陰陽和合

鳫葉あん

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蓼食う虫

 日野太陽は名前の通り明るく、人々の中心となる男だった。
 父親譲りの男らしく整った顔立ちと長い手足、母親譲りの人好きな優しい性格を受け継いで生まれた。頭の作りも良く、誰からも好かれる彼の周りには常に友人がいた。
 太陽が笑顔で話し掛ければ皆笑って何か返してくれた。無視なんて論外だった。
 一度会話をすれば太陽の気を引こうとすることはあれど、迷惑そうに相槌を打つだけなんてありえなかった。そんな『今まで』を覆すような反応を見せられたからなのか、太陽はその人が気になって仕方なくなった。
 その人はいつも早めに講義室の席を取り、一人静かに学術書やノートを読んでいた。生真面目な性格がうかがえ、純粋に好感を持った。
 太陽はその人に対話を試み続けた。初めは反応が返ってくればいい方で、言葉がついてくるのは稀だった。
 鬱陶しいと思われているのかと悩んだが、後から聞けばどう返していいのかわからなかっただけらしい。迷惑げに見えた顔もどんな表情をすればいいのかわからない、というか表情筋をほとんど使わないからひきつっていたと言う。
 コミュニケーションスキルがないだけで人との関わりを嫌っている訳ではない。実際、ネット上での友人とは文面では勿論、ボイスチャットでも滞りなく会話が出来るらしい。

「……ネットの人は……僕と同じで、その……リアルな会話苦手な人多いから……僕が上手く喋れなくてもイライラしないし。話題もゲームの話ばっかだから……何話せばいいのか迷ったりしないし。一緒にゲームしてくれたり、効率のいい周回とかキャラ性能論議とかばっかだから……新しい発見とかあって楽しい」

 ボソボソと教えてもらい、とりあえず太陽も同じゲームを始めた。概ね楽しく感じたし、一緒にプレイすると目に見えて距離が縮まったので正解だったと思う。


 様々な問題を経て心も体も通じ合った今だからこそ理解が深まっているが、その人にとっての正解が初めは全くわからなかった。
 その人と太陽は趣味も嗜好も共通するものがなかった。
 理解の及ばない問題に当たった時、太陽が選ぶのは昔から変わらない。周りの友人に相談するのだ。
 正しい人間関係を築けている太陽は彼らに悩みを相談されれば自分の考えつく答えを惜しみなく提案する。逆もしかりだ。

「とにかく仲良くなるしかないだろ」
「何でもいいから話してみろって」

 その人――話したこともない同性を好きになったと告白しても、驚かれはすれど蔑みはなかった。皆難しい顔をしてとりあえずこれだろうと背中を押す。
 面識も取っ掛かりもない。ゼロから踏み出した一歩が講義で隣に座っていいか尋ねること。それを繰り返し世間話をしてみること。
 それらの積み重ねは無駄ではなく、いつの間にか太陽が彼の隣の席に座ることは当たり前になったし、一方的に近かった会話は返答が増えた。
 清水の舞台から飛び降りるような、一世一代の心で挑んだ告白が上手くいった時。格好悪い所は見せたくないと平静を装うのが難しい程、太陽の心は喜んだ。
 彼の前では跳ねてしまいそうな足を落ち着けていたが、その日帰宅した太陽は友人達へ告白の成功と今までの感謝をメッセージアプリで伝えまくって奇声を上げて喜んでお隣から苦情の壁ドンを貰ったがそんなこと気にならない。
 メッセージの返信はあったが、翌日の大学内でも友人達は良かったなと祝ってくれた。ご満悦で頷く太陽の顔を見て彼らも笑ってくれる。
 しばらくは友人達と会うと決まって太陽に恋人が出来た話になり、しばらくすると他の話へ流れていく。
 その日もカフェテリアの隅で太陽の恋人の話になった。

