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Q.◯◯ゲージ
その日仁が目を覚まし、傍らに眠る男を探すとおかしなものが映り込んだ。えっ、と声を上げると隣から眠たげな呻きが聞こえてくる。
「……仁、どうしたのぉ……?」
眠気から瞬きを繰り返しながら見つめてくるのは仁の恋人である太陽で、二人して眠っているのは太陽のセミダブルベッドだ。大の男二人で寝るには狭いそれに、仁は太陽に抱き込まれるようにして寝る。彼の部屋に泊まる時はいつもそう決まっていた。
そんなことは今はどうでもいい。仁の頭を混乱させるのは仁の目に現実にはありえないものが映り込んできたからだ。
まるでゲーム画面のように、太陽の頭上に配置されたおかしなメーターゲージ。その中を満たす毒々しいパッションピンクが示す値は何なのか。というか何故こんなものが見えるのか。
「今日のデート、そんなに楽しみなんだ?」
眠気が覚めてきたのか愉しげな笑みを滲ませた太陽に、わざわざ否定をする気もなく頷いておく。機嫌を損ねると何をされるかわからない。
「オレも楽しみ~♡ 今日はいっぱい遊ぼうね♡」
居酒屋でバイトをしている太陽だが、今日は土曜だというのにシフトが入っていないらしい。休みだから一日一緒に過ごそうと誘われれば仁に逆らう理由もなく、昨日は大学が終わるとそのまま太陽の部屋へ泊まった。遊びに出掛けたいからと体を繋ぐことはなく、ただ太陽の分厚い胸板に包まれて一緒に寝るだけの時間が、仁は結構、かなり、とても好きだ。
「今日はどこ行くの?」
「オレは仁と一緒ならどこでもいいんだけど」
「ええ……あ、なら映画行きたい」
演技派と名高い俳優陣ばかりを起用したコメディ映画が話題を呼んでいる。個性的な登場人物達による噛み合わないストーリーとそれを演じる俳優達の怪演のマッチングが素晴らしいとリアルでもネットでも評価が高い。あまり映画を見るタイプではない仁でも見に行ってみようかと思うくらいだ。
「あれね。オレもちょっと見てみたかったかも。なら映画行ってご飯食べて、その後はさぁ」
「後は?」
「オレの行きたいとこでいい?」
仁の映画に付き合ってくれるのなら太陽の行きたい場所に付き合うべきだ。そう思って迷いなく頷く。
会話の間、頭上のゲージは微塵も変動しなかった。
おかしなゲージは太陽の頭上にのみ表示された。
起きてから向かった洗面台の鏡には仁のとぼけた顔しか映らない。というのに「離れたくなーい♡」と後ろから抱き着いてきた太陽を映した途端、鏡越しにもゲージが見えた。
まじまじと鏡を見つめる仁に何かあったのかと尋ねてくる。鏡の中のゲージを指で示し、これが見えるか聞き返す。
「え? んー? 鏡汚れてた? ごめん、また掃除しとくね」
「……あ、いや。気のせいみたい」
ゲージは仁にしか見えていない。一つわかったことだった。
身支度を整えて映画館へ向かう。道すがら多くの人を見たものの、ゲージがあるのは太陽だけだった。
仁と並んで歩く顔は溶けそうなくらい緩みきっている。本人に聞けばどうせ「仁と一緒だから♡」と返ってくるのだろう。ご機嫌な男だ。
(……機嫌のゲージなのかも。僕と一緒だからずっと満タンなんじゃないか?)
