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本編
16話 婚約の条件
しおりを挟む三人で、下に降りて行くと全員そろって居た。
「どうしたの? 珍らしいね。皆がそろっているなんて……。」
私が言うと、お父さんが。
「詩織と護君だっけ。空いてる席に座りなさい。」
その言葉に優兄が。
「父さん、俺は?」
席が無いのを見て言う。
「お前は向こうだ。」
有無を言わさずにお父さんがリビングを指した。
「やっぱり……」
優兄は、分かってましたとばかりに一人リビングに行く。
私と護が席に着くと。
「護君は、将来どうするつもりなんだ。」
お父さんが言い出した。
「僕は、教師を目指してます。」
護が、堂々と答える。
「じゃあ、恋愛してる場合じゃないだろ。」
お父さんが、諭すように言うと。
「僕は、そうは思っていません。詩織さんが居るからこそ、僕は頑張ることが出来ます」
真顔で答えてる護。
「そっか……。なら、条件を出してクリアしたら、詩織との婚約を許そうじゃないか。」
お父さんが、真顔で言う。
「わかりました。」
護も、真剣に聞く。
「条件一、大学に合格する事。条件二、高校を卒業する事。この条件がクリアされ次第、婚約を認めてやろう。」
護の顔を見る。
「はい。その条件、必ずクリアして見せます。詩織さんに為にも頑張ります。」
護は、笑顔でお父さんに返していた。
「よかったな、詩織」
兄達が、笑顔で喜んでくれているのが分かる。
リビングからも。
「よかったな、詩織」
と、優兄の声が聞こえた。
「ハァ~。息子がもう一人増えるのか……。」
お母さんが、ガッカリしてる。
息子三人育てといて一人増えるのも、変わらないと思うんだけどなぁ……。
「護君のご両親にも、伝えないといけないな。」
お父さんが言うと護が。
「僕、父一人、子一人なので、父親さえ許可してもらえれば、大丈夫なので……。」
明るく答える。
護って、一人っ子だったんだ。
「そうなのか? 悪い事を聞いてしまったなぁ。」
お父さんが、すまなさそうに言う。
「いえ、大丈夫ですよ。僕、この賑やかな食卓は久し振りで、楽しいです。」
そっか。
一人で、夕飯を食べるのって、寂しいよね。
「じゃあ、毎日、夕飯を食べにおいでよ。一人で食べるよりいいでしょ。」
お母さんが、護に言う。
「そんな。悪いですよ。」
遠慮する護。
「何時も、余分に作ってるから、大丈夫だよ。」
「それに、毎日詩織を送ってきてもらってるんだ、遠慮する必要ないだろ」
隆兄が言う。
気付いていたんだ。
隆兄の居ない時間に帰ってたんだけど……。
「それなら、護の親父さんの帰りが遅い時だけ、家で夕飯を食べるってのは?」
勝兄が妥協案を出す。
「そうしましょう。私は嬉しいわ。色々な話、聞かせて欲しいなぁ。家の息子達、何も話してくれないから、寂しくて……。」
お母さんが、目を潤ませて護に訴える。
「今更、話す事何て無いだろ。」
隆兄の言葉に、二人の兄が頷く。
「何時も、これなんだから……。」
お母さんの寂しそうな声。
「詩織の家族って、楽しいな。」
優しい笑顔を浮かべる護。
「何時でもこんな感じだよ。」
私も笑顔でそう言葉を返した。
それから、たわいの無い話をしながら、時間が過ぎた。
「そろそろ、おいとまします。」
護がそう言って、立ち上がる。
「じゃあ、オレが送ってやるよ。」
隆兄が言うが。
「悪いですよ。」
護が、遠慮し出す。
「俺も用事があるんだ」
時計を見ると、隆弥兄のバイトの時間が近付いてる。
「じゃあ、お願いします。」
渋々といった感じに護が言う。
「早くしろよ。」
隆兄は、車に鍵をもって、玄関に向かう。
護も慌てて鞄を持つと、隆兄の後を追う。
玄関で、靴を履き終えると。
「今日は、ご馳走さまでした。長々とお邪魔してすみません。」
きちんとお礼を言う護に。
「いや……。こちらこそ、引き留めてしまって、悪かった。」
お父さんが、答えている。
「では、お休みなさい。」
「お休み。」
「じゃあ、また明日。」
「うん。お休み。」
私は、手を振って見送る。
玄関を出て行く護を見送った後にお父さんが。
「こんなに早く、お前に相応しい奴が出てくるとは、思わなかった。ちょっと、寂しいなぁ……。本当は、学生結婚だけは、させたくなかったんだがなぁ。」
ボソリと小声で言う。
どういう事?
