汚れたティッシュ

風枝ちよ

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汚れたティッシュ

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沈黙。
教室に人の輪ができ、それを取り囲んでいる。
重すぎる沈黙。
誰も話さない。



朝。
僕が学校に来た時、すでに沈黙がそこにあって。
話せる空気じゃなかった。
カバンを置き、輪に混ざる。
輪の真ん中に、それはあった。



「おはよー!」

空気に似合わない挨拶を連れて、織田が入ってくる。
あ、おはよ、と控えめな挨拶を返す。

「みんな何してんの?」

織田が輪の中を覗き込もうとする。
いや、やめたがいいよ、と誰かが止める。

「…………………………あ、うん」

覗き込んだ織田が蒼白な顔で固まる。
だから言ったのに、とまた誰かが言う。



すん、と空気に溶けるように入ってきたのは増田。
すぐに輪を見つけ、でも何もなかったかのように席に着き、本を開く。
増田くん、ちょっと見て、と輪が言う。

「なんだ」

本を閉じ、増田が輪に歩いてくる。
輪が開き、増田が入る。

「ああ、シコティッシュがあるな」

言ったああああああああああああああああ!!!!
誰も言えなかったやつ言ったな、お前!
いやつーかみんな黙ってたよね?!
そういう空気感醸し出してたよね?!

…………。
…………………………………………。
まあいい。
大事なのは、誰がヤったかだ。
教室という神聖かつ高尚な場所に置いて誰がこんな凶行に及んだかを突き止める、それがせめてもの罪滅ぼしだ。
お亡くなりになられた何億匹ものおたまじゃくしのためにも、僕らは真実を見つけなければ。

容疑者は、二人。
織田と増田だ。

「おい、お前ら……」

僕は二人に話しかける。

「どうした」
「ん、何?」
「どっちが、ヤったんだ」

僕は二人の目を交互に見て、話す。
二人とも目は泳いでいない。
さて、どちらが。

「おい待て、なんでぼくなんだ」
「それな!   俺っていう証拠ないよな?」

そんな反論は予想していて、だから答えも完璧に用意していた。

「いや、だってお前ら名前、名前やべーだろ!!」
織田おだニックだけど?」
増田ますたべしだが、どうした」
「オナニーとマスターベーションじゃねえか!!!!」

出来過ぎ。

「おま、名前ばかにすんな!」
「そう言うあなたもやばいが」
「僕はやばくないから!」
「            だろ?」
「そんな自主規制されるほどないよ?!」

オナニーとマスターベーションは伏せないのに僕の名前だけ伏せるってなんなんだよ。
僕の名前全然やばくないからね?
だって僕の名前は

「はいそこ止まりなさい」

……言わせて?



「で、誰がヤったんだ」

容疑者は、三人。
だが、僕ではないことはここで明言しておこう。
神に誓って、僕ではない。

「おま、せこいぞ?」
「読者洗脳は反則だな」

いやいや洗脳とかしてないし?
事実述べてるだけだし?

「じゃあぼくも言わせてもらうが、ぼくはヤってないぞ」
「俺もヤってない!」
「ふふふ、犯人はみんなそう言うのだよ」
「お前も言っただろ!」
「ぐっ………」
「人に罪をなすりつけるなんて最悪だな」
「ま、待て!   昨日の放課後、お前ら何してた!」
「アリバイか、答えよう」
「増田、何をしてたんだ?」
「マスターベーションだ」

……そんな気はしていた。

「織田、お前は!」
「オナニーさ!」

……そんな気もしていた。

「あなたは?」
「お前は何を、してたんだよ?」
「僕は
「はいそこ止まりなさい」
「まだ何も言ってないけど」
「言いたいことはわかる」
「……何を言おうと思ったと思ったか、聞かせてもらおうか」
「いや、それは……」
「お前シコティッシュって大声で言っておいて何今更恥ずかしがってんだよ!?」
「俺もわかるけど、言いたくないわー……」

なんで?



「動機の面から探っていこう。犯人はなぜ、こんなことをしたのか?」
「お前、なんでしたんだよ」
「訊くな!   僕じゃないって!」
「考えられるのは、怨恨、痴情の縺れ、つい、のいずれかだろうな」
「真面目っぽいセリフだけど何も言ってないよな?!」

怨恨って何。
痴情の縺れって何。
ついって何。

「動機……それはそんなに重要かな?」

どうしたの織田くん。

「大事なのはそこにシコティッシュがあると言う事実。つまり、このシコティッシュさえ片付ければ全ての問題は解決するんじゃない?   っていうのが俺の意見」

織田くん語ってるねー……

「いや待て、それはおかしい」

増田くん反論しだしたよ。
何この空気。
ちょっとイカ臭いし。

「そうやって問題を先送りにすることで、さらに大きな問題が起こるのを、ぼくらは今まで見てきたじゃないか。また、それを繰り返すのかい?   もう、こんな愚かなことはやめにしたいんだ……」

言ってることはかっこいいけどね。
こんな謎理論誰も納得しないだろ、よほどの馬鹿じゃない限り。

「そ、そうなのか......」

……よほどの馬鹿じゃない限り。

「そうか、そうだよな!   俺は間違っていたよ、ミスターマスターベーション!!」

名前長いわ。
ミスターマスターって語呂悪いし。

「わかればいいんだ」

ミスターマスターが上に立ってね?
なんで?



「犯行方法は?」
「ふむ、ここは密室。仕掛けなどは何もないからな」

密室じゃないよね?

「放課後誰もいない教室。そこであなたは、ムラムラしてしまった」
「僕じゃないよね」
「犯人は、ムラムラしてしまった。そのムラムラを解消するために、仕方なくヌくことにしたのだ。ちょうどロッカーには、誰かが忘れた体操服が置いてある」

変態かよ。

「ちょうどロッカーには、他にエロ本もあったし、」

なんでエロ本あんの?
あとでロッカー検査するぞお前ら。
見つけたら没収だ。

「カーテンを閉めてオナニーを始めた」

始めちゃったんだ。

「シコシコ……シコシコ……」

なんで音つけんの?
やめよ。

「ドピュッ!!   しばらくして、精子がティッシュに放出された」

うむ。

「犯人は、おそらくこう思ったのだろう。このティッシュを家に持って帰るのは、危険度が高すぎる。かといって教室のゴミ箱に捨てるのも勇気がいる、と。そんなことを思案していると、シコティッシュをもった手が緩んだ。シコティッシュはご存知の通り、」

ご存知ではないけど。

「空気抵抗があり、ゆっくりと落ちる。しかし、不規則に動く。シコティッシュは、床に落ちたんだ。精子の面を下にして」

え、これひっついてんの。

「犯人はまた考える。拾おうか。いや、拾っても精子は床についたままだ。それだと、バレてしまう。やむなく、そのままにして慌てて帰ったんだ」

最悪な犯人だなおい。
てかシコティッシュ放置の方が目立つって考えないのかな?
で、誰なのその犯人は?



がららっ

教室のドアが、開かれる。

「お前ら、席つけ!   ホームルーム始めるぞー」

担任が入ってくる。

「なんで輪になってるんだ?   もう時間だぞ」

担任は、輪に近付く。

「……………………あ」

シコティッシュを見つける。

「いやいやいやいや先生じゃないぞ別に先生が昨日の放課後誰もいないときに教室でシコシコしてたわけじゃないぞロッカーの中にたまたまあった体操服に興奮したわけじゃないぞ先生じゃないからな決して警察を呼んだりするんじゃないぞ」
「そういえば先生の名前って、市小手井しこていですよね」
「あと下の名前ってしゅうですよね」



あ、




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