自惚れた考えに見えるが、実際その通りだ。大好きな恋人と一緒にいられるだけで太陽の機嫌は最高に良くなる。
それが正解な気がして、さらに改めて数値化された太陽の機嫌(仮)を認識して、仁は何だか気分が良くなった。太陽は自分がいるだけでいいと思ってくれている(仮定)のだ。
「太陽」
「ん?」
「今日、映画の後。どこに行くのか知らないけど、なるべく何でもしてあげるね」
返事はなかった。けれど発言に対して必ずレスポンスがあるとは思っていない仁は、無言の了承だろうと受け取った。
太陽の頭上に浮かぶゲージが数秒不気味な振動を起こしたことなど知らず、映画館へ向かった。
映画は想像以上に面白かった。主演を務めた俳優の熱演に引き込まれ、脇を固める演技派達の怪演に時に笑い時に背筋を凍らせる。
「面白かったね」
明るくなった上映室で座席から立ち上がり、隣に座っていた太陽へ声を掛ける。同じく立ち上がった彼を見上げると、うん、と頭が上下した。
開店してすぐの時間のものを見たので今の時刻はちょうど昼時だ。何処か食べに行くか聞くと、これには頭を横に振られた。
他の場所に早く行きたいと言われたら仁は黙って頷き、肩を抱かれる。人目を気にして解こうとしてもスポーツや筋トレが好きな太陽の力は強く、インドアもやし青年の仁では敵わない。
連れられるまま歩き、向かった先は歓楽街の裏路地に聳えるホテル街だった。ちらほら見えるのは若い男女連ればかりで、男同士の仁達に奇異の視線が向けられる。
太陽は気にした素振りもない。仁の方が慌てて何処かへ入ろうと、一番近くのホテルへ太陽を引っ張り込んだ。幸い受付は無人で他の客と会うこともなく、いつの間にか太陽がタッチパネルを操作して部屋を決めている。
すぐ横に設置された台の上に音を立てて落ちてきた鍵を拾い、太陽が振り向く。
「行こ」
ようやく喋った太陽の顔は、不自然な程ににこやかに笑っている。場所が違えば爽やかな好青年でしかないのに、仁には恐怖に似た感情が芽生えた。
手をひかれ、ボタンを押されたエレベーターの扉が開く。狭い箱の中へ押し込まれ、太陽の指が目的の階のボタンを押す。扉が閉まるまで、動き出すまで、到着を知らせるように扉が開くまで。短いようで長い時間。仁の口は塞がった。溶けた顔の男が距離を詰め、唇き吸い付いて来たからだ。
仁の口内に肉厚の舌が入り込み、仁の唾液を舐めたり吸ったり好き勝手に暴れていく。ようやく口を離されるが、散々吸い付くされた唇からは何も出てこない。声も、よく小説の中に登場する銀の糸とやらも。
真っ赤な顔で必死に呼吸をする仁と違い、太陽は涼しい顔で仁の体を支える。背に腕を回して腰を掴み「大丈夫?」などと労りの言葉を掛けてくる。誰のせいだと睨むととても嬉しそうに微笑む。
自分のせいで仁に何か影響があるのならこれ以上に嬉しいことはない。いつだったか、そう言っていた。
エレベーターを出て廊下を進み、一つの扉の前で太陽の足が止まった。仁を支えていない、空いた手でジーンズのポケットを探り、先程受け取った鍵を取り出す。扉の鍵穴に問題なく入り込んだそれを回せば小気味良い音と共に開く。
安っぽい外装と同じく、安っぽい内装の、大きなベッドやソファーがあるだけの部屋が見えた。それくらいしか必要なかった。
「あっ、あっ、いっ、ひぎっ……やだっ……ぁあっ……」
「ほんとはね、もうちょっと遠出して……違うホテル行きたかったんだよ。室内プールとかウォータースライダーとか、何か色々ついてるようなとこ」
面白そうでしょ、と足しながら太陽の指が仁の孔を出入りする。部屋に入るなり裸に剥かれた仁は狭いシャワールームへ押し込まれ、同じく裸になった太陽に体を念入りに洗われた。
