警護者キリュウ

どらんくうざ

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プロローグ

02

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 ガンジス兄が声をかけた。
目の前にひとつながりの塀に囲まれている墓地があった。

 三人で墓地に入ると、整然と並べられた墓標が見える。
傍まで近寄ることなく名前と死亡年月日が刻印されているのは知っていた。
墓地は血筋ごとに区分けされており、彼らははある方へ向かった。
目指す場所は一番の奥まった地点であった。
時間を少しでも伸ばそうと考えてのことだった。

 先頭の墓標より随分奥まったところにある地点。
そこにうっすらと青白い影のようなものが地面から出現している。
近づいていくと、その影は男児のように見えた。

『お兄さん方、何しに来たの?』

 その青白い影の男児から聞こえてくるようだった。
もしかすると、昔に死んだ者の霊魂が現れた幽霊なのかもしれなかった。

「肝試しさ」

 キリュウは絞り出すように声を出した。
続けてさらに言葉を続ける。

「警護者としてやっていけるか、試練になるからね」

 青白い男児の幽霊はキリュウとカエアの間に割って入ると、彼女の首飾りに触れた。
それは赤い宝石が象嵌されていた。
その瞬間カエアは後ずさりした。
その様子を見たキリュウはガンジス兄の帯びていた小剣をとると、男児の幽霊に突きつけた。

「彼女に手を出すのは許さないぞ。
僕が相手になってやる」

「キリュウ君、私は大丈夫よ。
貴方の方が震えているんじゃないの?」

 頭から血が引いた顔のカエアの言葉により、キリュウは自分の手を見た。
小剣を握った側の腕が震えている。そこで空いている方の手で支えた。

『お姉さん、この首飾りはどこで手に入れたの?』

「私の伯母さんから貰ったのよ」

 男児の幽霊は彼らの中で一番背の高いガンジス兄の方を向いた。
彼は、両肩を上げてから下した。
"何もわからない"と言いたいのかもしれなかった。

「そんなことより早く霊山に戻れよ」

 キリュウは小剣を左右に振るともう一度幽霊に突きつける。

 幽霊は剣先を見てから触る。
そのまま少し時間が止まったような空気が流れた。
ガンジス兄が年下の三人のそばに近づいてきた。
といっても一人は幽霊かもしれないが。

「君は何て名前なんだい?」

『カズキ・リーディングル』

 男児の幽霊は素直に返答した。
キリュウとカエアは顔を見合わせると、ガンジス兄に小剣を返した。

『僕はお姉さんの中に入らせてもらうね』

 幽霊の一言により、カエアに触れた手が青白い輝きを出した。
そして、彼女の身体に溶け込んでいく。
するするといった感じではなく氷が溶解していく感じであった。

 男児に入り込まれたカエアにキリュウは質問した。
返事は少しの問題を除き変化は見られないといった感じであった。
ひとつある問題としては急に体から自分の魂が追いやられた感じになるといったところらしかった。

 次の休日の昼間に三人で会う日。
といっても、カエアは男児に入り込まれているから──憑依らしい──四人かもしれなかった。

「で、カエアちゃん。
俺たちをカズキ君の家に連れてってくれるのかい?」

 ガンジス兄はカエアに尋ねた。
彼女は、首飾りの赤い宝石部分をのぞき込んでいるようだった。

「そう。
私についてきて」
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