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風流先生 2日目 フィリピンでの話
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風流先生 2日目 フィリピンでの話
登場人物
風流先生(58)
自宅の一室で生徒に勉強を教えてる塾講師。
高木結(ゆい)(20)
風流先生のところでアルバイトしている女子大生。
1.
「先生、終わりました。生徒さん、みんな帰りました。」
「お疲れ様。ピザがある、食べなさい。」
先生はピザを手に、プレモルを飲んでいる。
縁側に置かれているピザは、ピザハットの『おいしみ』のMサイズだ。
「ありがとうございます。いただきます。」
「これも一緒にどうかね?」
と、缶ビールをかざして見せた。私は、いただくことにした。
先生はいつも、授業が終わると、こうしたちょっとしたものをご馳走してくれる。
私がここで働きだして、今日で4回目だ。
始めてきたときに咲き始めた梅の花はもうだいぶ散って、今度は隣の桜がちらりほらりと咲き始めている。春が来た。
先生はY市のM駅近くにある自宅兼教室で、塾をやっている。
自宅兼教室は中古の一軒家で、M駅から5分ぐらい歩いたところにあった。
もちろん中古だから新しくはないけれど、2階建てで、二部屋を教室として使っても一人暮らしの先生には広すぎる。真ん中の和室と縁側からはちょっとした庭が広がっている。
先生は夏になったら、ここで、バーベキューをやろうと言っている。楽しみだ。
授業後の食事はおいしい。
「先生は、ずっと塾の先生ですが?」
「基本的にはそうなんだが、気が多くてね、ずいぶんいろんなことをやった」
「たとえば、どんなことですか?」
「フィリピンに1年住んで仕事をしていたことがある」
「フィリピンで、何をしていたんですか?」
先生は、少し笑みを浮かべた。
「じゃあ、フィリピンにいたときの話をしようか。」
先生はそう言った。
2.
「いつ頃のことなんですか?」
「確か、2006年だったと思う。3月から11月ぐらいまで。ネットで『のだめ』を見てたな。」
「向こうでは何を?」
「うん」
そう言って先生はプレモルの缶に口をつけた。
「熊谷さんっていう人がいてね、中国を中心に事業をしてる人でさ、結構の実業家の人がいたんだ。その人から、フィリピンで仕事を始めるから言ってくれないかって頼まれて、会ったんだよ、飯田橋で。」
「へえw」
私はピザをかじった。
「で、僕は向こうで何をすればいいんですか?」
って、僕は聞いたんだ。
飯田橋の喫茶店には、熊谷さんともう一人、僕より少し年上のラフな服装の男の人が来ていた。
ラフな服装の男の人は目玉焼きの乗ったハンバーグをしきりに食べていた。
ところが、熊谷さんもその岩本さんと言う人も、僕の質問には笑顔を見せるばかりで、一向に答えてくれなかった。だから僕はその質問を尋ねることは諦めた。
「で、いつから行けばいいんですか?」
僕がそう聞くと、熊谷さんは、「来週」と言い、言い終えると熊谷さんはコーヒーを口にした。
3.
マニラの空港には女の人が二人で迎えに来ていた。
若い、20代半ばぐらいの人と、その母親ぐらいの年恰好の人だった。
それで、僕は、その人達の車に乗って空港を後にしたんだ。
「よく、そんなわけもわからない人の車に乗りましたね。で、どこに向かったんですか?」
「車で2時間ぐらい走って着いたのは、アンギレスって町でさ、何ていうか、古いアメリカって感じの町なんだよ。昔フィリピンにはスービックってところに米軍の基地があって、そこの人たちが住んでいたところなんだね。ほとんどが空き家って感じの町で、車は、その中の一軒に着いたんだ。」
「中に入ると、山中さんって言う眼鏡をかけた僕より少し若い男の人が出てきて、迎えてくれた。若い女の人は山中さんの奥さんでメリーさんって言った。ハウス、と山中さんたちに呼ばれている、その大きな一軒家の中に入ると、小さく間仕切りされた部屋があって、山中さんに『ここで何をしてるんですか?』って聞くと、日本で聞いてないんですか? って言うから、聞いてません。この部屋で何をするんですか? って言ったら、ライブチャットだっていうんだ。ライブチャット。わかる?」
「え、まあ」
「僕はどうやら、ライブチャットをやる山中さんの手伝いで行かされたんだね。そういや、喫茶店で熊谷さんから『君は確か、コンピューターと英語できたよね』って言われたのをそのとき思い出したよ」
「はあ・・・」
「女の子は8人かぐらいいたかな、その夜はその女の子たちが料理を作ってくれて、僕を歓迎してくれた。その数日後、部屋にコンピューターを入れて、僕が全部セットして仕事が始まったんだ。ただ、幸いと言うか残念と言うか、スタッフもお金を払わないと見れなかったんで、僕は一度も彼女たちの仕事を見ないで終わったけどね」
「歩ける近さのところにショッピングモールがあってその中のレストランのマンゴジュースがおいしかった。従業員の男の人が僕によく話しかけてき手さ、何か、仕事を紹介、手伝ってほしいみたいなことを話していたが、ビジネスの話まで僕は英語ができないので、何も答えられなかった。」
「夜になると、山中さんは家に帰ってしまい、一人でハウスに泊まってる僕は、近くの公園によく行った。」
「危なくないんですか?」
「それが今から考えると、すごく危ないんだ。実はそこが今回の話のオチなんだけど、それでちょっと痛い目に会ったよ。」
「うわ・・・」
「公園にはいつも屋台が出てて、焼き鳥みたいに串に刺した羊の肉を焼いていてさ、そこの店の女の人とご主人でやってて、奥さんは昔日本に行ったことがあるそうで、日本語が上手だった。『日本の食事おいしかったわ、おにぎり、もりそば。なつかしいわ、』なんて言ってた。行って一か月ぐらいたつと日本食が無性に食べたくなって、モールの中のレストランでは日本食ばかり食べていた。コックと知り合いになって、かつ丼とか作ってもらってた。通っているうちに顔なじみになってさ、『キョウ、マグロ、アル』なんて教えてくれた。」
「その公園で、屋台の羊肉を食べながら、南十字星を初めてみた。ダイヤモンドの形に4つ星が並んでるんだよね。綺麗だったなあ・・・」
3.
