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Kapitel 01
夢現の境界 04
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アキラが襲撃を受ける数日前――――。
アスガルト・ニーズヘクルメギル領・暉曄宮。
アスガルト最古の歴史を持つ有力貴族・赫=ニーズヘクルメギルの所領であり、そのほぼ中央に位置する宮殿は、族長が坐す居城。白磁の如き優美さと、高く反り立つ堅牢さを併せ持つ、見事な宮殿として高名だった。
宮殿には一族のみならず、重臣・使用人・私兵団などゆうに千人を超える人々が暮らす。宮殿の食い扶持を満たすために周辺には街が広がり、交易が盛り、アスガルト有数の繁栄した都市を擁するに至る。
宮殿内部は、公務を行う表向きのエリアと、族長一族や眷属が私生活を送るそれとで、隔てられている。
耀龍は当代の族長の末子であり、幼い頃よりこの宮殿が我が家だ。普段着でいようとも、気楽に振る舞おうとも、誰に咎められることもない。今日も、白磁のような豪華な内装に不釣り合いな薄いシャツ一枚を着て、長い廊下をスタスタと歩いていた。後ろには侍従の縁花を付き随えていた。
廊下で出会した使用人たちは、耀龍と目も合わさぬ内に廊下の端に寄って道を空け、恭しく頭を垂れた。耀龍はそのような彼らを特に気に留めなかった。彼にとってはこれが我が家での当たり前の風景だ。
中庭を抜けて自室へ向かう渡り廊下の中程。耀龍様、と縁花が呼び止めた。
耀龍は足を停めて「何?」と縁花を振り返った。
「兄君があちらに。御挨拶なさいませ」
縁花に促されて中庭へと目を向けた。
芝生が青々と美しい中庭の中央には、白い屋根のガゼボ。丁度風が吹き、屋根から小鳥が飛び立った。そこにひとりの人物が座していた。
愁いを帯びた伏し目がちの慈眼、艶やかな黒髪を肩から胸に垂らし、優美な麗人のような佇まい――――耀龍の同い年の異母兄・麗祥。彼は紅茶を嗜みながら読書中だった。
耀龍は中庭に足を踏み入れ、サクッサクッと芝生を踏んで麗祥に近づいた。
足音に気づいた麗祥が顔を上げた。
「麗。何でいるの?」
「今日は休みだ。溜めこんだ書物を読んでしまおうと思ってな。龍は研究室の帰りか」
「帰ったの三日振りだよ、も~」
耀龍は軽く首を左右に振った。
麗祥は本を閉じてフフッと笑った。
「お前は変わり者だな。学院を卒業する学力などとうに有しているというのに、単位に関係のない研究室に入り浸りとは」
「教官たちに呼ばれるんだもん。まあ、オレも研究の手伝いは調べ物はキライじゃないし。卒業はいつでもできるしね」
耀龍はテーブルの上に積み上げられた書籍の山に目を落とした。
しようと思えば一生遊んで暮らせる身分なのに、定職に就いたりするから好きに読書を楽しむ時間もない。血を分けた同い年の兄弟であるのに、耀龍は学生身分を存分に楽しみ、麗祥はさっさと学業を修めて堅実な職――官吏になった。耀龍には麗祥の決断は少々勿体ないというか、生き急いでいるように見えた。
「オレから見たら麗だって変わってる。今の仕事さあ、自分からわざわざ人に命令される立場になるなんて。父様に言えばすぐにだって誰にも命令されない地位に就けるのに」
「そうだな。父様はそうなさるだろう。しかし、私は誰かに命令したいわけではない。父様や兄様たちの扶けとなりたいのだよ。そして私には、官吏になるより他に方法が無かった」
耀龍は何とも言えない表情で口を噤んだ。
麗祥は、この自由主義の弟には理解しがたいだろうな、と容易に想像ができた。
「これでも、私も己の好きなことをしているつもりだ。お前と同じようにな」
「まあー。麗がいいならいいけどさ」
麗祥はカップを持ち上げ、やや温度の下がった紅茶を一口飲んだ。
ねえ、と耀龍がやや潜めた声で麗祥を呼んだ。この広い宮殿の、身内以外いない中庭に在っても、誰にも聞かれたくない話題だった。
「ここのところずっと、言おうか迷ってたんだけど……天哥々の懲罰、長すぎない?」
カササササッ。――風がわずかばかり木の葉を巻いて吹き抜けた。
麗祥はカップをソーサーに置いた。片手で開いていた書籍をパタン、と閉じた。
「もう懲罰の期間は過ぎたはずだよね。それなのに終了とも延長とも何の音沙汰もない。天哥々いま一体どうなってるの?」
「司令本部地下施設、独居区画にて拘禁処分中」
「本当に?」
