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番外編『忘れられない』
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樋口のおかげで再テストは無事に合格。吉田とふたりかなりの高得点で、申し分ない結果だった。
再テストに受かったのはいいが、神尾には不安なことがある。
これでもう樋口と会う機会がなくなってしまうのではないか、ということだ。
「よかったー! 神尾も吉田もこれで単位取れるな」
樋口に結果を伝えると、樋口は本当に嬉しそうに笑う。
人のためにあんなに時間を割いてくれて、自分のことのように、いや神尾以上に喜んでくれる。
「樋口、マジでありがとう! お前すごいな!」
吉田が樋口に礼を言うと、「線形代数は任せろ。いやーっ、でもホントよかったー」と樋口は吉田と笑い合っている。
「樋口、昼メシ食いに行こうぜ。今日はどこに行く?」
樋口に声をかけてきたのは山本だ。それから樋口のつるんでいる陽キャの仲間たちが集まってきた。
樋口はいつもこうだ。人に囲まれて、話の中心にいるような人気者。
でも納得だ。樋口は誰のことを悪く言うこともないし、底抜けに明るくて、おせっかいなほど優しい。神尾だけじゃなく、他の人たちもみんな樋口ことが大好きなのだろう。
「G棟の一階の食堂がいいな。最近行ってないだろ?」
「おー! いいね! 行こう、行こう」
山本たちがゾロゾロと移動するなか、樋口が神尾に声をかける。
「神尾も来いよ」
「……え?」
樋口に誘われて、神尾はハッと顔を上げる。これからぼっち飯の予定だった神尾は、その誘いに一瞬ぐらりときた。
「メニュー交換しようぜ。神尾が選んだやつを俺が食うの。で、俺が選んだやつを神尾が食べる」
「なんだそれ」
「お互いがお互いの好きなものを考えて選ぶんだ。金は選んだやつが払う。どう?」
めっちゃ楽しそうだ。
でも、あの陽キャグループの中に入っていく勇気が神尾にはない。気がついたら弾かれて、影みたいな存在になってしまいそうだ。
樋口とふたりきりだったら、よかったのに。
「俺とふたりだけがいい?」
「へっ!?」
一瞬、樋口に心を読まれたのかと思った。そのひと言にすっかり動揺してしまい、「やっぱりそうか。あいつらといるのは緊張する?」と樋口に本音を見透かされてしまった。
「じゃあ、待ってて」
樋口は教室の入り口のあたりで待っていた仲間たちと何やら話をし始めた。樋口の友人は「オッケー」と軽く返事をして去っていく。
どうやら樋口が昼を一緒に食べることを断ったようだ。
「え、お前何やってんの……? いいから俺なんかほっとけよ」
戻ってきた樋口に、神尾は慌てて抗議する。
ぼっち飯は別に嫌いじゃない。樋口にわざわざそんなことをしてもらわなくても構わない。
「神尾を口説き落としてくるって言ってきた」
「えっ?」
「ちょっとうるさいけど、みんないい奴らだ。とりあえず今日は俺とふたりきりね。来週はよかったら一緒に昼メシどうかなって。友達多くても困ることはないよ。俺、最近あいつらに神尾の話をしたら、面白れェ奴だなって言ってた。みんな神尾と話したいってさ」
これは全部、樋口なりの気遣いなのだろう。
樋口は本当に人たらしだ。教室の隅にいる地味な男なんて放っておけばいいものを。
「神尾の好きなもの、絶対に当ててやる。お前の好みはだいぶリサーチできてるつもりなんだけどなぁ」
「お前に当てられるわけないだろ」
俺が好きなのは樋口、お前だよ。
と、神尾は密かに心の中で思う。
その逞しい腕で女を抱くみたいに抱いてほしい。一夜だけでもいいから、めちゃくちゃに犯してもらいたい。その思い出だけで、生きていくから。
そんなことを思ってみても、もちろん樋口には届かない。
いつの間にこんなに好きになったのだろう。樋口が振り向くことはないし、樋口の優しさはみんなに対してのものだとわかっていたはずなのに。
その後の大学生活は、樋口のおかげで順風満帆だった。樋口の友達というだけで、声をかけてもらえるようになり、自然と友達が増えていったのだ。
