踏切。

風枝ちよ

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第1章

飛鳥の物語

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次の日。

チャイムに急かされながら校門をくぐり靴箱に行くと、飛鳥の靴がなかった。
俺が学校に来る最大の理由がなくなり、一日中軽く死ぬことを悟る。
飛鳥が学校に来ないのは珍しい。
何かあったのだろうか。
風邪など滅多にひかないはずだが。
心配になる。



朝のホームルームが始まり、教室のざわめきが小さくなる。
飛鳥からの連絡はない、と先生は無表情に告げる。



授業中も、無意識で顔が横を向いてしまう。 
でも、そこには何もない。
誰もいない。
視線は空中で霧散していく。



帰りのホームルームでも、先生からの連絡は特になかった。
大丈夫だろうか。



その次の日も、飛鳥は学校に来ていなかった。
先生からの連絡は相変わらずない。
おかしい。
飛鳥が2日も続けて学校を休むはずはないし、休んだとしても連絡は来るはずだ。



放課後、俺は決心した。
心に決めた。
心で決めた。
心を決めた。
会いに行こう。
会って、どうでもいい会話がしたい。
会って、一緒に笑いたい。
じゃないと、俺は生きている意味を失う。

探そう。



探すと言っても、こんな田舎の村。
全員がほぼ顔見知りなので、とにかく聞いて回るだけだ。
見ませんでしたが、どこに行ったか知ってますか、と。
俺は必死で聞いて回った。
足が棒になっても。



【結果】収穫ゼロ



疲れ切って、やることやり切って、空き地に腰を下ろす。
太陽は最後の力を振り絞って山の向こうで燃えている。
今日は新月で、月は見えない。
蝉の鳴き声はもう聞こえない。
俺の影は長く伸びている。
ため息が出てしまう。
俺がやっていることが、見当違いな気がして来る。
もしかすると、何かの事情があるのかもしれない。
引っ越しかもしれない。
忌引かもしれない。
単なる病気かもしれない。
むしろそうであってくれと願う自分もいる。
探す意味は、あるのだろうか……


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