復讐に燃えたところで身体は燃え尽きて鋼になり果てた。~とある傭兵に復讐しようと傭兵になってみたら実は全部仕組まれていた件

坂樋戸伊(さかつうといさ)

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アリス

アリス-07

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 亮平アルファ1が示した地点は見通しのいい荒野だった。大きく起伏はなく、さながらランクマッチ戦の会場のようだった。ところどころにFAVが何とか身を隠せそうな岩場はあるが、見通しのよさという点では決闘場の様に見える地点だ。
 
(さて。あちらのFAV傭兵は確認できるか……)

 機体識別から、LAS所属機体が判明することが有る。企業体所属だったり、全くどこにも属さないFAV乗りも居るため、識別信号が確認できたところで機体判別が出来るわけでは無いのだが、今回はLAS所属だったらしい。

戦 闘 開 始コンバット・エンゲージ

 その報告がある直前も戦闘機動であったためジェネレーターの状態や高度など送られてくる数値が目まぐるしく変わっていたのだが、さらにその変化の速度は速くなる。
 右腕に装備されたライフルが一気に1つのマガジン分打ち尽くされ、機体にリロード動作をさせつつ亮平はミサイルポッドを稼働させる。対して相手FAVはさらに弾幕を貼ってきている。ミサイルロックの警告アラートが敵側でならされているのだろうと予測できる。
 敵FAVであるアルバトロスは機動よりは火力と手数を重視した装備のタイプだ。その分動作は遅い。対して亮平が駆るアコナイトは中量級の中でも機動力を突き抜けさせた機体であるため、速度で翻弄すればそうそう負けない相手となる。
 また、相手側のような機体のセオリーとしてなるべくまとにならないよう遮蔽物をおいて戦闘することが望ましいのだが、今回は亮平にとって場所がいい。縦横無尽にかき回してやれる戦場だった。
 たとえ相手が少し格上程度でも、余力を残して勝てるレベルだろう。

「アルファ1、相手機体は中量級~重量級に脚がかかってるようなドンガメだ。速力で振り回してやれ」
了解アイマム

 私も亮平も淡々としたやり取りで作戦を進めていく。そしてFAV同士の戦闘が行われる周辺では、襲撃者側の数が先程よりも減っている様子が見て取れた。

『エコーリーダよりHQ。レーダーで見てるだろうが、こっちの戦域はほぼ殲滅した。デルタの方はどうだ』
『デルタリーダーよりHQ。こっちはもう少しだなあ。はーぁあさっさとエール酒呑みてえわあ。そこのマネージャーさんのお酌でさ』

 口の減らないデルタリーダーから揶揄いを受ける。気をもんでいるところにそんなセリフを投げかけられたので、苛立ちを隠さず返してやる。
 
「ああわかった良いだろう。タバスコたっぷりのレッドアイで良ければいくらでも作ってやるよ」
『お!呑み切ったらそのままベッドで介抱してくれよ……っとお!』

 どう動いているかまで細かくは判らないが、レーダーの動きを見るに回避のためジャンプしたらしい。余計な口を叩くからだ、と口には出さず、腕を組みなおし息を吐いた。
 ちょうどその時。

「アルファ1の機体が小破。背部右側の弾倉ユニットが破損。パイロットの判断でパージされました」

 機体の特性はそれこそ傭兵の数だけ存在するFAV同士の戦闘だ。亮平の経験の少なさ故に相手の技量によって速さのアドバンテージが目論見より低くなっているようだった。そのような状況であれば足を止めてしまうと、亮平の方が不利になってくる。
 
「アルファ1、今のダメージで判っただろうが、もう足を止めるな。止める場合は少なくとも2方向からの射線が切れる位置で一旦休め。」
『……了解っ。こんなところで止まってられねえんだよ』
 
 そう、荒川尊史を撃破し、彼を亡き者にするまで、亮平は止まることを許されない。
 いや、正確には亮平自身が止まることを良しとしないのだ。

「威勢がいいのは結構だが、傭兵として為すべきを為せ。」

 判っている、とでも言いたげな強く息を吐く音が無線の無効から響く。
 作戦の状況に意識を向けると、他の戦域は大半が片付いたと言ってよく、敵の中から戦域から逃亡を図るものも出てきていた。相手側がライズテックの直系組織で有れば玉砕覚悟の全力突撃を仕掛けてくることもあるようだが、今回はそういった相手ではなかったため、雇われの人間たちは命からがら戦場から逃げ出したりしている。

 亮平がいる戦域に意識を戻すと、相手のFAVアルバトロスの機体状況をモニターすることはさすがにできないが、戦場を監視するドローンで相手の機体を確認はできる。
 そのドローンが映す画面を見ると、アルバトロスは頭部センサーのカバーが割れ、左腕は前腕部が大破している様子が見える。スラスター出力が安定しないのか、戦闘開始時と比べると動きに精彩を欠いていた。
 そろそろとどめを刺すため、アコナイトが距離を詰めようとしたそのタイミングで、アルバトロスの背部ガトリングが展開され、右腕のサブマシンガンが火を噴く。それに遅れてガトリングがマズルフラッシュを伴って、さらに弾幕を厚くしていく。
 アルバトロスが装備するサブマシンガンは銃身が短いため、着弾のばらつきが大きくなる。軽い分、威力は相当に低い。だが。
 
『くっそ!ここにきてそんな弾幕張れるのか!』
「落ち着け馬鹿者っ!ガトリングガンもサブマシンガンも速力で射線を切れっ!訓練でやって来ただろうが」

 やはり、それなりに経験を積んだ傭兵を相手取ると、その経験の差や武装の組み合わせ次第で多少てこずる。
 だが、アコナイトは速く、。つまり、ブーストジャンプを駆使することで相手を惑わし、かく乱できるだけの機動力を持つ。さらに、今回は地表での戦闘であり、まだ日は高くにある。すなわち。
 
「今だ。高度500まで一気に飛べっ」

 低く唸る亮平の声が私の耳に届く。急上昇する際のGがかかったのだ。相応の負荷がかかったのだろう。方位を伝えていなかったが、運よく太陽を背に背負う形でアルバトロスを捉えることができたようだ。ガトリングの弾丸はアコナイトにかすめるだけで、これといったダメージを与えられない!
 亮平はこの機動で落ち着きを取り戻し、両手に持った銃弾をありったけ叩き込む。
 勝負は決した。

「敵性FAV、沈黙。戦域の敵性部隊も撤退しました。防衛成功です。」

 指揮所にいるオペレーターが報告する。それと同時に、指揮所と無線で歓声が響いた。
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