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4.夢物語の終わり

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 当たり前だ。夢物語はもうおしまい。
そもそもあんなアイドルとこんな狭い家で二人で暮らしていることがイレギュラーだったのだ。楽しかった凪沢との生活を早く忘れて元に戻ろう。



 今まで通りのつまらない毎日を過ごして二週間が過ぎようとしていた。

 凪沢を忘れようとしている俺に対して、TVは残酷に『今日のゲストは、今週金曜日から公開される映画、主演の凪沢優貴さんです!』と凪沢の快進撃を報じている。

 クッソ、あいつ元気そうにしやがって! 俺はお前が突然いなくなってどんだけ落ち込んでるのかわからないだろ?!
 俺は腹いせに凪沢が映るTVを蹴飛ばした。それでもTVは頑丈で、凪沢の映画の番宣を映し続けている。

『今回の映画は記憶喪失の話ですが、凪沢さんは忘れられない記憶ってありますか?』

 リポーターが映画の内容にかこつけた、くだらない質問を凪沢に投げかける。だがアイドル凪沢はそれをきちんと受け入れる。

『忘れられない記憶ですか。ありますよ』
『え?! なんですか?! 初恋の相手とかですか?』

 すぐに恋愛話に持っていこうとするリポーターの手腕は見事だ。

『そうです』

 淀みなく言い切った凪沢の回答に、質問したリポーターの方がキャーキャーとテンション上がっている。

『俺の初恋は小学生の時だったんです』
『小学生ですか! その頃から凪沢さんはかっこよかったんでしょうね!』
『いえ。冴えない小学生でしたよ。だから、忘れられちゃいました』
『え……? 誰にですか?』
『初恋の相手ですよ。最近、昔の約束を果たそうと会いにいったんですが、すっかり忘れられてました。俺は覚えていても、相手からすれば大したことじゃなかったみたいです』
『えー! 信じられません! 凪沢さんの事を覚えてない人なんているんですか?!』

 リポーターのリアクションはいつも通り過激だ。

『いるに決まってるじゃないですか。でも初恋って実らないものって言いますよね。俺はそうでしたが、この映画の主人公はそうじゃないんです。記憶喪失になっても心が、身体が相手のことを憶えているっていうか……とにかく観て下さい! 感動のラストです!』

 凪沢は自分の話を途中から映画の番宣に切り替えた。

『凪沢優貴さん主演の映画は今週金曜日公開予定で——』

 俺はTVを消した。静かにひとり思考したかったからだ。



 つい最近、昔の約束を果たそうと会いにいった——。

 もしかしてそれは傲慢でもなく、俺の事ではないか。

 そして俺は思い返す。

 小学生の頃の大切な記憶を——。

 大人しい同級生。あの時はまだ日向の方が背が高かった。共に施設で暮らし、一緒に登下校していたが、顔立ちが良いためかすぐに里親が決まり、引き取られていった少年。

 下校途中「大人になって金持ちになったらいつかこのレストランでメシ食おうぜ!」とくだらない約束をしたのを覚えている。
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