「…………。ミズガルズからアスガルトへ強制連行後、天哥々は速やかに独居区画へと移送・収容された。その後、審議が開かれることも弁明の機会が与えられることもなく拘禁期間が開始。滞在超過・帰還命令違反が生じた時点で360日間の拘禁はすでに決定していたそうだ。だが、通例を見るに滞在超過程度でその拘禁は長すぎる」
耀龍は思わず背筋を伸ばして眉根を寄せた。
「だったら何で父様は天哥々の懲罰に対して何も言わなかったの」
「本部の決定は基本的に覆らない」
「そんなもの父様がその気になれば」
「できないことはないだろう。だが無理を押し通すことは何らかの歪みを生む。今回は天哥々を無罪放免とするよりも、拘禁360日間を受け容れるほうがデメリットが少なかったということだ。何より滞在超過と命令違反は事実だ。すべてを有耶無耶にすることは一大哥が良しとなさらないだろう」
「一大哥も麗も頭がカタイよ」
「そう拗ねるな」
麗祥はフッと笑みを零した。この弟は未だに子どもの頃と変わらぬ仕草をするのだなと思って。同い年といえどやはり弟は弟だ。
「だが本部の決定が揺るがないものだからこそ、拘禁期間を過ぎて何の沙汰もないのは妙だ」
耀龍は縁花のほうを振り返った。
縁花は兄弟の会話に口を挟むことなどせず、ただ直立していた。
「司令本部地下施設って縁花は行ったことがあるトコロ?」
「過去に何度か」
「独居区画にも?」
「はい」
耀龍はへー、と短く零しただけだったが、麗祥はやや驚いた。そこへ足を踏み入れたことがあるというのは、兵士として処罰を受けたことがあるという意味であろうか。そのような人物が赫=ニーズヘクルメギルの当代の末子、つまりは最高位の貴族のひとりである耀龍の侍従を務めていることは、いささか予想外だった。
ねえねえ、と耀龍は麗祥を呼んだ。テーブルに手を突いて顔を近づけた。
「天哥々は本当にそこにいるの?」
「お前もやはりそう思うか」
§ § § § §
暉曄宮・謁見の間。
宮殿の執務を司るエリアは、いつも慌ただしい。名のある貴族が出入りし、請願を持った領民が訪れ、臣下や眷属が務めを果たす場だ。日々、数多くの人々が目まぐるしく行き交うのは、たったひとりの人物を中心とする。
それは無論、有史最古の血脈にして最大の権勢をふるう一族、その頂点に立つ唯一にして生粋の存在、当代の族長――――赫暁・赫=ニーズヘクルメギル。
彼は五人の男兒をもうけて尚、血気盛んな壮年男性のように雄々しかった。皺が刻まれた精悍な顔付き、広い肩幅、厚い胸板、背筋の伸びた長躯。左右に揺らして歩く長髪のその毛先まで自信に満ちる。居城や所領のみならず、世界中を我が物顔で闊歩した。誰もそれを咎めようなどとはしなかった。彼の威光に皆が当然に敬服した。
謁見の間の大きな観音開きの扉が開いた。
室内から赫暁が先頭を切って出て来て、長い足で廊下を突き進んだ。
ほぼ横並びに長子・赫一瑪が付き随った。ふたりの後ろにゾロゾロと数名が早足で続いた。
「シェルツ卿は人柄はいいが話が長い。卿との面会はしばらく予定に入れるなよ」
赫暁は進行方向を向いたまま放言した。
「卿は御所様に謁見賜るのは三年振りでございましたから、御相談が多くおありだったのです。本日はもう一件謁見のアポがございます。その後は部族間会議が」
「それはパスしろ」
「なりませぬ。前回御欠席なさいました。今回は必ず御出席賜りますよう強く申し入れられております故」
はあ~~っ、と赫暁は厭味ったらしく深い溜息を吐いた。
息子は表情を変えなかったが、従者たちはビクッと身体を撥ねさせた。まだまだ重要なスケジュールがあとに控えているというのに、気分屋の族長に臍を曲げられては困る。
御所様、何卒、何卒、と従者たちから何度も頭を下げられ、赫暁は仕方がなさそうにフラッと手を振ってみせた。
「分かった分かった。出てやるから少し休ませろ。仮眠する」
赫暁の進行が居住エリアに差しかかり、従者たちは足を停めて頭を垂れて見送った。此処から先はプライベートなエリアだ。表向きの公務を支える従者たちは許しなく立ち入ることをしない。
居住エリア内は、執務エリアとは別世界のように静かだ。赫暁をはじめとする族長一家の日々の世話をする使用人たちは、公務に仕える従者たちとは従事する務めがまったく異なる。主人が健やかに不自由なく快適に時間を過ごせるように計らうことが第一の目的だ。赫暁と赫一瑪の姿を見ると、或いは跪いて頭を垂れ、或いは微笑みかけ、外界とは分断された穏やかな時間が流れる。
