ける。フワフワと空中を漂うソフトボール大の黒い毛玉で、マリモのようにも見える召喚魔だ。
ダンジョン攻略前は、この毛玉に振れると麻痺効果を受けてしまうという、非常に厄介な魔物だったが、今は振れてもまったく問題ない。むしろフワフワで気持ち良い。
「本日の一階層の食堂の朝食メニューは……パストラミサンド……と……コーンポタージュ……スープになります」
黒毛玉のアレクサーヌは、全身の毛を振動させて声を発し、俺に朝食のメニューを教えてくれた。
俺はアレクサーヌに礼を言いつつ、感謝の撫で撫でをする。
俺から話しかけない限り、アレクサーヌは何の反応もしないが、こうして撫でるとなんとなく喜んでくれているような気がする。
ダンジョンの総管理人である青銅のゴーレムは、
「ダンジョンの召喚魔は魂を持ってはおりませんので、彼らに気を使っても意味はありませんよ」
と言っていたが、俺はその言葉に素直に頷くことができなかった。
「そうはいうけどさ、青さん。俺にはどうも彼らに感情がある気がするんだよ」
そんな俺の意見に、もう一人の管理人であるグリフィンは、
「シンイチ様、確かに召喚魔が感情らしきものを見せることはありますが、それはダンジョン挑戦者たちを動揺させるために、それらしく振る舞っているに過ぎません。あくまで感情があるように見えるだけなのです」
「まぁ、グリッチの言うことも分かる。分かるんだけどさ……まぁ……とにかく大切したいんだよ」
そのとき青さんもグリッチも、やれやれという視線を俺に向けて来たものだ。
それでもまぁ、俺たちのために働いてくれた召喚魔には、やっぱり感謝の気持ちを伝えておきたい。俺の独りよがりかもしれないけど、こうして撫でたり、褒めたりすると、やっぱ喜んでいるような気がするんだよ。
食堂への道すがら、この話をライラにすると、
「そんなシンイチさまも、わたしは大好きです!」
と、腕を絡めてくっついてくれる。
もしかすると、俺が召喚魔に優しくする理由なんて、こうしてライラに褒めてもらいたいだけなのかもしれない。
食堂に到着すると、そこには俺と同じ地下帝国に絶賛引きこもり中のタクス先生が、先に朝食をとっていた。
「おはよう、タクス先生! 新作の方は進んでる?」
「お二人とも、おはよっす。今日で貫徹三日目。ずっと描き続けてるますが、まだまだ終わりは見えないです」
タクス先生は、地下帝国にタクス工房を作って以降、ずっとそこでイラストや漫画を描き続けていた。彼は、今や6名のアシスタントを抱える、売れっ子作家である。
俺も彼のことはタクス先生と呼ぶようになった。
タクス先生のメインのお仕事は、タヌァカ式人外脳育成カリキュラムのテキスト作りだ。だが、多様な種族が集うグレイベア村と地下帝国にあっては、イラストの果たす役割は意外に大きかった。
種族によって言葉が違ったりすることがある状況では、決まり事や物事の扱い方などを説明する際にイラストは非常に便利だからだ。
現在、グレイベア村の関係者で絵を描けるのは、タクス先生とステファンだけ。タヌァカ三村の開発を統括する超多忙なステファンに、イラストを依頼することはできないので、仕事はすべてタクス先生に集中していた。
「大丈夫? ちょっと眠った方がいいんじゃない? 目の下のクマが超ヤバイよ」
「あっ、大丈夫っす。後、三日頑張れば、二日前に睡眠取る予定っすらか」
「いや、なんかまともに会話できてないよ!」
「ははは、大丈夫れすよ、ふひひひ」
「いやもうそれ大丈夫じゃないから! 【幼女化】!」
俺は幼女になったタクス先生を頭を三撫でして寝かしつけ、そのままゴーレムの召喚魔に引き渡す。
「この子をタクスの部屋にあるベッドに寝かしておいて。あと工房は今日から三日間休み! これはオーナー命令だって皆に伝えておいてね」
オーナー命令は、ダンジョンオーナーとしての権限で発せられる命令だ。地下帝国全体に周知される。
やろうと思えばダンジョン中の召喚魔を動かすこともできる重いものだが、今まで発した命令は、すべて今タクス先生に出した強制休暇のようなものばかりだ。
タクス先生だけではない。明日の命も不確かな環境からこの地下帝国に辿り着いた住人達の多くは、とにかく頑張り過ぎてしまう傾向があるのだ。
今のタヌァカ三村と地下帝国は、まさに日々刻々と開発が進んでいる。頑張ったら頑張った分以上の成果が得られる超高度成長期の真っ只中にある。
いくら頑張っても、魔族や亜人として忌み嫌われ、報われてこなかった地下帝国住人たちにとっては、この状況は夢のようなものだろう。
なので、ついつい自分の限界を越えても、なお頑張ろうとしてしまうのだろう。
そんな住人たちに強制休暇を命じるのが、俺の最近のお仕事になっていた。
「これでタクス先生の新作を拝めるのは先になっちゃうけど」
俺はパストラミサンドを頬張りつつ、ライラに語り掛ける。
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