234 / 243
第234話 スノフリド商会
しおりを挟む
エリザベスとエドワードに案内されて、俺たちは街の中心部にあるスノフリド商会を訪れた。
石造りの建物がところ狭しと建ち並ぶ街中で、スノフリド商会は大きな敷地を持っていた。広い中庭には、立派な庭園があり、噴水まである。
ただ優雅な貴族の庭とは違って、そこかしこで商人たちが大声を上げて取引交渉をし、荷物を運ぶ人の波が絶え間なく行き交っている。
三階建ての大きな建物に向うまでの途中、人間以外の種族の姿も見かけた。どうやらスノフリド商会では金儲けは種族を越えるらしい。これは良い傾向だ。もしかしたら、グレイベア村との取引も扱ってもらえるかもしれない。
「魔法使い様とライラ様は、こちらへ」
そう言ってエリザベスが、俺とライラを建物の中へ案内してくれた。他の人たちは、食事休憩を取れるように、エドワードが大食堂へ案内して行く。
建物の中は、外観とは違ってとても静かだった。一瞬、別世界に来たような錯覚を覚える。
ただ静かと言っても、耳を澄ますとそこかしこで、取引や何かの相談をしている声が聞こえてくる。
立派な石柱が立ち並ぶ大広間を通り抜け、エリザベスが案内してくれたのは、一階の奥まった場所に部屋だった。
ドアの前でエリザベスが立ち止まると、ドアマンがノックをして俺たちの到着を告げる。
スーッ!
両開きのドアが内側から開く。
さぞや豪華な調度品で溢れた部屋が待っているのだろうと思っていたが、机とソファがあるだけのシンプルなものだった。といっても、机もソファもかなり値の張りそうな立派なものではある。
部屋に入ると、一人の初老の女性が机の椅子から立ち上り、俺の前に飛ぶように近づいて来た。
「私はマリー・スノフリド。スノフリド商会の当主よ。あなたが私の家族を救ってくれた魔法使いね! 本当にありがとう! 心から感謝するわ!」
そう言って握手を求めて来たマリー・スノフリドは、エネルギッシュな雰囲気の女性で、老人と呼ぶのは失礼と思えるくらい若々しく見える。
柔らかいオーラと、優しい笑顔を持つ女性ではあるのだが、その目つきの奥には鋭い輝きが宿っており、俺の心の中まで見透かされているような気がしてしまう。
印象を一言で言えば、米帝大統領夫人と言った雰囲気を持つ女性だった。
スノフリド商会の当主ということから、前世における女性社長や起業家が脳裏に浮かび、どうにも緊張してしまう。
俺の一挙手一投足に対して、ボーナス査定が下されているような気がする。
何故か圧迫面接を受けているような緊張感が襲ってきた。
ト、トイレに行きたいかも……。
そんな俺の腸事情などお構いなしに、マリー夫人は俺の手を強く握り締める。
「娘の命を助けてくれて、ありがとう。本当に……本当に……ありがとう」
彼女の瞳から大粒の涙が流れ落ちるのを見て、俺の腸は緊張から解放された。
とりあえずトイレは今じゃなくても問題ない。
「さぁさぁ、とりあえず二人とも座って! 凡そのことは娘から聞いているけれど、ぜひあなた達から詳しくお話を聞かせて頂戴な」
マリー夫人は、俺の手を握ったまま、俺とライラをソファに座らせた。
俺がアルミン一家と出会ってから、ここローエンに辿り着くまでの経緯について話す。その間、ライラはお茶と菓子をひたすら食べていた。
「娘の姿を見た時は本当に驚いたわ! もしかして今、自分は夫と一緒に娘を育てていて、老人の私は幻なんじゃないかって、混乱してしまったくらいよ!」
そう言ってマリー夫人は無邪気な笑顔を見せる。
もしかして、夫人は娘がこのまま一生幼女として生きなければならないことを知らされていないのか。
「あの……その……娘さんは、この先もずっと……」
「そのことは聞いてるわ。娘がどんな目にあったのか、どうなってしまったのか……。でも、子供の姿のままなら、娘はずっと生きていけるのでしょう?」
夫人の瞳が不安で揺れる。
「ええ。ただ身体は幼い子供のそれですので、病気や怪我に注意する必要がありますが……」
「それで十分よ。でも、元に戻す方法があるとも聞いたけれど……確か賢者の石が必要とか」
「あくまで可能性のお話です。正直、お勧めしません」
「そのことも聞いてるわ。でも、使うかどうかはともかく、賢者の石は探してみるつもりよ」
そう言って、マリー夫人は俺の瞳を覗き込んで来た。
まるでマリー夫人の眼から触手が伸びて来て、俺の脳みそを掻き回しているような感覚に襲われる。
もしかして、何かのスキルを発動しているのかもしれない。
ヤバイ……賢者の石のことがバレてる気がする。
というか、この時点でかなり動揺している俺を見れば、誰だって何も思わないはずもない。
仕方ない。ここは正直に話しておくか。
バレるような嘘をついて、信用を失うのも嫌だし。もしかすると将来、グレイベア村の取引相手になるかもしれないのだ。
「俺……私は、これまでに二つの賢者の石を見ています。それがどこにあるのかは言えません。ただ……まだ他にもあると思います」
うろ覚えだが、賢者の石をシュモネー夫人から巻き上げた……譲り受けた時、「今はこれだけしかない」みたいなことを言っていた気がする。
ということは、賢者の石はまだ他にあるということ。少なくともあの時のシュモネー夫人は、他の石を調達できると確信していたということだろう。
「そう……なら、やっぱり探してみるわ」
マリー夫人の瞳の奥がギラリと一瞬輝いた。
石造りの建物がところ狭しと建ち並ぶ街中で、スノフリド商会は大きな敷地を持っていた。広い中庭には、立派な庭園があり、噴水まである。
ただ優雅な貴族の庭とは違って、そこかしこで商人たちが大声を上げて取引交渉をし、荷物を運ぶ人の波が絶え間なく行き交っている。
三階建ての大きな建物に向うまでの途中、人間以外の種族の姿も見かけた。どうやらスノフリド商会では金儲けは種族を越えるらしい。これは良い傾向だ。もしかしたら、グレイベア村との取引も扱ってもらえるかもしれない。
「魔法使い様とライラ様は、こちらへ」
そう言ってエリザベスが、俺とライラを建物の中へ案内してくれた。他の人たちは、食事休憩を取れるように、エドワードが大食堂へ案内して行く。
建物の中は、外観とは違ってとても静かだった。一瞬、別世界に来たような錯覚を覚える。
ただ静かと言っても、耳を澄ますとそこかしこで、取引や何かの相談をしている声が聞こえてくる。
立派な石柱が立ち並ぶ大広間を通り抜け、エリザベスが案内してくれたのは、一階の奥まった場所に部屋だった。
ドアの前でエリザベスが立ち止まると、ドアマンがノックをして俺たちの到着を告げる。
スーッ!
