あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

40話 家族

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「ただいま。」
  お母さんと二人、玄関を潜る。
「遅かったな」
  優兄が、リビングから顔を出した。
「うん。色々と話ながら来たから……。」
  お母さんと顔を見合わせて言う。
  優兄が、怪訝そうな顔をして見ていた。
「さぁて、早く作っちゃおうか。」
  お母さんと二人で、買ってきたものをキッチンに運び袋から出す。
「詩織。ちゃんと手を洗ってね。」
「は~い。」
  お母さん言いわれて、元気に返事する。
  そこに護が現れた。
「何か手伝いましょうか?」
  護が、声を掛けてきた。
「護君は、お客様だから、テレビでも見てて。」
  お母さんが、言うけど。
「オレが、手伝った方が早いですよ。」
  護は、腕捲りをして、手を洗い出す。
「じゃあ、お願いしようかな。」
「はい。まずは何を……。」
  護が、嬉しそうに言う。
「玉葱、キャベツ、椎茸の微塵切りにしてもらおうかな。」
「お安いご用です。」
  そう言うと、さっさと言われた物を刻む出す護。
「護君、手際いいね。」
  お母さんが、護に話しかけてる。
「そうでもないですよ。」
「詩織よりも上手。」
「お母さん!」
  私が、慌てて言うと、二人が笑い出す。
「ほら、詩織は人参摩り下ろして。」
「はーい。」
  私は、言われた物を摩り下ろしていく。
  手に力が入りすぎて、痛くなってきた。
  私が、手を振ってると。
「代わるよ。」
  護が、スッと手を出して来た。
「微塵切りは?」
「終わった」
  早い。
「詩織。ボウルに挽き肉四分の一、残して入れてね。」
  お母さんに言われて、ボウルに挽き肉を入れる。

  そこに、水気を切ったキャベツと玉葱、椎茸、摩り下ろして水気を絞った人参、摩り下ろしニンニクを入れて、それらを捏ねる。
「護君、さっきは隆弥が出掛けてて良かったわね。見つかったら、大変だったわ。」
  お母さんが、からかうように言う。
「……。」
  護の顔が、みるみる赤くなっていく。
  お母さん、楽しそう。
「しちゃダメなんて、年頃の男の子には難しいだろうけど……。もう少し、自重してくれると嬉しいかな……。って、思うんだけどね。」
「……はい……。」
  護がひきつった顔で声が上ずってる。
  フフフ……。
  私は、声をたてずに笑う。
「それから、詩織を愛してくれてありがとう。護君が、詩織を大切にしてくれてるの凄くわかる。本当なら、学校に行かなくてもいいのに、詩織の為に行ってくれてるよね。感謝して
る」
「オレもです。詩織を生んでくれて、ありがとうございます。彼女以上に愛せる人は、居ないです。」
  護が、真顔で言う。
「そう言ってくれると、嬉しいな。」
  お母さんが、涙ぐみながら言う。
「護君とは、親子としてもやっていけるわね。」
「はい!」
  二人とも、仲良しだな。
「そろそろ、皮に包んで。二人でやれるわよね 。」
「はい。」
  って、答えてた。
  餃子の皮で、具を包んでいく。
  久し振りにやるから、上手く出来ないや……。
  護の方は、テキパキと手を動かしてる。
「護の凄く綺麗……。」
  私が見とれていると。
「こんなのコツさえ掴めば、簡単だよ。」
  護が、手を止めて、私にゆっくりと教えてくれる。
  私は、教えてもらった通りに動かしていく。
  数をこなしていくうちに、上手くなっていくのがわかる。
「やれば、出来るじゃん。」
  エヘヘ……。
  護に誉められちゃった。
  って、こんな事で喜んでちゃいけないよね。

  彼氏より下手って……。
  これから、一杯料理の勉強しないと、護に食べてもらえないかも……。
  
  少し、不安になってきた。
「大丈夫。ちゃんと食べてあげるから……。」
  って、小声でいう護。
  私が思った事、わかっちゃったのかな……。
  もしかして、顔に出てた?
「エスパーみたい……。」
  私も小声で言う。
「エッ……。」
  護が、不思議そうな顔をしてこっちを向く。
「さぁて、包み終わった?」
  お母さんが、振り向きながら聞いてきた。

  テーブルの上には、大量の餃子で埋め尽くされていた。

「護君、本当に上手だね。それに比べて、詩織のは不格好なこと。」
  お母さんが、情けないって顔をする。
「どうせ、私は下手ですよ。」
  私が、いじけてると。
「ただいま!」
  隆兄と勝兄が、同時に帰って来た。
「お帰り、手を洗ってらっしゃい」
  お母さんが言うと兄達は、洗面所に向かった。
「お父さんの分の餃子だけ、冷蔵庫に仕舞って、ホットプレートをそこに置くから、リビングにそこの奴持っててくれる。」
  お母さんの言葉に、テキパキと従う。

