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全部忘れてやる
3.
弦がヒカルと初めて会ったのは、ヒカルの家だ。
巨大でスタイリッシュで、贅を尽くした豪邸で、これまた豪華なパーティーが行われていた。
ヒカルの父が主催のホームパーティーで、弦の父はケータリング料理を用意するスタッフのひとりとして働いていた。
夜のパーティーで、父子家庭だったため、父は弦を家にひとりにしておくよりはと考えたのか、弦も連れてきて手伝いをさせていた。
当時十一歳の弦は、真面目に手伝う気もなく広い庭の陰で隠れてサボっていた。
「お前、誰?」
声をかけてきた少年。その当時で既に美少年だったヒカルだ。
「え……?」
驚いてうまく反応できなかった。声をかけられたことと、ヒカルがあまりにも綺麗だったからだ。
「子供なのにもう働いてるのか?」
ケータリングスタッフと同じエプロンを身につけていたため、身元がバレたようだ。
「違うよ、手伝い。金なんか貰えない。だからサボってるんだよ」
「ふーん」
ヒカルは納得したようだった。
「ここ、いいなぁ。こんな隠れる場所がウチにあったなんて知らなかったよ」
ここは庭の隅。昼間は無理だが、夜の闇に紛れてしまえばまず見つからないような場所だ。
「俺もここでサボっていい?」
ヒカルが妙なことを言い出した。
「いや、君はこの家の子供でしょ? なんで隠れる必要があるんだよ」
「大人がうるせぇんだよ。俺は見せ物じゃない」
事情はわからないが、ヒカルはたくさんの大人たちに話しかけられて辟易したのかもしれないと思った。
「いいよ」
弦はヒカルが隠れやすいようにと場所をあけてやる。ヒカルは弦の隣に座った。
二人は無言。
でも、嫌な静けさではない。
二人きりで、密かになにかを共有しているような感覚だった。
「ヒカル! 見つけたぞ!」
その静寂を打ち破ったのが、ヒカルの兄、一真だった。
「え?! もうひとりいる?! 誰?!」
一真は、弦を見て当然驚いている。弦は名乗り、ヒカルに話したように一真にも事情を話した。
「そうなんだ。いいね。俺は一真。こいつは弟のヒカル。俺たちこの家に住んでるんだ。よかったら今度遊びに来てよ!」
一真は気さくに話しかけてくるタイプの少年だった。でもこんな大それた家におめおめと遊びに来られるものかと、内心、弦は思っていた。
「なぁ、ヒカル。弦も一緒に連れて行ってやろうぜ」
「いいよ」
兄弟二人は何を考えているのだろう。
「弦。お前も一緒に来いよ。今日の午後21時7分から少しの間、国際宇宙ステーションが見られるかもしれないんだ。暇だし見に行こうぜ」
なんだそれ。弦は全く興味は湧かないが、とりあえずここから逃げ出したかった。
「俺も行く。一緒に混ぜてくれ」
三人は、ケータリングのトラックの陰に隠れて家の門の監視カメラを避け、家を出ていった。
そして山に入って見事に迷子になり、帰るのがめちゃくちゃ遅くなってこっ酷く大人たちに叱られる、という事態になった。
その後、ヒカルと同じ高校に入ることになり、弦はあの時の少年がヒカルだとすぐにわかった。でも、ヒカルは手の届かないくらいの人で、「あの時のこと憶えてる?」と話しかけることすらできなかった。
でも弦は密かにヒカルに憧れていた。多分初めてヒカルを見たときから既にヒカルに惹かれていたのではないかと思う。
そんなヒカルにやっと声をかけてもらえて、しかも告白までされたと思っていたのに。
——そんなことあるわけないって、わかってたじゃないか。
結局なんだったんだろう。ヒカルは俺をからかって楽しかったのかな。
ヒカルに告白されてからも、男同士の二人の交際は秘密裏だったため、学校でのヒカルの態度はまるで他人。変わらず冷たいままだった。
ただ恋人になったあと、変わったことといえば、ヒカルが頻繁にLINEを送ってくるようになったことと、図書室での逢い引きだ。
『弦。今日も図書室のいつものところにいるから』
ヒカルがLINEを送ってくるので、放課後に弦も図書室に向かう。
ヒカルは図書室の机でひとり本を読んでいる。
弦はヒカルに話しかけずにその目の前の机で、自習を始める。
すると『弦。俺を見ろよ』とLINEがきて、ヒカルを見るとヒカルは嬉しそうに笑顔をみせる。その笑顔が尊死しそうなくらいにかっこいい。
さらに『弦。来てくれてありがとう』とLINEが来て、『俺もヒカルに会いたかったから』と返すと『俺もだよ』と即座に返ってくる。
そして弦が本を探しに席を立つと、ヒカルもさりげなくついてきて、誰もいないのを確認した後、本棚に隠れてヒカルが弦を抱き締めてくる。それは隙をみてほんの一瞬の時もあれば、もう少し長く抱き締めたままの時もある。
人に見られたらどうするんだ、危ないだろと思うのに、ヒカルは『他に弦に会う方法がない』とやめようとはしなかった。
あのときの笑顔も言動も全部嘘だったのか……。
恐ろしい奴だ。ヒカルは。
もういい。ヒカルのことは忘れよう。
