132 / 243
第132話 欲望の変化 Side:シャトラン
しおりを挟む
~ シャトラン・ヴァルキリー本部 ~
「まだレオンの所在は掴めていないのか! お前たちが付いていながらどういうことだ!」
金髪の青年は、怒声挙げて、執務室の机に拳を打ち降ろす。
激しい衝撃で、卓上に置かれている燭台や書類が飛び散るのを見ても、灰色ローブの男たちは微動だにしなかった。
その落ち着き具合が、シャトラン・ハーネスをさらに苛立たせる。
「お前たちの仲間も一人、行方不明のままなのだろう? もっと本気で捜索したらどうなん……」
そこでシャトランは言葉を止めた。灰色ローブの一人が、微かに動いたのを感じたからだ。どういう理由で動いたのか、何に反応したのか明確には分からなかったが、シャトランの第一級冒険者としての感が、彼に警告を発していた。
「……とにかく、せめて生死だけでもハッキリさせなければ、対策の打ちようもないだろうが。違うか?」
「……は、死んでおります」
灰色ローブの誰かが囁くような声で答えた。
「はっ?」
「少なくとも、我らの仲間は既に死んでおります」
「なぜ分かる?」
「もし敵に殺されたのではなく、捕まったのであれば自死を選ぶのが、我らの流儀でありますれば」
「……ふん」
シャトランは不満とも納得ともつかない声を漏らす。
恐らく彼らの言っていることは本当だろう。星の智慧派の狂信者共は、命に対して一切の執着がないような連中ばかりだ。それは主に他者を殺害することに限らず、自分自身の命に対しても言える。
だからこそ、彼らを信用しているという側面もあるのだが、シャトランは常に薄気味悪い感覚を彼らに感じていた。
シャトラン自身、星の智慧派の生贄収集に進んで協力し、これまで何人もの犠牲者を彼らに引き渡してきている。だが、そのことについては、あくまでビジネスであると割り切っており、自分が罪悪感を感じる理由を彼が見出すことはない。
「ならばレオンも死んでいる可能性は高いな。そうなんだろ?」
「もし二人が同じ場所にいて、我が同胞がそこから逃れることは難しいと判断した場合は、レオン殿も道連れとしていることでしょう。ただし、それが可能な状況であればの話です」
この時点で、シャトランのリストからはレオンと言う名前は消されてしまった。無能な部下はいらない。彼はシンプルにそう判断して彼を切り捨てた。
「それで、女の方は?」
肝心なのは、あの女だ。あの美しい女を手に入れることができさえすれば、行方不明の部下などどうでも良い。
「はい。名前はライラ・タヌァカ。元拳闘士です。以前は、ステファン・スプリングという貴族の奴隷だったようですが、今は解放されてタヌァカの妻となっています」
バキッ!
手にしていたペンをシャトランが二つに折る。
ライラが元奴隷だという事実を知ったシャトランの中で、ライラに対する執着心に変化が生じた。彼女を見た時には、女神もかくやという憧れと恋慕を抱いた。
もし、ライラが清らかな乙女であれば、シャトランは彼が飽きるまで、彼女を女神に対するように厚かっただろう。
だが事実として、彼女はタヌァカという虫けらのような男の妻であり、貴族の奴隷という汚れた過去を持っている。
そして今このとき、シャトランのライラに対する執着心が、聖女に仕える喜びから、淫魔を組み伏せて凌辱する暗い欲望へと完全に変化してしまった。
「で、そのライラはどこにいる?」
「ミチノエキ村には、定期的に訪れているようですが、どこに住んでいるのかはまだ掴めておりません」
「ふん! ミチノエキ村に来るということだけ分かっていればいいさ。俺の方でも、動くがいいか?」
彼が動くというのは、シャトラン・ヴァルキリーの部隊を動かすということである。
シャトランの言葉を受けて、灰色ローブの男たちが頷いた。
「ではお前たちは引き続き、ライラの誘拐とタヌァカの殺害を。俺の方は、団員を使ってライラを勧誘することにする。ライラがミチノエキ村の中にいる間は手を出すなよ。それでいいか?」
「「「御意」」」
灰色ローブの男たちが去った後、シャトランはしばらくの間、執務室の窓から外を眺めていた。
ライラの美しい顔が、艶やかな髪が、しなやかで美しい白い肢体が――
間もなく自分の手に入るのだと思うと、熱に浮かされたかのように身体が熱くなっていく。
その夜は、ヴァルキリー団の新人パーティを呼び出して、
彼女たちに、その欲望の全てを吐き出した。
