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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング⑥ 1.
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「あー! ホント小田切の部屋は居心地がいいな!」
吉良は寮の小田切の部屋に遊びに来て、遠慮なくベッドにゴロゴロ寝転んで小田切から借りたマンガを読んでいる。
ここにいるのは四人。小田切と吉良の他に、岩野と紙屋もいる。
吉良がアハハと大声で笑うと、岩野が「吉良、何読んでんの? 見せてみ?」とベッドの上、吉良の隣に寝転がってきた。
「あ! 岩野っ、お前ずるいぞ!」
紙屋が岩野とは反対側へと寝転がってきた。寮のシングルベッドで男三人はさすがに狭い。吉良が抜け出そうとすると、「吉良がいないでどうするんだよ!」とふたりに怒られ引き戻された。
「相変わらずだな」
小田切は一歩冷めた目で吉良たち三人のやりとりを眺めている。これが四人のいつもの関係だ。
だが吉良は小田切の態度がいつも気になっている。仲間はずれとは言わない。小田切にはそんなつもりは毛頭ないのはわかっているし、むしろ四人のうちのリーダーキャラは小田切なのだが、いつも三対一のような雰囲気になってしまっていることが気になっている。
明日は卒業前のお祝いということで、四人で制服を着てテーマパークに出かけることになっている。明日こそは小田切をひとりにしないように気をつけようと吉良は決意した。
◆◆◆
次の日、テーマパークに来て、鉱山列車を模したジェットコースターにいざ乗ろうとしたとき、吉良は「小田切、一緒に乗ろうぜ」と小田切の横に並んだ。
「……えっ? マジで?」
なぜか岩野が固まってしまった。
「俺、吉良と乗りたかったのに……」
紙屋はがっくりと肩を落としている。
「吉良。紙屋と乗れば? ご指名来てるぞ」
小田切は素っ気ない態度で吉良から離れようとする。
「うるせぇな、俺は小田切がいーの! 何? それとも小田切は実は俺が嫌いなのか? 俺は卒業間近まで仲良くやってきたつもりなのに」
吉良が強い視線で睨みつけてやると、小田切は「嫌いなわけないだろ」とフンと鼻で笑った。
「吉良がそうしたいなら一緒に乗ろうか。嬉しいよ吉良。卒業最後のいい思い出ができそうだ。じゃ、いこーぜ」
キャストの指示に従って、小田切とふたりジェットコースターに乗り込む。
「やっば、テンション上がるわ」
いつもクールな小田切にしては珍しく吉良に笑顔を向けてきた。よかった。小田切が楽しんでくれていることが伝わってきて、それがなによりも嬉しく思える。
ジェットコースターが動き出してすぐ、小田切が右手を伸ばしてきて、吉良の左手に触れた。小田切の手はそのまま吉良の手を包み込む。
「えっ?」
まさか、と思った。こんなときに手を繋いでくるなんて。
思わず小田切の顔を確認してしまった。小田切はまっすぐ前を向いたままだが、耳まで真っ赤にしている。
なるほど。小田切は、実はジェットコースター
が怖いようだ。怖いもの知らずのような顔をしているくせに、隣の誰かと手を繋がないと落ち着かないのだろう。そのことが恥ずかしくて顔を赤らめているに違いない。
可愛い奴め、と思い吉良がぐっと握り返すと、小田切は指を絡めてきた。
「吉良、来るぞ……!」
「うっわ、マジやべぇっ!」
ジェットコースターが高いところまで登りつめ、そこから一気に急降下する。
「最っ高!」
大丈夫か小田切と思っていたのに、小田切は怯えている様子などない。普通にスリルを楽しんでいる。
あれ。じゃあどうして小田切は手を繋いできたのだろう……。
結局、アトラクションに乗っている間じゅう、小田切と手を繋いでいた。
「楽しかった。ありがとな吉良。一生の思い出にする」
終わったあとも小田切は元気そのもの。吉良に珍しく笑顔を向けてきた。
小田切の笑顔にドキッと心臓が跳ねた。普段あまり笑わないクールな小田切の笑顔は、なんだか見るとドキドキする。
小田切はとにかくかっこいいのだ。乗り物から降りたあと、小田切はネズミを模したカチューシャを頭につけ直した。
それがまた似合っていて、いつものツンツンした雰囲気が和らいで可愛くなって余計にいい。
「ん? なに? これ、似合わないって?」
小田切の顔ばかり眺めていたようで、小田切に変な目で見られてしまった。
「へっ? いやいやいやいや、似合ってるって!」
「うん? どうした? そんなに慌てて」
「なっ、なんでもない、なんでもないからっ!」
自分でもよくわからない。小田切とは毎日のように顔を合わせているのに、どうして今日はこんなに挙動不審になってしまうのだろう。
「ほら、吉良もつけろ」
小田切は吉良のカバンに付いていたカチューシャホルダーからカチューシャを外して吉良の頭にもお揃いのカチューシャをつけてくれた。
「ん。可愛い」
小田切は吉良にカチューシャをつけて満足そうに微笑んだ。今日の小田切は機嫌がいいのか笑顔が多い。その笑顔にまたクラッときた。
「吉良ーっ! 会いたかった!」
「吉良、どうだった? 怖くて泣いた?」
後ろからワッとやってきた岩屋と紙屋に囲まれ、ふたりに左右の腕をとられた。
「怖いわけねぇよ」
「マジー? じゃあ次行こうぜ、スプラッシュ系!」
「いいねいいね!」