……あんな強烈な奴。
忘れられるかな——。
巨大でスタイリッシュで、贅を尽くした豪邸で、これまた豪華なパーティーが行われていた。
ヒカルの父が主催のホームパーティーで、弦の父はケータリング料理を用意するスタッフのひとりとして働いていた。
夜のパーティーで、父子家庭だったため、父は弦を家にひとりにしておくよりはと考えたのか、弦も連れてきて手伝いをさせていた。
当時十一歳の弦は、真面目に手伝う気もなく広い庭の陰で隠れてサボっていた。
「お前、誰?」
声をかけてきた少年。その当時で既に美少年だったヒカルだ。
「え……?」
驚いてうまく反応できなかった。声をかけられたことと、ヒカルがあまりにも綺麗だったからだ。
「子供なのにもう働いてるのか?」
ケータリングスタッフと同じエプロンを身につけていたため、身元がバレたようだ。
「違うよ、手伝い。金なんか貰えない。だからサボってるんだよ」
「ふーん」
ヒカルは納得したようだった。
「ここ、いいなぁ。こんな隠れる場所がウチにあったなんて知らなかったよ」
ここは庭の隅。昼間は無理だが、夜の闇に紛れてしまえばまず見つからないような場所だ。
「俺もここでサボっていい?」
ヒカルが妙なことを言い出した。
「いや、君はこの家の子供でしょ? なんで隠れる必要があるんだよ」
「大人がうるせぇんだよ。俺は見せ物じゃない」
事情はわからないが、ヒカルはたくさんの大人たちに話しかけられて辟易したのかもしれないと思った。
「いいよ」
弦はヒカルが隠れやすいようにと場所をあけてやる。ヒカルは弦の隣に座った。
二人は無言。
でも、嫌な静けさではない。
二人きりで、密かになにかを共有しているような感覚だった。
「ヒカル! 見つけたぞ!」
その静寂を打ち破ったのが、ヒカルの兄、一真だった。
「え?! もうひとりいる?! 誰?!」
一真は、弦を見て当然驚いている。弦は名乗り、ヒカルに話したように一真にも事情を話した。
「そうなんだ。いいね。俺は一真。こいつは弟のヒカル。俺たちこの家に住んでるんだ。よかったら今度遊びに来てよ!」
一真は気さくに話しかけてくるタイプの少年だった。でもこんな大それた家におめおめと遊びに来られるものかと、内心、弦は思っていた。
「なぁ、ヒカル。弦も一緒に連れて行ってやろうぜ」
「いいよ」
兄弟二人は何を考えているのだろう。
「弦。お前も一緒に来いよ。今日の午後21時7分から少しの間、国際宇宙ステーションが見られるかもしれないんだ。暇だし見に行こうぜ」
なんだそれ。弦は全く興味は湧かないが、とりあえずここから逃げ出したかった。
「俺も行く。一緒に混ぜてくれ」
三人は、ケータリングのトラックの陰に隠れて家の門の監視カメラを避け、家を出ていった。
そして山に入って見事に迷子になり、帰るのがめちゃくちゃ遅くなってこっ酷く大人たちに叱られる、という事態になった。
その後、ヒカルと同じ高校に入ることになり、弦はあの時の少年がヒカルだとすぐにわかった。でも、ヒカルは手の届かないくらいの人で、「あの時のこと憶えてる?」と話しかけることすらできなかった。
でも弦は密かにヒカルに憧れていた。多分初めてヒカルを見たときから既にヒカルに惹かれていたのではないかと思う。
そんなヒカルにやっと声をかけてもらえて、しかも告白までされたと思っていたのに。
——そんなことあるわけないって、わかってたじゃないか。
結局なんだったんだろう。ヒカルは俺をからかって楽しかったのかな。
ヒカルに告白されてからも、男同士の二人の交際は秘密裏だったため、学校でのヒカルの態度はまるで他人。変わらず冷たいままだった。
ただ恋人になったあと、変わったことといえば、ヒカルが頻繁にLINEを送ってくるようになったことと、図書室での逢い引きだ。
『弦。今日も図書室のいつものところにいるから』
ヒカルがLINEを送ってくるので、放課後に弦も図書室に向かう。
ヒカルは図書室の机でひとり本を読んでいる。
弦はヒカルに話しかけずにその目の前の机で、自習を始める。
すると『弦。俺を見ろよ』とLINEがきて、ヒカルを見るとヒカルは嬉しそうに笑顔をみせる。その笑顔が尊死しそうなくらいにかっこいい。
さらに『弦。来てくれてありがとう』とLINEが来て、『俺もヒカルに会いたかったから』と返すと『俺もだよ』と即座に返ってくる。
そして弦が本を探しに席を立つと、ヒカルもさりげなくついてきて、誰もいないのを確認した後、本棚に隠れてヒカルが弦を抱き締めてくる。それは隙をみてほんの一瞬の時もあれば、もう少し長く抱き締めたままの時もある。
人に見られたらどうするんだ、危ないだろと思うのに、ヒカルは『他に弦に会う方法がない』とやめようとはしなかった。
あのときの笑顔も言動も全部嘘だったのか……。
恐ろしい奴だ。ヒカルは。
もういい。ヒカルのことは忘れよう。
……あんな強烈な奴。
忘れられるかな——。
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