「仕事はうまく行ったんですか?」
「それがダメだったんだ。当時のフィリピンって、ネットの料金がすごく高くて、採算が合わないことが始めて見てわかったんだ」
「あらあら」
「で、僕がひったくりにあったんだ。」
「え!」
「熊谷さんが僕らの給料に振り込んでくれたお金を下ろしに行った帰り。ハウスの近くの通りで。トライスクルってサイドカーに乗った二人組に。」
「大丈夫だったんですか?」
「バッグに入ってたお金と、中に入ってた僕のパスポートと電子辞書を持ってかれて、僕は鎖骨を折った。で、僕はすぐに帰ってこいと熊谷さんから言われたんだ。」
「はあ・・・」
「それからすぐに誰だかわからない電話が僕にかかってきてさあ。『We are watching you.』」って男の声で言うんだよw」
「我々はお前たちを見ている。こわっ!w」
「実はそのハウス、そういう仕事に使っちゃいけない場所だったんだよ。つまり違法に営業をしてたわけ。これは熊谷さんのリサーチ不足だと思ったよ」
そう言って先生はうれしそうに笑った。
この人は、まだまだ色んな経験をしてる。私はそう思った。
風流先生 2日目 フィリピンでの話 終わり
登場人物
風流先生(58)
自宅の一室で生徒に勉強を教えてる塾講師。
高木結(ゆい)(20)
風流先生のところでアルバイトしている女子大生。
1.
「先生、終わりました。生徒さん、みんな帰りました。」
「お疲れ様。ピザがある、食べなさい。」
先生はピザを手に、プレモルを飲んでいる。
縁側に置かれているピザは、ピザハットの『おいしみ』のMサイズだ。
「ありがとうございます。いただきます。」
「これも一緒にどうかね?」
と、缶ビールをかざして見せた。私は、いただくことにした。
先生はいつも、授業が終わると、こうしたちょっとしたものをご馳走してくれる。
私がここで働きだして、今日で4回目だ。
始めてきたときに咲き始めた梅の花はもうだいぶ散って、今度は隣の桜がちらりほらりと咲き始めている。春が来た。
先生はY市のM駅近くにある自宅兼教室で、塾をやっている。
自宅兼教室は中古の一軒家で、M駅から5分ぐらい歩いたところにあった。
もちろん中古だから新しくはないけれど、2階建てで、二部屋を教室として使っても一人暮らしの先生には広すぎる。真ん中の和室と縁側からはちょっとした庭が広がっている。
先生は夏になったら、ここで、バーベキューをやろうと言っている。楽しみだ。
授業後の食事はおいしい。
「先生は、ずっと塾の先生ですが?」
「基本的にはそうなんだが、気が多くてね、ずいぶんいろんなことをやった」
「たとえば、どんなことですか?」
「フィリピンに1年住んで仕事をしていたことがある」
「フィリピンで、何をしていたんですか?」
先生は、少し笑みを浮かべた。
「じゃあ、フィリピンにいたときの話をしようか。」
先生はそう言った。
2.
「いつ頃のことなんですか?」
「確か、2006年だったと思う。3月から11月ぐらいまで。ネットで『のだめ』を見てたな。」
「向こうでは何を?」
「うん」
そう言って先生はプレモルの缶に口をつけた。
「熊谷さんっていう人がいてね、中国を中心に事業をしてる人でさ、結構の実業家の人がいたんだ。その人から、フィリピンで仕事を始めるから言ってくれないかって頼まれて、会ったんだよ、飯田橋で。」
「へえw」
私はピザをかじった。
「で、僕は向こうで何をすればいいんですか?」
って、僕は聞いたんだ。
飯田橋の喫茶店には、熊谷さんともう一人、僕より少し年上のラフな服装の男の人が来ていた。
ラフな服装の男の人は目玉焼きの乗ったハンバーグをしきりに食べていた。
ところが、熊谷さんもその岩本さんと言う人も、僕の質問には笑顔を見せるばかりで、一向に答えてくれなかった。だから僕はその質問を尋ねることは諦めた。
「で、いつから行けばいいんですか?」
僕がそう聞くと、熊谷さんは、「来週」と言い、言い終えると熊谷さんはコーヒーを口にした。
3.
