あなたの傍に……

麻沙綺

文字の大きさ
25 / 47
本編

24話 ハプニング

しおりを挟む



  水族館に続く最寄り駅に着く。
  人混みの中を私達は、はぐれ無いように手を繋いで歩いて行く。

「大丈夫か、詩織」
  護が、振り向きながら言う。
「うん。何とか……。」
  そう言い返すのがやっとだった。

  護は、私を人混みから守るように歩いてくれる。
  そんな、優しさが嬉しい。
  やっとの事で、たどり着いた水族館。
  チケットを買う為に列に並ぶ。

「詩織。入り口で待ってな。オレが、買ってくるから。」
  優しさからなのかそう言う護。
「エッ…、でも……。」
  人が多いからはぐれてしまいそうだと思い私が言い淀んでいると。
「入り口で待ってて。」
  護が言うから私は、仕方なく入り口で待つことにした。


「お嬢さん、一人? 俺と一緒に回らない?」
  声を掛けられて、辺りを見渡す。
  そして、一人の男性が私の前に立っていた。
「君だよ、君。」
  って、声を掛けられる。
「間に合ってます!」
  私は、断るのだが。
「そんな事言わずに、一緒に行こうぜ!」
  腕を無理矢理、引っ張られる。
「やめてください。人を待ってるんですから……。」
  私は、その腕を振り払おうとするが、外れない。
  どうしよう。
  護、助けて……。
  そう心の中で助けを求めていた時。
「ちょっと、その手を放してもらえませんか? その子、俺の連れですから。」
  聞き覚えのある声。
  もしかして……。
  私は、声のした方を見た。
  そこには、勝兄が居た。
  なんで、勝兄が居るの?
  硬派な勝兄を見て勝たないと思ったのか軟派男は、こそこそと逃げ出していた。
  
「勝兄。何でここに居るの?」
  純粋に聞いてみると。
「何でって、彼女とデート中。」
  勝兄の後ろに居る女性が、会釈する。
  私もつられて、お辞儀する。
  綺麗な人だな何て思っていると。
「お前こそ……。」
  って、言いかけた時だった。
  タイミング悪く、護が現れた。
「お前もデートか?」
  護を睨み付けながら言う勝兄。
「う…うん」
  私は、ぎこちなく頷く。
「こんにちは、勝弥さん」
  護が、笑顔で勝兄に挨拶するが。
「“こんにちは“ じゃねえよ。ッたく、お前が居ないから詩織が変な野郎に連れて行かれる所だったんだぞ。詩織を一人にするんじゃねぇ!」
  勝兄が、護の頭をバシッて叩く。
「勝兄、やめてよ。私が悪いんだから、ね。それに、彼女さんも待ってるよ。」
  私は、勝兄の後ろで控えてる彼女さんに目をやる。
「そうだな。説教は帰ってからだな。」
  勝兄は、そう言うと彼女と中に入って行ったのを見送った。

「詩織。さっき勝弥さんが言ってたこと、本当?」
  嘘をつきたくないので、素直に頷いた。
「全然知らない男の人に声を掛けられて、無理矢理腕を引っ張られ、連れて行かれそうになってた所に勝兄が現れて、助けてくれたんだ。」
  私が言うと、護が落ち込んだ。
「ゴメン。オレ、そこまで気が回らなかった。一緒に居た方が良かったんだな。」
  確かに、これだけの人が居れば変な輩も居るだろう。それを見越せ無かった事は、護の落ち度だと思うが、それは、過ぎたことだ。
  私は、落ち込む護を見たくなくて。
「いいよ、勝兄が助けてくれたんだから。それより、私達も中に入ろうよ。」
  とっびっきりの笑顔を向けて、護の腕を引く。
  だけど護の足取りは、重かった。


  イルカショーが、始まる時間。
  スタンド席で、護と二人で並んで座る。
「売店で、何か食べるもの買ってくる。」
  護はそう言って、行こうとする。
「私も一緒に行く。」
  慌てて席を立って追いかける。
「席、無くなるぞ。」
「うん。その時は、立って見ようよ。さっきみたいなりたくないし……。」
  さっきみたいのは、もう御免だ。だから、護の傍を離れたくなくて護の手を握って、一緒に行く。
「そっか……。そうだよな。勝弥さんが、また助けてくれるとは、限らないしな。」
  護が呟き落ち込みが、更に酷くなる。
  だから。
「それにね、私。食べたいものがあるんだ。」
  落ち込んでる護に笑顔で言う。
  