タイルの壁に手をつき悶える体は、後ろから密着する男にいいように扱われる。耳朶や孔を舐められ、いやらしい水音が耳から脳へ響く。空いた手に乳首をひっかかれ、摘ままれて鳴く。
好き勝手に動く手は芯を持った淫茎を握り、竿を優しく擦る。亀頭を、先走りの滲む鈴口を優しく撫で回す。
その間も尻は変わらずほじくられるし、耳元で男が何か言っている。仁にはもう何一つわからなかった。
いつの間にか体が横たえられていた。少し硬いけれど広いマットレスは安いラブホテルのものだ。家でも彼の部屋でもない。
ぼやけた視界に見慣れぬ天井が映っていたが、遮るように太陽が入り込む。仰向けに寝る体を跨ぐように覆い被さってくる。その頭上には相変わらず毒々しいカラーゲージが浮いていた。
「……たいよう」
ん、と言葉を待つ笑顔は興奮を隠している。腹の上に垂れてくる、我慢のきかない雄が教えてくれる。
何故こんな時にそんなことを言ってしまうのか。上手く頭が働いていないからだ。
「プール。こんどいこう」
面白そうだと言っていた。行きたいのなら仁と行けばいい。唐突に思い出してよく考えもせず口に出した。
太陽の笑顔が消え失せた。無表情の頭の上のゲージにも変化があった。
パリーンと音を立てて、ゲージを満たしていたショッキングピンクが集約されていく。小さな丸いピンク玉になったそれはゲージの左下にくっついた。
何もなくなったゲージは一瞬で鮮やかなオレンジに色付いた。
ゲージの動きに呆けている顔に唇が降ってくる。耳元で何度も愛を囁かれる。至る所に吸い付かれ、足元へ下がっていった太陽の手によって両足を割られ尻を上げられ、足の間に入り込んだ彼の硬く育った雄が柔らかくほぐれた孔に擦り付けられた。
「んんっ……んんんんんんっ! んーっ! っん……ん……」
再び覆い被さってくる太陽に口を塞がれながら、肥えた亀頭が侵入してくる。迎え入れる肉襞をごりごりと抉り、痛みを越えた快感に蠢く胎に雄が埋め込まれていく。
「あああああっ!! あっ……ぬかないでぇっ……あっ……うう、ああ……」
仁の胎の中におさまった雄は、引かれる腰に従いすぐに抜け出ていく。再び肉襞を擦られ、解放された口が勝手に動き、逃げ出す男を咎めた。
「……抜いてほしくないんだ?」
意地の悪い問いかけをしながら、腰のうごきを止める。孔の中に亀頭だけが残っていた。あと少し逃げられてしまえば仁の中には何もなくなってしまう。
「やだ……いや……戻して、気持ちよくして……」
太くて硬くて長い太陽を胎の中に埋め込まれるとそれだけで満たされる。快感は勿論だけれど、心の充足が大きい。懸命に男を取り戻そうとする仁は、これまで散々教え込まれたねだり言葉を惜しみなく口にする。
エロ漫画のヒロインのような台詞を次から次へと吐き出す仁を見つめる顔は、紅潮はそのままに段々と表情が消えていく。パリーンと、ゲージが変わる音が聞こえた気がした。
「……んぇっ?」
間抜けな声を上げたのを自覚して目を覚ます。数度の瞬きの後、しっかりとした視界に見えるのはすっかり過ごし慣れた太陽の部屋で、狭いベッドの上で太陽に抱き込まれるようにして眠っていた。いつものように。
「……んん……仁……起きたの?」
「えっ、うん。起きた」
へんてこな夢を見ていた気がして、寝起きの筈だというのに妙に意識が冴えている。どんな夢を見ていたのか思い出しているうちに太陽も目を覚まし始めたらしい。
「んー……いつもよりは遅いけど……まだ早い……あっ、そっかぁ。仁、今日のデート楽しみで起きちゃったんだね♡」
短針が八を示す時計を見ながら、自分の思考で起き上がった太陽が可愛い可愛いと頬擦りしてくる。
