14 / 41
14.根比べ
ゼインと結婚してから二日目の夜を迎える。今夜のハルは湯浴みのあと、ごく普通の室内着を着た。透け透けの服を着たら、今度こそゼインはハルと口を聞いてくれなくなるだろう。
ハルが部屋に戻ると、ゼインは寝室にある長ソファに座り、小さな明かりの下、静かに書物を読んでいた。
「先に寝ろ。俺はこれを読んでから眠ることにする」
ゼインはハルを一瞥しただけで、またすぐに書物に視線を戻す。
先に寝ろ、とはやはりゼインはハルに興味などないのだ。
ハルはズカズカとゼインに近づき、ゼインの座っているソファに座った。
「は? 俺は先に寝ろと言ったが。聞こえなかったのか?」
「聞こえましたよ。ですが私も湯上がりなので少しここで休んでから寝ます」
ここはハルの部屋でもある。どこに座ろうが自由だ。
ゼインはあからさまに嫌な顔をしたが、ハルを無理矢理追い出そうとはせず、そのあとは再び静かに本を読み始めた。
よし。まずゼインの隣にいることには成功した。
「ゼインさま、オルフェウスさまから聞きましたよ。給仕係に『ありがとう』って言ったって」
ゼインからの返事は何もなかった。それでもハルは言葉を続ける。
「それを聞いて、嬉しかったです。ゼインさまは私の話なんて聞いてくれないと思ってたんです。でも、ちゃんと聞いてくれてたんですね。ありがとうございます」
やはりゼインの反応はなにもない。でもハルにはわかる。この言葉もきっとゼインに届いているはずだ。
「俺なんかと話をしてもつまらないだろう? 早く寝ろ」
「いいえ、つまんなくなんかないですよ」
ゼインの追い出し作戦にはのらない。ハルはわざとさらに深くソファに腰をかけた。
「嘘をつくな。お前はオルフェウスと話しているときは、あからさまに楽しそうじゃないか。俺といるときとは大違いだ。昔からお前はオルフェウスばかり……」
そう言われて思い出した。昼間オルフェウスとハルがいることにゼインは気がついていたのだ。
「やっぱり見てたんですね。急いでたんですか? それとも気づいてるくせに無視したんですか?」
「ふたりきりがよかっただろ。……俺がいたら邪魔だろうから」
ゼインは無表情のまま、ハルを見る。
拗ねた子どもみたいなことを言うなんて本当にゼインは可愛げがない。笑えばゼインはとてもいい顔をするのに。
「ゼインさま、いいですかっ」
ハルはゼインの頬をむにっと両手でつまんで無理やり口角を上げさせる。
「ゼインさまもオルフェウスさまも、顔はそっくりなんだから。ゼインさまはもっとにこにこしてっ!」
ゼインは嫌がりもせず、ハルのせいでちょっと変な顔になったままじっと動かない。
「どうしてそんなにいつも不機嫌そうなんですか。ダメですよ、みんな威圧的だって思っちゃいますし、せっかくの男前が台無しです」
ハルはゼインから手を離す。ハルの目の前にいるゼインは、いつもどおり整った顔をしている。
美貌も才能も持ち合わせているのだから、あとはこの性格さえなんとかしたら完璧なのに。
「顔だけはオルフェウスと一緒だからな……」
そう呟くゼインは嫌気が差したような顔をしていた。双子で同じ顔なのは当然だ。しかもふたりとも美形なのだから何に不満があるのだろう。
「ハルヴァード」
ゼインが急に真剣な顔をして迫ってきた。
「は、はい……なんでしょう」
ハルは思わず身構える。
「あいつに、どこまで許したんだ?」
ゼインから静かな怒りのようなものを感じる。それと同時に、なぜか悲しそうにもみえた。
「あ、あの……」
「ずっとオルフェウスの婚約者だっただろ。それで、結局あいつとどこまでしたんだ?」
「どこまでって……何も……」
ハルは言葉がうまく出てこない。オルフェウスは婚約者だったが、恋人みたいなことは何もしていない。
「何も、ないです……ゼインさまが思われているようなことは何も……」
なんだろう。ゼインは花嫁の純潔を重んじているのだろうか。
「……そうか。妙なことを聞いて悪かった」
ゼインはサッと視線を外し、ハルに背を向けてしまった。
「いいですよ、なんでも聞いてください。ゼインさまは私の夫ですから」
またゼインからの返事がない。でも大丈夫だとわかる。ゼインに気持ちは伝わったはずだ。
ハルは近くにあった本棚から適当な本を選んで手にする。そして再びゼインの隣に座って本を読み始めた。
「ハルヴァード、さっさと寝ろ。俺に合わせる必要はない」
「合わせてませんよ、私が本が読みたいのですっ」
ハルは眠い頭を振って目を覚まし、根性で本を読み始めた。どちらが先に眠くなるか、今夜はゼインとの根比べだ。
