警護者キリュウ

どらんくうざ

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十八才 資格試験と失恋と

04

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「試験に落ちた」
「そっ。急いで就こうとするからそうなるのよ」

 キリュウは恋人のミエナからの発言に納得と同時に頭にきていた。
さらに数台詞を交わしたあとに唐突に彼女が呟いた。
「男の恋人やっぱり私には合わないのよね。
というわけで本日限りでお別れ」

 彼女は笑顔になりながら彼に言った。
その台詞を聞いた彼は、ただでさえ意気消沈しており冷静に反応ができなくなっていた。
怒鳴り声と暴力がでそうになったが、簡単にミネアにいなされてしまった。

「今日まではまだ恋人だから」
彼女はケタケタ笑っている。
彼は怒ることも出来ずに最後の日を楽しむために都市の街中に一緒に出た。

 陽の位置から今が昼時だったので二人は考えて連れ立って一軒の店舗に向かった。

「いらっしゃいませ」

 店員のぽっちゃりしたお姉さんがハキハキと接客をしてきた。
ミネアの顔をジロジロと凝視した彼女の前にキリュウは阻もうとした。

「あの、ミエナ・ローリンローロンさんですか?
私、貴女のファンなんです」

 彼女は頬を染めながらキリュウをどかして彼女の手を握りしめて上下に勢いよく振った。
キリュウはその行動を止めるために大きな音を立てた。

「ああー私ったらすいません。
こちらの方は恋人さんですか?」

「確かに彼は今日まで、私の彼の席にいるのよ」

ミエナは笑顔たっぷりの顔を店員に向けた。
 
 食事中にキリュウの出したひとつの案──この後、二人で一度も行ったことのない霊媒の社に向かうこと。
キリュウな幽霊などの弱点に対しての克服の足がかりになるようにと。
彼女の速やかな納得を得た、別れの餞別としても。

 都市ポロポロの霊媒の社。
翼廊が左右に伸びている構造をしている。
中央の本堂が、召喚された魂との交信場所にもなっていた。
左右の部分は、霊媒たちの生活区域になっていた。
つまり常に霊と密接に関わるために生活区域も接続されていたのだった。

「どうしたの?」

 止まったキリュウにミエナが声をかける。
彼女は彼の背後に素早く回ると、社の中に入れ込んだ。
入った途端に彼へ腰砕けになってその場にへたりこんでしまった。

「ちょっと、こんなんで腰骨が骨盤が抜かれちゃうの?」

 呆気に取られた少女の台詞が本堂の中に漂う。
彼を見つめる周りの視線や指差しする子供たち。

「霊の本拠地だからだ」
彼は小声で彼女に思いを伝えた。
口元を窄めてから、彼が立ち上がってからミエナも動き出した。
まずはキリュウの弱点の克服だろうと想えるような行動であった。
本堂に突き進むミネア。

「ミネアさんとキリュウ君だね、どうしたの?」

 本堂を覗けるあたりの通路でカエアが立っていた。
詣でる客分を振り分けているようだった。
服装は裁判の時の白い法服とは違って、青色の服を着ている。

「カエア、その服何?」

「これは、いつも着ている普段の祭服。
仕事とかで霊との交信をする時は専用の服に着替える必要があるのよ。
今の方が動きやすくていいんだよ」

「私たち関係の解消記念にここに来てみたのよ。
そういえば来た事なかったってね」
「手軽に解消解消いうなよ」 

 その発言を聞いたからなのかカエアは手足を動かしている上に狼狽えていた。
何で慌てるのかキリュウには分からなかったが。

「ところで今日は何かあるのか?
何か人が多い気がするけど」

「今もいるし毎日、交信する客人たちを案内してるのよ。」

 キリュウの視界に裕福そうな人の集まりと貧乏そうな人達がいる。
順番待ちでもしているのであろうか、関係者ごとに固まっていた。

 霊を召喚している間は、依頼の関係者しか本堂の中心部分までは入れないようだった。
そのため、待っている人達が待機しているとキリュウは判断した。

「ところで二人は、何か呼び出したい魂でもいるの?」

 キリュウとミエナは顔を見合わせた。
キリュウは手をうろちょろさせながら、覚悟を決めて喋った。
その台詞を聞いた幼馴染は泣き崩れた。

 キリュウは宿への道すがら一軒の酒場を見つけて入ろうとしたがやめた。
今の精神の状態での予防措置のためだった。

 星々や月の出ていない夜。
都市の繁華街では成人男女の姿をちらちら見かけた。
それらをちらっと見てから、開いている宿を探すために地区から抜け出た。
一路、宿場街を目指す。
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