「……デート」
「今日オレ完全オフだから一日デートしよ♡ って約束したじゃん。だから昨日泊まってくれたんでしょ」
居酒屋でバイトをしている太陽の土日は殆どシフトが入っている。今日は土曜日だというのに珍しく休みで、一日一緒にいようと約束したのだ。
「……はて?」
何か既視感を覚えるようなそうでもないような。不思議な顔をする仁に太陽がデートプランを語り始める。
大好きな恋人と一日一緒にいられることを考え、幸せそうに顔を溶かす男には、何もおかしなものは浮いていない。仁の目にはだらしない顔の太陽が映るだけだった。
A.発情(興奮)ゲージ
「……仁、どうしたのぉ……?」
眠気から瞬きを繰り返しながら見つめてくるのは仁の恋人である太陽で、二人して眠っているのは太陽のセミダブルベッドだ。大の男二人で寝るには狭いそれに、仁は太陽に抱き込まれるようにして寝る。彼の部屋に泊まる時はいつもそう決まっていた。
そんなことは今はどうでもいい。仁の頭を混乱させるのは仁の目に現実にはありえないものが映り込んできたからだ。
まるでゲーム画面のように、太陽の頭上に配置されたおかしなメーターゲージ。その中を満たす毒々しいパッションピンクが示す値は何なのか。というか何故こんなものが見えるのか。
「今日のデート、そんなに楽しみなんだ?」
眠気が覚めてきたのか愉しげな笑みを滲ませた太陽に、わざわざ否定をする気もなく頷いておく。機嫌を損ねると何をされるかわからない。
「オレも楽しみ~♡ 今日はいっぱい遊ぼうね♡」
居酒屋でバイトをしている太陽だが、今日は土曜だというのにシフトが入っていないらしい。休みだから一日一緒に過ごそうと誘われれば仁に逆らう理由もなく、昨日は大学が終わるとそのまま太陽の部屋へ泊まった。遊びに出掛けたいからと体を繋ぐことはなく、ただ太陽の分厚い胸板に包まれて一緒に寝るだけの時間が、仁は結構、かなり、とても好きだ。
「今日はどこ行くの?」
「オレは仁と一緒ならどこでもいいんだけど」
「ええ……あ、なら映画行きたい」
演技派と名高い俳優陣ばかりを起用したコメディ映画が話題を呼んでいる。個性的な登場人物達による噛み合わないストーリーとそれを演じる俳優達の怪演のマッチングが素晴らしいとリアルでもネットでも評価が高い。あまり映画を見るタイプではない仁でも見に行ってみようかと思うくらいだ。
「あれね。オレもちょっと見てみたかったかも。なら映画行ってご飯食べて、その後はさぁ」
「後は?」
「オレの行きたいとこでいい?」
仁の映画に付き合ってくれるのなら太陽の行きたい場所に付き合うべきだ。そう思って迷いなく頷く。
会話の間、頭上のゲージは微塵も変動しなかった。
おかしなゲージは太陽の頭上にのみ表示された。
起きてから向かった洗面台の鏡には仁のとぼけた顔しか映らない。というのに「離れたくなーい♡」と後ろから抱き着いてきた太陽を映した途端、鏡越しにもゲージが見えた。
まじまじと鏡を見つめる仁に何かあったのかと尋ねてくる。鏡の中のゲージを指で示し、これが見えるか聞き返す。
「え? んー? 鏡汚れてた? ごめん、また掃除しとくね」
「……あ、いや。気のせいみたい」
ゲージは仁にしか見えていない。一つわかったことだった。
身支度を整えて映画館へ向かう。道すがら多くの人を見たものの、ゲージがあるのは太陽だけだった。
仁と並んで歩く顔は溶けそうなくらい緩みきっている。本人に聞けばどうせ「仁と一緒だから♡」と返ってくるのだろう。ご機嫌な男だ。
(……機嫌のゲージなのかも。僕と一緒だからずっと満タンなんじゃないか?)
自惚れた考えに見えるが、実際その通りだ。大好きな恋人と一緒にいられるだけで太陽の機嫌は最高に良くなる。
それが正解な気がして、さらに改めて数値化された太陽の機嫌(仮)を認識して、仁は何だか気分が良くなった。太陽は自分がいるだけでいいと思ってくれている(仮定)のだ。
「太陽」
「ん?」
「今日、映画の後。どこに行くのか知らないけど、なるべく何でもしてあげるね」
返事はなかった。けれど発言に対して必ずレスポンスがあるとは思っていない仁は、無言の了承だろうと受け取った。
太陽の頭上に浮かぶゲージが数秒不気味な振動を起こしたことなど知らず、映画館へ向かった。
映画は想像以上に面白かった。主演を務めた俳優の熱演に引き込まれ、脇を固める演技派達の怪演に時に笑い時に背筋を凍らせる。
「面白かったね」
明るくなった上映室で座席から立ち上がり、隣に座っていた太陽へ声を掛ける。同じく立ち上がった彼を見上げると、うん、と頭が上下した。
開店してすぐの時間のものを見たので今の時刻はちょうど昼時だ。何処か食べに行くか聞くと、これには頭を横に振られた。
他の場所に早く行きたいと言われたら仁は黙って頷き、肩を抱かれる。人目を気にして解こうとしてもスポーツや筋トレが好きな太陽の力は強く、インドアもやし青年の仁では敵わない。
連れられるまま歩き、向かった先は歓楽街の裏路地に聳えるホテル街だった。ちらほら見えるのは若い男女連ればかりで、男同士の仁達に奇異の視線が向けられる。
太陽は気にした素振りもない。仁の方が慌てて何処かへ入ろうと、一番近くのホテルへ太陽を引っ張り込んだ。幸い受付は無人で他の客と会うこともなく、いつの間にか太陽がタッチパネルを操作して部屋を決めている。
すぐ横に設置された台の上に音を立てて落ちてきた鍵を拾い、太陽が振り向く。
「行こ」
ようやく喋った太陽の顔は、不自然な程ににこやかに笑っている。場所が違えば爽やかな好青年でしかないのに、仁には恐怖に似た感情が芽生えた。
手をひかれ、ボタンを押されたエレベーターの扉が開く。狭い箱の中へ押し込まれ、太陽の指が目的の階のボタンを押す。扉が閉まるまで、動き出すまで、到着を知らせるように扉が開くまで。短いようで長い時間。仁の口は塞がった。溶けた顔の男が距離を詰め、唇き吸い付いて来たからだ。
仁の口内に肉厚の舌が入り込み、仁の唾液を舐めたり吸ったり好き勝手に暴れていく。ようやく口を離されるが、散々吸い付くされた唇からは何も出てこない。声も、よく小説の中に登場する銀の糸とやらも。
真っ赤な顔で必死に呼吸をする仁と違い、太陽は涼しい顔で仁の体を支える。背に腕を回して腰を掴み「大丈夫?」などと労りの言葉を掛けてくる。誰のせいだと睨むととても嬉しそうに微笑む。
自分のせいで仁に何か影響があるのならこれ以上に嬉しいことはない。いつだったか、そう言っていた。
エレベーターを出て廊下を進み、一つの扉の前で太陽の足が止まった。仁を支えていない、空いた手でジーンズのポケットを探り、先程受け取った鍵を取り出す。扉の鍵穴に問題なく入り込んだそれを回せば小気味良い音と共に開く。
安っぽい外装と同じく、安っぽい内装の、大きなベッドやソファーがあるだけの部屋が見えた。それくらいしか必要なかった。
「あっ、あっ、いっ、ひぎっ……やだっ……ぁあっ……」
「ほんとはね、もうちょっと遠出して……違うホテル行きたかったんだよ。室内プールとかウォータースライダーとか、何か色々ついてるようなとこ」
面白そうでしょ、と足しながら太陽の指が仁の孔を出入りする。部屋に入るなり裸に剥かれた仁は狭いシャワールームへ押し込まれ、同じく裸になった太陽に体を念入りに洗われた。
タイルの壁に手をつき悶える体は、後ろから密着する男にいいように扱われる。耳朶や孔を舐められ、いやらしい水音が耳から脳へ響く。空いた手に乳首をひっかかれ、摘ままれて鳴く。
好き勝手に動く手は芯を持った淫茎を握り、竿を優しく擦る。亀頭を、先走りの滲む鈴口を優しく撫で回す。
