Herec~一度音楽をやめた奴らが『社会人バンド』を組む話~

勝哉道花@みちなり文庫

文字の大きさ
36 / 49
7章 本音と暴露

7-4

しおりを挟む
 ――10月第1火曜日。バンド練習日。

 夜、いつも通りの時間にスタジオに向かうと、そこにはちゃんと拓弥と優作の姿があった。そのいつも通りの光景に、ホッと胸をなでおろす。

(よかった。あんな喧嘩した後だし、いなかったらどうしようって、ちと不安になってたのよね)

 まぁ室内の空気そのものは、あんまり芳しくない様子デスガネー。無言でお互いの楽器の調整をしている2人を、チラッと見る。

(……これは、完全にまだ仲直りしてませんな)

 入る時、ちょっとわざとらしく「ばんわーっ!」と元気に入り込んでみたけど、それに対しても「おう」「あぁ、お疲れさま」って覇気のない返答しかこなかったし。その後はすぐに、自分の楽器の方に目ぇ向けちゃうし……。うーん、これは居づらいにも程がある空気だぜ。

 本当は、優作に相談したい事があったんだけど、これはまた次の機会にした方がいいかな――、そんな事を考えてからハッとする。

 いや、それじゃダメだ、と首を横に振った。
 いつまでも、こんなギスギスした空気でいるわけにはいかない。
 というか、こんな状態で練習なんてやっても、どうせまた前回の二の舞になるに決まっている。きちんと話しあって、この空気を取っ払わなければ。

 幸いにもというかなんというか、たかのっぽくんはまだ来ていない。今なら、俺が間に入る形で、幼馴染大人組だけで話しあう事が可能だ。

 大丈夫、喧嘩両成敗だ。2人とも大人なんだから、落ち着いていればちゃんと互いに向きあって話をする事ができるはず。

(できる……、よな?)

 チラリと、再び2人に目を向ける。

 瞬間目につく、どよーん、というか、ぎすぎすーん、というか、なんかそういう感じの重苦しく、雨雲のような空気が漂う幼馴染達の姿。

(……どうしよう、不安しかない)

 なんか見てるだけで心が砕けそうだぜ、ベイベー。というか、拓弥が謝るところは想像できても、優作が謝るところなど到底想像できないのだが? 

 あれ、これ、やっぱり無理ゲーじゃね? そんな考えと共に、遠いところに俺の目が向き始めた時だった。

「すいません、遅くなりました」

 キィッ、と防音扉の開く音と共に、たかのっぽくんの声がスタジオ内にあがった。

(あ。たかのっぽくん来ちゃった)

 まぁ、本来ならもう4人でいないといけない時間だもんねー。来ちゃってもしかたない、しかたない。これはまた今度次の機会に、ゆっくりと2人と話しあうしかないね。

 え? 別に、たかのっぽくん来てくれてホッとしてないよ?
 全員揃ったから練習始めるしかないよねー、しかたないよねー、なんてちょっと安心したりなんてしてないよ?

「おぉ、たかのっぽくん、ばんわー」と目の前の現実から逃げるように、俺はにっこりと笑いながら、たかのっぽくんの方へ振り向いた。

 そして、その顔が目に飛び込んできた瞬間、ひゅっ、と俺の喉が音をたてた。

「き……っ、きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」
「「「⁉」」」

「えっ」とたかのっぽくんが、俺の悲鳴にびっくりしたように肩をすくめた。

「な、何々⁉ 何事⁉」「なんだ、今の女みてぇな悲鳴はっ」と拓弥と優作からも驚いた声があげられる。2人の目が一斉にこちらに向けられたのが、背中越しにわかった。

 が、次の瞬間、2人も俺が悲鳴をあげた理由を理解したのだろう。途端、「「は⁉」」と新たな驚きの声が揃ってあげられた。

 そうして、ドタドタと俺達――、正確にはたかのっぽくんの方へと駆け寄ってきた。

「ちょっ、おまっ、はっ、な、なんだその顔!」
「たかのっぽくん、顔っ! 顔のそれっ、どうしたのっ⁉」

「ほっぺた、すっごい腫れてるんだけど⁉」と拓弥が声を荒げながら続ける。そうして、たかのっぽくんの顔を凝視した。

 外国&日本人の間から生まれた奇跡の王子様フェイス。

 街中ですれ違ったら10人中10人が絶対に振り向く事間違いなし、職業はモデルって言われても100人中100人が絶対に納得する。

 そんな歩くイケメンの顔の一部が、大きく腫れていた。
 左頬が、全体的に赤い。血色が良いとか、そういうものじゃない事は明らかだ。

 見るからに誰かにやられたとしか思えない、腫れあがり具合である。

「イ、イケメン、イケメンの顔が、イケメンの顔が腫れあがって……っ」
「お、おれっ、ちょっと何か冷やせるものないか、聞いてくるっ」

「イ、イケメ、イケメンの顔……」と予想外の事に呻く事しかできない俺の横で、拓弥が動き出す。手にしていたギターをスタンドにかけて、ロビーの方へ向かってダッと駆け出していく。

 その背中を、たかのっぽくんが「え」と驚いたように目で追った。

「い、いや、あの、俺、冷やすとか、そういうのは別に……」
「バッカッ、お前っ‼ イケメンだろがっ! イケメンは顔を大事にしろっ!」

「顔がいいってだけで、人生勝ち組なんだぞっ! もっと自分の顔大事にしろっ」と、優作が叫ぶようにたかのっぽくんを怒鳴りつけた。さすが、顔に一家言ある男。言う言葉の選び方と迫力が普通じゃない。

 優作に気圧されたのか、たかのっぽくんがビクッと肩を震わせた。「え、あ、はい」と困惑したような返答がその口からこぼれ落ちる。

「ど、どどど、どうしようっ、こ、こここ、これ、完全に誰かにやられた系だよね? こういう時って、どうすればいいの、警察? 警察に連絡?」
「あ、あの、そこまでの事じゃ……」
「し、知るかよっ、俺だってこんなん初めてだわ、ボケッ! と、とりあえず、冷やしもんだけじゃなくって、湿布とか用意しておいた方がいいんじゃねぇのっ」
「い、いや、ですから、」
「湿布! そうね、湿布いるかもね⁉ 駅前の薬局、まだやってるかな⁉」
「スマホっ! あと財布っ、どこやったっ」
「あっ、あのっ!」

 ガシッ! と混乱する俺と優作の腕を、たかのっぽくんがつかんだ。

「ち、違うんです……っ!」
「「え?」」

 違う? たかのっぽくんの突然の大声に、俺と優作の目が見開かれる。

 俺達の視線を受けたたかのっぽくんが、気まずそうにその顔をうつむかせた。頬の腫れ上がりとは異なる赤みが、顔全体から耳まで一気に広がっていく。

 そして、

「……い、妹に、やられた、だけなんです……」

「妹に、引っ叩かれた、だけなんです……っ」そう羞恥心一色で満たされた声音でたかのっぽくんが口にするのと、「保冷剤、借りてきたよーっ!」と拓弥がスタジオに飛び込んできたのは、同じタイミングでの事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...