赫暁は自室へ向かう途中、使用人から耀龍と麗祥が訪問したことを伝えられた。
族長の執務室が前室。
耀龍と麗祥は、応接セットのソファに座して父を待っていた。黒檀のような木材を脚に大理石のように光沢のある滑らかな石を天板にした、市場ではそうそうお目にかかれない高級調度品。とはいえこの家にはその程度のものはゴロゴロしている。
使用人がドアを開くや否や、赫暁が勢いよく入室してきた。
「どうした、麗、龍。お前たちが揃って俺を待ち構えるなど久しいな」
赫暁はふたりの息子を歓迎した。麗祥と耀龍の対面にドサッと腰を下ろした。
赫一瑪――弟たちが一大哥と呼ぶ長兄――族長補佐は、ソファにはかけずに後方に回り、父の後ろに立った。
「ねえねえ父様」
「いきなり失礼だぞ、龍。御公務がお忙しいことは存じておりますが、しばし話をするお時間をいただけますか、父様」
耀龍は性急に口を開いたが、麗祥は弟を制して頭を下げた。同い年の兄弟でありながら性格は正反対と言ってもよい。
「いやいや、よいぞ。何だ。そう格式張るな」
赫暁は白い歯を見せてニッと笑った。
かなり長い時間を待たされた耀龍は、赫暁に前のめりになって口を開いた。
「天哥々が捕まえられてから一年以上になるって、父様は知ってる?」
赫暁は耀龍の態度とは対照的だった。ハッとした様子も失念していたという表情も見せず、ゆっくりとソファに沈みこんで肘掛けに頬杖をした。その沈着な眼差しは、耀龍と麗祥を観察しているようですらあった。
「ミズガルズにちょっと長居したくらいで懲罰一年なんて長過ぎだよ。そもそもミズガルズに行った目的の任務はちゃんと完遂してるのに、厳しすぎない? 天哥々はずっと仕事しっ放しだったんだからさあ、それぐらい大目に見てもいーじゃん」
「天哥々が命令違反を犯したとことは事実。しかし、審議もなく長期間拘禁するのは理不尽です。ましてや拘禁期間は完了したにも関わらず身柄を拘束しているならば不当です」
「父様なら本部に掛け合って天哥々をどうにか――」
「お前たち」
赫一瑪が一声発した瞬間、耀龍と麗祥はピタッと口を閉じた。ふたりして視線を赫暁から赫一瑪へ移動させた。
「そのようなことを請うために父上にお時間を頂戴したのか。安易に父上の御威光に頼るなど愚昧なことを」
「でも一大哥、父様なら」
「赫の男兒として恥ずべき行為は慎め。己の為すべきことは何であるか弁えよ。それを為すために精進を惜しむな。赫の血族に生まれ、その名を笠に着て頼るばかりがお前たちの能か」
厳格な長子の言は、弟ふたりの大凡想定どおりだった。父の権力を以てしてできるできない以前に、させないだろうと予想はしていた。実弟が地下深く拘束されているというのに、どうにかしてやろうという甘さはない。立場ある身でありながら拘束されるような事態を招いた行動自体が一族の不名誉だと、ならばその身を以て不名誉を雪ぐべきだと、この兄ならばそう考えるであろうことは想像に難くなかった。
赫一瑪に要求を突っぱねられた麗祥と耀龍は、すごすごと部屋から去っていた。赫暁はふたりが出て行った扉を眺めてクッと笑みを零した。
「アイツらは昔からああだ。ひとりで俺に物を言う度胸は無く、何かあるときはふたり揃ってやってくる。まあでも、お前に口答えしかけたのはちょっとした成長か」
赫一瑪は赫暁の揶揄い混じりの発言に、無表情のまま返事もしなかった。歳の離れた兄にとっては、あの程度では口答えした内にも入らない。
「麗と龍、同い年の兄弟というのはなかなか難しいモンだな。しばらく反目し合っていたようだったが、あの様子だと近頃は落ち着いたか。少しは成長したのか仲直りでもしたか」
「さて」
「うちの男共はどれもこれも妙にヒネくれてやがる。男ばっかりっつーのは難しいモンだな~?」
赫暁は赫一瑪を横目でチラッと一瞥した。やはりピクリとも表情を変えなかった。朝から晩まで同じ表情で、仮面でもつけているのかと思うときがある。
――我が子ながら可愛気のない。
「その上、男なんかいくら着飾っても面白くもない。俺もひとりくらい娘を作ればよかったぜ」
「幸い父上はまだまだ男性として壮健で在られます。今から励まれて子宝に恵まれることは充分に期待できるかと。無論、御公務を優先していただきますが」
「自分じゃなくてお前たちに期待してェよ」
赫暁の前室の外では、縁花が部屋付きの使用人を下がらせ、主人の帰りを待機していた。
耀龍と麗祥が前室から出てきて、縁花は音を立てないようにドアを閉めた。