「まだレオンの所在は掴めていないのか! お前たちが付いていながらどういうことだ!」
金髪の青年は、怒声挙げて、執務室の机に拳を打ち降ろす。
激しい衝撃で、卓上に置かれている燭台や書類が飛び散るのを見ても、灰色ローブの男たちは微動だにしなかった。
その落ち着き具合が、シャトラン・ハーネスをさらに苛立たせる。
「お前たちの仲間も一人、行方不明のままなのだろう? もっと本気で捜索したらどうなん……」
そこでシャトランは言葉を止めた。灰色ローブの一人が、微かに動いたのを感じたからだ。どういう理由で動いたのか、何に反応したのか明確には分からなかったが、シャトランの第一級冒険者としての感が、彼に警告を発していた。
「……とにかく、せめて生死だけでもハッキリさせなければ、対策の打ちようもないだろうが。違うか?」
「……は、死んでおります」
灰色ローブの誰かが囁くような声で答えた。
「はっ?」
「少なくとも、我らの仲間は既に死んでおります」
「なぜ分かる?」
「もし敵に殺されたのではなく、捕まったのであれば自死を選ぶのが、我らの流儀でありますれば」
「……ふん」
シャトランは不満とも納得ともつかない声を漏らす。
恐らく彼らの言っていることは本当だろう。星の智慧派の狂信者共は、命に対して一切の執着がないような連中ばかりだ。それは主に他者を殺害することに限らず、自分自身の命に対しても言える。
だからこそ、彼らを信用しているという側面もあるのだが、シャトランは常に薄気味悪い感覚を彼らに感じていた。
シャトラン自身、星の智慧派の生贄収集に進んで協力し、これまで何人もの犠牲者を彼らに引き渡してきている。だが、そのことについては、あくまでビジネスであると割り切っており、自分が罪悪感を感じる理由を彼が見出すことはない。
「ならばレオンも死んでいる可能性は高いな。そうなんだろ?」
「もし二人が同じ場所にいて、我が同胞がそこから逃れることは難しいと判断した場合は、レオン殿も道連れとしていることでしょう。ただし、それが可能な状況であればの話です」
この時点で、シャトランのリストからはレオンと言う名前は消されてしまった。無能な部下はいらない。彼はシンプルにそう判断して彼を切り捨てた。
「それで、女の方は?」
肝心なのは、あの女だ。あの美しい女を手に入れることができさえすれば、行方不明の部下などどうでも良い。
「はい。名前はライラ・タヌァカ。元拳闘士です。以前は、ステファン・スプリングという貴族の奴隷だったようですが、今は解放されてタヌァカの妻となっています」
バキッ!
手にしていたペンをシャトランが二つに折る。
ライラが元奴隷だという事実を知ったシャトランの中で、ライラに対する執着心に変化が生じた。彼女を見た時には、女神もかくやという憧れと恋慕を抱いた。
もし、ライラが清らかな乙女であれば、シャトランは彼が飽きるまで、彼女を女神に対するように厚かっただろう。
だが事実として、彼女はタヌァカという虫けらのような男の妻であり、貴族の奴隷という汚れた過去を持っている。
そして今このとき、シャトランのライラに対する執着心が、聖女に仕える喜びから、淫魔を組み伏せて凌辱する暗い欲望へと完全に変化してしまった。
「で、そのライラはどこにいる?」
「ミチノエキ村には、定期的に訪れているようですが、どこに住んでいるのかはまだ掴めておりません」
「ふん! ミチノエキ村に来るということだけ分かっていればいいさ。俺の方でも、動くがいいか?」
彼が動くというのは、シャトラン・ヴァルキリーの部隊を動かすということである。
シャトランの言葉を受けて、灰色ローブの男たちが頷いた。
「ではお前たちは引き続き、ライラの誘拐とタヌァカの殺害を。俺の方は、団員を使ってライラを勧誘することにする。ライラがミチノエキ村の中にいる間は手を出すなよ。それでいいか?」
「「「御意」」」
灰色ローブの男たちが去った後、シャトランはしばらくの間、執務室の窓から外を眺めていた。
ライラの美しい顔が、艶やかな髪が、しなやかで美しい白い肢体が――
間もなく自分の手に入るのだと思うと、熱に浮かされたかのように身体が熱くなっていく。
その夜は、ヴァルキリー団の新人パーティを呼び出して、
彼女たちに、その欲望の全てを吐き出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる