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43.それはある夜のことだった
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「知ってると思うけど、俺はゲームは難易度が高いほうが燃えるんだ」
青褪めた平たい胸に手を這わせながら、俺は其奴の顔を見た。其奴は顎を上げたまま、目線だけ動かし俺を睨めつけた。見慣れた奴の目には、すでに怒りは滾っていない。ただ俺の動向を追っているだけだ。時々、発作のように体を跳ね上げさせるが、俺を振り払うだけの動作には繋がらならなかった。往生際悪く藻掻いてみせる度、ベッドフレームに繋いだ鎖が派手な音を立てた。繋いだフレームのすぐ隣の柵はグニャリと曲がった状態だ。癇癪の発作が始まると、目いっぱい力任せに引き千切りに掛かるからのこの惨状だ。
『ガンッガンッガンッ!!』
ピンと張った鎖が新たに絆ぎ直したフレームに擦れてギリギリと嫌な音を立てた。繋いだ手錠が限界まで引っ張られる。緩めてはまた勢いをつけて引き寄せられる。巻いたばかりの新しい包帯は、すでに血が滲み始めていた。
『ガンッガンッガッ!!』
此奴は、そんなのお構いなしだ。無駄とわかっていても、そうすることで自分を保っている。
「止せ」
俺が胸を押さえると、振り払おうとでもするように体を捩った。
「その辺で止めとけ。これ以上やるならもっとキツく縛るぞ」
首に手をかけ力を込めると、不意に動きを止め俺を見た。嫌悪と侮蔑の入り混じった瞳に俺の顔が映り込む。俺の背中を興奮が駆け上がった。
ゾクゾクする。
力任せに抑え込み伸し掛ると、掌で竿ごと玉を握り込んだ。
「暴れたら握りつぶす」
奴は屈辱に顔を歪め唇を噛み締めた。青褪めた頬の筋肉が小刻みに痙攣している。
俺は再び奴の胸に目を落とした。日に焼けていない白くて薄い胸板に、子供みたいな小さな乳首が張り付いている。まるで思春期に差し掛かった頃にはじめて出来た面皰みたいに。弄るのも可哀想なくらい慎ましい雰囲気だ。色気もなにもない。胸骨に沿って舌を這わせると、発作のように体を震わせた。
此奴は本当に呆れるくらい敏感だ。
初めての時からまるで変わらない。首筋を舐め上げると、耐えかねたように首を竦めた。俺の触れる場所、触れる場所、俺が動く度に体を竦めて逃げようとする様が、まだどこか初々しい。やんわりと握った掌の中のコックは大人しいままだ。疲れてしまったのか本当に竦み上がっているのかはわからないが、どっちにしろ俺は急がないことにしていた。時間はたっぷりある。焦らせるだけ焦らして、此奴を悦がらせてやりたい。俺は耳朶に歯を立てながら囁いた。
「なぁ、女みたいに悦がってよ」
「知ってんだろ?あのクソビッチとヤることヤッてたんだろ?」
「女がどんな風に悦がるのか教えてよ」
俺を振り払おうとでもするように、煩わしげに首を振った。
「お前さぁ、付き合う女はもうちょっと選べよな?」
「あの女、俺にも粉掛けて来たんだぜ?お前、知らねえだろ?」
「同じ顔の男となんてヤりたいもんなの?3Pってわけでもねぇし、何が面白れぇんだろうな。見境ねぇにも程があるだろ?」
反応の悪さに俺は顔を上げた。奴は目を閉じ、頑なに顔を背けている。無反応で応戦する気なんだろう。毎回毎回よく頑張る。健気さに思わず笑いが漏れた。無駄な抵抗だってことは、なによりお前が良く知ってる筈だ。
俺も含めてそうだが、男ってのは反射の生き物だ。やり方は簡単。ちょっとばかり力を込めて刺激してやると、本人にその気がなくたって、こうやって簡単に…固くなる。
俺は目を上げて、奴の顔を盗み見た。朱に染まった痩せた耳朶、反った喉仏を。さっきまで真青だったくせに、今は真っ赤になっている。忙しいヤツだ。貧血気味の此奴のナケナシの血が、今、行き場を求めて此奴の体内を凄まじい速さで駆け巡っている。見ている間に酸欠になる。此奴は鼻の穴を広げて、噛み締めた歯の間から、この部屋の停滞し濁った生臭い空気を、胸を広げて必死で吸い込む。歯の間を通り抜ける荒い息が、時折、啜り泣きのような音を立てて、俺を喜ばせた。
最初から此奴を屈服させるのが不可能だってことはわかっていた。だが、俺はゲームの難易度が高ければ高いほど挑みたくなる性分だ。無理だとわかるからこそ欲しくなる。しかも此奴の強情さは、ガキの頃から折り紙付きだ。それでこそ俺の兄貴。
俺は目を下肢へと移した。目の端に映った太腿の傷。ガキの頃に俺が付けた傷だ。白い内股に薄っすらと赤く残った跡を見る度、俺は此奴が俺の兄貴だということを再認識する。奴をいたぶる手を止めて、俺はその傷に触れた。
「可愛くねだってくれたら、イカせてやるよ」
「…………」
「…ユウキ」
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俺はスマホを放り出して、パンツを下ろした。俺の内股に残る赤い傷跡。まだ残っていたことすら知らなかった。すっかり忘れていたが、これは確か小一の頃、家の階段の下で遊んでいた時に奴が二階から何かの拍子に落としたハサミが刺さって出来た傷だ。結構深く切って何針か縫った筈だった。
「… 皓季」
声に出してみると、あまりにも久々過ぎる感覚に体がブルッと震えた。
皓季の“どうしようもなさ”は、身に染みて知っている。だから今さら怒りも驚きもないが、今この瞬間をもって、俺の中の皓季に対するあらゆる感情が、無味へと転じるのを感じた。
『俺をカキタレにして、全世界に発信するとはな…』
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