からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

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全部忘れてやる

1.

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「あんな奴、好きなわけないじゃん」
「うっわ、マジで?! お前、酷いな」
「あいつ俺が『好きだ』って言ったら真に受けてやんの。今でも自分は俺の恋人だって信じてんじゃねぇかな」
「ウケるな、あいつ身の程知らずだな。あんな平凡な奴がヒカルと付き合えるわけないのにな!」


 放課後の教室。ヒカルと奏多そうたの二人の会話を、げんは偶然聞いてしまった。

 ——やっぱりそうだったんだ!

 ヒカルが、弦に告白してくるなんてことあるわけないと思っていた。

 ヒカルは全てを持っているような男だ。トップアイドル並の完璧なルックス。財閥の家の次男だが、勉強も運動も得意、度胸、リーダーシップ、決断力に長けており、長男よりも後継ぎとして期待されているらしい。

 そのため、ものすごくモテる。恋愛の意味だけでなく、ヒカルのカリスマ性に惹かれてしもべのような奴らまでいる。

 さっきヒカルと話していた奏多がヒカルのしもべのうちのひとりだ。ヒカルと同級生なのだが、いつもヒカルに媚びへつらってヒカルの隣にいる。





 弦だってバカじゃない。ヒカルに突然呼び出されて、「お前が好きだ。俺と付き合って欲しい」と言われて最初はもちろん疑った。

「冗談だろ」と言ったら「本気だよ」とヒカルに返された。
「わかった! 罰ゲームで誰でもいいから告れって言われたんだな!」と言ったら「俺がそんなくだらないゲームをするような奴に見えるのか」と睨まれた。
「偽物の恋人が欲しいんだろ!」と言ったら「だったら普通女を選ぶだろ。男のお前じゃ、俺と付き合ってることは隠さなきゃ」と鼻で笑われた。

 そこまで言われてしまうと、弦にはヒカルの本心がまるでわからない。
 ヒカルが本気で弦を好きになるなんて絶対にありえないことだ。

 なのに、どうして——。

「弦。俺と付き合ってくれ。俺の恋人になって欲しい」

 黒曜石のようにキレイな瞳で見つめられ、この瞳の奥には絶対に嘘が隠されているはずだと思っているのに、抗えなかった。

「こんな俺でいいのなら……」

 ヒカルは人間としての格が違いすぎて好きになることすら許されないと思っていた。
 それなのにまさかのヒカルの告白に身体が震えてる。

「弦。いいの? 俺のものになってくれるの?」

 弦は頷く。ヒカルに魔法をかけられたみたいに。

「弦、お前に触れてもいい?」

 ヒカルは弦を抱き締めてきた。その抱擁が普段、全てのものに対して冷ややかな態度のヒカルとは対照的に、温かく人間味にあふれており、弦にとってそのギャップが至高でしかない。

 ——ヤバい。気持ち良すぎる。

 ヒカルの鼓動を感じる。冷徹な人間にも、ちゃんと血は通っているんだなと当たり前のことを思った。

「今日から弦は俺の恋人ね」

 耳元で囁かれた。

「だから他の誰かに告白されても断ってよ。弦は俺のものだから」
「うん……」

 断るに決まってるじゃないかと弦は頷く。弦は誰かに告白されたことも今日が初めてだし、断るもなにも、そのような事態にはならないだろうと思った。

「いい子だな」

 ヒカルは弦の頭を撫でてきた。

「俺たちの関係は内緒にしよう。男同士だなんてお前も絶対にバレたくないだろ? でも俺がお前を呼び出しただけで、騒ぐ奴らがいるんだよな」

 学校における、ヒカルの一挙手一投足は生徒たちによって監視されていると言っても過言ではない。それだけヒカルの注目度は高い。

 今、二人は理科準備室にいる。だが既に廊下から人の話し声が聞こえてくる。きっとヒカルがなぜ弦を呼び出して二人きりになったのかを噂しているのだろう。

「廊下にいる奴らは、まさか俺が弦と抱き合ってるなんて思ってもないだろうな」

 おい、ヒカル! 赤裸々にそういうことを言葉にしないで欲しい。

「ヒカル……」

 ヒカルと離れる前に確認しておきたい。

「なに?」
「俺、ヒカルのこと、信じてもいいの?」

 少しだけ身体を離し、嘘かどうかを見透かしたくてヒカルの目をじっとみる。

「いいよ」

 ヒカルは微笑んだ。

「お前のことは俺が守るから」

 ヒカルにそう言われて、不意に弦を襲う既視感。

 この台詞——。
 たしかに聞き覚えがあった。だが、いつのことだったのか思い出せない。
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