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7章 本音と暴露
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――10月第1火曜日。バンド練習日。
夜、いつも通りの時間にスタジオに向かうと、そこにはちゃんと拓弥と優作の姿があった。そのいつも通りの光景に、ホッと胸をなでおろす。
(よかった。あんな喧嘩した後だし、いなかったらどうしようって、ちと不安になってたのよね)
まぁ室内の空気そのものは、あんまり芳しくない様子デスガネー。無言でお互いの楽器の調整をしている2人を、チラッと見る。
(……これは、完全にまだ仲直りしてませんな)
入る時、ちょっとわざとらしく「ばんわーっ!」と元気に入り込んでみたけど、それに対しても「おう」「あぁ、お疲れさま」って覇気のない返答しかこなかったし。その後はすぐに、自分の楽器の方に目ぇ向けちゃうし……。うーん、これは居づらいにも程がある空気だぜ。
本当は、優作に相談したい事があったんだけど、これはまた次の機会にした方がいいかな――、そんな事を考えてからハッとする。
いや、それじゃダメだ、と首を横に振った。
いつまでも、こんなギスギスした空気でいるわけにはいかない。
というか、こんな状態で練習なんてやっても、どうせまた前回の二の舞になるに決まっている。きちんと話しあって、この空気を取っ払わなければ。
幸いにもというかなんというか、たかのっぽくんはまだ来ていない。今なら、俺が間に入る形で、幼馴染大人組だけで話しあう事が可能だ。
大丈夫、喧嘩両成敗だ。2人とも大人なんだから、落ち着いていればちゃんと互いに向きあって話をする事ができるはず。
(できる……、よな?)
チラリと、再び2人に目を向ける。
瞬間目につく、どよーん、というか、ぎすぎすーん、というか、なんかそういう感じの重苦しく、雨雲のような空気が漂う幼馴染達の姿。
(……どうしよう、不安しかない)
なんか見てるだけで心が砕けそうだぜ、ベイベー。というか、拓弥が謝るところは想像できても、優作が謝るところなど到底想像できないのだが?
あれ、これ、やっぱり無理ゲーじゃね? そんな考えと共に、遠いところに俺の目が向き始めた時だった。
「すいません、遅くなりました」
キィッ、と防音扉の開く音と共に、たかのっぽくんの声がスタジオ内にあがった。
(あ。たかのっぽくん来ちゃった)
まぁ、本来ならもう4人でいないといけない時間だもんねー。来ちゃってもしかたない、しかたない。これはまた今度次の機会に、ゆっくりと2人と話しあうしかないね。
え? 別に、たかのっぽくん来てくれてホッとしてないよ?
全員揃ったから練習始めるしかないよねー、しかたないよねー、なんてちょっと安心したりなんてしてないよ?
「おぉ、たかのっぽくん、ばんわー」と目の前の現実から逃げるように、俺はにっこりと笑いながら、たかのっぽくんの方へ振り向いた。
そして、その顔が目に飛び込んできた瞬間、ひゅっ、と俺の喉が音をたてた。
「き……っ、きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
「「「⁉」」」
「えっ」とたかのっぽくんが、俺の悲鳴にびっくりしたように肩をすくめた。
「な、何々⁉ 何事⁉」「なんだ、今の女みてぇな悲鳴はっ」と拓弥と優作からも驚いた声があげられる。2人の目が一斉にこちらに向けられたのが、背中越しにわかった。
が、次の瞬間、2人も俺が悲鳴をあげた理由を理解したのだろう。途端、「「は⁉」」と新たな驚きの声が揃ってあげられた。
そうして、ドタドタと俺達――、正確にはたかのっぽくんの方へと駆け寄ってきた。
「ちょっ、おまっ、はっ、な、なんだその顔!」
「たかのっぽくん、顔っ! 顔のそれっ、どうしたのっ⁉」
「ほっぺた、すっごい腫れてるんだけど⁉」と拓弥が声を荒げながら続ける。そうして、たかのっぽくんの顔を凝視した。
外国&日本人の間から生まれた奇跡の王子様フェイス。
街中ですれ違ったら10人中10人が絶対に振り向く事間違いなし、職業はモデルって言われても100人中100人が絶対に納得する。
そんな歩くイケメンの顔の一部が、大きく腫れていた。
