復讐に燃えたところで身体は燃え尽きて鋼になり果てた。~とある傭兵に復讐しようと傭兵になってみたら実は全部仕組まれていた件

坂樋戸伊(さかつうといさ)

文字の大きさ
11 / 29
尊史

尊史-06

しおりを挟む
 部屋に戻るまで、俺たちはずっと何も言えなかった。
 何かを言えばそこで壊れてしまいそうだったのだ。
 これまでの何もかも。

 重苦しい沈黙の中、部屋には恵令奈が先に入り、俺の手を引いた。
 その力は予想外に強く、そして、そのまま抱き留められた。

「……ゴメン。こうしてないと、立っていられそうにないの。」

 少し震えた声で、俺の胸を勝手に侵略してきた我儘の言い訳をする。その言葉に対して、俺はその背中に腕を回し、少し強く抱き締める。そして、縮こまっているその額に口づける。

「そこじゃない……」

 そういった彼女は、おもむろに顔を上げ、一瞬目線を合わせた後に、今度は唇をふさいできた。……わかっている。本当はこんな睦み合いをしている場合じゃないと。単純に不安だったのだ。多分、俺の震えも伝わっただろう。だからこそ、お互いの全部を確かめたくなった。

「う……んぅ」

 ふさがれた唇のお返しに、舌をねじ込み、そのまま彼女を抱き上げる。

「ちょ……っと。たか……ふ…」

 呼びかけて制止しようとしたその声をもう一度ふさぐ。そのまま、恵令奈を抱きしめたままベッドへ倒れこんだ。ばふっと音がする勢いで倒れこむと、お互いの距離が少し離れる。たまらずもう一度抱き締めようとしたところ、彼女が俺の唇に人差し指を当てて制止してきた。

「もう……落ち着きなさいって……」

 泣き笑いの顔で、優しく諭すように。そして、次の瞬間には真っ直ぐ見つめ返してこう切り出してきた。

「あの傭兵は、あの時の作戦で生き残った一人、なのね。」

 その視線には、後悔と、犯した罪への怖れがあった。何度も俺自身が見た眼だ。
きっと、今の恵令奈はついこの間まで俺がしていた顔と同じになっているだろう。

「……そうだ。本人がそう話しかけてきた。そんな情報、どちらの得にもならん。わかっていてもどうにもならん心持ちだから、わざわざ俺に言ってきたんだろう」

 冷静になるよう努め、今日あったことを伝える。……だが、これ以上言っても、ただお互い傷つけることになるのに、止められなかった。

「アイツは、銃口を向けながら言ってきたよ。平穏を返せって。奪ったものに対して償えって!」

 一度堰を切った感情の奔流は、濁流になり、あの作戦以降、今日になって立ち直る前と同じに、俺の心を呑み込んでいった。

「クソっ。傭兵なんてやってりゃそういう事にも遭うさ。実際、アイツだけじゃな
かったよ。こうやって誰かの弔いに仇を取りに来るやつは。」

 しかし、それは、作戦中に敵対した傭兵や組織の恋人や家族だった。

「だが、アイツは、亮平は違う。ただ平穏に暮らしていたガキなのに、俺が……
それを……」

 奪った。途中までで俺の告白は終わる。
 そこへ恵令奈がまた唇を塞いできた。部屋に戻って以来、一番長く口づけした。

「……落ち着いた?」

 そういったあと、目の前で微笑む。微笑んだと思ったら、その瞳は濡れていて、目じりから雫がこぼれだしていた。

「後悔しなかった日なんてなかったよ!あの時になんでもっと依頼主についてちゃんと調査しなかったのかって!!だから、だから今回の依頼だって……」
 そのあとは、彼女の嗚咽に変わった。

 そう、今回の作戦は多少割が下がる依頼だったのだ。これまでであれば、もう少し金額の高い依頼を受けていたはずだ。そうしなかったのは、彼女なりに責任を感じていたところもあったのだ。そこはわかっていた。けれども、今回判った事実を、恵令奈に話さないではいられなかった。たとえ伏せたところで、いずれは露見する。それなら、今、話してしまった方がいい。彼女とは、これからもお互いを必要とする、今の関係でいたいから。

「……ごめん。泣いちゃって」
「……いや、こちらの方こそ。俺のために泣いてくれていつもありがとう。」

 彼女に向き直りそう言った。

「色々と今日まで、腐ってた俺を見捨てないでくれて有難う。」

 そういって、また抱き締める。少し落ち着いたかと思ったが、恵令奈はさらに強く俺の胸に額をこすりつけ、肩を大きく震わせながらさらに泣いた。

「こんな……時にぃ……ずるい……」
「こんな時だからだ。」

 彼女ときちんと向き合えるように少し体を離し、見つめる。目が合ったその瞬間、互いに唇を寄せ合った。口づけしたそのタイミングで、お互いの上着に手をかける。上着を脱いで放り投げるあたりで舌はお互いに根元を探らんばかりに絡み合っていた。唾液をたらしながら水音を部屋に響かせ、お互いの体をまさぐり求める。口づけをしながら、時々目線を合わせ、俺は恵令奈のシャツを、彼女は俺のズボンを脱がし、荒くなった息遣いを交わし合う。
 恵令奈の顔を見つめたくなったので少し体を一旦離し、その整った顔を見つめる。目が合ったその瞬間、互いに唇を寄せ合った。口づけしたそのタイミングで、お互いの上着に手をかける。
 いつ振りか猛る情欲に、お互い身を溶かしながら夜を過ごした。

 しばらくそういう行為をしていなかったとはいえ、そのままお互いにまどろんで寝てしまうまで、ここまでタガが外れたようなやり取りはなかったかもしれない。そういえば避妊していない、と気づいたのは、ベッドのシーツを交換するから、とたたき起こされたあとだった。そのままそれを恵令奈に思い出したことも付け加えて報告すると、余韻が台無しだと散々絞られた後、昨日の話に戻る。

「……どうするの?」
 まんざらでもなさそうな表情から唐突に真剣な表情に変わった恵令奈が話を切り出したのだ。

「……どうもしない。というか、どうしようもないし、なるべくなら関わりたくないってのが本音だ。」
 本心をぶちまけた。

「実際のところ、自分が復讐者であったとき、どうしてたかなんて思い出せん。ひとつわかることとしては、生き延びて行けるやつなら、確実にまたどこかで会う。それまでに、こちらとしては日々を暮らし、牙を剥くものがあれば全力で叩き潰す。そのスタンスは変えないでいいはずだ。」

 そう。目的があるならば、それに向かって進んでくるものである。その目的が俺自身であれば、作戦中やらで死なない限りは、いずれどこかの作戦でまた会うことになるだろう。

「……そっか」

 また、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた後、ひとまず理解はしたようだ。安心して、天井を仰ぎながら、深く一呼吸する。そこに、囁きが聞こえてきたように思って恵令奈をみると、うつむき加減に自分の膝を見て、何やらぶつぶつと言っていた。

「……このまま、……したい」

 そういった恵令奈の声を最後まで聞き取れなかった

「もう一回言ってくれ。聞き漏らしてしまった。スマン」
「ううん……何でもないよ。」

 首を横に振り、なんでもない、と平気な様子を見せる。ひとまずの方針は決まった。

「ね……大好きだよ」
 おもむろに抱き着いて首根に顔を寄せて恵令奈が言う。
「……ああ、俺もだ。」
 どれだけ後悔しても、どれだけ罪を重ねても、償うものが大きかったとしても。

 今、目の前にあるこの温もりを、どうか守らせてくれ。

 恵令奈を抱きしめながら、誰にともなく願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...