借金のカタにイケメン社長に囲われる

雨宮里玖

文字の大きさ
11 / 140

11.十年前

 当時十歳の冬麻。重たいランドセルを背負っていつもの通学路を歩いていると、川を熱心にのぞき込んでいる男がいた。
 冬麻の経験上、『川をのぞき込んでいる人がいる=そこに何か生き物がいる』だったので、冬麻は少しワクワクしながら男の隣で川をのぞき込んだ。川にいるのはなにかの魚か、カモか。もっと見たことのない生き物かもしれない。
 でも川には何もいなかった。冬麻の見落としかもしれないとじっくり眺めてみたが何もいない。
 男の目線はどこに向いているのか確認するためにチラッと男の顔を見た。その時バチッと目が合ってしまった。


「ねぇ君。これあげるよ」

 不意に男が差し出してきたのは腕時計だった。
 細かな装飾が施されている、子どもの目から見ても立派な腕時計だった。とても大切に扱われているのか、ピカピカと光り、新品みたいにキレイだ。

「いえっ、要りませんっ」

 木の枝やそこらの花じゃない。そんな高価そうなものを知らない人からおいそれと受け取れるわけがない。

「いいから貰ってくれ。道連れにしようと思ったんだけど、この時計はまだ動いている。息をしているんだ。それに気がついてやっぱり惜しくなった。この世からいなくなるのは俺だけでいい。だから受け取ってもらえないか」

 男の顔はひどく疲れている様子だった。冬麻には大人の事情なんてわからないが、男からは何か不穏なものを感じた。


「もう要らないの?」
「ああ、俺には必要ない。何もかもどうでもいい」

 男は吐き捨てるように言った。なんだか怒っているみたいだった。

「じゃあ、貰ってもいい?」

 何の事情があるのかわからないが、捨てるくらいなら貰ってもいいかな、と冬麻は思った。
 早速腕に身につけてみる。バングルを外す必要もなく、それはするすると冬麻の腕に滑り降りていった。腕時計のずっしりとした重さに、少しだけ背伸びができたように思う。

「ありがとう!」

 嬉しくなって男のほうを振り返る。そのとき男の異変に気がついた。
 いや最初から何かおかしな雰囲気だった。よからぬことを考えているのではと、冬麻は思った。

「——やっぱりこれ、貰うんじゃなくて貸してくれませんか?」
「え?」

 男は少しだけ驚いたようだ。

「明日返します。明日またおんなじ時間にここで会えますか?」
「明日……」

 男は明らかに困惑している様子だった。

「明日が無理なら明後日でも、来週でもいいです」
「俺は未来の約束はできないんだよ」
「なんで?」

 冬麻の素早い返しに男は言葉をつまらせた。

「お兄さん、また会おうよ」

 冬麻は少しだけ意地悪を言っている。そう言えばこの男は、とりあえずは命を諦めるようなことはしないのではないかと思った。

「ほら、約束げんまん!」

 冬麻は小指をぴっと立てて男に向けた。
 男は「負けたな……」と呟き冬麻の指に自分の小指を絡めてきた。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ!」

 冬麻は男の指をぶんと振り回し「ゆびきぃたっ!」と約束させた。

「俺を許してくれるの?」

 男は弱々しくも、何か懐かしそうに冬麻のほうを見ている。

「ゆるす?」

 冬麻には男のいうことの意味がわからない。

「ごめん。なんでもないよ」

 そう言って笑った男はとてもかっこよかった。
 さっきは元気のない顔をしていたから暗い人だと感じたが、笑顔をみて実はそうではないんだなと思った。ちゃんと笑えばテレビに出てくるイケメン俳優並みにかっこいいんじゃないだろうか。



「じゃあね! さようなら!」

 冬麻はそういえば家に帰ったらすぐに公園に行って友達と遊ぶ約束をしていたのを思い出し、男にそう別れを告げて歩き出す。

「あ!」

 と、思ったが言い忘れていたことがあるとすぐに男のもとに戻る。

「お兄さんは笑ったらきっとステキだよ」

 見知らぬ男の人だけど、これでちょっとは元気になればいいなと思った。それに笑顔が似合いそうだと思ったのは、嘘ではなかった。

「また明日ね!」

 それから男は冬麻に会いに来ることはなかった。返したかった腕時計も結局そのままになり、今でもそれは冬麻の手元に大切に保管している。




「あの時の……!」

 あの時の男は、もしかしたら久我だったのではないか。
 今の今まですっかり忘れていたが、あの川の話を聞いて思い出した。
 あのとき久我は入水自殺を考えていたのではないか——。

 ——でも、あの完璧男が失敗なんてするかな……。

 失敗する久我などまるで思い描けない。古い記憶だし、間違ったり記憶が多少ねじ曲がっているかもしれない。
感想 52

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です