その間も尻は変わらずほじくられるし、耳元で男が何か言っている。仁にはもう何一つわからなかった。
いつの間にか体が横たえられていた。少し硬いけれど広いマットレスは安いラブホテルのものだ。家でも彼の部屋でもない。
ぼやけた視界に見慣れぬ天井が映っていたが、遮るように太陽が入り込む。仰向けに寝る体を跨ぐように覆い被さってくる。その頭上には相変わらず毒々しいカラーゲージが浮いていた。
「……たいよう」
ん、と言葉を待つ笑顔は興奮を隠している。腹の上に垂れてくる、我慢のきかない雄が教えてくれる。
何故こんな時にそんなことを言ってしまうのか。上手く頭が働いていないからだ。
「プール。こんどいこう」
面白そうだと言っていた。行きたいのなら仁と行けばいい。唐突に思い出してよく考えもせず口に出した。
太陽の笑顔が消え失せた。無表情の頭の上のゲージにも変化があった。
パリーンと音を立てて、ゲージを満たしていたショッキングピンクが集約されていく。小さな丸いピンク玉になったそれはゲージの左下にくっついた。
何もなくなったゲージは一瞬で鮮やかなオレンジに色付いた。
ゲージの動きに呆けている顔に唇が降ってくる。耳元で何度も愛を囁かれる。至る所に吸い付かれ、足元へ下がっていった太陽の手によって両足を割られ尻を上げられ、足の間に入り込んだ彼の硬く育った雄が柔らかくほぐれた孔に擦り付けられた。
「んんっ……んんんんんんっ! んーっ! っん……ん……」
再び覆い被さってくる太陽に口を塞がれながら、肥えた亀頭が侵入してくる。迎え入れる肉襞をごりごりと抉り、痛みを越えた快感に蠢く胎に雄が埋め込まれていく。
「あああああっ!! あっ……ぬかないでぇっ……あっ……うう、ああ……」
仁の胎の中におさまった雄は、引かれる腰に従いすぐに抜け出ていく。再び肉襞を擦られ、解放された口が勝手に動き、逃げ出す男を咎めた。
「……抜いてほしくないんだ?」
意地の悪い問いかけをしながら、腰のうごきを止める。孔の中に亀頭だけが残っていた。あと少し逃げられてしまえば仁の中には何もなくなってしまう。
「やだ……いや……戻して、気持ちよくして……」
太くて硬くて長い太陽を胎の中に埋め込まれるとそれだけで満たされる。快感は勿論だけれど、心の充足が大きい。懸命に男を取り戻そうとする仁は、これまで散々教え込まれたねだり言葉を惜しみなく口にする。
エロ漫画のヒロインのような台詞を次から次へと吐き出す仁を見つめる顔は、紅潮はそのままに段々と表情が消えていく。パリーンと、ゲージが変わる音が聞こえた気がした。
「……んぇっ?」
間抜けな声を上げたのを自覚して目を覚ます。数度の瞬きの後、しっかりとした視界に見えるのはすっかり過ごし慣れた太陽の部屋で、狭いベッドの上で太陽に抱き込まれるようにして眠っていた。いつものように。
「……んん……仁……起きたの?」
「えっ、うん。起きた」
へんてこな夢を見ていた気がして、寝起きの筈だというのに妙に意識が冴えている。どんな夢を見ていたのか思い出しているうちに太陽も目を覚まし始めたらしい。
「んー……いつもよりは遅いけど……まだ早い……あっ、そっかぁ。仁、今日のデート楽しみで起きちゃったんだね♡」
短針が八を示す時計を見ながら、自分の思考で起き上がった太陽が可愛い可愛いと頬擦りしてくる。
「……デート」
「今日オレ完全オフだから一日デートしよ♡ って約束したじゃん。だから昨日泊まってくれたんでしょ」
居酒屋でバイトをしている太陽の土日は殆どシフトが入っている。今日は土曜日だというのに珍しく休みで、一日一緒にいようと約束したのだ。
「……はて?」
何か既視感を覚えるようなそうでもないような。不思議な顔をする仁に太陽がデートプランを語り始める。
大好きな恋人と一日一緒にいられることを考え、幸せそうに顔を溶かす男には、何もおかしなものは浮いていない。仁の目にはだらしない顔の太陽が映るだけだった。
A.発情(興奮)ゲージ
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