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第三話「今までと、これからと」
二.敗北と未来
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結局、大東中学との練習試合は一勝もできずに終わった。
第一試合はアツシが先にやられてしまったので、残ったエイジは二人がかりでコツコツと体力を削られ、撃沈。
第二試合はアツシ達が有利クラスを引き当てたものの、相手が逃げの一手に出て、粘りに粘って時間切れ。体力の残量勝負になったが、相手が少しだけ上回っていたので、やはりアツシ達の負け。
そして第三試合は、なんと相手方が「魔法使い」二人という珍しすぎる組み合わせで出撃してきた。今までの「対人戦」でも、一度もお目にかかったことがないコンビだ。
相手方に「軽戦士」か「短弓使い」が一人でもいれば、下手をすると二対一でも負けてしまう。「魔法使い」はそれくらい当たり外れが大きいクラスなので、相棒が他のクラスを選択して弱点を補うのがセオリーだ。
そして、アツシ達はまさしく「軽戦士」と「短弓使い」の組み合わせだったので、絶対的優位に立てたはずなのだが……連敗していたことで、弱気になっていたのだろう。
「あちらには何か作戦があるのかも」とおっかなびっくりに相手の様子を探っていたところを、見事な連係プレイによってあっさりとやられてしまった。
まさに完敗だった。
***
『ありがとうございました!』
再び大東中学の「ホーム」へ転送され四人が一堂に会したところで、そろって一礼をする。試合後のマナーというやつだ。こういうところは、実に「体育会系」じみている。
「すみません。完璧に胸を借りる形になってしまって……」
エイジが渡辺と握手を交わしながらつぶやく。声に元気がないが、それも仕方ないだろう。
強豪相手とは言え、アツシもエイジも、もう少しまともな戦いになると思っていたのだ。
けれども――。
『いやいや、二人ともまだ「ダブルス!」を始めて二ヶ月も経っていないんでしょう? それであれだけ動けるんだから、もっと胸を張っていいと思いますよ』
『そうですよ! 私たちが勝ったのは、単純に経験の差です。二人の判断の早さや弓の腕前は、初心者離れしてましたよ! 多分ですけど、オンライン対戦の成績はそれほど悪くないのでは?』
渡辺も樋口も、そんなうれしいことを言ってくれた。おせじを言っている感じではない。
『二人に足りないのは、おそらく経験だけです。大会開始まで時間がありますから、もっとオンライン対戦で経験を積むといいでしょう。あと、「エル・ムンド」のネットワークからなら、去年の大会の動画とかも観られますから、そちらもチェックするととても勉強になりますよ』
その後も、二人はアツシ達に様々なアドバイスをしてくれた。
他校の情報を集める方法や効率の良いトレーニング方法。「ダブルス!」で定番となっている戦法などなど。
「練習試合」というよりも、何かの講義を受けている感じだった。
アツシ達にこんなに親切にしても、大東中学にはメリットはないはずだ。それなのに「何故?」という疑問が、アツシ達の中に浮かんだ。
不思議に思ったアツシは、思わずストレートにそのことについて尋ねてみた。すると――。
『……実はね、僕も樋口も、君たちと同じで元々は他のスポーツをやっていたんだ。樋口はバドミントンで、僕は野球。でも二人とも、色々と事情があって元のスポーツができなくなってね。悔しい思いをしていた時に出会ったのが、eスポーツだったんだ。だから、君たちのことは他人とは思えなくてね。だからその……がんばって!』
***
渡辺達と別れ、アツシ達はフルダイブの世界から現実へと戻ってきた。
けれども、アツシもエイジも「エル・ムンド」のシートに座ったまま、しばらく動けずにいた。
「いい人たちだったな」
「……ああ」
「オレ達、強くならないとな」
「……ああ!」
自分達の今の強さはよく分かった。まだ自分達が「ダブルス!」のセオリーや戦術を何も知らないということも。経験が圧倒的に不足しているということも。
けれども、「何が足りないのか」が明確になったことで、二人の闘志に火が付いていた。
