異世界転逝

しもはら大人

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第三逝

其の十九「似ているようで似ていない」

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「ヴィートゥシュ!また大きくなったな!」

「大叔父上もお変わりないようで安心しました!」

数年前お会いした時よりも俺の身長はかなり伸びたはずだが、それでも大叔父上は俺より頭2つ分ほど背が高い。
更に胸板も厚く、外套がいとうの上からでも肉体のたくましさが見て取れる。
大叔父上はおじい様の弟で齢700歳ほどのはずだが、ほとんどしわがない。

「しかしヴィートゥシュ、食事はしっかりとっているのか?少し線が細すぎるのではないか?」

大叔父上はわしわしと髭を撫でながら上から下へと俺を見た。

「食事は人並み以上にとっております。大叔父上の基準で言えば、この王宮に線が細くない者はおりませんよ。」

「そうかぁ?まぁ食べているのなら良い。それでどうだ?この後!」

そう言うと大叔父上は軽く握った両手をクイっと動かし釣りの仕草をした。

「大叔父上もお好きですね。最近気に入ってる場所があるんです。謁見が終わったら是非。スヴェルも誘って良いですか?」

「勿論だとも。ヴィートゥシュにもスヴェルにも土産がある。楽しみにしておれ。それではな!」

大叔父上はガハハと豪快に笑いながら、父上達の居る執政殿しっせいでんへと向かって行った。
外地―世界樹の麓以外の土地―で見聞きした事を伝えに行くのだろう。
報告が終わるのは明日か明後日くらいかな。
それまでは魔法の修練をするか。
スヴェルも今日は寝ているだろうし、ブローマネスタは新たな魔法料理の研究で忙しいと言っていた。
次回は当たりの料理だと良いな。

「フフ…。」

思わず乾いた笑いが出る。
あれ、そういえば、激辛料理で死にかけてスキルを手に入れたんだ。
『死の淵を歩く者』だったな。
肉体的な死から2秒後に復活出来て、クールタイムが異様に長い。
一回なら死んでも大丈夫ってのは強そうだけど、復活ってどう復活するのか、何回スキルの説明見ても分からないんだよな。
あとそもそも、単純に死にたくない。
でもエルフって寿命ないと思うんだよなー。
そうなると転生もしないって事になる。
折角、『転生者』になったのに。
まぁこの世界に不満はないからそれでもいいか。

弓矢と剣の稽古をするため鍛錬場に行くと、守護隊長のトゥロフクさんが隊員と訓練をしていた。
トゥロフクさんは400歳くらいで武器の扱いが上手い。
補助魔法も得意で自身を強化しながら戦えるので、一対一でトゥロフクさんに勝てる者は国内に両手で数えられるほどしかいない。

「ヴィートゥシュ殿下!整列!」
「「おはようございます、ヴィートゥシュ殿下!!」」

俺にいち早く気付いたトゥロフクさんが隊員達を並ばせ挨拶をさせる。

「おはようございます、皆さん。」

「殿下、おはようございます。今日は何故こちらへ?」

トゥロフクさんは隊員に訓練を続けるように促すと俺の側まで来た。

「あー、弓矢と剣の鍛錬をしようかな、と。」

「?鍛錬を?…殿下が?」

トゥロフクさんの顔にはハッキリと「理解できない」と書いてある。
その反応も当然だ。
エルフが本格的に鍛錬や修練を始めるのは50歳を過ぎてからだ。
それまでは基本的に遊びながら学び、鍛えていく。
20歳にもなっていないのに、魔法を探求しようとするブローマネスタや鍛錬を始めようとする俺は、かなり、変わっている。

「えぇ、先日洞窟で『ハウカタエラ』に出くわしまして。自分の未熟さを痛感したのでこちらに。」

「えぇ、息子から聞いております。しかし、そこで鍛錬場に来る選択をされるとは、殿下はやはり『剣神けんしん』様の血を引いておられますな。」

トゥロフクさんは感心した様子で頷いた。
毎度思うがトゥロフクさんとスヴェルは親子で性格が違いすぎる。
でも顔立ちはそっくりなんだよなー。

「あっ、祖父には内密にお願いします。何卒。」

「『剣神』様も喜ばれると思いますが?あ、ですが、殿下がそうおっしゃるのであれば、そのように。皆も良いな。」

「「ハッ。」」

俺が小声で告げると、トゥロフクさんはそれ以上の非常に小さな声で答えた。
隊員達の返事も聞こえないくらいの大きさだ。
トゥロフクさんは俺以外には聞こえない程の小声で更に続けた。

「ですが、鍛錬の相手が必要な際には是非お声掛け下さい。喜んでお受けいたします。」

その手があったか。しかし、守護隊長に稽古をつけてもらった事がもしもおじい様の耳に入れば、死ぬ一歩手前までしごかれるのが目に見えている。
個人的に気になる事があって鍛錬しているという体でいるべきだろう。

「いえ、守護隊の訓練の邪魔をするわけにはいきませんから。それでは、失礼します。」

トゥロフクさんにお辞儀をし、鍛錬場の奥へ向かう。
何やら名残惜しそうに守護隊の皆さんがこちらを見ている。
もし機会があれば守護隊の訓練に加わる事にしよう。
それより今は弓矢の稽古をしたい。
矢をもっと素早くつがえられるようになれば、獲物や敵が多い時でも冷静に対処できるはずだ。

射場に足を踏み入れた瞬間、俺は自分が大きな過ちを犯していた事に気が付いた。
何故、トゥロフクさんは必要以上に小さな声で話したのか。
何故、隊員達が皆俺を見ていたのか。

「ヴィートゥシュ。」

柔らかくも、威厳に満ちた、低い声。
大叔父上の報告を聞くため執政殿にいるものだとばかり考えていた。

「鍛錬かい?」

おじい様…!!
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