底の子 ~最強魔族と厄災禍獣が奈落に堕ちた底辺少女を守るワケ~

epina

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12話 奈落の神秘

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 さらに数か月の時が過ぎて、ミアはアビスランドでの生活をすっかりモノにしていた。
 魔法や狩りの技術を身につけながら、自分自身の力を実践で試し始めている。
 その姿勢はアビスランドを生き抜く者として及第点を与えられる。

 ある日、俺たちは洞窟の外に出て、いつもの一日を始めようとしていた。
 ミアはとっくに準備を整え、フェンリスと共に意気揚々と歩き出した。
 その目には、自信と決意が宿っている。

「ゼリルさん、今日はどこに行くんですか?」

 ミアの問いかけに、俺は少し考え込んでから答えた。

「今日は少し遠くに行こう。前に教えた遺跡の近くに、もう一つ興味深い場所がある。そこには、この世界の秘密が隠されているかもしれない」

 ミアはその言葉に興味を示し、目を輝かせた。

「秘密! それは、何か特別なものなんですか?」

「そうかもしれない。お前自身の目で確かめるといい」

 俺たちはフェンリスを先頭にして歩き始めた。
 道中、ミアはいつも以上に周囲に注意を払いながら進んでいく。
 どうやらアビスランドの珍妙な景色にますます好奇心を抱いているようで、自分自身の力を試したいという強い意志がビンビンと伝わってきた。

 しばらく歩いた後、俺たちは目的地に到着した。
 崖に面して巨大な石造りの扉が張り出しており、表面には古代の魔法陣が描かれている。
 長い年月を経て、扉が一度も開かれていないのは火を見るよりも明らかだ。

「ここだ。古代の者たちが何かを封じたと言われている場所だ」

 ミアが石の扉をじっと見つめる。
 扉の奥に強い魔力を感じ取ったようだ。

「わざわざ封じたということは……何か恐ろしいものが中にあるんでしょうか?」

「恐ろしいかどうかは分からない。だが、確かにここには強力な力が眠っている。その力が何なのか、俺も完全には分からない」

 フェンリスが前に進み、扉の前で鼻を鳴らした。
 こいつも何かを感じ取っているようだ。

「ミア。ここを開けるかどうか、お前次第だ。だが、無理をする必要はない。この扉を開けるには覚悟がいるからな」

 ミアはしばらく扉の前に立ち尽くし、呼吸を整え目を閉じた。
 ゆっくりと目を開けると、決然とした表情で俺に向かって頷き返す。

「ゼリルさん、私はこの扉を開けたいです。何が中にあるのか、確かめたい」

 その言葉に、俺もミアの覚悟を感じ取った。
 人間の好奇心と意志がここまで強烈に育つとは思っていなかったが、その成長を見守るのは俺の役目だ。

「分かった。だが、無理はするな。中に何が待ち受けているかは分からない。俺とフェンリスがそばにいるが、慎重にな」

 ミアは再び扉に向き合い、手を伸ばして表面に触れた。古代の魔法陣が彼女の魔力に反応し、微かな光を走らせる。
 やがて光はミアの心に応えるかのように、扉全体へと広がっていった。
 しばしの沈黙の後、扉が重々しく音を立てて動き始める。
 古い石がズズズと擦れる音が響き渡り、やがて扉はゆっくりと開かれた。

 中には、広々とした空間が広がっていた。
 薄暗い光が差し込み、巨大な石柱が立ち並ぶ空間は、まるで別世界のようだった。

 その光景に圧倒されながらも、ミアはしっかりと前を向いて踏み出した。
 フェンリスも少女の後に続き、俺もまたその後ろを慎重に進んだ。

 空間の中央には、古びた石の台座がある。
 その上には巨大な水晶が輝いていた。
 水晶は見たことのない不思議な魔力を放っており、その周囲にはかすかな風まで吹いている。

「この水晶が……封じられていたもの?」

 ミアが瞠目どうもくしながら呟いた。
 俺もまた隣に立って水晶を見つめる。

「おそらく、な」

「なんだか、最初に行った遺跡にある水晶に似ていますね」

 確かにミアの言う通りだ。
 ここのものよりはるかに小さかったが、あそこにも同じような水晶があった。

「もしかしたら同じものなんでしょうか」

 しばらくミアは水晶を見上げていたが、やがて決意したかのように水晶へと近づいた。
 手を伸ばして、そっと触れようとする。

 だが、次の瞬間。

「ミア、離れろ!」

 少女の手が水晶に触れる前に強い光が放たれた。
 叫びながらミアを引き寄せ、すぐさまフェンリスと共に後退する。
 水晶は強烈な光を放ち、周囲の空間が揺れ動く。
 俺たちはその光から身を守るために手をかざし、しばらくその場に留まった。

 やがて光が収まり、静寂が訪れた。
 ミアが驚いた表情で俺を見つめている。

「何が起きたんです……?」

 深呼吸をしながら、状況を確認した。
 幸い、他に危険なことは起こらなかったようだが……この水晶には強大な力が宿っているのは間違いなかった。

「無事か?」

 頷きながらも、ミアはまだ驚きを隠せないでいた。

「はい……でも、この水晶、一体何なんでしょう?」

「最初に言った通りだ。知識のない俺には古代の力を封じたもの、としか答えようがない。お前が触れたことで反応したみたいだが……」

 ただの罠だったのか。
 それともミアの魔力に同調して力を与えようとしたのか。
 今の俺達の知識では、それすら判別できないのだ。

 ミアは水晶を見つめ、思案する。

「私には今はこの力をどうするべきか、分からないです……」

 当然の答えだった。
 今回、俺が期待していた学びでもある。
 ミアが見たもの、感じたものが何であれ、それが成長に繋がると俺は信じていた。

「これ以上、無理に触れる必要はない。ここでの教訓は、何事にも慎重さが必要になるということだ」

 俺たちが未知の事態に遭遇しても無事だったのは、何が起きても対応できるよう準備していたからだ。

「分かりました、ゼリルさん。これからは、もっと慎重に行動します……」

 帰り道、ミアは何度も振り返りながら、先ほどの水晶を思い出しているらしかった。

 強大な力の前にしてどうしていいかわからず、無知を恥じるしかない今の自分を反芻はんすうしているのだろうか。
 それとも力と知識を身に着けてリベンジすると誓っているのだろうか。

 できれば後者であってほしいものだ。
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