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始まりは生徒会室で
しおりを挟むほのかに桜香る学園の屋上で、西に傾きかけている太陽に照らされているあどけなさを残す少女が一人。
その少女の頬には赤き色でキラキラと輝く雫が重力に従いゆっくりと流れ落ちていくのが見える。
私が何も出来ないまま少女を眺めていると、その姿が昔愛した者と重なり見えた。
あの時も今と同じ様に苦しそうに眉を寄せて、声を漏らさない様に固く唇を噛み締めて我慢して静かに泣く姿を見ているだけだった。
そしてそれは後悔として今でも心に残っている。
宵の色が迫り来る、少しだけ肌寒いその場で思わずかつての愛し人の名が口からこぼれ落ちた。
その声は誰も聞き咎めないと思っていた。しかし、その声に少女が反応を示して、目を見開いて私を見た。
その、涙で潤む宝石のような瞳が私を見て驚いた様に揺らいだ。
「婚約は無かった事にしてくれないか?」
卒業式を一ヶ月後に控えたある日に、人気の無い生徒会室に突如呼び出されたかと思えば、わたくしの十年来の婚約者の口から出たのは、ある程度予想していた言葉だった。とは言え、少なからずショックを受けているわたくしに向かってお構い無く更なる言葉が放たれる。
「僕は真実の愛を知ってしまったのだ。」
「し、真実の…。」
「そう。真実の愛。親に決められた道ではなく、身を焦がすような情熱で焼けるような愛さ。」
婚約者の目にはその言葉の通りに熱に浮かれた様な色を宿し、わたくしとは違う別の誰かを思い浮かべて虚空をみている。
きっと、彼の頭の中には花のように微笑むあの娘が浮かんでいるのでしょう。
その、自惚れた姿にキュッと唇を噛んだが、噛み締める唇をいつも心配してくれ、唇を優しくなぞる心優しい最近できた友人を思い出して、ため息と共に力を緩めた。
そのため息を何に勘違いしたのか、婚約者、今はもう元婚約者と呼ぶべきか。彼は慌てて弁解を始めた。
まあ、弁解と言うよりわたくしより彼女がどう良いかの惚気が大半だけどね。
惚気が終わらないので、ここまできて今更かも知れないけどわたくしと、元婚約者の紹介をしておきます。
わたくしは、ラスレア・ドラクネア。
ドラクネア伯爵の一人娘。上に三人兄を持つしがない少女ですわ。
腰まである母譲りのショコラブラウンの髪に、父譲りの金の瞳。一応、自他共に認める整った顔つき。
少しだけつり目なのが私は気に入らないけど、周りからは色っぽいと言われます。
全体的にスレンダーな方だけど、胸だけは父方の祖母の遺伝か結構ある方なのよね。
さて、次は元婚約者。
ティグリス・コンティネンス。それが彼の名前。
このコンティネンス国の王子殿下。
女性も羨む艶々なブロンドを持ち、王族にのみ見られるという世界を閉じ込めたような美しいアースアイを持っている。
アースアイは青とブラウンが混じったとても珍しい瞳でその瞳を持つ者は王族の血筋をもつ証と言われています。
ディグリスの瞳は色の濃さを始め、青とブラウンの混じりかたが絶妙で、まさに至宝の様な輝きを持ちます。さらに陶磁器の様に滑らかな肌やバランスの良い顔のパーツまで兼ね備えた、超絶美青年なのです。
とまあ、熱弁はさておきそんな彼としがない伯爵のわたくしが先程まで婚約を結んでいたのは、彼の父、陛下と私の父とのちょっとした事情がある。
前提として陛下と父は産まれも育ちも違うのに気が合い、学生の頃からの友人だと言うことがあげられます。
その学生時代の頃、バイトというか趣味で冒険者をやっていたのだそう。最年少で遺跡を突破したりと実力は十分な二人が、ある日、遺跡で古い書物を見つけた。そこには、ドラクネア一族の事が書かれており、その内容を見た父は親友の為ともし自分達の子が異性であったら婚約させようと約束したのです。
長々と説明していたと思うけど、ディグリスはまだ惚気を呟いているのよね。
とうとう、彼女との出会いまで語り始めそうな勢いなのでここで咳をついて中断させます。
「わかりましたわ。父にお伝えします。なので、そちらは陛下にお願いします。」
「あ、ああ!父上の説得は任せてくれ。」
「では、わたくしはこれで。卒業式の挨拶文を書かなくてはならないので。」
臣下の礼をして生徒会から退室する。
廊下にはふんわりとしたハニーピンクの少女がイライラした様子で待っているようでした。
わたくしが出る姿を確認にて、にんまりとどや顔をした後に甲高い声を発して生徒会室に入って行きました。
どうやら彼女がディグリスの真実の愛なのですね。
『大丈夫かい?姫さん。』
体に響くようなヴァリトンの声が聞こえて来た。
次にふわりと半透明な姿で私の前に現れたのは程よく筋肉がついているのがわかる、騎士姿の男だった。
透けているから余り確かなことは言えないが、金糸のかみを揺らし青みがかった瞳をほそばせ、心配そうにこちらに近寄ってくる。
彼が、わたくしの親友。
ある日の屋上で逢った、レオだ。
『あの嬢ちゃん、中で殿下にあること無いこと言ってるぜ。』
「良いのよ。彼が幸せなら。」
『姫さんは優しすぎる。』
「愛する人が幸せならわたくしも幸せよ。貴方にも分かるでしょ?」
『…それで後悔したがな。』
レオはいつも何かに後悔している。
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