耀龍は廊下をスタスタを進みながら、蟀谷に指を当てて若干首を傾げる仕草をした。
麗祥は耀龍が何をしているのか分からなかった。その仕草を不思議そうに観察しつつ耀龍と廊下を歩いた。
「耀龍様。首尾は」
「上々だよ。感度良好♪」
耀龍は足を停めて縁花のほうを振り向いた。
麗祥はその会話を聞いてピンと来た。
「まさか父様の部屋に盗聴器を仕掛けたのか?」
「人聞きが悪いよ。ちょっと荷物を置き忘れてきただけ。忘れ物するぐらい誰にでもあるでしょ」
耀龍はまったく悪びれずに笑った。人差し指を唇の前に立ててシーッのポーズ。
麗祥は縁花を見上げて細い眉を吊り上げた。
「縁花。貴様がいながら龍を諫めもしないとは」
「申し訳ございません。耀龍様たってのお望みでしたので」
まさか真顔でシレッと言い放たれるとは。麗祥は半ば呆れた。
「貴様の評価を改める。思っていたよりも厚顔だ」
「縁花を責めないでよ、麗。それに自分でがんばれって言ったのは一大哥だ。だからオレはオレにできることをやる」
「一大哥のお言葉をそうとるか、お前は」
麗祥は惘れながらも羨ましかった。
この男は、同い年の弟は、兄である自分に決心しかねるような事柄を、いつも易々と乗り越える。自分がやりたくても思い留まってしまうことを、軽々とやってのける。そして、こちらに背中を見せつけ、まだそんなところにいるの、いつまでそうしているつもり、と焦らせる。
耀龍にそのような考えはまったくないだろう。野心もなく楽天的な末っ子だ、本当に単純に自分のやりたいことをやるだけなのだろう。しかし、麗祥には自分の前を行く背中が、眩しく、羨ましく、妬ましかった。
今度ばかりはともに行こう。肩を並べて進んでやろう。置いていかせるものか。お前が咎められて舌を出して笑うまで、隣を走ってやる。
「私にも」
麗祥はスッと耀龍のすぐ隣に立った。
耀龍は麗祥の蟀谷に人差し指をトンッと当てた。
それは、同い年の兄弟が〝共犯〟を誓い合ったことを意味する。
〈本部と掛け合えと言われても、アレはどうせそんなところにはいやしない〉
父の声で再生された内容に、耀龍と麗祥は顔を見合わせた。
やはり考え至ったとおりだった。ふたりが何より敬愛する兄はいないのだ、いると言われた場所にも家にも何処にも。では何処に――――。
麗祥と耀龍が去り、室内は赫暁と赫一瑪のふたりきりとなった。
赫暁はソファに腰かけ、赫一瑪はその背後に控えて直立不動。プライベートな空間にいてさえ、血の繋がった父子らしい穏やかな雰囲気はなく、まるで上官と部下のような関係性だった。
赫暁は人差し指でチョイチョイと赫一瑪を呼んだ。赫一瑪は腰を折って父に顔を近づけた。
「ところで一瑪。アレと直に会ったのは久々だったろうに、顔を見るなり直ぐさま受け渡したそうじゃないか。お前は冷たいヤツだなァ。再会の抱擁でもしてやればよかったのに」
赫一瑪は、何だそんなことかと言わんばかりに頭をスッと元の位置に戻した。
「それがあのときの私の役目でした」
「兄のお前から見て、アレはどうだった」
「父上の御想像どおりかと。何ら変わりなく」
「変わりなくか。アレはそうだろうな。麗の一個小隊と対峙したと聞いたが、それでもまだお前と反目する気力は失せんか。……まあ、今も息災にしているとは限らんが」
赫暁は足を組み直して頬杖を突いた。
「麗と龍が勘繰るのも無理はない。処罰の期間を過ぎても拘束し続けるなど、おかしいと考えて当然だ。アレの隊からの問い合わせも再三どころじゃあない。今にも乗りこんできそうな勢いだというじゃないか」
「そのようなことはさせません」
「まあまあ。うちとあそこが喧嘩しても得することはないんだ。そこはのらりくらり穏便にやるさ」
麗祥と耀龍は純粋に天尊が戻らぬことを案じたが、赫暁と赫一瑪の様子は異なった。天尊が現在置かれている情況を或る程度推定し、その上でなお、別の面での懸念があった。最も近しい身内でも、このふたりしか把握し得ない事情。それは下の弟ふたりを蚊帳の外に置いてまで隠したい秘密。
「で、本部から何か沙汰はあったか?」
赫暁は赫一瑪のほうを見ずに尋ねた。
「いいえ。天尊を正当に拘禁できる期間は経過したにも関わらず、未だ沈黙しております」
「だろうな。アレを押さえているのは本部ではなく《枢密院》だ」
「今しばらく静観を続けられますか?」
「静観なあ……。何にせよそろそろ事が動き出す頃合だ」
赫暁はフンと鼻で笑った。
