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6.白状させてどうする気ですか
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「なぁ、日向。この前のポルシェ野郎はもしかしてこいつか?」
就業後、二人で歩いているとき、高埜が工場の廊下に貼ってあった凪沢優貴の企業ポスターを指差しながらこちらを鋭い目で見た。
「高埜。それマジうけるわ。そんな事あるわけないだろ」
高埜の話を一蹴する。だが、高埜はしつこかった。
「いーや、あの声、どっかで聞いたことがあると思ってたし、凡人離れしたスタイルも、あの目つきも間違いないと思うんだけどな……」
キャップにマスクでも正体がバレるのか。芸能人になる奴はそもそものスペックが違うのだと改めて思う。
「あいつ、もう一回ここに呼んでくれよ。俺、話がしてみたいな」
「もう無理だ。あいつとは絶交した」
そう言って、小窓の向こう側にいる守衛に軽く会釈をして工場の外へ出る。
「はぁっ? 何でっ? せっかくの金ヅルと?」
「金ヅルじゃない。ただの知り合いだ。でももう会わない」
人気アイドルと工場勤務員。俺たち二人は、天と地ほど違う。もう二度とあいつに会うことはないだろう。
「えー! もったいねぇなぁ! でもやっぱりあいつ、日向に気まぐれで近づいてきただけだったんだろ」
「そうだよ。俺があいつを捨てるわけがないだろ? 何にもない俺と一緒にいても人生の無駄だって気づいてあいつは俺から離れてったの!」
凪沢は自らの意思で、俺のアパートから去っていった。今朝のTVの様子でも、凪沢は俺が約束を覚えていることに気がついていない様子だった。
約束を忘れられたと思っている凪沢は、薄情者の幼馴染のもとへは戻らないだろう。
「可哀想にな、日向。俺が慰めてやるよ」
高埜が日高を励ますようにぽんぽんと肩を叩いた。その手の優しさに心が穏やかになる。
高埜。平凡なお前が俺の側にいてくれて良かったよ。やっぱり持つべきものはレベルの合う友達だ。
と、思った時だった。
「おい、お前。その手を離せ」
高埜の手を振り払ったのは黒キャップにマスク姿の背の高い男。
「な、凪沢っ?」
驚き過ぎて思わず名前を呼んでしまった。俺のその反応に高埜も「凪沢って、やっぱりあの凪沢優貴っ?」と目をしばたかせている。
「日向。久しぶりだな。話がある。俺について来い!」
凪沢は日向の手を引いてズンズンと歩いていく。
「待てよっ! おいっ!」
「あいつに触らせるなって言っただろっ? あー、マジでムカつくわ」
おいおい、それより前にお前、勝手に消えて、勝手に現れた事に対して俺に説明しないのかと思う。
「黒のポルシェ。お前好きなんだろ。だから買ったんだ」
工場の最寄りのコンビニの駐車場に似つかわしくない黒のポルシェ911があった。
「乗れ」
凪沢は鮮やかに俺を助手席へとエスコートし、自らは運転席のハンドルを握った。そしてすぐに車を発進させる。
車を走らせてしばらく無言だったが、信号で停止した時に、凪沢は俺に紙切れを投げて寄越してきた。
その紙切れはひどく見覚えのあるものだ。俺は、子供の頃の約束を忘れないようにとそれをずっと財布に入れて持ち歩いていた。
「日向。お前、俺との約束を覚えてるくせに、覚えてないふりしやがっただろ! その紙が証拠だ。俺が昔、お前に書いた手紙を大切に持ってたみたいだな。それって約束を忘れない為なんだろ?!」
凪沢はわき見運転だ。そのせいで黒のポルシェが一瞬蛇行した。
「そうだよ。俺は覚えてる。小学生の頃のお前、西野凪と交わした約束だろ? 二十歳になったら会おうっていう約束も、その時お互い恋人がいなかったら恋人になろうっていう約束も、六年生の時にお前が俺の事を好きだって言ってくれて、俺も西野が好きだって応えた事も、全部覚えてる。忘れるわけがないだろ」
証拠を突きつけられたらもう言い逃れはできなかった。それに凪沢優貴の本名も思い出した。西野凪だ。
日向と西野の二人は小学校六年生の再会の時、お互いを「好きだ」と言い、求めるように抱き締め合った。離れ離れになって寂しかったからだ。