左頬が、全体的に赤い。血色が良いとか、そういうものじゃない事は明らかだ。
見るからに誰かにやられたとしか思えない、腫れあがり具合である。
「イ、イケメン、イケメンの顔が、イケメンの顔が腫れあがって……っ」
「お、おれっ、ちょっと何か冷やせるものないか、聞いてくるっ」
「イ、イケメ、イケメンの顔……」と予想外の事に呻く事しかできない俺の横で、拓弥が動き出す。手にしていたギターをスタンドにかけて、ロビーの方へ向かってダッと駆け出していく。
その背中を、たかのっぽくんが「え」と驚いたように目で追った。
「い、いや、あの、俺、冷やすとか、そういうのは別に……」
「バッカッ、お前っ‼ イケメンだろがっ! イケメンは顔を大事にしろっ!」
「顔がいいってだけで、人生勝ち組なんだぞっ! もっと自分の顔大事にしろっ」と、優作が叫ぶようにたかのっぽくんを怒鳴りつけた。さすが、顔に一家言ある男。言う言葉の選び方と迫力が普通じゃない。
優作に気圧されたのか、たかのっぽくんがビクッと肩を震わせた。「え、あ、はい」と困惑したような返答がその口からこぼれ落ちる。
「ど、どどど、どうしようっ、こ、こここ、これ、完全に誰かにやられた系だよね? こういう時って、どうすればいいの、警察? 警察に連絡?」
「あ、あの、そこまでの事じゃ……」
「し、知るかよっ、俺だってこんなん初めてだわ、ボケッ! と、とりあえず、冷やしもんだけじゃなくって、湿布とか用意しておいた方がいいんじゃねぇのっ」
「い、いや、ですから、」
「湿布! そうね、湿布いるかもね⁉ 駅前の薬局、まだやってるかな⁉」
「スマホっ! あと財布っ、どこやったっ」
「あっ、あのっ!」
ガシッ! と混乱する俺と優作の腕を、たかのっぽくんがつかんだ。
「ち、違うんです……っ!」
「「え?」」
違う? たかのっぽくんの突然の大声に、俺と優作の目が見開かれる。
俺達の視線を受けたたかのっぽくんが、気まずそうにその顔をうつむかせた。頬の腫れ上がりとは異なる赤みが、顔全体から耳まで一気に広がっていく。
そして、
「……い、妹に、やられた、だけなんです……」
「妹に、引っ叩かれた、だけなんです……っ」そう羞恥心一色で満たされた声音でたかのっぽくんが口にするのと、「保冷剤、借りてきたよーっ!」と拓弥がスタジオに飛び込んできたのは、同じタイミングでの事だった。
夜、いつも通りの時間にスタジオに向かうと、そこにはちゃんと拓弥と優作の姿があった。そのいつも通りの光景に、ホッと胸をなでおろす。
(よかった。あんな喧嘩した後だし、いなかったらどうしようって、ちと不安になってたのよね)
まぁ室内の空気そのものは、あんまり芳しくない様子デスガネー。無言でお互いの楽器の調整をしている2人を、チラッと見る。
(……これは、完全にまだ仲直りしてませんな)
入る時、ちょっとわざとらしく「ばんわーっ!」と元気に入り込んでみたけど、それに対しても「おう」「あぁ、お疲れさま」って覇気のない返答しかこなかったし。その後はすぐに、自分の楽器の方に目ぇ向けちゃうし……。うーん、これは居づらいにも程がある空気だぜ。
本当は、優作に相談したい事があったんだけど、これはまた次の機会にした方がいいかな――、そんな事を考えてからハッとする。
いや、それじゃダメだ、と首を横に振った。
いつまでも、こんなギスギスした空気でいるわけにはいかない。
というか、こんな状態で練習なんてやっても、どうせまた前回の二の舞になるに決まっている。きちんと話しあって、この空気を取っ払わなければ。
幸いにもというかなんというか、たかのっぽくんはまだ来ていない。今なら、俺が間に入る形で、幼馴染大人組だけで話しあう事が可能だ。
大丈夫、喧嘩両成敗だ。2人とも大人なんだから、落ち着いていればちゃんと互いに向きあって話をする事ができるはず。
(できる……、よな?)
チラリと、再び2人に目を向ける。
瞬間目につく、どよーん、というか、ぎすぎすーん、というか、なんかそういう感じの重苦しく、雨雲のような空気が漂う幼馴染達の姿。
(……どうしよう、不安しかない)
なんか見てるだけで心が砕けそうだぜ、ベイベー。というか、拓弥が謝るところは想像できても、優作が謝るところなど到底想像できないのだが?
