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41.*不二君は、味方じゃない

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不二ふじ君が、城之内ロン毛先輩の味方に・・・?!

心臓の鼓動が早くなるのがわかる。一番嫌な展開だ。このロン毛先輩と一緒にいて、不二君は平穏な生活ができるのか?そして、ロン毛先輩が毛嫌いする九頭谷くずたに先輩への扱いはどうなる?不二君が抑止力になっていたので収まったいじめも、またぶり返してしまうかもしれない。いや、もっとひどくなる可能性だってある。誰もロン毛先輩を止められない。

・・・そして、私のこの状況は・・・?

嫌な想像ばかりが出てきてしまう。
ロン毛先輩が嘘をついていれば、すべては杞憂だ。きっと、嘘。先輩が勝手に嘘をついているだけ。
何度も不二君を見るが表情は少しも変わらない。嘘だといって否定して・・・!

「そ、そんなわけないでしょ!だって・・・、不二君、ロン毛先輩について行っても良いことないよ」
「じゃあ、君についていくと良いことがあるのかい?」食い気味で私の言葉を制圧するように先輩が言う。
「でもロン毛先輩」と一緒にいたら平穏なんて――と言いかけてガッと乱暴に口を押えられた。
城之内じょうのうち先輩と呼べ」
ロン毛先輩は、今までのようにそれなりに優しい先輩像を演じるつもりはないらしい。その必要はなくなったということなんだろう。脅威である不二君を手に入れたのなら。

「じ、城之内・・先輩」
「よくできました」
城之内先輩は手を離してにっこりと笑った。こうして恐怖を与えたりしながら、いろいろな人を支配下に置いてきたのだろう。飴と鞭の使い方が上手すぎて恐ろしい。

そんなやり取りを一切表情を変えずに見ている不二君。
不二君は、もう、私たちの味方をしてはくれない。
その事実がようやくわかってきて、足が震えてきた。城之内先輩が変なことを仕掛けてこないうちに逃げた方がいい。でも、体が動かない。何これ、私ビビってんの?情けない。

助けて・・・不二君・・・

「じゃあ、始めようか」
城之内先輩がニコニコしながら近づいてくる。

あ、これ、ダメなやつだ・・・。

この邸宅に、私の味方はいない。逃げ出せない。ひとりだ・・・。

どうせ助けは来ないことはわかっている。でも思わずつぶやいてしまった。
「助けて・・・九頭谷先輩・・・」

「だまれ」
と聞こえて、顔を上げた瞬間口を手で塞がれて私の体は後方の壁へと打ちつけられた。今度口を押えてきたのは、不二君だった。不二君の力を目の当たりにしたことはあったけれど、自分に向けられたことは初めてだった。

太刀打ちできない彼の力は、あまりにも恐ろしすぎる。抵抗する気力も出ない。

不二君の口を力強く抑えていた手は顎をつかみ私は上を向かせられる。彼が親指を私の唇に引っ掛けて下に引くので、唇が開く。不二君は何も言わずに、唇を重ねてきた。

「ちょっと勝手に進めないでくれる?強引だなぁ・・・。僕もびっくりしたんだけど」
と、あきれた声で城之内先輩が言っているのが聞こえる。

前にキスした以来、久しぶりに彼の熱い息遣いを感じる。不二君の舌が入ってきて、歯列をなぞったり舌をなめてくる。舌が口の中で暴れているので私も呼吸が浅くなる。「はあ・・・」とため息をつく城之内先輩の声、しかし止めに入ってくる様子はない。くちゅ、ちゅ、くちゃっと唾液の絡む音が部屋に響いてやけに恥ずかしい。

ふっと息継ぎで不二君の舌が離れて、ぼーっとする頭で目を開けたとき、不二君の顔が目に入ってきて息をのんだ。

不二君があまりにも辛そうだったから。何かを思い詰めている?罪悪感?自己嫌悪?
不二君には、何か理由があることが認識できた。その理由はわからないけど。不二君が一切言葉を話さず、何を考えて先輩のもとにいるのかわからなくて、まるで城之内先輩が命令をしたらすべて実行するような意思のない人間になってしまったようで私は怖かったんだ。

不二君、何か、理由があるんだね。城之内先輩のもとにいなければならない理由が。私はふっと冷静になった。不二君が意思のないロボットになったわけではないことが理解できたから。

よし!だったらこっちもそれなりに抵抗させてもらいます!不二君に何か理由があったからって私がまんまと襲われるわけにはいきません!そして、無理されたところで、今の感じじゃ不二君の黒歴史にもなるような気がする。

と、思っていたらぐいっと腕を引っ張られて、先輩のベッドの方へと押し倒された。

不二君が乗り上げてくる。足の上に不二君のお尻が乗り、体が固定される。
「おいおい、僕の許可なしで勝手にベッド使うなよ・・・。まあ、こっちの方が僕もやりやすいか。」
フカフカのベッドが沈んで、城之内先輩は私の頭上へと座る。長い髪をしならせてふふふと覗き込んでくるので、イラっとする。

どっからどう見ても、3Pチックな構成に若干は焦りつつ、私は深呼吸して呼吸を整えた。落ち着け、友人A。
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