だが幼過ぎたため、その先は大人になった自分達に委ねることにした。
「じゃあ何で今更、約束をなかった事にしようとするんだよ! 俺、日向の二十歳の誕生日にお前に会いに行くってずっと決めてて、そのためにお前がどこにいるか探偵まで使って調べたんだぜ?!」
凪沢は車をコンビニの駐車場に前から突っ込む形で停めた。俺との話に集中する為だろう。その方がいい。アイドルが事故るのは致命的だ。
「……俺も調べたんだよ」
「何を?」
凪沢は車内灯をつけた。俺の表情を確認する為か。
「お前の居場所だよ。俺も二十歳になったらすぐに会いに行けるようにお前を探したんだ」
俺も凪沢こと西野凪と再会する日を楽しみに、日々を過ごしていた。
「そうなのか?!」
「当たり前だろ。俺はお前のことがずっと好きだったんだから」
「俺達ずっと両想いだったんだな」
その言葉から、凪沢も俺の事をずっと好きでいてくれたことが分かり、嬉しくなる。
「でも俺はお前みたいに探偵なんて雇えないから、お前が今どこに住んでるか見つけられなかったんだ」
必死で探した。でも高校中退後から西野凪は里親の家を出てしまっていて、行方を追えなかった。
西野の高校や養護施設などに行き、小さな情報をかき集めたが無理だった。
「でも一人、もしかしたら西野凪かもしれないって思う奴をTVの中で見つけたんだ。そいつが凪沢優貴だ。十二歳のときの西野の面影があったし、ネットで検索したら実は施設暮らしだったとか、幼少期過ごした地域が一致してた」
凪沢の顔を見つめる。こんな美形はそうそういないし、十二歳の時点で既に凪沢は群を抜く美少年だった。
「まさかと思ったよ。でもお前が俺の二十歳の誕生日に突然現れた時にまず疑って、俺が名乗ってもないのにお前が俺の名前をフルネームで呼んだ時、俺は凪沢が西野だって確信したんだ」
宝くじでも何でもなかった。
週刊誌から逃げていたと言うのも嘘だったのだろう。
凪沢は西野として二人の約束を果たしに日向に会いに来てくれたのだ。
「でも悲しくなった。子供の頃の古い約束ひとつで、俺なんかが付き合える相手じゃなくなってたんだ」
「そんなことないっ!」
「あるよ。凪沢、無理しなくていい。薄情だなんて思わないから俺との約束を破ってくれ」
「嫌だ!」
「俺は少しの間でもお前と一緒に暮らせてすごく幸せだった。お前が約束を覚えててくれて嬉しかった。それで十分だよ。凪沢なら俺なんかよりもっと上の、それこそどんな相手でもモノにできる。お前はお前の世界を生きろ」
凪沢が俺と同じ平凡だったらよかったのに。
それならば凪沢の気持ちを俺は甘んじて受け入れたかった。
だが今の凪沢はあのとき施設にいた何にもない少年ではない。俺と一緒にいるべきじゃない。
「嫌だ! 俺はお前がいいんだよっ! だからこうして迎えに来た。なのに何で拒絶するんだよ! 俺が好きなのはお前だ。だから無理矢理にでも二人きりで暮らしたのに、お前とキスも出来なかった。俺はこれからお前とやりたいこと沢山あるんだ。だからずっと俺をお前の側に置いてくれ!」
凪沢の想いはきっと本物だ。こんなにも俺を愛してくれる人はもう現れないだろう。
そうだ。こんなにも俺に愛をくれる凪沢に事実を教えてやろう。
「……キスはした。俺とお前、もう何回もな」
「え?! いつ……?」と凪沢は眉根を寄せて必死で過去の記憶を振り返っているようだ。
「ごめん。お前に悪いから白状する。お前が俺んちに泊まってた時が二週間くらいあっただろ?」
凪沢は頷く。
「その時、お前の寝顔を俺は毎日眺めてたんだ。あまりにも綺麗でさ」
「マジで?!」
「そうだよ。見ているだけじゃない。俺は悪い奴だからお前の寝顔にキスしてたんだ。一回じゃ終わらなかった。芸能界の仕事ってやっぱ疲れるんだな。お前はいつも熟睡してた。そんなお前が起きない事をいいことに何回もだ。今更謝る。許してくれ」
墓場まで持っていこうと思っていた罪を白状してしまった。きっと凪沢の想いをぶつけられたせいだ。
「全然気がつかなかった……。お前、酷いな」
「ごめん。勝手にキスしたことは謝る。でも俺が約束を忘れたふりを続ければお前はいつかいなくなると思ってたから、最後のチャンスかな、なんて思ったんだ。一回だけのつもりが、それが……毎晩——」