今までおぼろげだった「全国」の姿が、ほんの少しだけはっきりとした気がした。
第一試合はアツシが先にやられてしまったので、残ったエイジは二人がかりでコツコツと体力を削られ、撃沈。
第二試合はアツシ達が有利クラスを引き当てたものの、相手が逃げの一手に出て、粘りに粘って時間切れ。体力の残量勝負になったが、相手が少しだけ上回っていたので、やはりアツシ達の負け。
そして第三試合は、なんと相手方が「魔法使い」二人という珍しすぎる組み合わせで出撃してきた。今までの「対人戦」でも、一度もお目にかかったことがないコンビだ。
相手方に「軽戦士」か「短弓使い」が一人でもいれば、下手をすると二対一でも負けてしまう。「魔法使い」はそれくらい当たり外れが大きいクラスなので、相棒が他のクラスを選択して弱点を補うのがセオリーだ。
そして、アツシ達はまさしく「軽戦士」と「短弓使い」の組み合わせだったので、絶対的優位に立てたはずなのだが……連敗していたことで、弱気になっていたのだろう。
「あちらには何か作戦があるのかも」とおっかなびっくりに相手の様子を探っていたところを、見事な連係プレイによってあっさりとやられてしまった。
まさに完敗だった。
***
『ありがとうございました!』
再び大東中学の「ホーム」へ転送され四人が一堂に会したところで、そろって一礼をする。試合後のマナーというやつだ。こういうところは、実に「体育会系」じみている。
「すみません。完璧に胸を借りる形になってしまって……」
エイジが渡辺と握手を交わしながらつぶやく。声に元気がないが、それも仕方ないだろう。
強豪相手とは言え、アツシもエイジも、もう少しまともな戦いになると思っていたのだ。
けれども――。
『いやいや、二人ともまだ「ダブルス!」を始めて二ヶ月も経っていないんでしょう? それであれだけ動けるんだから、もっと胸を張っていいと思いますよ』
『そうですよ! 私たちが勝ったのは、単純に経験の差です。二人の判断の早さや弓の腕前は、初心者離れしてましたよ! 多分ですけど、オンライン対戦の成績はそれほど悪くないのでは?』
渡辺も樋口も、そんなうれしいことを言ってくれた。おせじを言っている感じではない。
『二人に足りないのは、おそらく経験だけです。大会開始まで時間がありますから、もっとオンライン対戦で経験を積むといいでしょう。あと、「エル・ムンド」のネットワークからなら、去年の大会の動画とかも観られますから、そちらもチェックするととても勉強になりますよ』
その後も、二人はアツシ達に様々なアドバイスをしてくれた。
他校の情報を集める方法や効率の良いトレーニング方法。「ダブルス!」で定番となっている戦法などなど。
「練習試合」というよりも、何かの講義を受けている感じだった。
アツシ達にこんなに親切にしても、大東中学にはメリットはないはずだ。それなのに「何故?」という疑問が、アツシ達の中に浮かんだ。
不思議に思ったアツシは、思わずストレートにそのことについて尋ねてみた。すると――。
『……実はね、僕も樋口も、君たちと同じで元々は他のスポーツをやっていたんだ。樋口はバドミントンで、僕は野球。でも二人とも、色々と事情があって元のスポーツができなくなってね。悔しい思いをしていた時に出会ったのが、eスポーツだったんだ。だから、君たちのことは他人とは思えなくてね。だからその……がんばって!』
***
渡辺達と別れ、アツシ達はフルダイブの世界から現実へと戻ってきた。
けれども、アツシもエイジも「エル・ムンド」のシートに座ったまま、しばらく動けずにいた。
「いい人たちだったな」
「……ああ」
「オレ達、強くならないとな」
「……ああ!」
自分達の今の強さはよく分かった。まだ自分達が「ダブルス!」のセオリーや戦術を何も知らないということも。経験が圧倒的に不足しているということも。
けれども、「何が足りないのか」が明確になったことで、二人の闘志に火が付いていた。
今までおぼろげだった「全国」の姿が、ほんの少しだけはっきりとした気がした。
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