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ぬりえ ぬりつぶし
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真っ白な世界が目の前に広がっている。
「・・・?」
ここはどこだろうか?
前方を見渡すばかり白ばかり。上も、下も、後ろも。どこにも別の色がないし、どこからも何も音がしてこない。
誰かがいる気配もない。だが不思議と怖い感じはしない。誰もいない事が何故か当然のように感じられる。
色々見渡しているうちに、どちらが前でどちらが後ろか、上も下も分からなくなってしまった。なんだろうここ、と途方に暮れる。とにかく色々考えても仕方がない。左足を一歩踏み出す。
チャプ。
と音が鳴り、まるで水の上を歩いているかのように足元に小さな波紋が広がる。白が揺れる。白いのに、チャプっと音が鳴るのに、水を踏みしめた感じはしない。不思議な感覚だ。
チャプ。チャプ。
少しばかり歩いてみる。どこもかしこも白ばかりなので、平衡感覚が無くなってきた。
前に向かって歩いているはずなのに前に進んでいる気がしない。本当に歩いているのか?
チャプ。チャプ。チャプ。チャプ。
白い。ただただ白い。ただそれでも、足元でチャプチャプ音が鳴っているのが妙に心を暖かくさせ、辺りには何も無い筈なのに何故か心強く感じる。とにかく前っぽいどこかへ歩いてみる。
結構歩いた気がするが、それでも景色は一向に変わらない。目前に広がるのは白ばかり。
誰も、何も、何もない。ただ白が広がっている。どこまで歩いてきたのだろう?どこまで歩けばいいのだろう?
本当に進んでいるのか?こっちは前?後ろ?どっちへ行けばいい?目的地なんてない。途方に暮れる。
「おーい」
誰かに向かって呼び掛けてみる。驚くほど素直に声が出た。少しビックリした。もしかしたら声も出ないのではないかと思っていた。
ただし何の反応もない。白は何も反応しない。誰かが返事をしてくれそうな気配もない。
ちょっと寂しく感じたが、予想できた反応だった。ここで声が返ってきたらそっちの方がよほど驚くな、とちょっと笑った。
「ふぅ・・・」
ため息がでた。どうすればいいのだろうか?何のヒントもないし、どこへ行けばいいのかも分からない。むしろどこかへ行けるのだろうか?ずっとこのままなのでは?
せめて何か、どこからか音でもすればいいのに。
チャプ。チャプ。チャプ。
仕方がないのでまた歩き出す。いい加減頭が痛くなってきた。頭がグワングワンする。ずっと真っ白だし、前に進んでいるのか進んでいないのかも分からない。
景色が変わらないとこんなに気持ち悪くなってしまうのか。
「・・・一人ぼっち~恐れず~に~・・・」
歌を口ずさんでみる。少し心が軽くなってきた。歌いながら歩く。だんだんと元気が出てくる。歌う声も大きくなっていく。
チャプ。チャプ。チャプチャプチャプチャプッ!
走ってみた。身体は軽い。小学生の頃、徒競走で一番になった時みたいだ。背中に羽が生えているかのような、全身で空気を裂き世界を駆け抜ける感じ。地面を思いっきり踏みしめ(地面じゃないけど)、足で跳ね飛ばす。身体が躍動する。
チャプチャプチャプッと水音が懸命に着いてくる。こちらの駆けるスピードの方がずっと早い。そんなに遅いと置いていってしまうぞ。
「ははっ・・・ははははっ!」
思わず笑ってしまう。身体が軽い。白の中を駆け続ける。水音が鳴る。笑いが漏れる。
チャプチャプチャプチャプチャプチャプッ!
全力で走り続ける。不思議と疲れはしない。久しぶりに走った気がする。久しぶりに笑った気がする。ただひたすら走り続けた。
「ははは・・・は・・・はぁ・・・。ふぅ」
身体は疲れていない。息もあがっていない。でもちょっと飽きてきた。立ち止まると、また頭がグワングワンする。
辺りを見渡すが何も変わらない。白が広がっている。他のものも、他の音も、他の色もない。白い。また途方に暮れる。
ちょっと不安になってきた。どうすればいいんだろうか。ずっとこのままなんだろうか。不安は瞬く間に心の中に染み込んでいく。
立ち止まったままぼーっと、ただ不安に身を任せる。心の中のほとんどが不安に支配された。
ちゃぷ・・・。
「!?」
後ろで音がした。自分以外の音だ。久しく聞いていない。心臓が跳ね上がる。動悸が早まっていくのが自分でも分かる。誰かが、何かが、後ろにいる!
