身代わり閨係は王太子殿下に寵愛される

雨宮里玖

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 やがて音楽が終わった。これで祝宴は終わりになるようで、ベルトルト家代表としてマリクが簡単な挨拶をして、それからは皆、自由に過ごしている。
 ラルスとアルバートのもとには、フィンとマリクがやってきた。

「まさかおいでになられるとは思わなかったのです。何も用意がなく、無礼ばかり。誠に申し訳ございませんでした」

 開口一番謝ってくるマリクに対してアルバートは「そう固くなるな」と笑う。

「突然来た私が悪い。だが、どうしてもラルスが気になり、気が気でなかったのだ」
「先程フィンから聞きました。殿下は妃殿下を大変溺愛していらっしゃると。私もそのような噂を耳にしておりましたが、今日、まざまざと見せつけられてよく理解いたしました」
「ああ、当然だ」

 そこからアルバートはいかにラルスが素晴らしいかを切々とマリクに話し始めた。
 当の本人であるラルスは、恥ずかし過ぎてその場にいるのが耐えられないほどの溺愛ぶりだ。

 ラルスが思わず顔を覆っていると、「ねぇラルス」とフィンが小声で話しかけてきた。

「あのね、連絡が途絶えたのは、返事に困っていたからなんだって」
「えっ?」

 ラルスはアルバートとマリクと少しだけ距離をとって、フィンの声に耳を傾ける。

「マリクさまに気持ちを告げられた」
「ええっ」

 思わず大声を出しそうになったが、必死でこらえる。

「手紙で伝えるよりも、僕に会って伝えたかったって言われて……」
「それって……!」

 フィンの嬉しそうな様子を見ればわかる。フィンはマリクに恋慕の気持ちを告げられたようだ。

「マリクさまとお付き合いすることに……」

 フィンのそのひと言で、飛び上がるほど嬉しくなる。フィンの長い片想いが、ついに実ったのだ。

「おめでとうっ」

 大きな声は出せないから、フィンとふたりで声を抑えて喜び合う。
 よかった。本当によかった。
 フィンはずっと一途にマリクを想っていた。最初は遠くから見ているだけ。そのうちマリクが軍師として活躍し始めて、軍務伯であるフィンの父親をよく訪ねるようになり、話をするようになった。
 そしてフィンは勇気を出してマリクに手紙を送った。それからマリクはフィンを意識するようになったらしい。
 それからはさっきの話につながる。そしてふたりは気持ちを通じ合わせることができた。
 ラルスの今日の目的は果たせた。慣れないパーティーもアルバートのおかげで乗り越えることができた。

「ラルス」

 マリクと話をしていたアルバートがラルスに向き直り、碧色の瞳を細めて爽やかな笑顔を向けてきた。
 いつ見ても、どこから見ても、アルバートは本当にかっこいい。贔屓目ひいきめなしに、誰が見ても絶対にかっこいいと思うに違いない。

「頼みがあるのだが、いまここで口づけをさせてもらってもよいだろうか?」
「えっ……なぜそんな話に……」

 いったいアルバートはマリクとどんな話をしたのだろう。

 そんな恐ろしいことは聞けないまま、ラルスはその場を引きつった笑顔でやり過ごした。
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