踏切。

風枝ちよ

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第3章

鬼の物語

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唐突に、それは俺達の目の前に現れる。
唐突に。
突然。
突如。
それが、いつの間にか目の前にある。
俺はそれを見た瞬間、察した。



鬼ヶ島。



そうか、犬猿雉のこのメンツ。
桃太郎。
桃から生まれた男の子が鬼を退治する日本昔話。
そのメンツと一緒なのだ。



仲間を見る。
そこで、俺は違和感の正体に気付く。
尻尾がない。
全員、そこにあるはずの尻尾がないのだ。
何故だろうか。
不思議だ。



鬼ヶ島に上陸すると、
上陸?
いつの間に俺達は海を渡っていたんだ?
船とか乗ってたっけ?
まず海とか見たっけ?
まあいいか。
動物たちが人間の言葉を話すこの世界、何が起こっても不思議じゃない、のか?
とにかく鬼ヶ島に上陸すると、いきなり敵が襲って来る。
敵。
もちろん、鬼だ。
アフロっぽい髪。
二本の角。
牙。
トラジマのパンツ。
金棒。
まさに、鬼に金棒。
バットに棘をたくさんつけたような、単純だけどアブナイ武器。
それを振り回して来る。
1匹ではない。
集団だ。

「みんな、闘おう!」

俺は仲間に声をかける。
猿は、鬼を引っ掻く。
雉は、鬼の目を嘴で突く。
犬は、                 。
……犬は?
なにやってんだ犬?

「あなたたちレディに戦わせるつもりですか?」
「馬鹿やないと?死にたいんやったら1人で死んどき!」

猿がキレる。
闘う俺達。
サボる犬。



俺達は闘っている。

「これやったらキリなかばい!どげんするとね?」

猿が聞いてくるけど、戦っているフリで精一杯の俺は何もできない。
ケーンケーンと雉。
ふわぁ…と犬。
犬!
犬は離れたところで欠伸をしながら高みの見物。

「ポケットん中なんか入っとーっちゃない?」

はっと気付き、俺はポケットの中に手を突っ込む。
取り出したものは、大豆。
大豆?
大豆をどうしろと?
猿が近付いてきて、大豆を俺から奪い、鬼に向かって投げる。
どうした猿、と突っ込みそうになったけど、鬼の反応を見てやめる。
鬼が逃げていく。
なんで?
俺は一瞬考えるけど、すぐにわかる。
節分だ。
鬼は~外、福は~内と唱えながら大豆をばら撒く。
鬼は面白いくらいに避けていく。
この大豆が目に入らぬか~。
途中で1匹捕まえ、人間の子が来たか、どこに行ったか訊く。
手に持った大豆をチラつかせながら。


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