凪沢は突然俺の身体を引き寄せた。そしてそのまま俺の唇にキスをする。
「日向、安心した。お前も俺の事好きなんじゃん」
そう言うために一旦唇を離した凪沢は言い終わるとすぐにキスを再開した。今度は深く——。
俺には凪沢は手が届かないくらいの存在で、どうせうまくいくはずがない、凪沢の足枷にしかならないと頭では理解している。
それなのに何故だろう。心が、身体が凪沢を求めてしまう。
俺が記憶喪失になっても凪沢を求めてしまうかもしれないくらいの強い感情が、抑えようとしてもどうしてもコントロールが効かず、湧き上がってくる。何度も何度も現れて、俺の理性を崩壊させる。
「日向。俺はお前が好きだ」
凪沢は車内灯を消し、助手席のシートを倒した。そしてそのまま俺に覆い被さってくる。
「お前はどうなんだ? 俺のこと好きか?」
俺を組み敷いたまま、愛おしそうに見つめてくる。
ああ。凪沢には勝てない。全て白状させられてしまう。
「くそっ、言ってやるよ! 俺はお前のことが好きに決まってる! でも凪沢、こんな俺に白状させて後悔するぞっ」
俺に想いを白状させて責任取る気あるのか?! アイドルのお前に俺は似つかわしくない、すぐに他のハイスペックな相手を欲しくなるぞと俺の猜疑心。
「後悔しないよ。これから毎晩白状させてやる。ずっと一緒にいよう、日向」
俺は西野凪こと凪沢優貴に強く抱き締められた。その腕の中は優しく心地良い。その心地よさに小さな意地は呆気なく崩れ去る。
「凪沢……好きだ……やっぱりお前と一緒にいたい……」
完敗した俺は凪沢の背に腕を回して抱きついた。
——完。
就業後、二人で歩いているとき、高埜が工場の廊下に貼ってあった凪沢優貴の企業ポスターを指差しながらこちらを鋭い目で見た。
「高埜。それマジうけるわ。そんな事あるわけないだろ」
高埜の話を一蹴する。だが、高埜はしつこかった。
「いーや、あの声、どっかで聞いたことがあると思ってたし、凡人離れしたスタイルも、あの目つきも間違いないと思うんだけどな……」
キャップにマスクでも正体がバレるのか。芸能人になる奴はそもそものスペックが違うのだと改めて思う。
「あいつ、もう一回ここに呼んでくれよ。俺、話がしてみたいな」
「もう無理だ。あいつとは絶交した」
そう言って、小窓の向こう側にいる守衛に軽く会釈をして工場の外へ出る。
「はぁっ? 何でっ? せっかくの金ヅルと?」
「金ヅルじゃない。ただの知り合いだ。でももう会わない」
人気アイドルと工場勤務員。俺たち二人は、天と地ほど違う。もう二度とあいつに会うことはないだろう。
「えー! もったいねぇなぁ! でもやっぱりあいつ、日向に気まぐれで近づいてきただけだったんだろ」
「そうだよ。俺があいつを捨てるわけがないだろ? 何にもない俺と一緒にいても人生の無駄だって気づいてあいつは俺から離れてったの!」
凪沢は自らの意思で、俺のアパートから去っていった。今朝のTVの様子でも、凪沢は俺が約束を覚えていることに気がついていない様子だった。
約束を忘れられたと思っている凪沢は、薄情者の幼馴染のもとへは戻らないだろう。
「可哀想にな、日向。俺が慰めてやるよ」
高埜が日高を励ますようにぽんぽんと肩を叩いた。その手の優しさに心が穏やかになる。
高埜。平凡なお前が俺の側にいてくれて良かったよ。やっぱり持つべきものはレベルの合う友達だ。
と、思った時だった。
「おい、お前。その手を離せ」
高埜の手を振り払ったのは黒キャップにマスク姿の背の高い男。
「な、凪沢っ?」
驚き過ぎて思わず名前を呼んでしまった。俺のその反応に高埜も「凪沢って、やっぱりあの凪沢優貴っ?」と目をしばたかせている。
「日向。久しぶりだな。話がある。俺について来い!」
凪沢は日向の手を引いてズンズンと歩いていく。
「待てよっ! おいっ!」
「あいつに触らせるなって言っただろっ? あー、マジでムカつくわ」
おいおい、それより前にお前、勝手に消えて、勝手に現れた事に対して俺に説明しないのかと思う。
「黒のポルシェ。お前好きなんだろ。だから買ったんだ」