「アレが戻ってきて一年以上。何も進展がないことに業を煮やしているのは《枢密院》のジジイ共のほうだろうさ」
アスガルト・ニーズヘクルメギル領・暉曄宮。
アスガルト最古の歴史を持つ有力貴族・赫=ニーズヘクルメギルの所領であり、そのほぼ中央に位置する宮殿は、族長が坐す居城。白磁の如き優美さと、高く反り立つ堅牢さを併せ持つ、見事な宮殿として高名だった。
宮殿には一族のみならず、重臣・使用人・私兵団などゆうに千人を超える人々が暮らす。宮殿の食い扶持を満たすために周辺には街が広がり、交易が盛り、アスガルト有数の繁栄した都市を擁するに至る。
宮殿内部は、公務を行う表向きのエリアと、族長一族や眷属が私生活を送るそれとで、隔てられている。
耀龍は当代の族長の末子であり、幼い頃よりこの宮殿が我が家だ。普段着でいようとも、気楽に振る舞おうとも、誰に咎められることもない。今日も、白磁のような豪華な内装に不釣り合いな薄いシャツ一枚を着て、長い廊下をスタスタと歩いていた。後ろには侍従の縁花を付き随えていた。
廊下で出会した使用人たちは、耀龍と目も合わさぬ内に廊下の端に寄って道を空け、恭しく頭を垂れた。耀龍はそのような彼らを特に気に留めなかった。彼にとってはこれが我が家での当たり前の風景だ。
中庭を抜けて自室へ向かう渡り廊下の中程。耀龍様、と縁花が呼び止めた。
耀龍は足を停めて「何?」と縁花を振り返った。
「兄君があちらに。御挨拶なさいませ」
縁花に促されて中庭へと目を向けた。
芝生が青々と美しい中庭の中央には、白い屋根のガゼボ。丁度風が吹き、屋根から小鳥が飛び立った。そこにひとりの人物が座していた。
愁いを帯びた伏し目がちの慈眼、艶やかな黒髪を肩から胸に垂らし、優美な麗人のような佇まい――――耀龍の同い年の異母兄・麗祥。彼は紅茶を嗜みながら読書中だった。
耀龍は中庭に足を踏み入れ、サクッサクッと芝生を踏んで麗祥に近づいた。
足音に気づいた麗祥が顔を上げた。
「麗。何でいるの?」
「今日は休みだ。溜めこんだ書物を読んでしまおうと思ってな。龍は研究室の帰りか」
「帰ったの三日振りだよ、も~」
耀龍は軽く首を左右に振った。
麗祥は本を閉じてフフッと笑った。
「お前は変わり者だな。学院を卒業する学力などとうに有しているというのに、単位に関係のない研究室に入り浸りとは」
「教官たちに呼ばれるんだもん。まあ、オレも研究の手伝いは調べ物はキライじゃないし。卒業はいつでもできるしね」
耀龍はテーブルの上に積み上げられた書籍の山に目を落とした。
しようと思えば一生遊んで暮らせる身分なのに、定職に就いたりするから好きに読書を楽しむ時間もない。血を分けた同い年の兄弟であるのに、耀龍は学生身分を存分に楽しみ、麗祥はさっさと学業を修めて堅実な職――官吏になった。耀龍には麗祥の決断は少々勿体ないというか、生き急いでいるように見えた。
「オレから見たら麗だって変わってる。今の仕事さあ、自分からわざわざ人に命令される立場になるなんて。父様に言えばすぐにだって誰にも命令されない地位に就けるのに」
「そうだな。父様はそうなさるだろう。しかし、私は誰かに命令したいわけではない。父様や兄様たちの扶けとなりたいのだよ。そして私には、官吏になるより他に方法が無かった」
耀龍は何とも言えない表情で口を噤んだ。
麗祥は、この自由主義の弟には理解しがたいだろうな、と容易に想像ができた。
「これでも、私も己の好きなことをしているつもりだ。お前と同じようにな」
「まあー。麗がいいならいいけどさ」
麗祥はカップを持ち上げ、やや温度の下がった紅茶を一口飲んだ。
ねえ、と耀龍がやや潜めた声で麗祥を呼んだ。この広い宮殿の、身内以外いない中庭に在っても、誰にも聞かれたくない話題だった。
「ここのところずっと、言おうか迷ってたんだけど……天哥々の懲罰、長すぎない?」
カササササッ。――風がわずかばかり木の葉を巻いて吹き抜けた。
麗祥はカップをソーサーに置いた。片手で開いていた書籍をパタン、と閉じた。
「もう懲罰の期間は過ぎたはずだよね。それなのに終了とも延長とも何の音沙汰もない。天哥々いま一体どうなってるの?」
「司令本部地下施設、独居区画にて拘禁処分中」
「本当に?」
「…………。ミズガルズからアスガルトへ強制連行後、天哥々は速やかに独居区画へと移送・収容された。その後、審議が開かれることも弁明の機会が与えられることもなく拘禁期間が開始。滞在超過・帰還命令違反が生じた時点で360日間の拘禁はすでに決定していたそうだ。だが、通例を見るに滞在超過程度でその拘禁は長すぎる」