キョトンとしてる横で、お母さんが。
「詩織には、話してなかったよね。お父さんとお母さんは、学生結婚だったんだよ。だから、自分の子供達には、絶対にさせたくないって、言ってたんだよ。苦労が耐えないから。」
考え深げに言う。
「まぁ、あなた達の場合は、護くんが大学卒業するまでは、結婚はお預けになるだろうけどね。」
って、何とも言えない顔をする。
「そうだね。護が一人前の教師になるまでは、無理だろうなぁ……。」
口に出して、言って虚しくなる。
婚約しても、護が教師としてやれるまでは、結婚はお預けなんて……。
「詩織、よかったな。親父達の許しが出て。」
優兄が、私の部屋で寛ぎながら言う。
「うん。でも、まだ不安がぬぐえない」
「何で? 護が、受験失敗するわけ無いじゃん。あいつ、学年トップなんだぜ。落ちる理由はない!」
優兄が、断言する。
だがしかし、私の懸念材料は違うところにある。
「受験の事じゃないよ。護モテるから、そっちの方が心配なの。」
「そうか? 案外大丈夫なんじゃないか。護、お前以外に心許した女、居ないぜ」
「それでも、今日、目の当たりにしたの。護の回りに女の人が群がっているのを。その中に、綺麗な人が居て、さっき護に聞いたんだけど、クラスメートだって言ってたけど、私よりお似合いだったから、自信なくて……。」
自分よりも綺麗な人が沢山居るのに、何で自分なんかを選んだんだろう?
不安がる私に。
「何言ってるんだよ。俺は、お前が一番護とお似合いだと思うぞ。護、お前にしか甘えてるとこ、見せてないし、何時だって、お前の事しか見てないよ。」
私を安心させる為なのか、そんな言葉を連ねてくる。
優兄は、護と同じクラスだから、色々知ってるはずだよね。
ちひろさんの事、聞いてみようかな。
「ねぇ、優兄。ちひろさんって、どんな人?」
と質問をすれば一瞬誰か分からなかったみたいで、顔を傾けた後に。
「ちひろ? あぁ、小川ちひろか……。どんなって、まぁ、クラスの中で人気のある女子かなぁ……。でもな、高飛車で、我が儘で、人の物を欲しがる奴でもあるかな」
って、俺は余り関わりたくないタイプだ。
と言って退ける優兄。
やっぱり。
あの時、わざと護の腕に絡み付いてたんだ。
「そういえば、一時護に迫ってたな」
思い出したように言う。
「まだ、お前と付き合う前だ。護は、その時から詩織一筋だったから、相手にはしてなかったがな。」
エッ……。
じゃあ、さっき言ってた事は、本当なんだ。
信じていいんだ。
今の今まで疑っていたものが、優兄の言葉で真実味が帯びる。
第三者に言われるまで信じられない自分が、嫌になる。
「詩織は、護の事を信じてればいいんだよ。何も心配するな。俺が、お目付け役になってやるから。」
優兄が、私の頭をグシャグシャに撫でる。
「だから、もう、心を閉ざすなよ。」
優兄には、見透かされていたんだ。
私が、頷くと。
「よし。じゃあ、俺も一様受験生なんで、勉強するかな。」
それだけ言って、優兄は部屋を出て行った。
トゥルルル……。
鞄の中を探って、携帯を出すとメールのマークがついていた。
画面を見ると。
“詩織、今日は本当にごめんな。
オレの不注意で、心配させてばっかりで……。
でも、不謹慎かもしれないが、お前がそこまでオレの事を愛してくれてた事、嬉しかった。
それに、お前の親父さんにも認めてもらえたみたいだし……。
オレには、お前しか居ないんで、宜しく。
お休み 護“
私は、直ぐに打ち返す。
“護。今日は、心配掛けてごめんなさい。
私自身が、こんなにも嫉妬深いとは思わなかった。
愛しい人とずっと、一緒に居たい気持ちばかりが先走ってた。
護と婚約できるだけでも、嬉しい。
お休みなさい 詩織“
と、返信した。
私は、ベッドに潜って、寝る事にした。
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