工場の最寄りのコンビニの駐車場に似つかわしくない黒のポルシェ911があった。
「乗れ」
凪沢は鮮やかに俺を助手席へとエスコートし、自らは運転席のハンドルを握った。そしてすぐに車を発進させる。
車を走らせてしばらく無言だったが、信号で停止した時に、凪沢は俺に紙切れを投げて寄越してきた。
その紙切れはひどく見覚えのあるものだ。俺は、子供の頃の約束を忘れないようにとそれをずっと財布に入れて持ち歩いていた。
「日向。お前、俺との約束を覚えてるくせに、覚えてないふりしやがっただろ! その紙が証拠だ。俺が昔、お前に書いた手紙を大切に持ってたみたいだな。それって約束を忘れない為なんだろ?!」
凪沢はわき見運転だ。そのせいで黒のポルシェが一瞬蛇行した。
「そうだよ。俺は覚えてる。小学生の頃のお前、西野凪と交わした約束だろ? 二十歳になったら会おうっていう約束も、その時お互い恋人がいなかったら恋人になろうっていう約束も、六年生の時にお前が俺の事を好きだって言ってくれて、俺も西野が好きだって応えた事も、全部覚えてる。忘れるわけがないだろ」
証拠を突きつけられたらもう言い逃れはできなかった。それに凪沢優貴の本名も思い出した。西野凪だ。
日向と西野の二人は小学校六年生の再会の時、お互いを「好きだ」と言い、求めるように抱き締め合った。離れ離れになって寂しかったからだ。
だが幼過ぎたため、その先は大人になった自分達に委ねることにした。
「じゃあ何で今更、約束をなかった事にしようとするんだよ! 俺、日向の二十歳の誕生日にお前に会いに行くってずっと決めてて、そのためにお前がどこにいるか探偵まで使って調べたんだぜ?!」
凪沢は車をコンビニの駐車場に前から突っ込む形で停めた。俺との話に集中する為だろう。その方がいい。アイドルが事故るのは致命的だ。
「……俺も調べたんだよ」
「何を?」
凪沢は車内灯をつけた。俺の表情を確認する為か。
「お前の居場所だよ。俺も二十歳になったらすぐに会いに行けるようにお前を探したんだ」
俺も凪沢こと西野凪と再会する日を楽しみに、日々を過ごしていた。
「そうなのか?!」
「当たり前だろ。俺はお前のことがずっと好きだったんだから」
「俺達ずっと両想いだったんだな」
その言葉から、凪沢も俺の事をずっと好きでいてくれたことが分かり、嬉しくなる。
「でも俺はお前みたいに探偵なんて雇えないから、お前が今どこに住んでるか見つけられなかったんだ」
必死で探した。でも高校中退後から西野凪は里親の家を出てしまっていて、行方を追えなかった。
西野の高校や養護施設などに行き、小さな情報をかき集めたが無理だった。
「でも一人、もしかしたら西野凪かもしれないって思う奴をTVの中で見つけたんだ。そいつが凪沢優貴だ。十二歳のときの西野の面影があったし、ネットで検索したら実は施設暮らしだったとか、幼少期過ごした地域が一致してた」
凪沢の顔を見つめる。こんな美形はそうそういないし、十二歳の時点で既に凪沢は群を抜く美少年だった。
「まさかと思ったよ。でもお前が俺の二十歳の誕生日に突然現れた時にまず疑って、俺が名乗ってもないのにお前が俺の名前をフルネームで呼んだ時、俺は凪沢が西野だって確信したんだ」
宝くじでも何でもなかった。
週刊誌から逃げていたと言うのも嘘だったのだろう。
凪沢は西野として二人の約束を果たしに日向に会いに来てくれたのだ。
「でも悲しくなった。子供の頃の古い約束ひとつで、俺なんかが付き合える相手じゃなくなってたんだ」
「そんなことないっ!」
「あるよ。凪沢、無理しなくていい。薄情だなんて思わないから俺との約束を破ってくれ」
「嫌だ!」
「俺は少しの間でもお前と一緒に暮らせてすごく幸せだった。お前が約束を覚えててくれて嬉しかった。それで十分だよ。凪沢なら俺なんかよりもっと上の、それこそどんな相手でもモノにできる。お前はお前の世界を生きろ」
凪沢が俺と同じ平凡だったらよかったのに。
それならば凪沢の気持ちを俺は甘んじて受け入れたかった。
だが今の凪沢はあのとき施設にいた何にもない少年ではない。俺と一緒にいるべきじゃない。
