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尊史

尊史 -02

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 事前に渡された資料によると、高機動装甲車が輸送班。随伴としてAVが数機つい
てくるらしい。漏洩情報の譲り渡しにAV数機つけるとはまた随分と豪儀なやり方だ
と思うが、敵対する戦力の情報はあるのと無いのとでは全く準備の仕方が変わる。
 AV数機、ではなく、向こうも傭兵を雇っているかもしれない。

「準備はしっかりしておく、ってことでいいのね?」
 周辺地図を見つつ、オペレーションと装備の検討をしていた恵令奈が聞いてきた

「そうだ。……装備はいつもの右手バズーカと、肩部レーダー、それと多弾頭ミサイルを。」

 同じ地図を見ながら、相手はどのルートで侵入するかを俺も検討する。レーダー
があるため、アドリブで対応することも可能だが、予測してあるのと無いのとでは
反応するまでの速度が違う。どんな任務であれ、準備をしっかりしておくのは必要
なことだ。

「盗まれた情報って、次々世代モデルのだっけ?」
「画期的な技術を盛り込んだパーツの設計らしい。相手方にわたると、技術的なア
ドバンテージが崩されるから、そうならないために早めに対処、それと、見せしめ
だな。」

 金に目がくらんでことに及んだことらしく、その制裁は、おおよそ荒事から遠い市民から見れば、苛烈で冷酷と言えるレベルだった。手始めに家族を攫い、それをネタに犯行を洗いざらい吐かせ、犯行に及んだ本人はとうに死亡、家族もそのあとを追
わされる形で抹殺。
 今回の依頼は、すでに外部へ盗み出されたパーツと、設計データを運び屋ともど
もつぶしてしまおう、という計画のもと、LASへ依頼されたものだった。

「……向こうも傭兵雇ってるかな?」
「さてな。いつも通り、始まってみなきゃ実際の戦力がわからんよ。AVがFAVだ
ったなんて、割かしあるだろ?」

 話を進めつつ、パイロットスーツに不備が無いか確認、試着して問題ないこと
も確認した。

「……よし、ハッチを開けるぞ。」

 スーツについている無線機を通して語りかける。

「了解。この子のオペレーションも久しぶりね」

 恵令奈は気に入った機械や機体を「この子」と呼んだりする。もともとは機械
にそこまで強くなかったが、俺や自分の命を預ける者と認識してから、少しずつ
愛着がわくようになった、という話だった。

『……油圧チェック完了、FCS、IFF動作正常。チェック項目、オールクリア―。
システム・オールグリーン。マスター、おはようございます。』
「おはよう、紅刃|《こうじん》。あと3時間後に出撃する。出撃準備状態。」
『了解しました。タスクを更新します。機体テスト完了、アイドルに入ります』

 FCSとセットに搭載されたシステムへオーダーする。必要なテストと換装はこ
れで完了。ハンガーからそのまま機体をキャリアへ移動し格納庫からキャリアの
居住室へ移る。

「あー。この狭い居住室、久しぶりねー。」

 狭い、という批判ともとれる発言をしつつ、恵令奈の口調は明るかった。
 どういう心境なのかは、言うまでもないだろう。

「長距離の移動じゃないから、食料その他は今回必要ないわね。」

 アルコールを持ち込みたい気持ちに先回りされたらしい。本当に、こいつは
よくわかっていらっしゃる。俺に歩み寄り、後ろ手に隠したものを見つけたと
ころでヒドイ叱られ方をした。正論でしかないので、今回はおとなしく従って
格納庫に置いてきてしまった。

「……気分転換にいいかと……」
「言い訳無用!!久しぶりの作戦だっていうのに、アルコールで判断鈍らせる
気?」

 ひとしきりそんなじゃれあいをしたところで、作戦領域に近づいてくる。
 そろそろ、依頼主と、今回協同する傭兵との合流地点だ。
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