あれ、これ、やっぱり無理ゲーじゃね? そんな考えと共に、遠いところに俺の目が向き始めた時だった。
「すいません、遅くなりました」
キィッ、と防音扉の開く音と共に、たかのっぽくんの声がスタジオ内にあがった。
(あ。たかのっぽくん来ちゃった)
まぁ、本来ならもう4人でいないといけない時間だもんねー。来ちゃってもしかたない、しかたない。これはまた今度次の機会に、ゆっくりと2人と話しあうしかないね。
え? 別に、たかのっぽくん来てくれてホッとしてないよ?
全員揃ったから練習始めるしかないよねー、しかたないよねー、なんてちょっと安心したりなんてしてないよ?
「おぉ、たかのっぽくん、ばんわー」と目の前の現実から逃げるように、俺はにっこりと笑いながら、たかのっぽくんの方へ振り向いた。
そして、その顔が目に飛び込んできた瞬間、ひゅっ、と俺の喉が音をたてた。
「き……っ、きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
「「「⁉」」」
「えっ」とたかのっぽくんが、俺の悲鳴にびっくりしたように肩をすくめた。
「な、何々⁉ 何事⁉」「なんだ、今の女みてぇな悲鳴はっ」と拓弥と優作からも驚いた声があげられる。2人の目が一斉にこちらに向けられたのが、背中越しにわかった。
が、次の瞬間、2人も俺が悲鳴をあげた理由を理解したのだろう。途端、「「は⁉」」と新たな驚きの声が揃ってあげられた。
そうして、ドタドタと俺達――、正確にはたかのっぽくんの方へと駆け寄ってきた。
「ちょっ、おまっ、はっ、な、なんだその顔!」
「たかのっぽくん、顔っ! 顔のそれっ、どうしたのっ⁉」
「ほっぺた、すっごい腫れてるんだけど⁉」と拓弥が声を荒げながら続ける。そうして、たかのっぽくんの顔を凝視した。
外国&日本人の間から生まれた奇跡の王子様フェイス。
街中ですれ違ったら10人中10人が絶対に振り向く事間違いなし、職業はモデルって言われても100人中100人が絶対に納得する。
そんな歩くイケメンの顔の一部が、大きく腫れていた。
左頬が、全体的に赤い。血色が良いとか、そういうものじゃない事は明らかだ。
見るからに誰かにやられたとしか思えない、腫れあがり具合である。
「イ、イケメン、イケメンの顔が、イケメンの顔が腫れあがって……っ」
「お、おれっ、ちょっと何か冷やせるものないか、聞いてくるっ」
「イ、イケメ、イケメンの顔……」と予想外の事に呻く事しかできない俺の横で、拓弥が動き出す。手にしていたギターをスタンドにかけて、ロビーの方へ向かってダッと駆け出していく。
その背中を、たかのっぽくんが「え」と驚いたように目で追った。
「い、いや、あの、俺、冷やすとか、そういうのは別に……」
「バッカッ、お前っ‼ イケメンだろがっ! イケメンは顔を大事にしろっ!」
「顔がいいってだけで、人生勝ち組なんだぞっ! もっと自分の顔大事にしろっ」と、優作が叫ぶようにたかのっぽくんを怒鳴りつけた。さすが、顔に一家言ある男。言う言葉の選び方と迫力が普通じゃない。
優作に気圧されたのか、たかのっぽくんがビクッと肩を震わせた。「え、あ、はい」と困惑したような返答がその口からこぼれ落ちる。
「ど、どどど、どうしようっ、こ、こここ、これ、完全に誰かにやられた系だよね? こういう時って、どうすればいいの、警察? 警察に連絡?」
「あ、あの、そこまでの事じゃ……」
「し、知るかよっ、俺だってこんなん初めてだわ、ボケッ! と、とりあえず、冷やしもんだけじゃなくって、湿布とか用意しておいた方がいいんじゃねぇのっ」
「い、いや、ですから、」
「湿布! そうね、湿布いるかもね⁉ 駅前の薬局、まだやってるかな⁉」
「スマホっ! あと財布っ、どこやったっ」
「あっ、あのっ!」
ガシッ! と混乱する俺と優作の腕を、たかのっぽくんがつかんだ。
「ち、違うんです……っ!」
「「え?」」
違う? たかのっぽくんの突然の大声に、俺と優作の目が見開かれる。
俺達の視線を受けたたかのっぽくんが、気まずそうにその顔をうつむかせた。頬の腫れ上がりとは異なる赤みが、顔全体から耳まで一気に広がっていく。
そして、
「……い、妹に、やられた、だけなんです……」
「妹に、引っ叩かれた、だけなんです……っ」そう羞恥心一色で満たされた声音でたかのっぽくんが口にするのと、「保冷剤、借りてきたよーっ!」と拓弥がスタジオに飛び込んできたのは、同じタイミングでの事だった。
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