(ふたりぼっち)

風枝ちよ

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「最近どんな感じなの?」

僕はまた、自分の傷をえぐる。

「何が?」

とぼけて君が言う。
僕は自分の傷を広げなければならない。

「好き、って言ってた人」

ああ、あれね、と君がたった今思い出したように呟く。
君は嘘をつくのが下手だ。

「何か進んだ?」
「んーとね……」
「何?」

僕は身を乗り出す。
こんなに心をぼろぼろしにて、何が楽しいのだろう。

「消しゴム、拾ってもらった」
「消しゴム?」

これって何の話だっけ。

「今日、移動教室でたまたま席が隣だったんだけど、その時に」
「消しゴム落としたの、わざと?」
「さりげなくしたよ」

こうして、こう、と君が不自然な芝居をする。

「……それ不審者だよ」

嘘?! と君が大袈裟なくらいに驚く。
ほんと、と残酷さを含んだ声を出す。
じゃあこうしたらいいのかな、と君が消しゴムを落とす仕草をする。
そういう問題じゃないんだけど。



「告ったの?」
「うん」

一週間が何事もなく過ぎようとしていた。
そんなときに起こった。

「告ったって、告白したってこと?」
「うん」
「罪の告白?」
「そう。神父様、私は大変な罪を犯してしまいました。……」
「何言ってるの?」
「回収してよ」

笑い声が漏れる。
大丈夫。
完璧な日常だ。

「それで、返事は?」

どうして僕は訊いてしまうのだろう。
他の話題ならいくらでもあるのに。

「考えさせて、だった」
「希望ないなぁ」
「なんでそうなるの」

即断ったら相手のメンタルに悪いから、少しだけ間を空けて言ってくれてるんだよ、と言う。
そうであればいい、と思う。
そうなるはずないのに。
多分大丈夫だって、君が明るく言う。
逆にそうやって期待させておいて、その期待が頂点に達した時に落とすんじゃないかな、と冗談めかす。
よくそんなに悪い方に頭回るね、君が呆れる。
僕は闇を知ってるからね……と病んだ顔で僕は言う。
何っ?! 貴様もしかしてあのくどびょ……っ!
くどびょ?
噛んだ、君が笑う。
何を言おうとしていたんだ。

「とにかく希望あるから!」

君が必死に言う。

「今誤魔化さなかった?」
「誤魔化してないよ?」

平然を装おうとした君が誤魔化す。
へぇ、とそれ以上は訊かないでおく。



「おっけ、だって」
「あーうん。おっけおっけ」

君が笑顔で僕に言う。
僕も笑顔で返す。

「……何が?」
「この前、告った人が」

話聞いててよね、と君が怒りそうになる。
よかったじゃん、おめでと、と投げやりに僕は言う。
雑くない? 君が怒る。
すっごく嬉しい、もう神の領域、と僕は大声で言う。
それはわざとらしい、と君が言う。
中間って知らないかな?
そう、中間テスト近いよね、僕は話を逸らす。
嫌なこと思い出させないで。

「じゃなくて、おっけ、だって言ってたって」
「小さいつが多いね」

ツッコミが微妙すぎる、と君が笑う。

「付き合ってくれるって?」
「うん!」

君の笑顔が三段階くらい明るくなる。
僕の肺には穴が開いて、空気が漏れ出す。
がんばれ、と僕は友達みたいなことを言う。
相談とか乗ってね、と君も友達のようなことを言う。
どこから見ても普通だ。
でもこの普通が消えるなんて、耐えられない。
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