  私は、古新聞を持ってきて広げ、テーブルに置く。
  その上にホットプレートをのせる。
  その間に、双子の兄達が戻ってきた。
「なんだ、今日は餃子か……。」
  なんか、がっかりした声。
「フーンだ。じゃあ、食べなきゃいいじゃん。」
  私の言葉に。
「その言い方は、詩織が作ったんだな。それなら、食べないとな。」
  何て、言葉が二人から返ってくる。
「残念でした。私と護で作ったんです。」
  悔しかったから、つい言っちゃった。
「エッ…。護が!」
  二人共、ビックリしてる。
「はい。オレも手伝いました。」
  護が、大きく頷く。
「ほら、餃子焼くから、持ってきて。」
  お母さんに言われ、リビングに取りに行く。
  大皿を抱えて戻ると、既に兄達は自分の席に着いていた。

「この形が崩れてるのが、詩織のだな」
  隆兄が言う。
「どうせ、不格好です。」
  私がすねると。
「大丈夫。味は変わらない。」
  って、護がフォローしてくれるけど…。
「それ、慰めになってない。」
  私は、更に拗ねる。
「そう膨れるなって。後で、いい物やるから……。」
  って、言われたとたん、ご機嫌になる私。

「さぁ、焼けたわよ。食べなさい。」
  食べなさい?
「お母さんは、食べないの?」
「うん。お母さんは、お父さんと食べるからいいの……。」
  お母さんが、笑いながら言う。
「じゃあ、お先に頂きます。」
  私が言うと。
「どうぞ。」
  嬉しそうなお母さんの顔があった。



「ただいま。」
  夕食を終えた頃にお父さんが、帰ってきた。
「お帰りなさい。」
  私は、玄関まで出迎える。
「お邪魔してます。」
  護が、玄関に顔を出す。
「事情はお母さんから聞いてる。落ち着かないかもしれないが、ゆっくりしなさい。」
  お父さんが、護の肩を軽く叩く。
「はい。ありがとうございます。」
  護が、深々と頭を下げる。
「お帰りなさい、貴方。」
  お母さんが、キッチンから顔を出す。
「ああ、ただいま。」
「先にお風呂に行ってください。その間に夕食の準備しておきます。」
「わかった。」
  お父さんは、お母さんに鞄と上着を渡すと、脱衣所に向かった。
「何時もああなの?」
「うん。仲良しさんなんだ。」
「羨ましいかな。」
  護が言う。
「私もね。お父さんとお母さんみたいになりたいなって思ってるんだ。」
「なれるさ、オレ達なら。」
  何処か確信めいた言葉を護が言いながら、私の肩を抱く。
  私は、小さく頷いた。
  あ、そうだ。
  私は、在ることを思い出した。
「護。ちょっと待ってて」
  私は、護にそう告げると自分の部屋に行く。

  そして、お父さんとお母さんのそれから、護のお義父さんに渡すチョコを持って下りる。
「これ……。」
  護に差し出すと。
「エッ…。オレ、さっきもらった……。」
  護が、戸惑う。
「これね。護のお義父さんに渡して欲しいんだ。本当は、私から渡したかったんだけどね。」
「何で?」
  護が、不思議そうな顔をする。
「これから、お世話になるんだからね。それから、感謝の気持ち。」
  私が、笑顔で言うと。
「わかった。オレから渡しておく。」
  護の納得した顔。
「うん。お願いね。」
  私が、護に笑顔で言う。
  それから、ダイニングで忙しそうに動いてるお母さんに。
「お母さん。ハッピーバレンタイン。」
  そう言いながら、チョコの袋を渡す。
「エッ……、何で?」
  お母さんが、驚いてる。
「私から、感謝の気持ち。何時もありがとう。」
  私は、心からお礼を言う。
「ありがとう。」
  お母さんの顔が、笑顔になる。
  そこにお父さんが入ってきた。
「お父さんにも、ハッピーバレンタイン。」
  って、チョコを渡す。
「そっか。今日はバレンタインデーか……。ありがとう、詩織。」
  そう言って、お父さんが頭を撫でてくれた。
「エヘヘ……。」
  私が、ニコニコしてると。
「あ~あ。詩織に先越されちゃった。」
  お母さんが、残念そうに言う。
「はい。これは、私からね。」
  そう言って、お母さんがお父さんに渡す。
「ワァー、ありがとう。お母さんからもらえるとは、思わなかった。」
  感激する、お父さん。
「うん。今年は、ちょっと頑張ってみました。」
  なんか、入っていけない雰囲気。
  二人は、何時までもラブラブだね。

  私は、その場に居られなくて、逃げる事にした。










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