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9.殿下の計略
「殿下」
純白の上下に絢爛な金銀の刺繍が施された婚礼着を身につけたラルスは、婚礼の控えの間でアルバートの姿を見つけて畏れ多くも声をかけた。ラルスに気がついたアルバートはこちらを振り返り、「綺麗だ。よく似合っている」と微笑みかけてきた。
「殿下、説明してください。これはいったいどういうことなのですかっ?」
アルバートにつかみかかる勢いで、ラルスは問い詰める。
「すべては私の仕組んだことだ。どうやったらラルスと婚礼を挙げることができるのか考え抜いた末の決断なのだ」
「な、なぜ僕を……」
ラルスには自分が妃に選ばれる理由がわからない。いまだに信じられなくて、何かの茶番劇に思えてならない。
「憶えておらぬか? ラルスは私が唯一惚れた相手だ」
アルバートはそう言って、ラルスに金色の馬の蹄鉄を模した飾りが付いているペンダントを見せてきた。
「あ!」
そのペンダントははっきりと憶えている。いつかウィンネル家に戦乱のため身を寄せた男の子と「いつか必ず再会しよう」と約束を交わしたときのペンダントだ。
当時は十歳。貴族の男の子は自分のことをアルフォンスと名乗り、フィンと同様に身分違いのラルスに優しく接してくれた。
「アルフォンスが、殿下だったのですか?」
「そうだ。軍務伯の計略で、半年だけ身を隠すこととなり、名を偽って軍務伯の屋敷に潜むこととなったのだ」
「そうだったのですか……」
幼いラルスには、そのような大人の事情はまるでわからなかった。ただ「この御方を大切に扱いなさい」とウィンネル伯爵に言われただけだった。
「私が馬に乗って振り落とされそうになったとき、助けてくれたのはラルスだった」
「憶えてます……気性の荒い雄馬で、あの子はアルファを毛嫌いしていましたから」
あのとき、アルバートは身体が大きくて立派な馬を選んだ。当時十歳のアルバートは、どんな馬でも操れると思っていたのだろう。案の定暴れてアルバートを振り落とそうとし、それをラルスがなだめたことがあったのだ。
「ラルスは、私の贈った銀の蹄鉄のペンダントを大事にしてくれていたのだろう? 閨事のときにラルスの首にそれが光っていたのを見たとき、私は嬉しくてすべてを明かしてしまいそうになった」
閨のとき、アルバートはペンダントに口づけをしていたことを思い出した。あの官能的な夜に、アルバートが何度もラルスに向けてきた愛おしそうな視線は、閨の練習相手としてではなく、ラルス自身に対してのものだったのだろうか。
「あのときの泣き虫アルフォンスが殿下だったなんて」
「泣き虫とはなんだ。泣いたのはあの馬に振り落とされそうになったとき一度だけだ」
ムキになって怒るアルバートの態度が微笑ましくてラルスは思わず笑みがこぼれる。
「あれ以来、馬に乗れなくなった。恥ずかしくてこのまま城に帰れないと思っていたとき、私が馬に乗れるよう、毎日そばにいて助けてくれたのはラルスだった」
「覚えております。ですがあれは殿下がお選びになった馬との相性が悪かっただけです」
「それを教えてくれたのはラルスだった。他の者は私に意見することがなかったからな」
たしかに、王太子殿下の判断に口を挟めるものはいないだろう。でもあのときラルスはまだ子どもで、しかもアルフォンスが王太子だと知らなかった。だからつい無遠慮に接してしまったのだ。
「ラルス。すでに招待客は集まっているし、お前が私との婚礼を拒絶することはできない。ウィンネル伯爵にも許可は得ているし、父上も母上も、今までの慣例を変え、私の見染めた相手を妃とすることに賛成してくれている。お前はこのまま私の妃になるしかない。いいね?」
アルバートはラルスにグイッと迫ってくる。その圧に押されてラルスはたじろいだ。
純白の上下に絢爛な金銀の刺繍が施された婚礼着を身につけたラルスは、婚礼の控えの間でアルバートの姿を見つけて畏れ多くも声をかけた。ラルスに気がついたアルバートはこちらを振り返り、「綺麗だ。よく似合っている」と微笑みかけてきた。
「殿下、説明してください。これはいったいどういうことなのですかっ?」
アルバートにつかみかかる勢いで、ラルスは問い詰める。
「すべては私の仕組んだことだ。どうやったらラルスと婚礼を挙げることができるのか考え抜いた末の決断なのだ」
「な、なぜ僕を……」
ラルスには自分が妃に選ばれる理由がわからない。いまだに信じられなくて、何かの茶番劇に思えてならない。
「憶えておらぬか? ラルスは私が唯一惚れた相手だ」
アルバートはそう言って、ラルスに金色の馬の蹄鉄を模した飾りが付いているペンダントを見せてきた。
「あ!」
そのペンダントははっきりと憶えている。いつかウィンネル家に戦乱のため身を寄せた男の子と「いつか必ず再会しよう」と約束を交わしたときのペンダントだ。
当時は十歳。貴族の男の子は自分のことをアルフォンスと名乗り、フィンと同様に身分違いのラルスに優しく接してくれた。
「アルフォンスが、殿下だったのですか?」
「そうだ。軍務伯の計略で、半年だけ身を隠すこととなり、名を偽って軍務伯の屋敷に潜むこととなったのだ」
「そうだったのですか……」
幼いラルスには、そのような大人の事情はまるでわからなかった。ただ「この御方を大切に扱いなさい」とウィンネル伯爵に言われただけだった。
「私が馬に乗って振り落とされそうになったとき、助けてくれたのはラルスだった」
「憶えてます……気性の荒い雄馬で、あの子はアルファを毛嫌いしていましたから」
あのとき、アルバートは身体が大きくて立派な馬を選んだ。当時十歳のアルバートは、どんな馬でも操れると思っていたのだろう。案の定暴れてアルバートを振り落とそうとし、それをラルスがなだめたことがあったのだ。
「ラルスは、私の贈った銀の蹄鉄のペンダントを大事にしてくれていたのだろう? 閨事のときにラルスの首にそれが光っていたのを見たとき、私は嬉しくてすべてを明かしてしまいそうになった」
閨のとき、アルバートはペンダントに口づけをしていたことを思い出した。あの官能的な夜に、アルバートが何度もラルスに向けてきた愛おしそうな視線は、閨の練習相手としてではなく、ラルス自身に対してのものだったのだろうか。
「あのときの泣き虫アルフォンスが殿下だったなんて」
「泣き虫とはなんだ。泣いたのはあの馬に振り落とされそうになったとき一度だけだ」
ムキになって怒るアルバートの態度が微笑ましくてラルスは思わず笑みがこぼれる。
「あれ以来、馬に乗れなくなった。恥ずかしくてこのまま城に帰れないと思っていたとき、私が馬に乗れるよう、毎日そばにいて助けてくれたのはラルスだった」
「覚えております。ですがあれは殿下がお選びになった馬との相性が悪かっただけです」
「それを教えてくれたのはラルスだった。他の者は私に意見することがなかったからな」
たしかに、王太子殿下の判断に口を挟めるものはいないだろう。でもあのときラルスはまだ子どもで、しかもアルフォンスが王太子だと知らなかった。だからつい無遠慮に接してしまったのだ。
「ラルス。すでに招待客は集まっているし、お前が私との婚礼を拒絶することはできない。ウィンネル伯爵にも許可は得ているし、父上も母上も、今までの慣例を変え、私の見染めた相手を妃とすることに賛成してくれている。お前はこのまま私の妃になるしかない。いいね?」
アルバートはラルスにグイッと迫ってくる。その圧に押されてラルスはたじろいだ。
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