上 下
2 / 62

2.BLに出てくる友人系女子の扱いは基本的に雑。

しおりを挟む
昨日、不二ふじ君との一連の絡みがあってから、あんじょう、不二君と出会うことが増えた。しかし、不二君はなんだが女子の扱いが雑なので腹が立つ。
だって、さあ・・・私を見かけて話しかける第一声が

「あ、水色」て。

「いや、毎日同じもの履いているわけじゃないからね。」とさすがにツッコミを入れざるを得ない。

「・・・今日は何色なの?」

「教えないよ?変態じじいか。」

「む・・・変態じじい・・・」と自分がそう言う変な発言をしているとは思ったこともなかったのか口に手をあてて考え込んでいる。友人Aのポジションと言うことはわきまえいるつもりだ。「不二君ってば変態さんなんだからっ☆許さないぞっ☆」なんて出しゃばるつもりは全くないけれど。さすがに私だって女子なので。こういう話題には凛として対応します。

まあ、でもこんな無駄なやり取りを重ねていると決まってやってくるのです。彼の幼馴染であり、おそらくBLの相方広瀬ひろせ君が。目の端に小走りで走ってくる広瀬君が見えたので
「あ、来た!広瀬君!」と待ってましたとばかりに声を上げた。

あおいと――影山さん。何してんの?」
「うん、今日は水色じゃないんだってさ」
と不二君が答える。いいから、そういうの教えなくて!

「オイ、女の子に失礼だろ」とゴンっと不二君の頭を小突く広瀬君。よかった、広瀬君は常識人です。いや、まあ、水色と聞いてすぐに私の下着の色だと察するのもなんか複雑だけど。まあ、そこは2人長年のやり取りを重ねたからこその理解力ということにしておこう。

「ちなみに俺のは黒」と、なぜか広瀬君はいらない情報を自白する。

「知ってるし」と不二君。
あ、知ってるんだ。――理由は聞かないでおこうか。
ていうか、すでにめちゃくちゃ仲良しだなコイツら・・・。





今日は王道学園恋愛系のヒロインひかりと一緒に帰る。見事に恋愛成就した光はその後の彼との恋愛ストーリーに忙しいらしく一緒に帰る回数は減ったけれど、もちろん友人関係が切れることはない。

久しぶりに光と帰ることができるのが嬉しくて、次の試験がヤバイとか、夏休みの予定とか、近所のカフェの新メニューが気になるとか他愛もない話をたくさんした。ついでに「不二君って本当に失礼」と愚痴を漏らした。ひかりは意外そうな顔をした。
「珍しいね、友子が悪口言うの」
そうなのだ。基本私は「いい人」だと思う。そうでなきゃ、ヒロインの友人なんてやってられない。もちろん頭の中では色々考えているとしても、外に出さなきゃ問題ないわけで。でも、今回の不二君の絡みは多分BLだし、BLに出てくる友人系女子って強めか男子に対してサバっとした感じの女の人多くない?だから、たぶん大丈夫。

「だって、今までにないぐらい扱いが雑なんだもん。どうせ、おしおきの時ぐらいに使われるんだよ。」

~友子の脳内妄想、出演は広瀬と不二でお送りします。~
(広瀬:「あいつとしゃべるなっていったよな?あの女ぜってー蒼のこと狙ってんだよ」
 不二:「わかったからぁ・・っも、やめ・・・」みたいな。)


「お、おしおき・・・?」
と、ヒロインがあまり口に出さないようなワードを光が不思議そうに発したので、慌てて我に返る。そんな言葉を言わせるなんて友人として失格だ!

「・・・なんてね!」
とここでその話題は終了という意味を込めてあわてて誤魔化ごまかす。


しばらく歩いていると光が「あ」と声を出した。光が見ている方に視線を移すと、光の彼氏である草野くさの君が前を歩いていた。草野君も光の声に気づいて振り返った。

3人の中になんとも言えない空気が流れた。

一応、設定としてはこうだ。恋愛を叶えた光&草野君と、草野君を好きだったが友人の為に諦めた私。まあ、別にそんな好き~!!ってわけでもなかったんだけども。というか、あまり知らない。いい人なんだろうなとは思う程度で。
そんなに気にしてもらわなくてもいいんだけど、ヒロインになれるほどの優しい性格上そういう訳にもいかないのだろう。私が否定すればするほど強がって見えるだろうし。

私は、空気を察して、とりあえず
「あ、私教室に忘れ物したし、先に帰ってて!」と言った。

そうしたら、「待って」と光が私を引き留める。
「私は、誰かの犠牲の上で幸せになんてなりたくないの。私のせいで友子が傷ついているとしたら耐えられない。」

と覚悟を決めた表情をして私の瞳を見据えた。
おっと、学園恋愛王道ストーリーの続きか?!さすがは主人公、「自分さえ幸せならそれでいい、他はオールオッケー」といい加減に誤魔化して終わりにしたくないようだ。

「友子が別れて欲しいなら別れる。それは、2人で話し合ったの。」

いや、やめてくれ。なんてことを話し合っているんだあなたたちは。草野君もきりっとした表情で私を見た。

ええ・・・。

「正直に言って。私は友子が大切だから。太陽のことだってもちろん大切だけど、誰かが悲しむなら特別にならなくてもいい」

えっと、待って。思ったより極端な思考してる。これは、”良きアドバイスをする友人”としての出番ですかね・・・。そういうの難易度高いよ~?

ふう~っと緊張をため息にして押し出す。


「あのね、光。私は別れて欲しいとか一切思ってない。」

学校の方向へ向いていた体を光たちへと向け直して顔を上げて答える。

「付き合うってこと自体が誰かを選ぶことなんだから、選ばれなかった人もみんな一緒に同じように幸せになろう、なんて無理があるよ。私は選ばれなくて、光が選ばれたの。もう仕方のないことなの。そして、光も草野君を選んだの。それは当たり前の出来事なんかじゃない。もっと大切にしてほしい。せっかく叶ったんだから相手との時間を存分に楽しんでよ。」

私だって、普通に恋をしたことがそれなりにある。でもどれも上手くいかなかった。好きな人の好きな人になれることなんて簡単なことなんかじゃない。それだけは身を持って体感している。

だからこそ、せっかく叶った恋を友達の為に、なんてよくわからない理由で無駄にしてほしくない。

ていうか、普通、幸せの絶頂にそんな友人に遠慮する~?!まあ、それができるからこそ光がヒロインたる所以ゆえんってことかな。

真面目なトーンで話したことが良かったのか、2人とも納得してくれたようでそれ以上は何も言わなかった。まあ、当たり前のことを言っただけなんだけど。

「じゃ、改めて、私は忘れ物を取りに学校戻るね!2人で先に帰ってて!」

実際に忘れ物をしたわけでは無いけれど、友人Aはさっさと退場するのがきち。今度こそ私に遠慮なんかせずに恋人らしい話ができるだろう。2人に背を向けて学校へ向かう。


友人Aの役割を果たせたことに満足しつつ、来た道を戻り学校の下駄箱に到着した。上靴に履き替えて歩き出したところで―――派手に転んだ。

デジャブだ。転んだ理由も知っている。誰かさんの足に引っかかったのだ。

「今日は、オレンジか・・・」

四つん這いになっている私の斜め後ろからだるげな声が聞こえた。





しおりを挟む

処理中です...