すぐさま振り返る。
「・・・?」
音がしたと思われる方を凝視するが、何も見えない。しかしちゃぷ、ちゃぷという音は前方から鳴り続ける。なんだろう?どこにいるんだろう?
音はこちらへ向かってきているように聞こえる。少しずつ大きくなっていく。
首をかしげながらも目をこらして凝視し続けると、薄っすらと何かが見えてきた。
「あ!」
人型の影が見えてきた。段々と、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
ちゃぷ・・・。ちゃぷ・・・。ちゃぷ・・・。ちゃっ。
もうはっきりと目視できる所までその影は近付いてきた。人であることは確かなのだが、ぼんやりとした青い影だ。
自分より背が低い。細い身体つきからして女の子のようだ。ただし細部がはっきりしない。輪郭がぼやけている。
髪型はショートボブ、というよりおかっぱに近く、スカートっぽいものをひらひらさせている事からワンピースを着ているのだろうか。
ただいくら目をこすってもはっきりと見えない。どうしてもぼやける。ぼんやりとした青い影だ。こちらを向いている。
「こんにちは!」
思い切って大きな声で挨拶してみる。
その声に女の子は口を開けてニカッと笑う。こちらも心の底からニカッと笑った。
その瞬間、空がバッとひらいた。真っ白だった頭上に透き通るような綺麗な青空が広がっていく。雲が泳ぎ、青がそよぎ、晴れ晴れとしている。心が晴れていく。
不思議と疑問に思わない。もう最初から頭上には青空があったように思える。気分が高揚していく。真っ白い世界に、青が滲んでいく。どこまでも続いていく。
「こんにちは!!」
さっきよりもっと大きな声で笑いかける。今度は辺りをまばゆい光が包み込み、星のようなキラキラとした光が二人の足元から頭上へと流れ出す。咲き誇る花のように流星は流れていく。
瞬く間に足元に緑が溢れ、草原が広がっていき、遠くには山々が見える。青空の下、爽やかな風が二人の間に駆け巡り、肺一杯に空気が流れ込む。白が消えていく。
世界から白が消えていく。青空と、緑豊かな大地が世界を彩る。
もう心の中に少しの不安もない。心の底から幸せを感じる。笑顔で溢れる。世界にもう白は存在しない。女の子も笑う。
「ありがとう!!」
大きな声でお礼を言う。無性に女の子に感謝したくなった。世界を青くしてくれて。世界を光で塗りつぶしてくれて。世界から白を消してくれて、どうもありがとう。女の子は笑っている。風は今でも二人の間で遊んでいる。
少し笑った後、女の子は背を向けまた来た道へと戻っていった。青を広げ、緑を作り、白を消した女の子は、どこかへと歩いて行く。どれだけ女の子の背が小さくなろうとも、完全に見えなくなるまでその背中を見送った。ついに、その女の子は見えなくなった。
それでも女の子が去っていった方を見続けた。風もまた、女の子を名残惜しそうに見送っていた。
突然、世界が暗転する。青が、緑が、黒で塗りつぶされる。意識が無くなる。
「・・・あれ?」
目を覚ますと、どこかで見たような部屋にいた。部屋の中は暗いが、カーテンを閉めていないせいで外の月明りが部屋の中に降り注いでいる。食べかけのお菓子がテーブルに広げられている。携帯電話は充電が最大になっている。ベッドから身を起こす。
時計を見る。まだ日付は変わったばかりだ。
「ここは・・・ああ、そうか」
色々な事があった気がするが、頭に霧がかかったような感覚で上手く思い出せない。外は静かだ。とりあえず起きて、目覚ましにお水でも飲もう。それからトイレに行って、戻ってきたらテレビでも点けて、それから・・・。
それからの事はまたその時考えればいいか。とにかくやる事がいっぱいだ。ベッドから降りる。右足を一歩踏み出す。窓から射す月明りが、青い影を映し出した。
「・・・?」
ここはどこだろうか?