ハルが部屋に戻ると、ゼインは寝室にある長ソファに座り、小さな明かりの下、静かに書物を読んでいた。
「先に寝ろ。俺はこれを読んでから眠ることにする」
ゼインはハルを一瞥しただけで、またすぐに書物に視線を戻す。
先に寝ろ、とはやはりゼインはハルに興味などないのだ。
ハルはズカズカとゼインに近づき、ゼインの座っているソファに座った。
「は? 俺は先に寝ろと言ったが。聞こえなかったのか?」
「聞こえましたよ。ですが私も湯上がりなので少しここで休んでから寝ます」
ここはハルの部屋でもある。どこに座ろうが自由だ。
ゼインはあからさまに嫌な顔をしたが、ハルを無理矢理追い出そうとはせず、そのあとは再び静かに本を読み始めた。
よし。まずゼインの隣にいることには成功した。
「ゼインさま、オルフェウスさまから聞きましたよ。給仕係に『ありがとう』って言ったって」
ゼインからの返事は何もなかった。それでもハルは言葉を続ける。
「それを聞いて、嬉しかったです。ゼインさまは私の話なんて聞いてくれないと思ってたんです。でも、ちゃんと聞いてくれてたんですね。ありがとうございます」
やはりゼインの反応はなにもない。でもハルにはわかる。この言葉もきっとゼインに届いているはずだ。
「俺なんかと話をしてもつまらないだろう? 早く寝ろ」
「いいえ、つまんなくなんかないですよ」
ゼインの追い出し作戦にはのらない。ハルはわざとさらに深くソファに腰をかけた。
「嘘をつくな。お前はオルフェウスと話しているときは、あからさまに楽しそうじゃないか。俺といるときとは大違いだ。昔からお前はオルフェウスばかり……」
そう言われて思い出した。昼間オルフェウスとハルがいることにゼインは気がついていたのだ。
「やっぱり見てたんですね。急いでたんですか? それとも気づいてるくせに無視したんですか?」
「ふたりきりがよかっただろ。……俺がいたら邪魔だろうから」
ゼインは無表情のまま、ハルを見る。
拗ねた子どもみたいなことを言うなんて本当にゼインは可愛げがない。笑えばゼインはとてもいい顔をするのに。
「ゼインさま、いいですかっ」
ハルはゼインの頬をむにっと両手でつまんで無理やり口角を上げさせる。
「ゼインさまもオルフェウスさまも、顔はそっくりなんだから。ゼインさまはもっとにこにこしてっ!」
ゼインは嫌がりもせず、ハルのせいでちょっと変な顔になったままじっと動かない。
「どうしてそんなにいつも不機嫌そうなんですか。ダメですよ、みんな威圧的だって思っちゃいますし、せっかくの男前が台無しです」
ハルはゼインから手を離す。ハルの目の前にいるゼインは、いつもどおり整った顔をしている。
美貌も才能も持ち合わせているのだから、あとはこの性格さえなんとかしたら完璧なのに。
「顔だけはオルフェウスと一緒だからな……」
そう呟くゼインは嫌気が差したような顔をしていた。双子で同じ顔なのは当然だ。しかもふたりとも美形なのだから何に不満があるのだろう。
「ハルヴァード」
ゼインが急に真剣な顔をして迫ってきた。
「は、はい……なんでしょう」
ハルは思わず身構える。
「あいつに、どこまで許したんだ?」
ゼインから静かな怒りのようなものを感じる。それと同時に、なぜか悲しそうにもみえた。
「あ、あの……」
「ずっとオルフェウスの婚約者だっただろ。それで、結局あいつとどこまでしたんだ?」
「どこまでって……何も……」
ハルは言葉がうまく出てこない。オルフェウスは婚約者だったが、恋人みたいなことは何もしていない。
「何も、ないです……ゼインさまが思われているようなことは何も……」
なんだろう。ゼインは花嫁の純潔を重んじているのだろうか。
「……そうか。妙なことを聞いて悪かった」
ゼインはサッと視線を外し、ハルに背を向けてしまった。
「いいですよ、なんでも聞いてください。ゼインさまは私の夫ですから」
またゼインからの返事がない。でも大丈夫だとわかる。ゼインに気持ちは伝わったはずだ。
ハルは近くにあった本棚から適当な本を選んで手にする。そして再びゼインの隣に座って本を読み始めた。
「ハルヴァード、さっさと寝ろ。俺に合わせる必要はない」
「合わせてませんよ、私が本が読みたいのですっ」
ハルは眠い頭を振って目を覚まし、根性で本を読み始めた。どちらが先に眠くなるか、今夜はゼインとの根比べだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け