マニラの空港には女の人が二人で迎えに来ていた。
若い、20代半ばぐらいの人と、その母親ぐらいの年恰好の人だった。
それで、僕は、その人達の車に乗って空港を後にしたんだ。
「よく、そんなわけもわからない人の車に乗りましたね。で、どこに向かったんですか?」
「車で2時間ぐらい走って着いたのは、アンギレスって町でさ、何ていうか、古いアメリカって感じの町なんだよ。昔フィリピンにはスービックってところに米軍の基地があって、そこの人たちが住んでいたところなんだね。ほとんどが空き家って感じの町で、車は、その中の一軒に着いたんだ。」
「中に入ると、山中さんって言う眼鏡をかけた僕より少し若い男の人が出てきて、迎えてくれた。若い女の人は山中さんの奥さんでメリーさんって言った。ハウス、と山中さんたちに呼ばれている、その大きな一軒家の中に入ると、小さく間仕切りされた部屋があって、山中さんに『ここで何をしてるんですか?』って聞くと、日本で聞いてないんですか? って言うから、聞いてません。この部屋で何をするんですか? って言ったら、ライブチャットだっていうんだ。ライブチャット。わかる?」
「え、まあ」
「僕はどうやら、ライブチャットをやる山中さんの手伝いで行かされたんだね。そういや、喫茶店で熊谷さんから『君は確か、コンピューターと英語できたよね』って言われたのをそのとき思い出したよ」
「はあ・・・」
「女の子は8人かぐらいいたかな、その夜はその女の子たちが料理を作ってくれて、僕を歓迎してくれた。その数日後、部屋にコンピューターを入れて、僕が全部セットして仕事が始まったんだ。ただ、幸いと言うか残念と言うか、スタッフもお金を払わないと見れなかったんで、僕は一度も彼女たちの仕事を見ないで終わったけどね」
「歩ける近さのところにショッピングモールがあってその中のレストランのマンゴジュースがおいしかった。従業員の男の人が僕によく話しかけてき手さ、何か、仕事を紹介、手伝ってほしいみたいなことを話していたが、ビジネスの話まで僕は英語ができないので、何も答えられなかった。」
「夜になると、山中さんは家に帰ってしまい、一人でハウスに泊まってる僕は、近くの公園によく行った。」
「危なくないんですか?」
「それが今から考えると、すごく危ないんだ。実はそこが今回の話のオチなんだけど、それでちょっと痛い目に会ったよ。」
「うわ・・・」
「公園にはいつも屋台が出てて、焼き鳥みたいに串に刺した羊の肉を焼いていてさ、そこの店の女の人とご主人でやってて、奥さんは昔日本に行ったことがあるそうで、日本語が上手だった。『日本の食事おいしかったわ、おにぎり、もりそば。なつかしいわ、』なんて言ってた。行って一か月ぐらいたつと日本食が無性に食べたくなって、モールの中のレストランでは日本食ばかり食べていた。コックと知り合いになって、かつ丼とか作ってもらってた。通っているうちに顔なじみになってさ、『キョウ、マグロ、アル』なんて教えてくれた。」
「その公園で、屋台の羊肉を食べながら、南十字星を初めてみた。ダイヤモンドの形に4つ星が並んでるんだよね。綺麗だったなあ・・・」
3.
「仕事はうまく行ったんですか?」
「それがダメだったんだ。当時のフィリピンって、ネットの料金がすごく高くて、採算が合わないことが始めて見てわかったんだ」
「あらあら」
「で、僕がひったくりにあったんだ。」
「え!」
「熊谷さんが僕らの給料に振り込んでくれたお金を下ろしに行った帰り。ハウスの近くの通りで。トライスクルってサイドカーに乗った二人組に。」
「大丈夫だったんですか?」
「バッグに入ってたお金と、中に入ってた僕のパスポートと電子辞書を持ってかれて、僕は鎖骨を折った。で、僕はすぐに帰ってこいと熊谷さんから言われたんだ。」
「はあ・・・」
「それからすぐに誰だかわからない電話が僕にかかってきてさあ。『We are watching you.』」って男の声で言うんだよw」
「我々はお前たちを見ている。こわっ!w」
「実はそのハウス、そういう仕事に使っちゃいけない場所だったんだよ。つまり違法に営業をしてたわけ。これは熊谷さんのリサーチ不足だと思ったよ」
そう言って先生はうれしそうに笑った。
この人は、まだまだ色んな経験をしてる。私はそう思った。
風流先生 2日目 フィリピンでの話 終わり
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