両開きのドアが内側から開く。
さぞや豪華な調度品で溢れた部屋が待っているのだろうと思っていたが、机とソファがあるだけのシンプルなものだった。といっても、机もソファもかなり値の張りそうな立派なものではある。
部屋に入ると、一人の初老の女性が机の椅子から立ち上り、俺の前に飛ぶように近づいて来た。
「私はマリー・スノフリド。スノフリド商会の当主よ。あなたが私の家族を救ってくれた魔法使いね! 本当にありがとう! 心から感謝するわ!」
そう言って握手を求めて来たマリー・スノフリドは、エネルギッシュな雰囲気の女性で、老人と呼ぶのは失礼と思えるくらい若々しく見える。
柔らかいオーラと、優しい笑顔を持つ女性ではあるのだが、その目つきの奥には鋭い輝きが宿っており、俺の心の中まで見透かされているような気がしてしまう。
印象を一言で言えば、米帝大統領夫人と言った雰囲気を持つ女性だった。
スノフリド商会の当主ということから、前世における女性社長や起業家が脳裏に浮かび、どうにも緊張してしまう。
俺の一挙手一投足に対して、ボーナス査定が下されているような気がする。
何故か圧迫面接を受けているような緊張感が襲ってきた。
ト、トイレに行きたいかも……。
そんな俺の腸事情などお構いなしに、マリー夫人は俺の手を強く握り締める。
「娘の命を助けてくれて、ありがとう。本当に……本当に……ありがとう」
彼女の瞳から大粒の涙が流れ落ちるのを見て、俺の腸は緊張から解放された。
とりあえずトイレは今じゃなくても問題ない。
「さぁさぁ、とりあえず二人とも座って! 凡そのことは娘から聞いているけれど、ぜひあなた達から詳しくお話を聞かせて頂戴な」
マリー夫人は、俺の手を握ったまま、俺とライラをソファに座らせた。
俺がアルミン一家と出会ってから、ここローエンに辿り着くまでの経緯について話す。その間、ライラはお茶と菓子をひたすら食べていた。
「娘の姿を見た時は本当に驚いたわ! もしかして今、自分は夫と一緒に娘を育てていて、老人の私は幻なんじゃないかって、混乱してしまったくらいよ!」
そう言ってマリー夫人は無邪気な笑顔を見せる。
もしかして、夫人は娘がこのまま一生幼女として生きなければならないことを知らされていないのか。
「あの……その……娘さんは、この先もずっと……」
「そのことは聞いてるわ。娘がどんな目にあったのか、どうなってしまったのか……。でも、子供の姿のままなら、娘はずっと生きていけるのでしょう?」
夫人の瞳が不安で揺れる。
「ええ。ただ身体は幼い子供のそれですので、病気や怪我に注意する必要がありますが……」
「それで十分よ。でも、元に戻す方法があるとも聞いたけれど……確か賢者の石が必要とか」
「あくまで可能性のお話です。正直、お勧めしません」
「そのことも聞いてるわ。でも、使うかどうかはともかく、賢者の石は探してみるつもりよ」
そう言って、マリー夫人は俺の瞳を覗き込んで来た。
まるでマリー夫人の眼から触手が伸びて来て、俺の脳みそを掻き回しているような感覚に襲われる。
もしかして、何かのスキルを発動しているのかもしれない。
ヤバイ……賢者の石のことがバレてる気がする。
というか、この時点でかなり動揺している俺を見れば、誰だって何も思わないはずもない。
仕方ない。ここは正直に話しておくか。
バレるような嘘をついて、信用を失うのも嫌だし。もしかすると将来、グレイベア村の取引相手になるかもしれないのだ。
「俺……私は、これまでに二つの賢者の石を見ています。それがどこにあるのかは言えません。ただ……まだ他にもあると思います」
うろ覚えだが、賢者の石をシュモネー夫人から巻き上げた……譲り受けた時、「今はこれだけしかない」みたいなことを言っていた気がする。
ということは、賢者の石はまだ他にあるということ。少なくともあの時のシュモネー夫人は、他の石を調達できると確信していたということだろう。
「そう……なら、やっぱり探してみるわ」
マリー夫人の瞳の奥がギラリと一瞬輝いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる