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しおりを挟む彼の案内で、一階のロビーから三階の小会議室に移動となった。その間、ずっと社員達がこちらを窺っていて、何だかピリピリとした緊張かが辺り一面に漂っている。
一体何があると言うのだ。
訳のわからないままに部屋に入る。
お互いが、椅子に座ると。
「……で、うちの専務とどんな取引をしたんですか?」
刺々しい声で言われて、和成と共に唖然とする私。
どんな取引?
訳が分からず首を傾げてしまう。
「こう言っちゃあ何ですが、専務首になったんでね。今、専務が関わってた企業さんに細々と聞き込みしてるんですよね。で、おたくらは、何を犠牲にして利益を得ようとしてたんですか?」
と私たちを睨み付けてくる。
えっ、どういうこと?
もしかして、私たち疑われてる?
和成に目を向ければ、少しひきつった顔をして、副社長を見ている。
おいおい、私たち何も悪いことしてないだろうに……。
「いいえ、何も犠牲になんかしてませんよ。私たちは、純粋にこちらで商品を使ってもらえないかと思ってきてたので専務とは、今日その返事をもらうために伺っただけでしたので、無理なのでしたら、早々に引き上げますが。」
そう、私たちは先日専務に会った時に初めてプレゼンテーションしただけで、返事待ちの状態で今日訪ねて来たのだ。しかも、その場でアポも取っている。
それなのに。
「そんな話、聞いたこと無いが……。」
って言葉が聞こえてきた。
あぁ、やっぱりか。
上には報告してなかったんだと改めて認識した。
和成に視線を遣り、頷き合うと。
「もしお時間があるのでしたら、今ここで説明させていただきますが……。」
私は、諦めずにそう言葉を出すと。
「十分ぐらいなら。」
と返ってきたので、早速前回専務にプレゼンテーションの資料を渡し、事細かく説明した。
「……成る程な。これは価値があるな……。」
その一言で、私たちは安堵したのは言うまでもない。
検討に値するって思ってもらえたのだから。
「…で、この返事を今日貰えることになってたんですが……。」
和成が恐る恐る口にすれば。
「そう言うことか……。俺の一存では答えられない。社長に窺ってから、明日の朝に改めて返事をさせてもらう。それでいかかでしょう?」
その言葉を聞いて、一歩前進(?)って思った。
「わかりました。では、宜しくお願い致します。」
和成と二人で頭を下げた。
「ところで、鴨川さんって本名ですか?」
安心しきってたところで、副社長の質問にドキッと心臓が跳ねる。
「えぇ、本名です。それがどうかされましたか?」
私は、彼の目を見て答えると目を細めて。
「いえ、以前どこかのパーティーでお見かけした時は、違う性を名乗っていたと思いまして……。」
私を試すかのような言い方に、背中に冷や汗が流れて行く。
「パーティーですか? 私は平社員なので、そういったものには全然縁がありません。」
私は、苦笑しながら答える。
パーティー…ねぇ。
私自身、そんなのいちいち覚えていないのが現状だ。最近だと、先週末に兄に呼び出されて行った位か。
どこかの企業のイベントだったような……。
まぁ興味が無いから余計覚えてないかもしれないが。
「そうですか……。今日は、態々足を運んで頂き有り難うございました。この件は、私目が責任持って対応させて頂きますので、安心してください」
少しがっかりしたような顔付きを一瞬して、笑顔で立ち上がる副社長。
どこか、違和感を感じながら。
「はい、宜しくお願い致します」
私達は、再度頭を下げて会議室を出た。
「あの時の……。でも、あの一回だけだった筈。」
そう、あの後営業部から海外事業部に急遽移動辞令が出て、そのまま海外出張させられたんだよなぁ。
「オレが思うに、あの時の急な部署移動があったのって、あの副社長が関係してるんじゃないか。」
和成の言葉に。
「有り得る。私から父に話してはいないが、向こうが父に接触したのだとすると……。」
同意せざる終えない。
そうなってくると、一年前に父と彼の間で交わされたことが気になってくる。
「なぁ、佳澄。親父さんと一度話した方がいいんじゃないか?」
いかにも真面目面で言ってるが、心底面倒くさそうだと顔に書いてある。
それは、同じ意見なんだが、他人事のように言われれば、ムッとなる。
「他人事だと思いやがって。」
小声で呟いた筈が。
「オレにとっては、他人事だからな。」
って、苦笑して言う和成だった。
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