  折角のデートを台無しにしたくない。
  今度、何時出きるか何て分かんないから、今を楽しみたいの。
  それに、軟派の対処法なんて分からないから……。


  売店で、ホットドックとポテトを二つずつ買ってスタンドに戻った。
  流石に席は満席で、座れなかった。

「席、無くなっちゃったね」
  ちょっと残念だけど。
「そうだな。まぁ、このまま立って見ようぜ。」
  護が、苦笑いする。
  まぁ、分かってて席を立ったんだし、仕方ないよね。
「折角だから、温かい内に食べよう。」
  二人で仲良くホットドックにかぶりつく。
「おいしい!」
  私は、笑顔を浮かべて言う。
  大好きな人と一緒に同じものを食べるのって、ちょっと嬉しいかな。
  ポテトを摘まみながら。
「ねぇ、護。」
「うん?」
「勝兄の事、気にしてるの?」
「うん。隆弥さんよりも、勝弥さんの方が怖いかな。」
  浮かない顔の護。
「やっぱり、そう思うんだ。でも、勝兄は、隆兄より優しいんだよ。さっきだって、声音は怖かったかもしれないけど、目は優しかったよ。」
  勝兄の目、仕方ないヤツってしてたから。
「エッ。」
「勝兄はね、私や優兄には、メチャ優しく接してくれるの。って言うか、筋が通っていないと、気がすまない体質なの。だから、ちゃんと説明をすればわかってもらえるから、安心して。」
「それでも、オレにとっては怖い存在」
「そうなんだ。じゃあ、隆兄は?」
「隆弥さんは、目的も同じだからかな、頼れる兄って感じなんだよなぁ。」
  護が、一目置いてるのが良くわかる。
「私は、隆兄の方が怖い。」
  私は、苦笑する。
「何処が?」
「だって、勝兄は聞く耳を持ってくれて、アドバイスもしてくれる。だけど、隆兄は聞く耳を持っていない。直ぐに怒るんだもん。」
  私は、少しだけ口を尖らせて言う。
  最終的には、自分の為だって分かるけどさ。
「本当かよ。」
  疑ってくる護に。
「だから、今日見つかったのが勝兄でよかったんだよ。隆兄だったら、入り口で大変な目に遭ってたんだからね。 “俺の大事な妹を置き去りにしやがって。危うく、ろくでもない奴に連れて行かれるところだったんだぞ!“ って言いながら、胸ぐらを掴まれてたよ。」
「大袈裟だな」
  信じてない。
「大袈裟じゃないよ。隆兄は、何時だって本気だから、怖いの。」
  私の必至の訴えに護もやっと納得してくれた。
「だから、私に対しても本気に怒るよ。手を挙げられたこともある。でも、それを止めてくれるのは、いつも勝兄なの。だから、勝兄に本当の事を言って謝った方がいい。」
「そっか。人は見かけによらないって事だな。」
  護が、苦笑する。
  本当にわかってくれたのかな。
  なんて思いながら、目線をプールにやるとイルカが、ジャンプしていた。
「ショー、始まっちゃってる。」
「本当だ。」
  私達は、二人並んでショーを見いるのだった。


  水族館内は、親子連れやカップルでごった返していた。
「混んできたな。手を離すなよ。」
  護が、ギュッと手を握ってきた。
  私も握り返す。
  手汗がヤバイかも。
「護。ペンギン可愛いね」
  私達は、ペンギンルームで足を止めていた。

  ちょこちょこ歩く姿が、可愛くて見いっていた。
 そこに、護が後ろから抱き締めてきた。
  エッ……。
  私が振り返り見上げると。
「ここのブース、寒いだろ。」
  何て言いながら、一緒に見ていた。


  水族館を出ると、夕闇に染まっていた。
「寒い……。」
  私は、自分の体を抱いて身震いする。
  すると、護が私の肩を抱く。
「流石に外は寒いな」
  肩に置かれた護の手が、暖かい。
「この後どうする? 時間があるなら、オレの家に来る?」
  護が、突然聞いてきた。
「うん。」
  私は、素直に頷いた。
  護の家か……。
  初めてだよ。
「じゃあ、行くか。」
  護が、優しい微笑みを浮かべる。
「うん。」
  
  私達は、駅に向かって歩き出した。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...