「嫌だ! 俺はお前がいいんだよっ! だからこうして迎えに来た。なのに何で拒絶するんだよ! 俺が好きなのはお前だ。だから無理矢理にでも二人きりで暮らしたのに、お前とキスも出来なかった。俺はこれからお前とやりたいこと沢山あるんだ。だからずっと俺をお前の側に置いてくれ!」
凪沢の想いはきっと本物だ。こんなにも俺を愛してくれる人はもう現れないだろう。
そうだ。こんなにも俺に愛をくれる凪沢に事実を教えてやろう。
「……キスはした。俺とお前、もう何回もな」
「え?! いつ……?」と凪沢は眉根を寄せて必死で過去の記憶を振り返っているようだ。
「ごめん。お前に悪いから白状する。お前が俺んちに泊まってた時が二週間くらいあっただろ?」
凪沢は頷く。
「その時、お前の寝顔を俺は毎日眺めてたんだ。あまりにも綺麗でさ」
「マジで?!」
「そうだよ。見ているだけじゃない。俺は悪い奴だからお前の寝顔にキスしてたんだ。一回じゃ終わらなかった。芸能界の仕事ってやっぱ疲れるんだな。お前はいつも熟睡してた。そんなお前が起きない事をいいことに何回もだ。今更謝る。許してくれ」
墓場まで持っていこうと思っていた罪を白状してしまった。きっと凪沢の想いをぶつけられたせいだ。
「全然気がつかなかった……。お前、酷いな」
「ごめん。勝手にキスしたことは謝る。でも俺が約束を忘れたふりを続ければお前はいつかいなくなると思ってたから、最後のチャンスかな、なんて思ったんだ。一回だけのつもりが、それが……毎晩——」
凪沢は突然俺の身体を引き寄せた。そしてそのまま俺の唇にキスをする。
「日向、安心した。お前も俺の事好きなんじゃん」
そう言うために一旦唇を離した凪沢は言い終わるとすぐにキスを再開した。今度は深く——。
俺には凪沢は手が届かないくらいの存在で、どうせうまくいくはずがない、凪沢の足枷にしかならないと頭では理解している。
それなのに何故だろう。心が、身体が凪沢を求めてしまう。
俺が記憶喪失になっても凪沢を求めてしまうかもしれないくらいの強い感情が、抑えようとしてもどうしてもコントロールが効かず、湧き上がってくる。何度も何度も現れて、俺の理性を崩壊させる。
「日向。俺はお前が好きだ」
凪沢は車内灯を消し、助手席のシートを倒した。そしてそのまま俺に覆い被さってくる。
「お前はどうなんだ? 俺のこと好きか?」
俺を組み敷いたまま、愛おしそうに見つめてくる。
ああ。凪沢には勝てない。全て白状させられてしまう。
「くそっ、言ってやるよ! 俺はお前のことが好きに決まってる! でも凪沢、こんな俺に白状させて後悔するぞっ」
俺に想いを白状させて責任取る気あるのか?! アイドルのお前に俺は似つかわしくない、すぐに他のハイスペックな相手を欲しくなるぞと俺の猜疑心。
「後悔しないよ。これから毎晩白状させてやる。ずっと一緒にいよう、日向」
俺は西野凪こと凪沢優貴に強く抱き締められた。その腕の中は優しく心地良い。その心地よさに小さな意地は呆気なく崩れ去る。
「凪沢……好きだ……やっぱりお前と一緒にいたい……」
完敗した俺は凪沢の背に腕を回して抱きついた。
——完。
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実は再会愛でした❤️
お互い探してたんです。再会できてよかったけど、お互い相手が自分のことを覚えているのか不安で💦
感想ありがとうございます😊
こちらも制覇!気合を入れてます!
読ませて頂きありがとうございました。(〃艸〃)ムフッ
守備範囲が広すぎるッ!
ありがとうございます😊😊😊
エブリスタに載せてない話も見つけて読んでくださり感謝します(*p´д`q)ふえぇ‥
本日完結とさせていただきました!
叙述トリック(日向はわかっているのに、それをあえて文章に書かない、つまり読者に伝えない書き方)のようなものを組み込ませていただき、好き嫌いが分かれる作品かなとドキドキしておりました。
読んでくださる方がいて、ほっとしております((っ´;ω;)っアリガトウ…。+゚
感想ありがとうございます(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ᵖᵉᵏᵒ