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本編
36話 再会
しおりを挟む翌朝。
私は、制服に着替えて鞄と兄達のチョコを持って部屋を出た。
兄達の部屋をノックして、部屋に入る。
「ハッピーバレンタイン!」
そう言って、兄達に手渡す。
「俺達の分も有ったのか?」
隆兄が聞いてきた。
「うん。いつもありがとうって気持ちを込めてね。」
感謝の気持ちを込めて兄達に渡す。
「ありがとう。」
勝兄が、歯に噛む。
上二人のの部屋を出て、優兄の部屋をノックし。
「ハッピーバレンタイン!」
と声を出して中に入る。
「いきなり入って来るなよ。ビックリするだろう。」
優兄はまだ、ベッドの中だったみたいで、目を擦ってこっちを見てくる。
「だって、時間ギリギリだもん。」
そう言いながら優兄分のチョコを手渡す。
「……で、何で制服なんか着てるんだ?」
寝惚け眼で優兄が聞いてきた。
「あれ、里沙に聞いてない? 今日、サッカー部の練習試合があって、応援しに行くんだよ。」
昨日急に決まったから、言ってなかったのかな?
「そっか。それなら仕方ないな」
なんか、優兄落胆してない?
その時。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「誰だよ。こんな時間に……。」
隣の部屋から隆兄が、苛立った声が聞こえてきた。
私は慌てて優兄に部屋を出た。
丁度部屋を出てきた隆兄と鉢合わせ。
「ごめん。多分、護だ。一緒に学校に行く約束してたから……。」
私が言うと。
「そうか、気を付けて行きなよ。」
隆兄が納得したのか部屋のドアノブに手を掛ける。
「うん。じゃあ、行ってきます。」
そんな隆兄に言うと、玄関に急いだ。
玄関を開けると、護と目があった。
「おはよう。」
お互いに言い合う。
チョコ、いつ渡そうかな?
何て考えながら、学校へ向かう。
今、渡しても邪魔だよね。
う~ん。
って、悩んでたら。
「どうした、悩みごと?」
護が、顔を覗き込んできた。
エッ…。
「百面相になってる。」
そう言って、クスクス笑い出す。
「何でもないよ。」
って、笑顔でごまかす。
「それより、今日の対戦あいて、どこ?」
私は、対戦相手までは、把握してなかったから護に聞く。
「確か、高陵学園だって言ってたぞ。」
護、後輩に聞いたんだ。
寄りにも寄って高陵って……。
浅井君が進学した学校だ。
でも、彼が、サッカー部に入ってるとは思えない。
彼は、中学の時は、バスケに打ち込んでたし……。
「どうかした?」
「ううん、何でもない。」
護に気付かれないように溜め息を吐いた。
校庭では、サッカー部がウォーミングアップしていた。
その側で、生徒会メンバーが集まっていた。
「おはよう。」
私は、皆に向かって言う。
「おはよう。って、旦那も一緒かよ。」
佐久間君が、聞こえよがしに言う。
昨日の今日で、ちゃんとした対応してる。
そんな彼の態度に対して、私も自然に対応する事にした。
「いいでしょ。護は、サッカー部のキャプテンだったんだから、後輩の応援ぐらいいいじゃない。」
何て私が言ってたら。
二年生のキャプテンが護を見つけて、駆け寄ってきた。
「玉城先輩。お願いがあるんですが……。」
そう言って、言葉尻を濁しながら護に事を見る。
「なんだ?」
護の低い声。
いかにも、不機嫌そうだけど……。
後輩の前だから?
「メンバーが足りなくて、玉城先輩、出てもらえませんか?」
護は、暫く考えてから。
「わかった。」
一言告げる。
「……と言うことで、ちょっと行って来る。」
護が、私の頬にキスをする。
「ちょ…っと……。」
私は、慌てて辺りを見渡す。
よかった。
誰も見ていなかったみたい。
ホッと、胸を撫で下ろしたところに。
「熱いね」
里沙に言われて。
「…なっ…」
慌て出す、私。
そして、徐々に顔が熱くなる。
「あっそうだ。……チョコ」
それを誤魔化すように私は、鞄からチョコを取り出す。
「はい、友チョコ。」
私は、里沙に渡す。
「あっ、あたしもあるよ。」
里沙が、鞄の中をゴソゴソと探り渡してくれる。
「ありがとう。考える事は、一緒だね。」
何て苦笑する。
「そうだね。他の皆にも渡すよね。」
「うん。そのつもりだよ。今にうちに、渡しちゃおうか。」
二人して、生徒会メンバーにチョコを配る。
「これって、本命?」
佐久間君が、聞いてきた。
「義理だよー。」
苦笑いで答える。
「義理かよ。」
なんか、残念そうに言う。
私は、その場を離れて、忍ちゃんの所に行く。
「一様、迷惑掛けてるから、そのお礼を兼ねてるんだけど……。」
私が言うと。
「ありがとう、詩織ちゃん。私もあるんだ。」
忍ちゃんが鞄から取り出して、渡してくれる。
物々交換だ。
それに続くように柚樹ちゃんがチョコをくれる。
「実は、いつ渡そうかなって、思ってた時に詩織ちゃんと里沙ちゃんが配り始めたから……。」
柚樹ちゃんが、ホッとした顔を見せた。
「よかったね、お兄ちゃん。義理でも、詩織ちゃんからチョコもらえて。」
忍ちゃんが、拓人君に言ってる。
「忍。一言多いぞ。」
拓人君が慌ててる。
そんなやり取りをしていたら、視線を感じて振り返る。
そこには、浅井君が居た。
エッ……。
何で?
「水沢。何で、ここに……。」
浅井君が、近づいてくる。
「実は、私、この学校の生徒会長なんだ。今日は、サッカー部の要請で、応援に来てるんだ。」
私が、説明してると、横から里沙が顔を出す。
「久し振りだね、浅井くん。」
里沙が声掛けると。
「なんだ。桜も居たのか。」
興味なさそうに言う。
「居たのかって、あたしは詩織のおまけみたいに言わないでよ。で、何でここに居るの?」
里沙が、口を尖らす。
「それ、私も聞きたい。」
「俺、高校では、サッカー部に入ったんだよ。今、俺がキャプテンなんだ。」
得意そうに言う浅井君。
「そうなんだ。」
里沙が、答える。
「じゃあ、俺もそろそろ戻らないと……。」
それだけ言って、背中を向けて歩き出す。
「あ、水沢。試合終わったら、待っててくれるか?」
思い出したかのように言う浅井君に。
「ごめん。先約があるから無理。」
って言い返した。
「それは、残念だ。」
そう言って、彼はグランドに行ってしまった。
確か、あの時、諦めるって言ったよね。
彼と入れ代わるようにして、護が私のところに来る。
久し振りのユニフォーム姿が、格好よくて、見入っちゃった。
「詩織、アイツもサッカー部だったんだな。」
護が不愉快そうに言う。
「そうみたい。私も、今知ったばかり。」
「そっか……。試合前に、充電させて欲しいんだけど……。」
護が、私の腕を引っ張り、校舎の影に移動する。
そして、唇が重なる。
私は、辺りをキョロキョロと見渡す。
「大丈夫だって、誰も居ないから……。」
護が、クスクス笑う。
そして、もう一度唇が重ねられた。
「よし、充電完了。しっかりオレを応援するんだぞ。」
満面の笑みで言ってくる。
「うん。でも、何でキャプテンマークなんかつけてるの?」
本来なら、二年生のキャプテンが着ける筈なのに……。
私の疑問に。
「監督とコーチに押し付けられた。」
面倒臭そうに溜め息を漏らす、護。
「そうなんだ。じゃあ、試合中に護に怒号が聞けるんだ。」
クスクス笑いながら私が言えば。
「怒号か」
不適に笑う。
「私は、嬉しいよ。護のユニフォーム姿が見えて。」
笑顔で護に伝える。
「また、不意打ちかよ。」
照れ出す、護。
「だって、本当の事だもん。」
嘘なんか付いてないし。
「わかった。じゃあ、応援よろしく」
護は、私の頭を軽くポンポンと叩くと、グランドに向かって行った。
私もその後を追うように、向かう。
この後、とんでもないアクシデントが起こるとは、思っていなかった。
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