もちろん、樋口から告白されることもなく、神尾から樋口に想いをぶつけることもなく、ふたりは友人として大学を卒業し、別々の就職先へと進んでいった。
再テストに受かったのはいいが、神尾には不安なことがある。
これでもう樋口と会う機会がなくなってしまうのではないか、ということだ。
「よかったー! 神尾も吉田もこれで単位取れるな」
樋口に結果を伝えると、樋口は本当に嬉しそうに笑う。
人のためにあんなに時間を割いてくれて、自分のことのように、いや神尾以上に喜んでくれる。
「樋口、マジでありがとう! お前すごいな!」
吉田が樋口に礼を言うと、「線形代数は任せろ。いやーっ、でもホントよかったー」と樋口は吉田と笑い合っている。
「樋口、昼メシ食いに行こうぜ。今日はどこに行く?」
樋口に声をかけてきたのは山本だ。それから樋口のつるんでいる陽キャの仲間たちが集まってきた。
樋口はいつもこうだ。人に囲まれて、話の中心にいるような人気者。
でも納得だ。樋口は誰のことを悪く言うこともないし、底抜けに明るくて、おせっかいなほど優しい。神尾だけじゃなく、他の人たちもみんな樋口ことが大好きなのだろう。
「G棟の一階の食堂がいいな。最近行ってないだろ?」
「おー! いいね! 行こう、行こう」
山本たちがゾロゾロと移動するなか、樋口が神尾に声をかける。
「神尾も来いよ」
「……え?」
樋口に誘われて、神尾はハッと顔を上げる。これからぼっち飯の予定だった神尾は、その誘いに一瞬ぐらりときた。
「メニュー交換しようぜ。神尾が選んだやつを俺が食うの。で、俺が選んだやつを神尾が食べる」
「なんだそれ」
「お互いがお互いの好きなものを考えて選ぶんだ。金は選んだやつが払う。どう?」
めっちゃ楽しそうだ。
でも、あの陽キャグループの中に入っていく勇気が神尾にはない。気がついたら弾かれて、影みたいな存在になってしまいそうだ。
樋口とふたりきりだったら、よかったのに。
「俺とふたりだけがいい?」
「へっ!?」
一瞬、樋口に心を読まれたのかと思った。そのひと言にすっかり動揺してしまい、「やっぱりそうか。あいつらといるのは緊張する?」と樋口に本音を見透かされてしまった。
「じゃあ、待ってて」
樋口は教室の入り口のあたりで待っていた仲間たちと何やら話をし始めた。樋口の友人は「オッケー」と軽く返事をして去っていく。
どうやら樋口が昼を一緒に食べることを断ったようだ。
「え、お前何やってんの……? いいから俺なんかほっとけよ」
戻ってきた樋口に、神尾は慌てて抗議する。
ぼっち飯は別に嫌いじゃない。樋口にわざわざそんなことをしてもらわなくても構わない。
「神尾を口説き落としてくるって言ってきた」
「えっ?」
「ちょっとうるさいけど、みんないい奴らだ。とりあえず今日は俺とふたりきりね。来週はよかったら一緒に昼メシどうかなって。友達多くても困ることはないよ。俺、最近あいつらに神尾の話をしたら、面白れェ奴だなって言ってた。みんな神尾と話したいってさ」
これは全部、樋口なりの気遣いなのだろう。
樋口は本当に人たらしだ。教室の隅にいる地味な男なんて放っておけばいいものを。
「神尾の好きなもの、絶対に当ててやる。お前の好みはだいぶリサーチできてるつもりなんだけどなぁ」
「お前に当てられるわけないだろ」
俺が好きなのは樋口、お前だよ。
と、神尾は密かに心の中で思う。
その逞しい腕で女を抱くみたいに抱いてほしい。一夜だけでもいいから、めちゃくちゃに犯してもらいたい。その思い出だけで、生きていくから。
そんなことを思ってみても、もちろん樋口には届かない。
いつの間にこんなに好きになったのだろう。樋口が振り向くことはないし、樋口の優しさはみんなに対してのものだとわかっていたはずなのに。
その後の大学生活は、樋口のおかげで順風満帆だった。樋口の友達というだけで、声をかけてもらえるようになり、自然と友達が増えていったのだ。
もちろん、樋口から告白されることもなく、神尾から樋口に想いをぶつけることもなく、ふたりは友人として大学を卒業し、別々の就職先へと進んでいった。
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