ふたりに引っ張られるようにして、吉良は次のアトラクションに連行される。
あっ、と思い、連行されながらもおいてけぼりになった小田切を振り返る。そのときの小田切は少しだけ寂しそうにみえた。
吉良は寮の小田切の部屋に遊びに来て、遠慮なくベッドにゴロゴロ寝転んで小田切から借りたマンガを読んでいる。
ここにいるのは四人。小田切と吉良の他に、岩野と紙屋もいる。
吉良がアハハと大声で笑うと、岩野が「吉良、何読んでんの? 見せてみ?」とベッドの上、吉良の隣に寝転がってきた。
「あ! 岩野っ、お前ずるいぞ!」
紙屋が岩野とは反対側へと寝転がってきた。寮のシングルベッドで男三人はさすがに狭い。吉良が抜け出そうとすると、「吉良がいないでどうするんだよ!」とふたりに怒られ引き戻された。
「相変わらずだな」
小田切は一歩冷めた目で吉良たち三人のやりとりを眺めている。これが四人のいつもの関係だ。
だが吉良は小田切の態度がいつも気になっている。仲間はずれとは言わない。小田切にはそんなつもりは毛頭ないのはわかっているし、むしろ四人のうちのリーダーキャラは小田切なのだが、いつも三対一のような雰囲気になってしまっていることが気になっている。
明日は卒業前のお祝いということで、四人で制服を着てテーマパークに出かけることになっている。明日こそは小田切をひとりにしないように気をつけようと吉良は決意した。
◆◆◆
次の日、テーマパークに来て、鉱山列車を模したジェットコースターにいざ乗ろうとしたとき、吉良は「小田切、一緒に乗ろうぜ」と小田切の横に並んだ。
「……えっ? マジで?」
なぜか岩野が固まってしまった。
「俺、吉良と乗りたかったのに……」
紙屋はがっくりと肩を落としている。
「吉良。紙屋と乗れば? ご指名来てるぞ」
小田切は素っ気ない態度で吉良から離れようとする。
「うるせぇな、俺は小田切がいーの! 何? それとも小田切は実は俺が嫌いなのか? 俺は卒業間近まで仲良くやってきたつもりなのに」
吉良が強い視線で睨みつけてやると、小田切は「嫌いなわけないだろ」とフンと鼻で笑った。
「吉良がそうしたいなら一緒に乗ろうか。嬉しいよ吉良。卒業最後のいい思い出ができそうだ。じゃ、いこーぜ」
キャストの指示に従って、小田切とふたりジェットコースターに乗り込む。
「やっば、テンション上がるわ」
いつもクールな小田切にしては珍しく吉良に笑顔を向けてきた。よかった。小田切が楽しんでくれていることが伝わってきて、それがなによりも嬉しく思える。
ジェットコースターが動き出してすぐ、小田切が右手を伸ばしてきて、吉良の左手に触れた。小田切の手はそのまま吉良の手を包み込む。
「えっ?」
まさか、と思った。こんなときに手を繋いでくるなんて。
思わず小田切の顔を確認してしまった。小田切はまっすぐ前を向いたままだが、耳まで真っ赤にしている。
なるほど。小田切は、実はジェットコースター
が怖いようだ。怖いもの知らずのような顔をしているくせに、隣の誰かと手を繋がないと落ち着かないのだろう。そのことが恥ずかしくて顔を赤らめているに違いない。
可愛い奴め、と思い吉良がぐっと握り返すと、小田切は指を絡めてきた。
「吉良、来るぞ……!」
「うっわ、マジやべぇっ!」
ジェットコースターが高いところまで登りつめ、そこから一気に急降下する。
「最っ高!」
大丈夫か小田切と思っていたのに、小田切は怯えている様子などない。普通にスリルを楽しんでいる。
あれ。じゃあどうして小田切は手を繋いできたのだろう……。
結局、アトラクションに乗っている間じゅう、小田切と手を繋いでいた。
「楽しかった。ありがとな吉良。一生の思い出にする」
終わったあとも小田切は元気そのもの。吉良に珍しく笑顔を向けてきた。
小田切の笑顔にドキッと心臓が跳ねた。普段あまり笑わないクールな小田切の笑顔は、なんだか見るとドキドキする。
小田切はとにかくかっこいいのだ。乗り物から降りたあと、小田切はネズミを模したカチューシャを頭につけ直した。
それがまた似合っていて、いつものツンツンした雰囲気が和らいで可愛くなって余計にいい。
「ん? なに? これ、似合わないって?」
小田切の顔ばかり眺めていたようで、小田切に変な目で見られてしまった。
「へっ? いやいやいやいや、似合ってるって!」
「うん? どうした? そんなに慌てて」
「なっ、なんでもない、なんでもないからっ!」
自分でもよくわからない。小田切とは毎日のように顔を合わせているのに、どうして今日はこんなに挙動不審になってしまうのだろう。
「ほら、吉良もつけろ」
小田切は吉良のカバンに付いていたカチューシャホルダーからカチューシャを外して吉良の頭にもお揃いのカチューシャをつけてくれた。
「ん。可愛い」
小田切は吉良にカチューシャをつけて満足そうに微笑んだ。今日の小田切は機嫌がいいのか笑顔が多い。その笑顔にまたクラッときた。
「吉良ーっ! 会いたかった!」
「吉良、どうだった? 怖くて泣いた?」
後ろからワッとやってきた岩屋と紙屋に囲まれ、ふたりに左右の腕をとられた。
「怖いわけねぇよ」
「マジー? じゃあ次行こうぜ、スプラッシュ系!」
「いいねいいね!」
ふたりに引っ張られるようにして、吉良は次のアトラクションに連行される。
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