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王
しおりを挟む全員がその人物の予期せぬ登場に動揺した。
ロルフはマリアンヌの肩に置いていた手を慌てて下げる。
「兄上、なぜこんなところに」
「ギルバートとお前たちが集まっているのは珍しいと思ってな」
にこにこと笑みを浮かべ、三人の間に立つ。
「結論は出たか?」
ロルフとマリアンヌ、そして最後にギルバートを見つめる。
「全部わかっておいでなのですか…?」
マリアンヌが震える声で問いかける。
「ああ」
「知っていて…知っていてずっと放置されていたのですか?!」
マリアンヌの目から涙がこぼれ落ちる。
「本当に私のことなどどうでもいいのですね…」
崩れ落ちるマリアンヌの前にアドルフが膝をつく。
「マリアンヌ。俺はお前に甘えていた。中途半端にお前の恋情を受け入れて、突き放して傷つけた」
「何を今更…」
「俺が嫁を選ばないといけない時、侯爵にお前を強く押された。悩んだが、あの時点では侯爵家と繋がるべきだった」
「そんなことわかっていますわ」
「だが、最終的に決めて4年も待ったのは、お前の真っ直ぐな気持ちを感じたからだ」
マリアンヌがさらに目から雫を落とす。
「なのに、俺の覚悟が足りていなかった。お前を受け入れ、守り抜くという覚悟が…お前の方がよほどマリアンヌの全てを受け入れていたな、ロルフ」
アドルフの視線にロルフが唇を噛む。
「だから、マリアンヌ。今度はお前が選べ。このまま俺とこの城で生きるか、ロルフについて他国に行くか」
マリアンヌとロルフが共に驚いたように目を見開く。
「兄上、マリアンヌはあなたといたいに決まっています。それにもし俺について来ても苦労することが目に見えています」
ずっと貴族として、王族として生きてきたマリアンヌが外の世界で生きるのは大変だろう。
ロルフがマリアンヌを見て首を振る。
「世間からもどんな風評をたてられるか」
突然王弟と王妃が消えれば、それこそ二人が特別な関係であったことが城中に、そして下手をすると国民全体に伝わる。
マリアンヌは下を向いて肩を震わせている。
「お前は先に城を出ろ。しばらくして王妃を病死したことにする。そしてこの国のことなど知らぬ別の国で、他の人間として生きるんだ」
まるで前から考えていたように澱みなく、アドルフが答える。
「生活費もマリアンヌのドレスや宝石を全て売って、持って行けばいい。そうすれば贅沢をしなければ暮らしていけるだろう」
後はマリアンヌの気持ち次第。まるでそのように、全て考えられた受け答えにロルフは口をつぐむ。
「もちろん、変わらずお前がここに居てくれれば、死ぬまでお前を守ろう」
アドルフがいつもの笑顔でマリアンヌを見る。
マリアンヌは涙に濡れた顔で、アドルフを見つめた。
そっと笑うように息を吐きだす。
「本当にあなたは、アドルフ様はいつも優しくて残酷ですわね」
その言葉にアドルフが少し困ったように、そしていつものように笑う。
マリアンヌは目のふちに溜まった涙を拭うと立ち上がった。
「ロルフについて行きます。…あなたに振り回されるのはもうこりごりです。余生はせいぜい亡きあの女を想って一人でお過ごしください」
精一杯の嫌味だった。
マリアンヌがきっとアドルフを睨みつける。
どこか吹っ切れたようなすっきりとした顔だった。
アドルフが微笑む。
その笑みは妹に対する兄のような親愛に満ちた優しい笑みだった。
「マリアンヌ!ヤケになるな」
マリアンヌの勇ましい宣言に動揺したのはロルフである。
「ヤケになんかなっていないわ。私も王宮にいれば、ずっとアドルフ様に心を囚われる。ギルバート、あなたのこともまたあの女と重ねて憎くなってしまう」
マリアンヌがギルバートを見る。
「いい機会だわ。想いも、身分も、全て捨てて生まれ変わります」
この王宮に来てから、初めて見たマリアンヌの美しい笑み。
「それに私のことをずっと支えてくれたあなたとこれからの人生を過ごしたいの」
マリアンヌがロルフに視線を向ける。
ロルフの目が少し潤み、隠すように目元を押さえる。
「今まで本当にありがとう」
「私もですわ。あなたはひどい夫だったけれど、間違いなく優しい、私の大切な初恋の君でした」
アドルフとマリアンヌが互いに心からの笑みを浮かべた。
長かった、二人の物語の終幕だった。
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