「まさか太陽が本当に付き合うとは思ってなかったなー」
「上手くやったじゃん」
「まぁね」

 付き合いに漕ぎ着けるとは思ってなかった。そんなニュアンスだった。

「結構簡単だったなぁ」

 生まれてから誰かに告白したことがなく。そもそも自分から相手に好かれようと動いたことのなかった太陽にとって、同性の想い人に好かれようと行動するのは未知だった。
 告白も上手くいくとはあまり思っていなかった。
 それがトントン拍子で進んでいったものだから、本当にそう思ってしまっただけだった。
 泣きながら罰ゲームか何かだったんだろうとか、からかっていたんだろうとか。話は聞いていたんだぞと怒る彼から全てを聞いた時、太陽はありのままにそう話した。そうでしかないのだから。



「あのね仁。罰ゲームなら告白オッケーされた瞬間にバラすって。ヤれるかまでが賭けなら寸前で終わるでしょ。罰ゲームで男とヤるのは無理だよ」
「あひっ……あっ……あぅ……」

 不本意そうに答える太陽に対し、泣いて詰ってきた彼――仁は気持ち良さそうに喘いでいる。
 付き合い始めてからというもの、健全な青年らしく恋人とセックスしたいと思うことは自然だった。男同士の性行為を調べて準備を進め、どうやって誘おうかと考えていた所、仁の方から太陽の家に行きたいと言い出した。
 チャンスだった。自分でも強引だとは思ったが欲望には勝てず、驚いて嫌がる仁の体を拓いていく。
 最終的に合意を取り付ければいい、そう思っていたら可愛く従い始めた仁が自分の鞄の中にゴムが入っていると言い出した。
 一瞬、何を言われたかわからなかった。言葉が頭に染み込んで理解すると、駄目だった。
 コミュニケーション能力が低くて初で奥手な仁がゴムを用意して、太陽の家に行きたいと言った。
 仁も太陽との行為を望んでいたのだと思うと歯止めがきかず、求めるままに解した孔に陰茎を突き入れ、腰を振って奥を突き叩く。少しでも深く、彼の中へ入り込むように。
 獣のように絡み合い、ひたすら快楽を求めて体を繋げた。仁の体を味わい尽くしたいという欲望と、仁が自分がいなければ生きていけない体になればいいという願望のままに。
 呪いのようなねだり言葉を言わせ満足感に包まれる太陽に、正気の欠片を取り戻した仁は泣いて詰った。
 先日のカフェテリアで友人達と共に自分をバカにしていただろう。交際は罰ゲームかからかいの類いなのだろう。
 回転の速い頭が事情を察し、誤解だと弁明する前に仁は爆弾を投げ付けた。

「さっきの写真……消して。……別れる。もう日野くんの顔なんて……見たく、ない」


「おひっ♡ おっおっお゛ぉっ♡ んぉほっ♡ あ゛ぁ~~……いやっ♡ もうやだぁっ♡」

 誤解だと言い聞かせながら再び仁を犯す。孔の奥までほじくられ、緩く勃ったかわいい陰茎から透明な液体を吐き出しながら喘ぐ仁も可愛かった。

「仁はさぁ、オレが罰ゲームとかのために男抱くような奴だと思ってんの?」
「んひぃぃぃいっ♡ しょこだぇっ♡ ぎもち゛っ……んぐぅ……んんんんんっ♡」

 まともな返事も出来ず甘ったれた喘ぎ声しか出せない口を塞ぐ。暴れる舌を自分のもので押さえ付けると媚びを売るようにズリズリと擦り付けられる。
 太陽を求めるように、仁の両腕が肩口に絡み付いてくる。誘い込みが上手く出来た褒美にすっかり起ち上がった乳首を思い切り潰してやると塞がった口内で悲鳴を上げて喜んだ。
 太陽の腰に纏わり付く両足の媚びた動きが仁の悦びを物語っている。
 へこへこと腰を動かして太陽の肉棒を少しでも気持ちのいい所へ当てようと、太陽を使って快楽を得ようとしている。
 もっとそうなればいい。
 常日頃から太陽のことばかり考えて、太陽に愛されなければ疼きの止まらない体になればいい。
 太陽の愛の言葉がなければ心臓が止まるような痛みを覚えればいい。
 太陽がそうなのだから、仁もそうなるべきなのだ。

「仁、好き。愛してる。仁がいなきゃ生きてけない。ずっと一緒にいてね♡」
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