耀龍は思わず背筋を伸ばして眉根を寄せた。
「だったら何で父様は天哥々の懲罰に対して何も言わなかったの」
「本部の決定は基本的に覆らない」
「そんなもの父様がその気になれば」
「できないことはないだろう。だが無理を押し通すことは何らかの歪みを生む。今回は天哥々を無罪放免とするよりも、拘禁360日間を受け容れるほうがデメリットが少なかったということだ。何より滞在超過と命令違反は事実だ。すべてを有耶無耶にすることは一大哥が良しとなさらないだろう」
「一大哥も麗も頭がカタイよ」
「そう拗ねるな」
麗祥はフッと笑みを零した。この弟は未だに子どもの頃と変わらぬ仕草をするのだなと思って。同い年といえどやはり弟は弟だ。
「だが本部の決定が揺るがないものだからこそ、拘禁期間を過ぎて何の沙汰もないのは妙だ」
耀龍は縁花のほうを振り返った。
縁花は兄弟の会話に口を挟むことなどせず、ただ直立していた。
「司令本部地下施設って縁花は行ったことがあるトコロ?」
「過去に何度か」
「独居区画にも?」
「はい」
耀龍はへー、と短く零しただけだったが、麗祥はやや驚いた。そこへ足を踏み入れたことがあるというのは、兵士として処罰を受けたことがあるという意味であろうか。そのような人物が赫=ニーズヘクルメギルの当代の末子、つまりは最高位の貴族のひとりである耀龍の侍従を務めていることは、いささか予想外だった。
ねえねえ、と耀龍は麗祥を呼んだ。テーブルに手を突いて顔を近づけた。
「天哥々は本当にそこにいるの?」
「お前もやはりそう思うか」
§ § § § §
暉曄宮・謁見の間。
宮殿の執務を司るエリアは、いつも慌ただしい。名のある貴族が出入りし、請願を持った領民が訪れ、臣下や眷属が務めを果たす場だ。日々、数多くの人々が目まぐるしく行き交うのは、たったひとりの人物を中心とする。
それは無論、有史最古の血脈にして最大の権勢をふるう一族、その頂点に立つ唯一にして生粋の存在、当代の族長――――赫暁・赫=ニーズヘクルメギル。
彼は五人の男兒をもうけて尚、血気盛んな壮年男性のように雄々しかった。皺が刻まれた精悍な顔付き、広い肩幅、厚い胸板、背筋の伸びた長躯。左右に揺らして歩く長髪のその毛先まで自信に満ちる。居城や所領のみならず、世界中を我が物顔で闊歩した。誰もそれを咎めようなどとはしなかった。彼の威光に皆が当然に敬服した。
謁見の間の大きな観音開きの扉が開いた。
室内から赫暁が先頭を切って出て来て、長い足で廊下を突き進んだ。
ほぼ横並びに長子・赫一瑪が付き随った。ふたりの後ろにゾロゾロと数名が早足で続いた。
「シェルツ卿は人柄はいいが話が長い。卿との面会はしばらく予定に入れるなよ」
赫暁は進行方向を向いたまま放言した。
「卿は御所様に謁見賜るのは三年振りでございましたから、御相談が多くおありだったのです。本日はもう一件謁見のアポがございます。その後は部族間会議が」
「それはパスしろ」
「なりませぬ。前回御欠席なさいました。今回は必ず御出席賜りますよう強く申し入れられております故」
はあ~~っ、と赫暁は厭味ったらしく深い溜息を吐いた。
息子は表情を変えなかったが、従者たちはビクッと身体を撥ねさせた。まだまだ重要なスケジュールがあとに控えているというのに、気分屋の族長に臍を曲げられては困る。
御所様、何卒、何卒、と従者たちから何度も頭を下げられ、赫暁は仕方がなさそうにフラッと手を振ってみせた。
「分かった分かった。出てやるから少し休ませろ。仮眠する」
赫暁の進行が居住エリアに差しかかり、従者たちは足を停めて頭を垂れて見送った。此処から先はプライベートなエリアだ。表向きの公務を支える従者たちは許しなく立ち入ることをしない。
居住エリア内は、執務エリアとは別世界のように静かだ。赫暁をはじめとする族長一家の日々の世話をする使用人たちは、公務に仕える従者たちとは従事する務めがまったく異なる。主人が健やかに不自由なく快適に時間を過ごせるように計らうことが第一の目的だ。赫暁と赫一瑪の姿を見ると、或いは跪いて頭を垂れ、或いは微笑みかけ、外界とは分断された穏やかな時間が流れる。
赫暁は自室へ向かう途中、使用人から耀龍と麗祥が訪問したことを伝えられた。
族長の執務室が前室。
