ブルーアイス ~故郷に届いた最後の手紙~

シャバ

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後編

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【遙の転移から30年 最後の魔王】

闇の奥。
玉座でも戦場でもない。
ただ歪みの中心。

「囚われて千余年。」
低い声が響く。

「神を自称する者よ……」
沈黙。

「答えぬか。……与えられた使命とやら、従えるものでもなかった。」
重い空気が揺れる。

「均衡は崩れた。」
ゆっくりと目を開く。

「外より来たりし魂。
楔となり、循環を乱す。」

遠くで何かが崩れる気配。
だが魔王はそれを知らない。

「還すのだ。」
虚空を見つめる。

「すべてを。
本来あるべき流れへ。」

視線は天へ。

「いつになれば、還れる。」

闇が揺らぐ。


  
――


【遙の転移からXX年  次元の狭間】

「おわったよね?」
少しの沈黙。

「…ああ、そうだな」
「…え? …どうして?!」
遥の顔が青ざめる。

「まさか、啓示か? 何故遥に?」
佐伯の声に、初めて動揺が混じる。

「そうか、…足りなかったか」
「待って、待って佐伯さん、二人で」
「だめだ、君は帰れ。日本へ」
「いや、いやですよ……二人だったら可能性あるんです。」
「二人で帰りましょう。南極、行くんでしょ?ふたりで」

佐伯は答えない。

ただ、遥を見ていた。


  ――


【2027年5月 警視庁】

「これがお嬢様が身につけて居られた遺品になります」

机の上に並べられたのは、銀色のロケットペンダント、素材不明の指輪や腕輪、杖など。
いずれも鑑定は進んでいないという。

だが母親が手に取ったのは、ただ一つ。

チェーンから革紐に付け替えられた、見覚えのある小さな銀のロケット。
金属の鎖は失われ、代わりに無骨な革紐が通されている。
長い年月を越えてきたことが、それだけで分かった。

震える指で蓋を開く。
中には色褪せた家族写真。
湿気と時間に削られ、輪郭も曖昧になっている。
それでも母親には分かった。

「おかえり、遥……」

ロケットを胸に抱き寄せる。
しばらくして、担当者が静かに告げる。

「あと、一般には公開していないのですが、こちらを」
差し出されたのは、一通の手紙。
「手紙……ですか?」
「はい。お嬢様の懐に、大切に仕舞われていました。
内容が内容でしたので、公表は控えさせていただきました」
そっと開くと、そこには、見慣れた優しい筆跡があった。

「……そう」

指先で文字をなぞる。

「ちゃんと、生きてたのね」


  ――

【最後の想い 遙の手紙】

お父さん、お母さん。
ごめんなさい。この手紙を読んでいるということは、私たちは生きて帰れなかったんだと思います。
だから、あの後の私のことを、少しだけ聞いてください。

気付いたら、見知らぬ場所にいました。
そこで助けてくれたのが佐伯さんでした。

一緒に街を巡り、石畳の市場で果物を分け合って、雪山も砂漠も越えました。
私は魔法を覚え、佐伯さんは剣を振るい、たくさんの人に出会いました。

大変なことも多かったけど、不思議と、ひとりじゃありませんでした。

この世界は、異物を抱えたままでは歪んでしまうのだと聞きました。
私たちは、還さなければならない側だったそうです。

最後に神様からそう告げられたとき、怖くないと言えば嘘になります。

でも、佐伯さんが隣にいました。
辛い時、苦しい時、いつもロケットの写真を見て元気になりました。

写真はもう、ほとんど何も見えないくらい色褪せてしまったけど。
でも大丈夫。私の瞼の裏には、いつまでも変わらない笑顔の二人が、ずっとはっきりと写っていました。

だから、寂しくなかったよ。

待たせてごめんね。

ただいま。

小瀬 遙




ヴィンソン・マシフきれいだね。ね、佐伯さん。

【完】





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