警護者キリュウ

どらんくうざ

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十三才 漁師になってそれと事件

01

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 ついにキリュウは、十三才の誕生日を過ぎた。
成人する間近から学生時代が終わるために情報収集などを慌ただしくおこなってきた。
それは、彼は今まで警護者になる以外の意識は持ってなかったためだった。

「キリュウ、仕事はよく考えて決めろよな。
普段の職業で警護者に就けるかも決まるかもしれないからな」

 休日に弟に忠告してきたガンジス兄。
キリュウの身長はまだガンジス兄ほど伸びてはいなかった。
しかし、筋骨格系は兄より丈夫に育っている風な様子が見てとれる。

「俺は漁船に乗った航海者になると決めたからね。
兄ちゃん」

 彼は少し前までは決めてなかった希望先を兄に伝えた。
彼は兄には何故漁船の乗組員に就くことに決めた理由は伝えずに結論だけ言った。
兄は弟の頭の上に手を置いて撫ぜる。

「確か規模の大きなコールレェン漁業会に入るんだったな。
あそこはポロポロの範囲内だったね。婆やも許してくれるだろうな」
 コールレェン漁業会は、都市ポロポロを含めたこの辺り一帯の漁業者を集約していた。
一部の独立経営を維持していた漁師も残っていた。しかし、八、九割方漁業会に入会していた。

「漁村の朝は早いからな。
早く寝ろよ」

  キリュウは気分が高く興奮もしており眠れる状態ではなかった。
そこで気を静めるために、幼馴染のカエアの家にいくことにした。

 太陽はまだ住居の屋根の上や樹木の間からのぞきみることができた。
地平線に沈むまでに少し時間がある感じだった。

 カエアの家は父親の経営する診療院とは離れた場所にあった。
といっても、同じグリエンテッド地区にあることは変わりなかったが。
彼女の自宅はこじんまりとした住居であった。
そこで最低限の物質で生活を心がけており、人道的な思想面と合わせて、隣近所からある種の信頼を得ていた。

 キリュウは玄関をノックした。
暫くすると、カエアが顔を出した。
彼女は、就職前の彼を見て目を見開きながら背筋を伸ばした。

「キリュウ君、今夜は就職前の最後の日だよね?」

 そのまま彼女は玄関を勢いよく閉めた。
あんまりも早くてキリュウは反応できずにただ突っ立ていた。
閉められたことに気づき、玄関をさらに激しく叩いた。

「カエア開けろよ」

 ぴくりとも動かない扉。
彼は大きく息を吸ってから吐いて、扉を手荒く扱った。
諦めてキリュウは玄関のノブに手をかけて玄関を開けた。
一般住民の住居には鍵は使われてはいなかった。

 室内は部屋の二隅に蝋燭を立てる燭台が壁面についている。
窓はひとつしかなく、隅に寝具の敷き藁が畳んであった。

 カエアはその前で彼女の両親とお喋りしているようだった。
小さな声なので彼の耳には内容は聞こえてこなかった。

「キリュウ君、久しぶりじゃないか」

 カトランダル診療院の院長が発言した。
今日は、不定期に決めている休診日なのかもしれなかった。
彼女の母親はそこで看護師をしていた。

 彼は少女の両親に簡単な挨拶をすませると、幼馴染のそばまで寄った。
そして、彼女を無理やり立たせた。

「何用なの?
私以外に友達みたいのいないのかしら」

 彼はいつもよりキツイ返答に困ってしまった。
幼馴染みとはいえ、馴れ馴れしすぎたと少し考えて思ったらしく謝った。
そして土下座した。
しかし彼の頭にあった、最も身近にいるというからという言葉はついに言えなかった。

「その、カエアちゃんいないとつまんないし」

「ふ~ん」

 彼女の額に皺がよっている顔を見ながらキリュウは返答を聞いた。
少女は横をしばらく見てから、父ボレイと母エツッテに声をかけはじめた。
言葉の端々から、彼女の気が進まない思いが伝わってくる。

「それじゃあ、他を当たってみるよ」

 三人が返答が来る前にキリュウは建物を出た。

 グリエンテッド地区は都市の西方にあった。
そこは一般住人が住宅地が広がり、都市機能の大半は別の南方の地区に集約されていた。
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