警護者キリュウ

どらんくうざ

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プロローグ

05

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「おい、キリュウ野郎」

 急に彼は背後から肩を掴まれ転びそうになった。
三人の学院の同級生が群れてこちらを見つめてニヤニヤしている。

「まずは手始めに幼馴染のカエアちゃんに忠義を尽くすってのか。
気取ってるんじゃねえよ」

 彼らはリーダー格のボウを中心にしていた。
ボウは一番体格のがっしりしており、既に声変わりして髭がうっすらと生えていた。
何時も子分のように付き従っているノッポのザマと太っちょのユテラの三人組であった。

「関係ないだろ。
いくぞカエア。てっ、あれ」

 カエアを見ると下を向いて指を細かく動かしていた。
もう一度キリュウが叫ぶと、彼女は肩から跳ね上がった。

「あっ、うん」

 その時に三人組が彼ら二人を取り囲む。
彼らのボスのボウが両手をうち当てて指を鳴らしていた。
ノッポのザマは両手を広げており、ユテラは腹を突き出していた。

「公園で勝負すれば見逃してやるぜ」

「それでいいんだな?」

 ボウが質問に頷いた。
カエアが幼馴染の肩をつかむ。
キリュウは肩を動かしてその手をどけさせた。

「カエア、人間には逃げちゃいけないことがあるんだよ」

 彼女はもう一度手を伸ばそうとしてやめる。
それから泣き始めた。

 五人は公園に向かった。
その公園には出店が軒を連ねていたが、彼らは開けた場所を陣取った。

 構えるキリュウとボウ。
ボウは一気にキリュウとの間合いを詰め、拳で顔面向けて殴りかかってきた。
彼はそれを後退してかわすと、相手の頭部を蹴り上げた。
彼の顎に蹴りが命中して後ろに転がった。
立ち上がりかけている相手の顔面を正面から殴った。

 ボウとの勝負に勝ったキリュウにザマが飛びかかってきた。
ザマを殴っても反撃に頭突きをくわえられるといった感じだった。
キリュウが彼を地面に倒すとユテラは目を瞬かせ、でっぱた腹を揺らしながら逃げ出した。

「キリュウ君、喧嘩なんかやめた方がいいぞ」

 ボウらとの勝負が終わった後にカエアの父親がキリュウの怪我を診ていた。
外傷は治療することができた。
その間、彼女は父親の手伝いをしていた。

「キリュウ君、喧嘩はやらない方が身のためだよ。
生傷があちこちにあるじゃないか」

 カエアの父型の系列は理性的な人道主義者で有名であった。
彼女には理性的な面はほとんど伝わらず感傷的な面だけが伝わっていたように思えた。
よく泣き笑う。
感情の表出が多い様に思えた。

「分かったよ。
ボレイ小父さん」
 彼は椅子から立ち上がると診療院の出口に向かった。
背中から、医師の諦めたような単調な台詞が聞こえてきた。

「カエア、しっかりと彼を見張ってるんだよ。
彼がいなくなったら嫌だろう?」

「それより祭りに戻ろうよ」

 キリュウは彼女の手を引いて、駆けて祭りに戻っていった。

 大通りに面した弓の射的。
奥の方に複数の人形が置かれており、数名の子供たちが群れていた。
賑やかそうに弓の弦をひいて的に当てようと試みているようだった。

「僕もやってみるか」

 キリュウは素早く射手としてついた。
精神を集中して射ると、木の鏃が的に命中して人形が倒れる。
今回の射的で渡された本数も五本だった。
五本ちゅう四本が命中する。

「キリュウ君凄いわね。
あなたは剣術より弓術が向いてるんじゃないの?」

 カエアは飛び跳ねながら手を叩いている。
彼は周りの視線を感じながら、道具を返した。
射的の店主が握手を求めてきた。

「坊主、歳の割には結構うまいな。
ここは都市だから得意なガキもちらほら見かけるけどな」

「僕は十八才になったら警護者に志願するつもりだからね」

 店主は両手を打ち合わせると、頷いている。
店主から応援された気分になったキリュウはそばのカエアを見た。
すると、彼女は口をへの字に曲げている。
周囲の集まった人たちから、声が聞こえてくる。

 警護者は昔から数多くの英雄譚に詠われる庶民の英雄でもあった。
時には悪漢を逮捕し倒し、困った住人を救いだすことによってとかだった。

「坊主、名前はなんていうんだ?」

「キリュウ・ロンデロロッテン。
今年十才でグリエンテッド地区に住んでるさ」

 店主は懐から取り出したメモ帳に何やら記述していた。
キリュウの喋った台詞を書いているのであろう。彼
はメモ帳をしまい少年の肩をつかむと、集まった住人に叫んだ。

「皆さん。
彼は警護者志望のキリュウ少年だ。みなさんで彼の将来を祝おうではないか」

 周囲の人々から拍手が聞こえてくる。
大きな流れの音の奔流のようだった。

 キリュウは嬉しくなって隣にいるカエアの方を見た。
彼女は首を垂れていら。
彼女の青いとても長い髪の先端が脛にぶつかっていた。
言葉を呻いているようだったがよく聞き取れなかった。
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