耀龍と麗祥は、応接セットのソファに座して父を待っていた。黒檀のような木材を脚に大理石のように光沢のある滑らかな石を天板にした、市場ではそうそうお目にかかれない高級調度品。とはいえこの家にはその程度のものはゴロゴロしている。
使用人がドアを開くや否や、赫暁が勢いよく入室してきた。
「どうした、麗、龍。お前たちが揃って俺を待ち構えるなど久しいな」
赫暁はふたりの息子を歓迎した。麗祥と耀龍の対面にドサッと腰を下ろした。
赫一瑪――弟たちが一大哥と呼ぶ長兄――族長補佐は、ソファにはかけずに後方に回り、父の後ろに立った。
「ねえねえ父様」
「いきなり失礼だぞ、龍。御公務がお忙しいことは存じておりますが、しばし話をするお時間をいただけますか、父様」
耀龍は性急に口を開いたが、麗祥は弟を制して頭を下げた。同い年の兄弟でありながら性格は正反対と言ってもよい。
「いやいや、よいぞ。何だ。そう格式張るな」
赫暁は白い歯を見せてニッと笑った。
かなり長い時間を待たされた耀龍は、赫暁に前のめりになって口を開いた。
「天哥々が捕まえられてから一年以上になるって、父様は知ってる?」
赫暁は耀龍の態度とは対照的だった。ハッとした様子も失念していたという表情も見せず、ゆっくりとソファに沈みこんで肘掛けに頬杖をした。その沈着な眼差しは、耀龍と麗祥を観察しているようですらあった。
「ミズガルズにちょっと長居したくらいで懲罰一年なんて長過ぎだよ。そもそもミズガルズに行った目的の任務はちゃんと完遂してるのに、厳しすぎない? 天哥々はずっと仕事しっ放しだったんだからさあ、それぐらい大目に見てもいーじゃん」
「天哥々が命令違反を犯したとことは事実。しかし、審議もなく長期間拘禁するのは理不尽です。ましてや拘禁期間は完了したにも関わらず身柄を拘束しているならば不当です」
「父様なら本部に掛け合って天哥々をどうにか――」
「お前たち」
赫一瑪が一声発した瞬間、耀龍と麗祥はピタッと口を閉じた。ふたりして視線を赫暁から赫一瑪へ移動させた。
「そのようなことを請うために父上にお時間を頂戴したのか。安易に父上の御威光に頼るなど愚昧なことを」
「でも一大哥、父様なら」
「赫の男兒として恥ずべき行為は慎め。己の為すべきことは何であるか弁えよ。それを為すために精進を惜しむな。赫の血族に生まれ、その名を笠に着て頼るばかりがお前たちの能か」
厳格な長子の言は、弟ふたりの大凡想定どおりだった。父の権力を以てしてできるできない以前に、させないだろうと予想はしていた。実弟が地下深く拘束されているというのに、どうにかしてやろうという甘さはない。立場ある身でありながら拘束されるような事態を招いた行動自体が一族の不名誉だと、ならばその身を以て不名誉を雪ぐべきだと、この兄ならばそう考えるであろうことは想像に難くなかった。
赫一瑪に要求を突っぱねられた麗祥と耀龍は、すごすごと部屋から去っていた。赫暁はふたりが出て行った扉を眺めてクッと笑みを零した。
「アイツらは昔からああだ。ひとりで俺に物を言う度胸は無く、何かあるときはふたり揃ってやってくる。まあでも、お前に口答えしかけたのはちょっとした成長か」
赫一瑪は赫暁の揶揄い混じりの発言に、無表情のまま返事もしなかった。歳の離れた兄にとっては、あの程度では口答えした内にも入らない。
「麗と龍、同い年の兄弟というのはなかなか難しいモンだな。しばらく反目し合っていたようだったが、あの様子だと近頃は落ち着いたか。少しは成長したのか仲直りでもしたか」
「さて」
「うちの男共はどれもこれも妙にヒネくれてやがる。男ばっかりっつーのは難しいモンだな~?」
赫暁は赫一瑪を横目でチラッと一瞥した。やはりピクリとも表情を変えなかった。朝から晩まで同じ表情で、仮面でもつけているのかと思うときがある。
――我が子ながら可愛気のない。
「その上、男なんかいくら着飾っても面白くもない。俺もひとりくらい娘を作ればよかったぜ」
「幸い父上はまだまだ男性として壮健で在られます。今から励まれて子宝に恵まれることは充分に期待できるかと。無論、御公務を優先していただきますが」
「自分じゃなくてお前たちに期待してェよ」
赫暁の前室の外では、縁花が部屋付きの使用人を下がらせ、主人の帰りを待機していた。
耀龍と麗祥が前室から出てきて、縁花は音を立てないようにドアを閉めた。
耀龍は廊下をスタスタを進みながら、蟀谷に指を当てて若干首を傾げる仕草をした。
麗祥は耀龍が何をしているのか分からなかった。その仕草を不思議そうに観察しつつ耀龍と廊下を歩いた。