前方を見渡すばかり白ばかり。上も、下も、後ろも。どこにも別の色がないし、どこからも何も音がしてこない。
誰かがいる気配もない。だが不思議と怖い感じはしない。誰もいない事が何故か当然のように感じられる。
色々見渡しているうちに、どちらが前でどちらが後ろか、上も下も分からなくなってしまった。なんだろうここ、と途方に暮れる。とにかく色々考えても仕方がない。左足を一歩踏み出す。
チャプ。
と音が鳴り、まるで水の上を歩いているかのように足元に小さな波紋が広がる。白が揺れる。白いのに、チャプっと音が鳴るのに、水を踏みしめた感じはしない。不思議な感覚だ。
チャプ。チャプ。
少しばかり歩いてみる。どこもかしこも白ばかりなので、平衡感覚が無くなってきた。
前に向かって歩いているはずなのに前に進んでいる気がしない。本当に歩いているのか?
チャプ。チャプ。チャプ。チャプ。
白い。ただただ白い。ただそれでも、足元でチャプチャプ音が鳴っているのが妙に心を暖かくさせ、辺りには何も無い筈なのに何故か心強く感じる。とにかく前っぽいどこかへ歩いてみる。
結構歩いた気がするが、それでも景色は一向に変わらない。目前に広がるのは白ばかり。
誰も、何も、何もない。ただ白が広がっている。どこまで歩いてきたのだろう?どこまで歩けばいいのだろう?
本当に進んでいるのか?こっちは前?後ろ?どっちへ行けばいい?目的地なんてない。途方に暮れる。
「おーい」
誰かに向かって呼び掛けてみる。驚くほど素直に声が出た。少しビックリした。もしかしたら声も出ないのではないかと思っていた。
ただし何の反応もない。白は何も反応しない。誰かが返事をしてくれそうな気配もない。
ちょっと寂しく感じたが、予想できた反応だった。ここで声が返ってきたらそっちの方がよほど驚くな、とちょっと笑った。
「ふぅ・・・」
ため息がでた。どうすればいいのだろうか?何のヒントもないし、どこへ行けばいいのかも分からない。むしろどこかへ行けるのだろうか?ずっとこのままなのでは?
せめて何か、どこからか音でもすればいいのに。
チャプ。チャプ。チャプ。
仕方がないのでまた歩き出す。いい加減頭が痛くなってきた。頭がグワングワンする。ずっと真っ白だし、前に進んでいるのか進んでいないのかも分からない。
景色が変わらないとこんなに気持ち悪くなってしまうのか。
「・・・一人ぼっち~恐れず~に~・・・」
歌を口ずさんでみる。少し心が軽くなってきた。歌いながら歩く。だんだんと元気が出てくる。歌う声も大きくなっていく。
チャプ。チャプ。チャプチャプチャプチャプッ!
走ってみた。身体は軽い。小学生の頃、徒競走で一番になった時みたいだ。背中に羽が生えているかのような、全身で空気を裂き世界を駆け抜ける感じ。地面を思いっきり踏みしめ(地面じゃないけど)、足で跳ね飛ばす。身体が躍動する。
チャプチャプチャプッと水音が懸命に着いてくる。こちらの駆けるスピードの方がずっと早い。そんなに遅いと置いていってしまうぞ。
「ははっ・・・ははははっ!」
思わず笑ってしまう。身体が軽い。白の中を駆け続ける。水音が鳴る。笑いが漏れる。
チャプチャプチャプチャプチャプチャプッ!
全力で走り続ける。不思議と疲れはしない。久しぶりに走った気がする。久しぶりに笑った気がする。ただひたすら走り続けた。
「ははは・・・は・・・はぁ・・・。ふぅ」
身体は疲れていない。息もあがっていない。でもちょっと飽きてきた。立ち止まると、また頭がグワングワンする。
辺りを見渡すが何も変わらない。白が広がっている。他のものも、他の音も、他の色もない。白い。また途方に暮れる。
ちょっと不安になってきた。どうすればいいんだろうか。ずっとこのままなんだろうか。不安は瞬く間に心の中に染み込んでいく。
立ち止まったままぼーっと、ただ不安に身を任せる。心の中のほとんどが不安に支配された。
ちゃぷ・・・。
「!?」
後ろで音がした。自分以外の音だ。久しく聞いていない。心臓が跳ね上がる。動悸が早まっていくのが自分でも分かる。誰かが、何かが、後ろにいる!