「耀龍様。首尾は」
「上々だよ。感度良好♪」
耀龍は足を停めて縁花のほうを振り向いた。
麗祥はその会話を聞いてピンと来た。
「まさか父様の部屋に盗聴器を仕掛けたのか?」
「人聞きが悪いよ。ちょっと荷物を置き忘れてきただけ。忘れ物するぐらい誰にでもあるでしょ」
耀龍はまったく悪びれずに笑った。人差し指を唇の前に立ててシーッのポーズ。
麗祥は縁花を見上げて細い眉を吊り上げた。
「縁花。貴様がいながら龍を諫めもしないとは」
「申し訳ございません。耀龍様たってのお望みでしたので」
まさか真顔でシレッと言い放たれるとは。麗祥は半ば呆れた。
「貴様の評価を改める。思っていたよりも厚顔だ」
「縁花を責めないでよ、麗。それに自分でがんばれって言ったのは一大哥だ。だからオレはオレにできることをやる」
「一大哥のお言葉をそうとるか、お前は」
麗祥は惘れながらも羨ましかった。
この男は、同い年の弟は、兄である自分に決心しかねるような事柄を、いつも易々と乗り越える。自分がやりたくても思い留まってしまうことを、軽々とやってのける。そして、こちらに背中を見せつけ、まだそんなところにいるの、いつまでそうしているつもり、と焦らせる。
耀龍にそのような考えはまったくないだろう。野心もなく楽天的な末っ子だ、本当に単純に自分のやりたいことをやるだけなのだろう。しかし、麗祥には自分の前を行く背中が、眩しく、羨ましく、妬ましかった。
今度ばかりはともに行こう。肩を並べて進んでやろう。置いていかせるものか。お前が咎められて舌を出して笑うまで、隣を走ってやる。
「私にも」
麗祥はスッと耀龍のすぐ隣に立った。
耀龍は麗祥の蟀谷に人差し指をトンッと当てた。
それは、同い年の兄弟が〝共犯〟を誓い合ったことを意味する。
〈本部と掛け合えと言われても、アレはどうせそんなところにはいやしない〉
父の声で再生された内容に、耀龍と麗祥は顔を見合わせた。
やはり考え至ったとおりだった。ふたりが何より敬愛する兄はいないのだ、いると言われた場所にも家にも何処にも。では何処に――――。
麗祥と耀龍が去り、室内は赫暁と赫一瑪のふたりきりとなった。
赫暁はソファに腰かけ、赫一瑪はその背後に控えて直立不動。プライベートな空間にいてさえ、血の繋がった父子らしい穏やかな雰囲気はなく、まるで上官と部下のような関係性だった。
赫暁は人差し指でチョイチョイと赫一瑪を呼んだ。赫一瑪は腰を折って父に顔を近づけた。
「ところで一瑪。アレと直に会ったのは久々だったろうに、顔を見るなり直ぐさま受け渡したそうじゃないか。お前は冷たいヤツだなァ。再会の抱擁でもしてやればよかったのに」
赫一瑪は、何だそんなことかと言わんばかりに頭をスッと元の位置に戻した。
「それがあのときの私の役目でした」
「兄のお前から見て、アレはどうだった」
「父上の御想像どおりかと。何ら変わりなく」
「変わりなくか。アレはそうだろうな。麗の一個小隊と対峙したと聞いたが、それでもまだお前と反目する気力は失せんか。……まあ、今も息災にしているとは限らんが」
赫暁は足を組み直して頬杖を突いた。
「麗と龍が勘繰るのも無理はない。処罰の期間を過ぎても拘束し続けるなど、おかしいと考えて当然だ。アレの隊からの問い合わせも再三どころじゃあない。今にも乗りこんできそうな勢いだというじゃないか」
「そのようなことはさせません」
「まあまあ。うちとあそこが喧嘩しても得することはないんだ。そこはのらりくらり穏便にやるさ」
麗祥と耀龍は純粋に天尊が戻らぬことを案じたが、赫暁と赫一瑪の様子は異なった。天尊が現在置かれている情況を或る程度推定し、その上でなお、別の面での懸念があった。最も近しい身内でも、このふたりしか把握し得ない事情。それは下の弟ふたりを蚊帳の外に置いてまで隠したい秘密。
「で、本部から何か沙汰はあったか?」
赫暁は赫一瑪のほうを見ずに尋ねた。
「いいえ。天尊を正当に拘禁できる期間は経過したにも関わらず、未だ沈黙しております」
「だろうな。アレを押さえているのは本部ではなく《枢密院》だ」
「今しばらく静観を続けられますか?」
「静観なあ……。何にせよそろそろ事が動き出す頃合だ」
赫暁はフンと鼻で笑った。
「アレが戻ってきて一年以上。何も進展がないことに業を煮やしているのは《枢密院》のジジイ共のほうだろうさ」
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