すぐさま振り返る。
「・・・?」
音がしたと思われる方を凝視するが、何も見えない。しかしちゃぷ、ちゃぷという音は前方から鳴り続ける。なんだろう?どこにいるんだろう?
音はこちらへ向かってきているように聞こえる。少しずつ大きくなっていく。
首をかしげながらも目をこらして凝視し続けると、薄っすらと何かが見えてきた。
「あ!」
人型の影が見えてきた。段々と、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
ちゃぷ・・・。ちゃぷ・・・。ちゃぷ・・・。ちゃっ。
もうはっきりと目視できる所までその影は近付いてきた。人であることは確かなのだが、ぼんやりとした青い影だ。
自分より背が低い。細い身体つきからして女の子のようだ。ただし細部がはっきりしない。輪郭がぼやけている。
髪型はショートボブ、というよりおかっぱに近く、スカートっぽいものをひらひらさせている事からワンピースを着ているのだろうか。
ただいくら目をこすってもはっきりと見えない。どうしてもぼやける。ぼんやりとした青い影だ。こちらを向いている。
「こんにちは!」
思い切って大きな声で挨拶してみる。
その声に女の子は口を開けてニカッと笑う。こちらも心の底からニカッと笑った。
その瞬間、空がバッとひらいた。真っ白だった頭上に透き通るような綺麗な青空が広がっていく。雲が泳ぎ、青がそよぎ、晴れ晴れとしている。心が晴れていく。
不思議と疑問に思わない。もう最初から頭上には青空があったように思える。気分が高揚していく。真っ白い世界に、青が滲んでいく。どこまでも続いていく。
「こんにちは!!」
さっきよりもっと大きな声で笑いかける。今度は辺りをまばゆい光が包み込み、星のようなキラキラとした光が二人の足元から頭上へと流れ出す。咲き誇る花のように流星は流れていく。
瞬く間に足元に緑が溢れ、草原が広がっていき、遠くには山々が見える。青空の下、爽やかな風が二人の間に駆け巡り、肺一杯に空気が流れ込む。白が消えていく。
世界から白が消えていく。青空と、緑豊かな大地が世界を彩る。
もう心の中に少しの不安もない。心の底から幸せを感じる。笑顔で溢れる。世界にもう白は存在しない。女の子も笑う。
「ありがとう!!」
大きな声でお礼を言う。無性に女の子に感謝したくなった。世界を青くしてくれて。世界を光で塗りつぶしてくれて。世界から白を消してくれて、どうもありがとう。女の子は笑っている。風は今でも二人の間で遊んでいる。
少し笑った後、女の子は背を向けまた来た道へと戻っていった。青を広げ、緑を作り、白を消した女の子は、どこかへと歩いて行く。どれだけ女の子の背が小さくなろうとも、完全に見えなくなるまでその背中を見送った。ついに、その女の子は見えなくなった。
それでも女の子が去っていった方を見続けた。風もまた、女の子を名残惜しそうに見送っていた。
突然、世界が暗転する。青が、緑が、黒で塗りつぶされる。意識が無くなる。
「・・・あれ?」
目を覚ますと、どこかで見たような部屋にいた。部屋の中は暗いが、カーテンを閉めていないせいで外の月明りが部屋の中に降り注いでいる。食べかけのお菓子がテーブルに広げられている。携帯電話は充電が最大になっている。ベッドから身を起こす。
時計を見る。まだ日付は変わったばかりだ。
「ここは・・・ああ、そうか」
色々な事があった気がするが、頭に霧がかかったような感覚で上手く思い出せない。外は静かだ。とりあえず起きて、目覚ましにお水でも飲もう。それからトイレに行って、戻ってきたらテレビでも点けて、それから・・・。
それからの事はまたその時考えればいいか。とにかくやる事がいっぱいだ。ベッドから降りる。右足を一歩踏み出す。窓から射す月明りが、青い影を映し出した。
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